世界の窓

このページでは海外で現在活躍されているビジネスマンや暮らしておられる方の生の声を、掲載しております。
現在、海外で滞在されている方で、その国について、レポートして下さる方、広く募集いたします。

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◆ 海外特派員:尾田 茜


慶應義塾大学文学部をご卒業され、その後、外資系企業で、東京で5年勤務され、
東南アジア、中国に転勤されます。その後、退社され、 現在、中国・上海で
フリーライターとして、御活躍されています。



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E-mail : tpiyomi@uninet.com.cn


(98/11/03 上海・うまいもんレポート)

◆ 上海蟹 のシーズン真っ盛りである。

この季節になると 日本企業の重役クラスの上海出張が目立つようになる。 戦後最大の不況とはいえ 今年も例に漏れず 駐在員は大忙しだ。 これでこの秋 5回目の蟹だ・僕は今週に入って3回目ですよ などと 彼らの会話の中では 蟹を食べた回数が 仕事の忙しさ(?)を図る尺度にもなっている。上海蟹 といっても 実際に取れるのは上海と蘇州の間の淡水湖。 いまは殆どが養殖物である。

通常10月に入ると香港にまず出荷 そこから アジア主要市場へ流れるのだが アジア経済危機の影響で香港への輸出 というか出荷が 伸び悩みその結果 上海市場に蟹があふれ 市内では例年の1.5割安で蟹を楽しめるという嬉しい年でもある。大体 日本人が町中で生きているのを買うと一匹が40―50元(1000円)と言われる。上海蟹料理で有名な 王和宝で蒸した物を注文すると男性の拳程度の大きさで160元。ホテルの中華レストランでは一匹200元位。

もっと一般的な上海っ子たちが行くレストランでは40元位から食べさせてくれるところもあるがお金持ちで上海蟹の知識のない日本人にはなかなか 上海っ子価格を適用してくれないし出来の良くない蟹を出されることもあるから油断は出来ない。

市場で買って 自分で調理するのがまあ 安上がりで確実なのだが掃除が大変。歯ブラシの使い古しなどで泥をよく落とし 紐で足を縛るのが一苦労。しかもこの蟹の動きが速い。昨年 私が知り合いから分けてもらった 3匹は事務所で袋からから脱走し 捕まえるのに大騒ぎとなった。 などなど 考えるに 中国語と押しの強さに自信の無い人はやはり上海の友人と一緒に出掛け 注文してもらい蟹をしっかり検分してもらうのがベストである。彼/彼女の分を奢っても 結局は安くつく。そうでなかったらまあ“これも外国人税だ”と割り切り、王和宝あたりの 値段で楽しむのが無難。

この “中国でなにか物事を始めようと思ったら中国人を通さないとスムーズに行かない”という法則は 蟹のみならず全てに適用される。

彼らは彼らなりのネットワーク(対人という いわゆるコネ)を利用して それも 学校の同級生の兄弟だとか 家族の一員が同郷であるとか 挙げ句の果てには名字が同じだとか ささいなひっかかり(と若干のアンダーテーブル?)から物事を進めていく。中国ビジネスの神髄はいかに信用できる中国人と知り合い良い関係を作れるかで決まってしまうと私は経験上 つくづくと思い知らされた。

話がそれたが始めは雌蟹のみそとたまごの詰まったのを楽しむ 上海っ子も11月に入って北西北の風が吹くと −つまり 寒さが一段と身に沁みるようになると−雄が美味しくなってきた と目を細める。紹興酒の8年ものと一緒に食べる味は フォアグラ キャビアに匹敵する と私は信じている。

ちなみに 蒸し蟹以外にお薦めの料理を挙げておく。晩秋に上海に来る機会があったら 是非お試しあれ。

*酔蟹 ( 紹興酒に生きたまま漬けたもの)
*温蟹 (ぶつ切りにして生まのまま黒酢に漬けたもの 個人的にこちらの方が好き)
*炒蟹粉(蟹肉をほぐしたものを蟹粉と書く 炒めた蟹肉をたっぷり楽しめる)
*蟹粉炒飯(蟹肉いり 蟹みそいりの炒めご飯 絶句する美味しさ 炒麺もある)

多少店に依って名前が違うが中国語が不案内な人も漢字で検討をつけられる。幾つかは通年食べられるメニューであるが やはり秋の取れたての時期が 一番美味しい。

繰り返すが紹興酒を注文するのをお忘れなく。