日本消化器外科学会消化器外科専門医取得を目指す外科専門医に対する研修プログラム

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はじめに(基本方針)

本プログラムは、日本外科学会専門医を取得した者が、消化器外科の専門的研修を行うプログラムです。日本外科学会専門医取得後に、日本消化器外科学会消化器外科専門医を取得する事を目標とします。すなわち、「外科関連サブスペシャルティ専門医」としての「消化器外科専門医」になることを目指し、「消化器外科臨床に携わる外科医」の養成を目的とします。

T一般目標

日本消化器外科学会消化器外科専門医修練カリキュラム の一般目標に準じます。すなわち、

日本外科学会の外科専門医としての医療技術,知識を基礎にし,更に専門職としての消化器外科診療を実践できる専門医を養成するため到達目標を定め,研修を実施する.
1.消化器外科領域全体を包括した専門医としての知識,臨床的判断能力,問題解決能力を修得する.
2.手術については通常の消化器系手術を適切に遂行できる技術を修得する.
3.消化器がんの診療に求められる基盤的知識,診断および進行病期の決定能力,外科治療の選択および遂行能力,集学的治療の知識およびその選択能力などを修得する.
4.医学,医療の進歩に合わせた生涯学習を行う方略,方法の基本を修得する.
5.自らの研修とともに上記項目について後進の指導を行う能力を修得する.

U.行動目標

日本消化器外科学会消化器外科専門医修練カリキュラム の到達目標に準じます。すなわち、

A.到達目標1(基礎的知識): 
消化器外科診療に必要な下記の基礎的知識を習熟し,臨床に即した対応ができる.

1.輸液と輸血
 1)臓器,疾患,術式などの特異性に合わせた水,電解質,酸塩基平衡を考慮し,周術期の補正輸液,維持輸液,輸血を行うことができる.
 2)心不全,呼吸不全,腎不全,ショック,糖尿病など併発症,合併症を持つ症例に対し,疾患別,病態別の輸液計画を立て,実施することができる.
2. 栄養と代謝
 1)患者の病態や疾患に応じた必要熱量を計算し,適切な経腸,経静脈栄養剤の投与,管理ができる.
 2)栄養管理に必要な手技,処置および合併症に対する処置ができる.
3.外科的感染症
 1)臓器や疾病特有の細菌の知識を持ち,抗菌剤を適切に選択,投与することができる.
 2)AIDS,肝炎,その他感染症を併発した患者に対する外科処置についての知識を持ち,対処について述べることができる.
 3)重症感染症に対する病態の把握に基づいた対応ができる.
4.創傷管理
    基礎疾患,病態などの特異性を考慮に入れ,創傷治癒の特色を理解したうえでの対応ができる.
5.血液凝固と線溶現象
 1)基礎疾患の特色,病態の理解に基づき,出血傾向に対する処置,管理ができる.
 2)血栓症の予防,診断および治療の方法について理解を持ち,的確に対応できる.
6.周術期の管理
 1)疾患の特性,術前合併症,術式特性,手術侵襲などの病態を把握し,検査計画,治療計画を立て,指示することができる.
 2)併存疾患に対する対応ができる.
7.臨床免疫学
 1)疾患の特異性,治療に伴う合併症などにおける免疫学的病態について述べることができる.
 2)移植に伴う組織適合と拒絶反応について述べることができる.
8.腫瘍学一般
 1)消化器がん各種の診断と進行病期について十分な知識を有し,適切に診断し,かつ進行病期を決定することができる.
 2)消化器がんの病態の特性,その進行病期に合わせた手術,化学療法,放射線療法,免疫療法などの適応を述べることができる.
 3)各種消化器がんの取扱い規約,診療ガイドラインを理解し,診療に役立てることができる.
 4)がんの生物学の基本を述べることができる.
 5)がんの発生,疫学,スクリーニング,発がん予防の基礎知識を述べることができる.
 6)臨床試験のデザインと遂行,これに必要な統計手法について述べることができる.
9.放射線治療
 1)放射線生物学の原理と,放射線治療の根治的および緩和的医療としての適応について基礎的知識を述べることができる.
 2)治療計画と線量計測の原理を理解し,放射線療法と手術ないしは抗がん剤治療,あるいはその両者との併用療法について述べることができる.
 3)放射線療法による急性,遅発性の障害について対応できる.
10.化学療法
 1)初発,再発の悪性疾患において有効な抗がん剤治療の適応と目標について述べることができる.
 2)抗がん剤の術前投与法,同時併用,術後補助治療の有用性および抗がん剤の放射線増感剤としての適応について述べることができる.
 3)特定の抗がん剤については投与量変更と治療の延期について対応できる.
 4)個々の患者に対する抗がん剤治療の危険性と利点を比較するため,患者の合併症や臓器機能異常について評価し対応できる.
 5)さまざまな薬剤に関する体内動態および薬理ゲノム学・薬理学的知識を述べることができる.
 6)長期障害を含む各抗がん剤の毒性プロファイル,臓器機能不全を有する個々の患者に対する投与量の設定,投与スケジュールの調整,更に合併症について対応できる.
11.緩和ケアと終末期ケア
 1)疼痛部位と強さを適切に把握し,世界保健機関(WHO)の疼痛ラダーの実用的知識を持ち,オピオイド麻薬や他の鎮痛薬の薬理と毒性について述べることができる.
 2)可能な方法でがん性疼痛を管理し,緩和のため侵襲的医療が必要となった場合,紹介する時期を(適切に)判断できる.
 3)がんの精神社会的影響について理解し,疾患のすべての病期において介入すべき利用可能な手段を実践できる.
 4)患者とその家族と意思疎通を図り,困難な状況において悪い知らせを開示すること,的確に行動することを実践できる.
 5)他のチーム内の他のプロフェッショナル・ヘルス・ケア担当者と意思疎通を図り,共同して患者ケアを実践できる.
12.外科病理学
    切除標本の肉眼およびルーペ像の観察により術前画像診断,開腹所見との対比検討ができる.

