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世界の窓

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アラブ・イスラムの国チュニジアからの便り VOL.

Malka

 
 

 
(99/11/30 アラブ・イスラムの国・テュニジアからの便り)

◆  「お掃除しましょ」
 

 
観光国テュニジアは、日本ではまだあまりメジャーではないけれど、欧米人にはヨーロッパ内観光のノリで出かけられる、お手頃なリゾート地として知られています。

 ですから、観光客がたくさん集まるテュニスのメインストリート「ハビブ・ブルギバ通り」なんかへ行きますと、お掃除おばさんやおじさん、はたまた小さな清掃車が出てきては通りをクリーニングしていきます。ゴミ箱のゴミを回収するのだって、しょっちゅうです。観光客はお金を落としていく大変なお客様ですから、心地よくしていただこうと、国だって考えてるらしいのです。

 でも。
 一歩住宅地へ踏み込めば、話は別です。ゴミはあちこちに散乱しています。高い建物の窓や屋上などから下を覗けば、家の屋上やら家と家の隙間など、空き缶・ペットボトル・お菓子の屑・・・本当にいろんな物がポイ捨てされています。

 人が歩いているのを見ると、よく分かります。ひまわりの種をぷちぷち食べながら、次々とその殻を道端に捨てていきます。ミカンの種・ナツメヤシの種・・そういうものも同じです。ペットボトルになると、水を飲みながらバス停で待っていて、飲み終わったときにバス停の小屋の屋根に載せていく・・・とか。で、何日に一度か知らないけれど、お掃除屋さんが来て、掃いていくんです。
 住んでいると、もっとよく分かります。ベランダに上からゴミが降ってくるんです。窓辺でミカンを食べながらミカンの皮を外に放り投げたり、すぐ下がゴミ置き場だからって、袋に入れてまとめもしないでゴミだけを窓からぽーい、とか。そういうのは毎日お掃除屋さんが掃いてまとめて、ゴミ置き場に積んでいきます。そうすると毎日か週に何度か(場所によって違う)、ゴミ収集車がやって来て回収していく訳です。ここに出てくるお掃除屋さんははっきり言って、無駄な仕事だと思うんですけど、現地人はそうは思ってないみたいで、「彼らがやって来るからいいのよ」と言います。

 このように、見えるところに出されたゴミは、国が頑張って片づけますが、ぱっと見には分からないところにあるゴミは、見えてもみんな知らんぷりです。溜まったときに、これまた別料金で片づけるんです。夏になると、どこからかすごい臭気が発せられるのはこの為です。

 家の中はどうなっているんでしょう。
 家の中のお掃除は結構まめです。なんでもかんでも掃いて、水で流して終わります。丁寧に水でゴシゴシやります。だから家の中はキレイです。中のゴミは、だって全部外にあるんですものね。

 ゴミの分別はどうなってるか、ですって?
 ここまで読んで下さった方なら、おおよそ想像が付くでしょう。答えは一切なし、です。
電池であろうと缶であろうと、同じ袋に詰めます。
 最初はまめに分別してたんですけど、どうせ一緒になるんだと思うと、私もやらなくなりました。コワイですけどねぇ。

 観光地は他よりキレイかもしれない。けど、やっぱり考え方がそもそも違うんだと思います。ヨーロッパ人が好きだから、そうしてるだけなんだと思いますよ。

                     By malka
 



(99/11/20 アラブ・イスラムの国・テュニジアからの便り)

◆  「テュニジアのアイデンティティ」

 

これを読まれる皆さんの大半は、おそらくテュニジアという国を知らないでしょう。サッカーやバレーボールで最近見たという人はいるかもしれませんが、どこにあってそういう人が生活していて・・・そういうことはきっと想像も付かないでしょうね。

 テュニジアは、北アフリカにあるアラブ・イスラムの国です。テュニジア共和国というのが正式名称です。1956年に独立する以前は、フランスの植民地でした。だからこの国の第2言語はフランス語で、首都にいれば大抵の人はフランス語を話します。もちろんテュニジア訛りがありますけど。第一言語はアラビア語ですが、テュニジアの方言になります。

 私がアラブの国に訪れるのは、テュニジアで3回目でした。一度目はエジプト、2度目はモロッコ。エジプトはあれこそアラブという感じのする国で、私のアラブのイメージは、あのカイロの喧噪の中にあるのだと思っています。モロッコはそれとはまた違って、マグリブ(*1)のイメージを私に植え付けました。
 

 テュニジアはアラブの国です。確かにアラビア語を喋るし、口でうまく説明できないけれど、アラブ人らしい濃さを彼らは持っています。アラブ文化の中で育ったので、考え方がそもそもアラブなのです。でもだからといって私は、テュニジアをアラブの国とは言い切れません。後に述べるように、ヨーロッパを目指したが故に、何か抜け落ちている気がするのです。
 

 テュニジアはマグリブの国です。だから、エジプトよりモロッコに近い筈です。言葉の上で見てもそうだし、ベルベル人の生活の影響を受けている点でもそうだし、フランスの植民地であったという点でも共通します。でも、先ほど同じ理由で、マグリブとも何か違う気がします。
 

