005.嗚呼、青春
たなびく幾筋もの雲が、空を割り、赤く染まる街並みが、夕暮れを知らせる。
家路を急ぐ子供たちが、和穂の横を通り過ぎていった。
「ちょっと和穂、聞いてる?」
「え?あ、ごめん深霜。なんだっけ?」
「もー、だから、今年の水着はビキニで決まりって話よ!和穂もそろそろ、女の魅力ってやつに目覚めるべきよ!ねぇ、殷雷?」
隣でシャクシャクと氷菓子をほおばっていた殷雷は、思わず吹き出した。
「げっほ…な、なんで俺に聞くんだよ!」
「なんでって…殷雷は、和穂のビキニ姿見たくないの?」
「アホか!」
「…深霜、こいつにこれ以上変な事を教えるな。和穂の身が、さらに危うくなるだろう」
「あら程穫、でもそろそろ殷雷にもヘタレを卒業してもらわないと、妹として情けないわ」
「うむ…確かに、それは深刻だな」
「………お前等、いい加減にしろよ」
眉間にしわを寄せ、真剣に悩み始める程穫に、殷雷は思わずチョップをお見舞いした。
「…何をするかヘタレめ」
「ヘタレヘタレと五月蝿いぞ!このシスコンシスコンシスコン…」
「黙れロリコン」
ギャアギャアと騒ぎながら、いつの間にか前を行く二人を、和穂はくすくすと笑いながら見つめた。
「2人とも、子供よねぇ」
深霜が、わざとらしく溜息をつきながら、肩をすくめた。
隣には、友達。
少し先には、赤い夕暮れと大切な人。
「こういうのを、青春って言うのかなー…」
「きゃはは!和穂、それサムイよ!」
「やっぱり?」
つられて和穂も笑いながら、随分と離れた2人を慌てて追った。
制服と、夕日と、笑い声。
嗚呼、青春。