はじめに(基本方針)
本プログラムは、2年間の初期研修を修了した者が、外科の専門的研修を行う2年間のプログラムです。後期研修終了後に、日本外科学会専門医を取得する事を目標とします。すなわち、医の倫理を体得し,医療を適正に実践すべく一定の修練を経て,診断,手術および 術前後の管理・処置・ケアなど,一般外科医療に関する標準的な知識と技量を修得した医師になることを目指します。
T.一般目標
日本外科学会専門医カリキュラムの一般目標に準じます。すなわち、
1)総論的
国民のニーズにこたえるべく,レベルの高い均質な,包括的で全人的な外科診療を実践できる専門医を養成するため,以下の4
項目を到達目標として,段階的に進む研修を実施する.
(1)外科専門医として,適切な外科の臨床的判断能力と問題解決能力を修得する.
(2)手術を適切に実施できる能力を修得する.
(3)医の倫理に配慮し,外科診療を行う上での適切な態度と習慣を身に付ける.
(4)外科学の進歩に合わせた生涯学習を行うための方略の基本を修得する.
2)各論的
卒後初期臨床研修を修了した後,外科学総論,基本的手術手技および一般外科診療に必要な外科診療技術を修得する.また,外科サブスペシャルティの特徴も修得させる.
(1)外科総合カリキュラムとして学習する.
(2)外科サブスペシャルティに共通する外科の基本的問題解決に必要な基礎的知識,技能および態度を修得する.
注1
基礎的知識とは外科に必要な局所解剖,病理・腫瘍学,病態生理,輸液・輸血,血液凝固と線溶現象,栄養・代謝学,感染症,免疫学,創傷治癒,術後疼痛管理を含む周術期管理,麻酔科学,集中治療,救命・救急医療(外傷・熱傷)などすべてを包括する.
(3)座学としてではなく,実地臨床症例を教師とし,体験から自己学習を促進する.
日本外科学会専門医カリキュラムの到達目標に準じます。すなわち、
1)外科診療に必要な下記の基礎的知識を習熟し,臨床応用できる.
( 1)局所解剖:手術をはじめとする外科診療上で必要な局所解剖について述べることができる.
( 2)病理学:外科病理学の基礎を理解している.
( 3)腫瘍学
@発癌,転移形成およびTNM 分類について述べることができる.
A手術,化学療法および放射線療法の適応を述べることができる.
B抗癌剤と放射線療法の合併症について理解している.
( 4)病態生理
@周術期管理などに必要な病態生理を理解している.
A手術侵襲の大きさと手術のリスクを判断することができる.
( 5)輸液・輸血:周術期・外傷患者に対する輸液・輸血について述べることができる.
( 6)血液凝固と線溶現象
@出血傾向を鑑別できる.
A血栓症の予防,診断および治療の方法について述べることができる.
( 7)栄養・代謝学
@病態や疾患に応じた必要熱量を計算し,適切な経腸,経静脈栄養剤の投与,管理について述べることができる.
A外傷,手術などの侵襲に対する生体反応と代謝の変化を理解できる.
( 8)感染症
@臓器特有,あるいは疾病特有の細菌の知識を持ち,抗生物質を適切に選択することができる.
A術後発熱の鑑別診断ができる.
B抗生物質による有害事象(合併症)を理解できる.
C破傷風トキソイドと破傷風免疫ヒトグロブリンの適応を述べることができる.
( 9)免疫学
@アナフィラキシーショックを理解できる.
AGVHD の予防,診断および治療方法について述べることができる.
B組織適合と拒絶反応について述べることができる.
(10)創傷治癒:創傷治癒の基本を述べることができる.
(11)周術期の管理:病態別の検査計画,治療計画を立てることができる.
(12)麻酔科学
@局所・浸潤麻酔の原理と局所麻酔薬の極量を述べることができる.
A脊椎麻酔の原理を述べることができる.
B気管挿管による全身麻酔の原理を述べることができる.
C硬膜外麻酔の原理を述べることができる.
(13)集中治療
@集中治療について述べることができる.
Aレスピレータの基本的な管理について述べることができる.
BDIC とMOF を理解できる.
(14)救命・救急医療
@蘇生術について述べることができる.
Aショックを理解できる.
B重度外傷を理解できる.
C重度熱傷を理解できる.