B.到達目標2(診療技術): 
消化器外科診療に必要な知識,検査・処置の手技に習熟し,それらの臨床応用ができる. 下記の検査手技ができる.

 1)超音波診断,上・下部消化管造影,上・下部内視鏡検査,PTCなどの検査を自身で実施し,診断できる.
 2)エックス線単純CT,MRI,血管造影,術中胆道鏡,ERCPの適応を決定し,読影することができる.
 3)上記画像診断の個々の検査法の特性を理解し,検査計画を作り,総合診断ができる.
 4)食道内圧検査,食道24時間pHモニター検査などの消化管機能検査の適応を決定し,結果を解釈できる. 検査,処置,手術の意義,適応を理解し,個々の症例の病態に合わせ適切な検査,治療計画を立て,遂行することができる.消化器系救急の対応,診断・治療:すべての消化器領域の救急に対するプライマリーケアができ,緊急手術の適応を判断し,それに対応することができる.

C.到達目標3(手術技術): 
一定レベルの手術の意義,適応を理解し,適切に実施できる能力を修得し,臨床応用できる.

行動目標
  消化器外科に包含される各種主要手術を漏れなく経験する.

D.到達目標4(医の倫理): 
医の倫理に配慮し,総合的な外科の診療を行う適切な態度,習慣を身に付ける.

行動目標
 1.指導医のもと担当医として症例を受け持ち,消化器外科診療における適切なインフォームド・コンセントを得る訓練を行う.
 2.術後の療養,生活などの指導を適切に行う.
 3.後進の医師に対して実地医療に関わる種々の事項について指導を行う.
 4.文献や指導医の意見などの教育資源を活用する方法を学ぶ.

E.到達目標5(生涯学習): 
消化器病学,消化器外科診療の進歩に合わせた生涯学習を行う方略,方法の基本を習得する.

行動目標
 1.施設内カンファレンスを司会し,積極的に討論に参加する.
 2.個々の症例に合わせ,EBMに基づいた診療を行う.
 3.学術集会,教育集会に参加し,日進月歩の医学,医療の実情に触れる.
 4.学術集会,学術出版物に,症例報告や臨床研究の結果を発表する.

F.到達目標6(医療行政): 
医療行政,病院管理(リスクマネージメント,医療経営,チーム医療など)についての重要性を理解し,実地医療現場で実行する能力を修得する.

Vカリキュラムの概要

 

月曜日

火曜日

水曜日

木曜日

金曜日

7:30 手術記録チェック
および回診
ミニカンファレンス
および回診

消化器
カンファレンス

ミニカンファレンス
および回診
ミニカンファレンス
および回診

午前

手術

手術

局麻または
脊麻手術

手術

病棟管理

午後

手術

手術

栄養管理

手術

病棟管理

 17:00

術前検討
および退院報告

 

 

術前検討
および退院報告

 

