「ほらよ」

そういって、殷雷が乱雑に小さな包みを放り投げた。

「 ? 何?」
「…お前な。今日が何の日かくらい、覚えとけよ」
「今日?…あ、ホワイトデー!じゃあ、これお返し?」
「…それ以外に、何があるんだよ」
「わー、ありがとう!あけていい?」
「…ドウゾ」

何故か殷雷が不機嫌なのも気になったが、それよりプレゼントへの好奇心が勝った。
ガサゴソと包みの口を明けて、出てきたのは…

「わぁ、ネックレス!これ、殷雷が買ったの?」
「そうだよ。文句あるか」

殷雷はなおも不機嫌そうに、そっぽを向いて答えた。
和穂は、それを面白そうに見つめる。
おそらく恵潤か誰かに付き合ってもらって、買いに行ったのだろう。
そんな殷雷の姿を想像して、悪いとは思いながらもつい笑ってしまった。

「笑うな!」
「ご、ごめん…でも、殷雷がコレ買ってるの想像したら…ふふ」

堪えたように笑うのが、更に気に障ったらしい。
殷雷は完璧にこちらに背を向けて不貞腐れた。

「あーあー、どうせ俺には似合わねぇよ。くそっ、もう2度と買ってやるか!」
「だからごめんってば。ありがとう、嬉しいよ?」
「半笑いで言うな!もう絶対買わん!」
「もー、ホントに2度と?」
「2度とだ!」
「誰にも?」
「…誰にもだ」
「・・・・・・・・・・」
「…なにニヤニヤ笑ってやがる」
「え!?別に!」

わたわたと口元を隠しながら、和穂はわざとらしく視線を明後日に向けた。

(コイツ…)

なんだか和穂にしてられてばかりで、殷雷はだんだんと腹が立ってきた。
なんとか復讐してやろうと、ぐいっと和穂の耳を引っ張った。

「おい和穂。残りの人生で、あと一回だけアクセサリーをくれてやる」
「?」

「                  」

「!」
「っつうわけで、楽しみにしとけ」

そういって和穂の頭をぐしゃっと撫でると、殷雷はスタスタと居間を出て行った。
後に残されたのは、真っ赤な顔をした和穂1人。



―― 『左の薬指にな』 ――


和穂は、しばらく殷雷の顔を見れそうにないな、と思った。