2)外科診療に必要な検査・処置・麻酔手技に習熟し,それらの臨床応用ができる.
(1)下記の検査手技ができる.
@超音波診断:自身で実施し,病態を診断できる.
Aエックス線単純撮影,CT,MRI:適応を決定し,読影することができる.
B上・下部消化管造影,血管造影等:適応を決定し,読影することができる.
C内視鏡検査:上・下部消化管内視鏡検査,気管支内視鏡検査,術中胆道鏡検査,ERCP 等の必要性を判断することができる.
D心臓カテーテルおよびシネアンギオグラフィー:必要性を判断することができる.
E食道内圧検査,食道24時間pH
モニター検査,直腸内圧検査,デフェコグラムなどの消化管機能検査:適応を決定し,結果を解釈できる.
F呼吸機能検査の適応を決定し,結果を解釈できる.
(2)周術期管理ができる.
@術後疼痛管理の重要性を理解し,これを行うことができる.
A周術期の補正輸液と維持療法を行うことができる.
B輸血量を決定し,成分輸血を指示できる.
C出血傾向に対処できる.
D血栓症の治療について述べることができる.
E経腸栄養の投与と管理ができる.
F抗菌性抗生物質の適正な使用ができる.
G抗菌性抗生物質の有害事象に対処できる.
Hデブリードマン,切開およびドレナージを適切にできる.
(3)次の麻酔手技を安全に行うことができる.
@局所・浸潤麻酔
A脊椎麻酔
B硬膜外麻酔
C気管挿管による全身麻酔
(4)外傷の診断・治療ができる.
@すべての専門領域の外傷の初期治療ができる.
A多発外傷における治療の優先度を判断し,トリアージを行うことができる.
B緊急手術の適応を判断し,それに対処することができる.
(5)以下の手技を含む外科的クリティカルケアができる.
@心肺蘇生法―一次救命処置(Basic Life
Support)、二次救命処置(AdvancedLife Suport)
A動脈穿刺
B中心静脈カテーテルおよびSwan-Ganz
カテーテルの挿入とそれによる循環管理
Cレスピレータによる呼吸管理
D熱傷初期輸液療法
E気管切開,輪状甲状軟骨切開
F心嚢穿刺
G胸腔ドレナージ
Hショックの診断と原因別治療(輸液,輸血,成分輸血,薬物療法を含む)
I播種性血管内凝固症候群(DIC)
、多臓器不全(MOF)、全身性炎症反応症候群(SIRS) 、代償性抗炎症性反応症候群(CARS) の診断と治療
J化学療法(抗腫瘍薬、分子標的薬など)と放射線療法の有害事象に対処することができる.
(6)外科系サブスペシャルティの分野の初期治療ができ,かつ,専門医への転送の必要性を判断することができる.
3)外科学の進歩に合わせた生涯学習の基本を習得し実行できる..
@カンファレンス,その他の学術集会に出席し,積極的に討論に参加することができる.日本外科学会定期学術集会に1回以上参加する.
A専門の学術出版物や研究発表に接し,批判的吟味をすることができる.
B指定の学術集会や学術出版物に,筆頭者として症例報告や臨床研究の結果を発表することができる.
C学術研究の目的で,または症例の直面している問題解決のため,資料の収集や文献検索を独力で行うことができる.
4)外科診療を行う上で,医の倫理や医療安全に基づいたプロフェッショナルとして適切な態度と習慣を身に付ける.
@医療行為に関する法律を理解し遵守できる.
A患者およびその家族と良好な信頼関係を築くことができるよう,コミュニケーション能力と協調による連携能力を身につける.
B外科診療における適切なインフォームド・コンセントをえることができる.
C関連する医療従事者と協調・協力してチーム医療を実践することができる.
Dターミナルケアを適切に行うことができる.
Eインシデント・アクシデントが生じた際,的確に処置ができ,患者に説明することができる.
F初期臨床研修医や学生などに,外科診療の指導をすることができる.
Gすべての医療行為,患者に行った説明など治療の経過を書面化し,管理することができる.
H診断書・証明書などの書類を作成,管理することができる.