1)経験すべき手術手技

@食道
低難度手術:頸部食道周囲膿瘍ドレナージ
中難度手術:食道縫合術(穿孔,損傷),胸部食道周囲膿瘍ドレナージ,食道異物摘出術,食道憩室切除術,食道良性腫瘍摘出術,食道切除術(切除のみ),食道再建術再建のみ(胃管再建),食道瘻造設術,食道噴門形成術,アカラシア手術
高難度手術:食道切除再建術,食道再建術再建のみ(結腸再建),食道バイパス術,食道気管支瘻手術,食道二次的再建術
A胃・十二指腸
低難度手術:胃切開・縫合術憩室,ポリープ切除術(内視鏡的切除は除く),幹迷走神経切離術,胃腸吻合術(十二指腸空腸吻合術を含む).胃瘻造設術(PEGを除く),幽門形成術,胃捻転症(軸捻症)手術・吊り上げ固定術,胃縫合術(胃破裂に対する胃縫合,胃・十二指腸穿孔に対する縫合閉鎖術,大網充填術,大網被覆術を含む),胃局所切除術(楔状切除を含む)
中難度手術:胃切除術(幽門側胃切除術,幽門保存胃切除術,分節(横断)胃切除術を含む),選択的迷走神経切離術
高難度手術:胃全摘術(噴門側胃切除を含む),左上腹部内臓全摘術
B小腸・結腸
低難度手術:腸切開・縫合術,腸重積整復術(観血的),小腸部分切除術(良性),回盲部切除術(良性),結腸部分切除術・S状結腸切除術(良性),虫垂切除術,腸瘻造設・閉鎖術(腸管切除なし)
中難度手術:小腸切除術(悪性),回盲部切除術(悪性),結腸部分切除術・S状結腸切除術(悪性),結腸右半切除術,結腸左半切除術,結腸全摘除術,腸閉塞手術(腸管切除を伴う),腸瘻造設・閉鎖術(腸管切除あり)
高難度手術:大腸全摘回腸肛門(管)吻合術
C直腸・肛門
低難度手術:痔核切除術,直腸周囲膿瘍切開術,痔瘻根治術,経肛門的直腸腫瘍摘出術,直腸脱手術(経肛門的)
中難度手術:直腸切断術(良性),高位前方切除術,Hartmann手術,直腸脱手術(腹会陰式),直腸・肛門悪性腫瘍切除術(経肛門的),肛門括約筋形成術(組織置換による)
高難度手術:直腸切断術(悪性),低位前方切除術,骨盤内臓器全摘術,直腸・肛門悪性腫瘍切除術(後方アプローチ)
D肝
低難度手術:肝縫合術,肝膿瘍ドレナージ術(経皮的手技を除く)肝嚢胞切開.縫縮.内瘻術肝部分切除術肝バイオプシー(経皮的手技を除く)肝凝固壊死療法術(経皮的手技を除く)
中難度手術:肝外側区域切除,食道・胃静脈瘤手術
高難度手術:肝切除術(外側区域を除く区域以上),系統的亜区域切除術,肝移植術
E胆
低難度手術:胆管切開術,胆嚢切開切石術,胆嚢摘出術,胆嚢外瘻術,胆嚢消化管吻合術
中難度手術:胆管切開切石術,胆道再建術,胆道バイパス術,胆管形成術,十二指腸乳頭形成術,総胆管拡張症手術,胆汁瘻閉鎖術
高難度手術:胆嚢悪性腫瘍手術(単純胆嚢摘出術を除く),胆管悪性腫瘍手術,胆道閉鎖症手術
F膵
低難度手術:膵嚢胞外瘻術,膵管外瘻術
中難度手術:膵縫合術,膵部分切除術,膵体尾部切除術(良性),膵嚢胞消化管吻合術,膵(管)消化管吻合術,急性膵炎手術,膵石症手術,膵頭神経叢切除術,
高難度手術:膵頭十二指腸切除術,膵体尾部切除術(悪性),膵全摘術,十二指腸温存膵頭切除術,膵区域切除術
G脾
低難度手術:脾縫合術
中難度手術:脾摘術,脾部分切除術
Hその他
低難度手術:腹部ヘルニア・鼠径ヘルニア手術,限局性腹腔膿瘍手術,試験開腹術
中難度手術:急性汎発性腹膜炎手術,腹壁ヘルニア手術,横隔膜縫合術,食道裂孔ヘルニア手術,後腹膜腫瘍手術,腹壁・腸間膜・大網腫瘍切除術,消化管穿孔部閉鎖術
高難度手術:横隔膜裂孔ヘルニア手術

2)教育体制

@指導医:日本消化器外科学会指導医のもとに指導を受ける。
A学会,執筆活動:年4回以上の学会発表を経験し、年2編以上の学術論文を執筆する(部長による指導)。


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