002.呆れた笑顔で   


少し、意地の悪い質問だったかもしれない。

「例えば、だ。俺とお前が絶体絶命の窮地で、どちらか片方しか助からんとする。
お前の取るべき行動は、なんだ?」
「2人とも助かる方法を探す」
「……………」
「え?なんで黙るの?」
きょとんと、さも当然のように答えた和穂の頬を、思いっきり引っ張ってやった。
「ひはいひはい!らにすんろよ!」
「やかましい!片方しか助からんと言っているだろうが!お前の頭には、杏仁豆腐でも詰まってるのか?そう言う場合は、俺を見捨ててでもお前が助かるんだよ、このスットコドッコイ!」
「で、でも!」
やっとこさ俺の手から逃れると、和穂はその強い眼差しを俺に向けた。
「可能性は、いつだって消えはしない。最後の最後まであがけば、きっといい方法が見つかるよ」
「…………」
俺は、再び押し黙った。
こいつが言っている事は、詭弁だ。どうにもならない窮地と言うのは、必ずある。
そう言う状況下では、常に『最善』ではなく『最悪を回避する方法』を考えるべきだ。
…だが。
もう一度、少し眉を寄せた、黒い相貌の顔を見る。絶望を知らない、常に光を追い求める強い光。

…こいつの言う詭弁なら、少しぐらいは付き合ってもいいかと思ってしまう。
自分の甘さに呆れながら、和穂には見えないように笑った。

「 ? なに?殷雷」
「なんでもねぇ。行くぞ」

いつか別れるその日のために
今は、呆れた笑顔で見守っていてやるよ。