 テュニジアはまたイスラムの国でもあります。イスラムの第三の聖地・カイラワーンを擁するくらいですから信仰が盛んなのかというと、決してそうではありません。戒律はとても緩やかで、キリスト教徒が多数いるわけでもないのに、お酒はおおっぴらに売られていて、みんな平気で買います。現ベン・アリ大統領が原理主義を徹底的に取り締まったせいもあって、宗教的会合を持てば怪しまれるという話も聞きます。
 

だからあまり宗教に熱心ではないのだ、と。でもそういうことを抜きにして、テュニジア人が礼拝しているのを見たことはあまりないですし、ラマダーン(断食月)でさえ、カフェやレストランが新聞紙で中を隠して客を待っているのです。中に入ってしまえば、同類がたくさんいてラマダーンを破っていたりするわけです。だから、テュニジアではラマダーンの間の日没でも、大層なラッシュは起こりません。エジプトなどでは、日没になると食事が出来るので、必死に帰ろうとする人たちで凄まじいラッシュになるのです。
 

 アラブでもマグリブでもイスラムでもないなら、テュニジアは何なのでしょう。
 

 テュニジアに来れば分かりますが、この国は精一杯ヨーロッパの真似をしようとしています。レストランの前に掲げられているメニュー然り、アラブ独特のインド数字を廃している点も然り、アラブ式トイレにはほとんどお目に掛からないし、町中の埃っぽさはありません。スーパーもあるし、綺麗なホテルだってあります。首都には市電も走っているし、公衆電話だって多い。でも、それでも結局はアラブ人らしい「ずぼらさ」が出てきて、どれもこれも真似でしかあり得ないのです。
 

 例えば、レストランのメニューにしても、ヨーロッパならかっこいいシェフがメニューを持ってる絵の描かれた看板があって、「ようこそ!」って感じがありますよね。テュニジアはまず、この絵が下手なので、その看板に対する熱意が感じられません。
 

 スーパーはあるけれど、中の従業員は何にも知りません。レジを機械的に打つことしか知らず、ちょっと問題があるとストップし、上役が出てこないといけません。それに、「私はレジが打てるのよ」と誇っているのかやたらとお高くとまった人ばかり。
 

 綺麗なホテル。それだって、テュニジア人がオーナーのところは、修理を怠ってあっという間に5つ星が3つ星になってしまいます。せっかくの綺麗な外観も、外観だけに終わってしまったりするのです。

 ヨーロッパにもなれなかったテュニジア。では地中海の国としてはどうなのでしょう。

 地中海といえばオリーブ、パスタ。テュニジアのオリーブが一番質がいいと誰かに聞いたことがあります。ほんとかどうかは定かでありませんが、テュニジアはオリーブ畑があちこちにあって、オリーブの国と言っても過言ではありません。風邪になったらオリーブを、声をよくしたければオリーブを、肌が荒れればオリーブを、何でもかんでもオリーブを勧められます。ですが、オリーブ油もオリーブも、質の良いのは大抵輸出品です。普通のレストランなんかではお目にかかれないでしょう。
 

 パスタはどうかといいますと、これがまずい。何がダメかというと、第一に茹で加減。アルデンテを平気で通り越すパスタの何と多いことか。そして味付け。いかにもテュニジアらしい、辛いハリーサ(アラブの調味料)の味付けのもの。ほとんどそれ一品でバリエーションがありません。
 

 というわけで、地中海料理を現地で楽しむことなんてできません。地中海そのものと、地中海のブルーを使った家々が所々で見られるだけです。
 

 これでは、地中海諸国の中にも名を連ねようがありません。

 ではアフリカとしてはどうかと言いますと、テュニジアはアフリカの中では先進国で、民俗的なものは少なくなっていますので、イマイチ主張に欠けます。
 

 型どおりのアラブでもなく、型どおりのイスラムでも、型どおりのマグリブでも、型どおりの地中海でもない。

 これまで独断と偏見であれこれと否定してきたようですけれど、私には、テュニジアはどれもこれもを折衷して、自分だけの物を作り上げているような気がするのです。どれにもなり得なかったけれど、どれにもないものを持っている・・・そういう感じです。
 

 だからテュニジアへ来た人は、今まで行ったことのある国と同じものを見て親近感を覚え、そのあとで少なからず新しい発見をすることになります。はっきりいえば、テュニジアはアラブの入門であり、マグリブ入門であり、地中海入門・・・なのです。いきなりアラブへ行くのが怖い人は、テュニジアで慣らしていけばいいのだと思います。かく言う私も、ここをヨーロッパ入門として出ていくことになるでしょう。
 

 テュニジア、北アフリカにあるアラブ・イスラムの国。ほんとにそうかなと、こう紹介する度いつも思うのです。
 

                                            By malka
 

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注釈:

マグリブ(*1)

モロッコ、アルジェリア、テュニジア、(モーリタニア、リビア)をさす言葉で、アラビア語に訳すと「日の沈むところ」ということになります。マグリブ(マグレブ)3国と言えば、前者3国を指します。