V.カリキュラムの概要
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月曜日 |
火曜日 |
水曜日 |
木曜日 |
金曜日 |
7:30 |
手術記録チェック および回診 |
ミニカンファレンス および回診 |
消化器 |
ミニカンファレンス および回診 |
ミニカンファレンス および回診 |
午前 |
手術 |
病棟管理 |
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手術 |
手術 |
午後 |
手術 |
病棟管理 |
栄養管理 |
手術 |
手術 |
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術前検討 |
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術前検討 |
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1)外科診療に必要な下記の疾患を経験または理解する.
(1) 消化管および腹部内臓
1 食道疾患:
@ 食道癌 A 胃食道逆流症(食道裂孔ヘルニアを含む) B 食道アカラシア C 特発性食道破裂
2 胃・十二指腸疾患: @
胃十二指腸潰瘍(穿孔を含む) A 胃癌 B その他の胃腫瘍(GISTなど) C 十二指腸癌
3 小腸・結腸疾患: @ 結腸癌 A 腸閉塞 B
難治性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病) C 憩室炎・虫垂炎
4 直腸・肛門疾患 @ 直腸癌 A 肛門疾患(内痔核・外痔核,痔瘻)
5
肝臓疾患: @ 肝細胞癌 A 肝内胆管癌 B 転移性肝腫瘍
6 胆道疾患: @ 胆道癌(胆嚢癌,胆管癌,乳頭部癌) A
胆石症(胆嚢結石症,総胆管結石症,胆嚢ポリープ) B 胆道系感染症
7 膵臓疾患: @ 膵癌 A 膵管内乳頭状粘液性腫瘍,粘液性嚢胞腫瘍 B
その他の膵腫瘍(膵内分泌腫瘍など) C 膵炎(慢性膵炎,急性膵炎)
8 脾臓疾患: @ 脾機能亢進症 A 食道・胃静脈瘤
9
その他: @ ヘルニア(鼠径ヘルニア,大腿ヘルニア)
(2) 乳腺 @ 乳腺乳癌
(3) 呼吸器
1 肺疾患: @ 肺癌 A 気胸
2
縦隔疾患: @ 縦隔腫瘍(胸腺腫など)
3 胸壁腫瘍
(4) 心臓・大血管
1 後天性心疾患: @ 虚血性心疾患 A
弁膜症
2 先天性心疾患
3 大動脈疾患: @動脈瘤(胸部大動脈瘤,腹部大動脈瘤,解離性大動脈瘤)
(5)
末梢血管(頭蓋内血管を除く)
@ 閉塞性動脈硬化症 A 下肢静脈瘤
(6)
頭頸部・体表・内分泌外科(皮膚,軟部組織,顔面,唾液腺,甲状腺,上皮小体,性腺,副腎など):@ 甲状腺癌 A 体表腫瘍
(7) 小児外科
@
ヘルニア(鼠径ヘルニア,臍ヘルニアなど) A 陰嚢水腫,停留精巣,包茎 B 腸重積症
(8) 外傷
2)外科診療に必要な各領域の手術を経験する.
1.消化管および腹部内臓(50例)
2.乳腺(10例)
3.呼吸器(10例)
4.心臓・大血管(10例)
5.末梢血管(頭蓋内血管を除く)(10例)
6.頭頸部・体表・内分泌外科(皮膚,軟部組織,顔面,唾液腺,甲状腺,上皮小体,性腺,副腎など)(10例)
7.小児外科(10例)
8.外傷の修練(10点)
9.上記1〜7の各分野における内視鏡手術(腹腔鏡・胸腔鏡を含む)(10例)
3)地域医療への外科診療の役割を習熟し,実行できる.
1.連携施設(または基幹施設)において地域医療を経験し、病診連携・病病連携を理解し実践することができる.
2.地域で進展している高齢化または都市部での高齢者急増に向けた地域包括ケアシステムを理解し、介護と連携して外科診療を実践することができる.
3.在宅医療を理解し、終末期を含めた自宅療法を希望する患者に病診または病病連携を通して在宅医療を実践することができる.
4)教育体制
1.指導医:初めの6ヶ月間は日本外科学会指導医のもとにマンツーマンで指導を受ける。次の6ヶ月間はそれ以外の上級医のものでマンツーマンで指導を受ける。
2.救急疾患およびトリアージ:週1回の1stコールを担当し、救急患者、他科からの診療依頼に対応し、上級医とともに診療にあたる。
3.学会、執筆活動:年2回以上の学会発表を経験し、年1編以上の学術論文を執筆する(部長による指導)。