044.明日はどうだろ。

 

 

 

 

雨。雨。雨。
鈍色の空からは絶えることなく雫が降り落ち、空と大地を繋ぎとめる。
和穂達が、雨宿りのためこの宿に泊まってから、3日が経っていた。

「やまないねぇ。雨」
「そうだな」

1日5回は繰り返される、このやりとり。そろそろ和穂も気が滅入りはじめ、殷雷はハナっからイライラとしていた。
策具輪で宝貝の位置はつかめていながら、前に進めていないのだ。さながら、蛇の生殺しである。

「いっそ、雨の中進もうか?」
「いや、万が一途中で襲撃に遭った場合、足場や視界が悪すぎる。
雨も、無限に降り続けるわけではあるまい。ここは、待ちに徹するのが得策だな」
「そうかー…あ、天呼筆で雨を止めたら…」
「俺たちには鬱陶しい雨でも、百姓には恵みの雨だ。」

何気なく、雨戸を開き空を見上げる。
――人間界に降りてから、空を見上げる事が多くなった気がする

「明日は晴れるかな?」

 

 

 

焔。焔。焔。
己を焼き尽くさんとする炎を防御符でなんとか退け、龍華は九遥山へと逃げ込んだ。

「龍華様!」

瓦礫の端にひっかけられた瓢箪から、悲鳴のような声があがった。
龍華はぶずぶすと焼け焦げる背中を庇いながら、その瓢箪を手に取った。

「静かにしな四海獄…仙丹を出してくれ」
「は、はい」

四海獄の口からポンと小さな丸薬が飛び出し、龍華はそれを口の中で噛み砕いた。
身体の内で熱いものがはじけ、背中の傷を癒していく。

「あぁ熱かった。くそ、途中までは上手くいっていたのに。真火をぶつける方向を間違えたか?」
「…龍華様。過ぎたまねかもしれませんが、結界を破る以外の方法を模索されてはいかがですか?」

フン、と鼻で笑って、龍華は四海獄へと問い掛けた。

「結界を破る以外の方法?神農様に泣きついてでもみるか?人間界に降りるには、あの結界を破るのが一番手っ取り早いんだよ」
「し、しかし、このままでは龍華様の体が持ちません」
「なに、頑丈さには自信があるんだ。それに、もしかしたらぱっといい考えが浮かぶかもしれないじゃないか?」

なおも言い募ろうとする四海獄をぺいっと放り投げ、いささか風通しのいい天井を見上げた。
――和穂が人間界に降りてから、空を見上げる事が多くなったかもしれない。
とりあえず先程の見直しをしようと、龍華はバサリと着物の袖を翻した。

「さて、明日はどうかな?」

 

 

 

 

 

 

2人(?)とも、前へ前へと進もうとしてますよね。
凛とした女性は好き。