003.欲求不満   

 



両手を、怪我した。
心配と、少しの好奇心を混ぜて聞いてきたのは、和穂だった。
「わ、殷雷どうしたのその手?」
うずうず。
「…静嵐の大馬鹿に、思いっきり熱湯をかけられてな。全治2週間だ」
「痛そう…。そんなに包帯巻いてたら、両手使えないんじゃない?」
「まぁ、なんとかなるだろ」
むしろ、なんとかならないのはこの心。
「な、ならないような気がするけど…あ、授業のノートは私がとってあげようか?」
「おう、悪ぃな。…くそっ、静嵐め。両手が治ったら、真っ先に正拳突きを喰らわせてやる!」
「…蹴るのじゃダメなの?」
「男のこだわりってやつだな」
「変なこだわり…」
「たわけ!このこだわりを…」
とっさに、和穂のほっぺたをつねろうと手を伸ばすが…
「〜〜〜〜〜〜!!!」
「だ、大丈夫、殷雷?」
不覚にも、怪我のことを忘れてうめくハメに。アホか俺は…。
「治ってからやることが、一つ増えたぞ…」
「なに?」
「お前の顔を思いっきりつねってやる」
かなり強引な、言い訳。
「ええ!なんで!?」
「…お前のほっぺたは、『つねってください』ってステッカーが貼ってあんだよ」
「そんなわけないでしょー!」

その無邪気に動く瞳が。
鈴の転がるような声が。
俺の手をひきつけて止まないんだよ。
あー…これも一種のあれかな。
欲求不満。