010.わたしのために   

 

 

 


※殷雷は、大学3年くらいの設定で。

 

 



殷雷は、意外と(なんて言ってた怒られそうだけど)律儀にプレゼントを贈ってくれるタチで。
私が高校進学したときも、もちろん例外ではなかった。

「ほらよ。高校進学オメデトウお嬢さん」
「ありがとう!なんかもう、殷雷お父さんみたいだよねー」
「おま…そりゃ確かに、龍華の代わりに入学式にも出たけどな。父親はやめとけ父親は」

うららかな春の午後。ちょうど、三寒四温で言う『四温』に当たるような、気持ちの良い日だったことを覚えている。
場所は、高校からほど近い、小さな喫茶店。
2人とも格好は入学式のままで、他にもちらほら似たような客が居たと思う。
手の中の箱をそわそわと見ながら、私はついに言葉を切り出した。

「あけて良い?」
「おう」

殷雷の短い返事を聞いて、私はうきうきと簡単なラッピングを解きはじめた。
そして、中から出てきたのは―――

「携帯?」
「おう」

そう、中から出てきたのは、すでに使える状態にあるらしい携帯電話だった。
当時としてはまだ珍しい、カメラ付き携帯。
今まで貰ってきたもの(雑貨やらアクセやら)を思えば、かなり現実的なモノだと思う。

「これ、わたしのために?」
「他に誰がいるんだよ。っつーか、どっちかって言うと俺のためだ」
「殷雷の?」
「連絡取れないと、不便なんだよ。特に高校入ったら、ソレのありがたさが身にしみるぞ」
「ふ〜ん、そっかそっか。…あ、殷雷の番号入ってる」
「…何笑ってんだよ」
「別にー。なんか、嬉しいなーと思って」
「…言ってろ」
「言っとくー」

今でもはっきりと思い出せる。
わたしの為の携帯に、わたしの為に殷雷の番号が入っていて。
無償に嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう感覚。

その携帯は今でも私のポケットで、大切な人からのコールを知らせてくれています。



高校生が高校生に、進学祝を贈るのも変だなと思って。急遽殷雷21歳。