銀河ヒッチハイク・ガイド(ダグラス・アダムス)

 このSFを読んだのはもう随分と以前である。だから詳しい筋道は忘れてしまったが,メチャメチャ 面白かったと記憶している。とにかくハチャメチャというストーリーで,こんなSFは初めてだと いう気持ちで一気に読んだような気がする。確か,たまたま最初に買ったのは二作目の「宇宙の果て のレストラン」でこれを一気に読み進むうちに,幾度も「銀河ヒッチハイクガイド」という名前が出て くるので,翌日に即,本屋に探しに行ったような覚えがある。
 宇宙の果てのレストランは,宇宙の終末を見物しながら一杯やれるところである。そんなレストラン というか飲み屋があれば是非行ってみたいと思うのは「のんべえ」の性だろうか。

 初めに宇宙が造られた。宇宙のいろいろな種族には,いろいろな仕方で宇宙が造られたという信仰が ある。しかしそれらは主観的なものであり,宇宙の存在を示すものではない。
多次元宇宙に住む超知性体は,かつて「深思考(ディープ・ソート)」という巨大コンピュータを作って, 生命と宇宙と万物についての究極の疑問の答えを計算させようとした。750万年かかってついに答えを はじき出したものの,究極の疑問の真の意味を見いだすために遙かに大きなコンピュータを作らねばなら なくなった。そうして作られたのが地球である。そう,そしてこの惑星の地表を歩き回る有機体もまた プログラムの一部であった。

 というように概要を書くと,結構シリアスに思えるが,これはまあ,単なるストーリーなのであって, 個々の話は非常に面白い。なにが面白いかといってそれは具体的には書けないが,とにかく面白い。 結構難解な,サイエンティフィックなSFを読んでいると,こういうときには数字を無視したような ハチャメチャなSFが非常に新鮮である。あまり中身の紹介ができていないが,是非とも一度目を通して 欲しいSFである。


 
星海への跳躍(アンダースン&ビースン)

 巻末の解説(堺 三保)の最初の数行を引用しようと思う。
 「空を飛びたい」 晴れわたった青空を見上げてそう思ったことのある人は,たいてい航空ファンだろう。 そして,満天に星がきらめく夜空を見上げてそう思ったことがある人は,まず間違いなくSFファンだ。  不思議なことに,逆のこと,すなわち “SFファンは皆,宇宙への憧れを持つ” ということは言えないのだが, “宇宙に憧れるものは皆,SFファンである” というのは,まず言い切ってしまってかまわないはずだ。(途中略)
 空気がなく,宇宙服で全身を包まないと出ていけない宇宙空間では,“生身の浮遊感”は味わえないのか。 いや,自由落下状態で自分の重みを感じずに浮いていられる宇宙空間では, それこそ宇宙服一つで究極の浮遊・飛行体験を味わえるはずだ。(引用終わり)

 そう,この物語は一人の少年が生身(宇宙服一つ)で宇宙空間を渡り歩く,胸躍る物語なのである。 舞台は近未来で,唐突に始まり唐突に終わった「第三次世界大戦」の後,残されたスペースコロニー, 「月基地と三つの宇宙ステーション」で,生き残りをかける人間達の命を懸けた生き様を語っている。

 それぞれのコロニーは自分達だけでは生きていけない。これまで地球に依存していた生存物資は 大戦で破壊され消耗しきった地球からはもう補給されない。だからそれぞれのコロニーは互いに 助けあわなければならない。しかし,各コロニーでは宇宙空間の移動はやはり地球に依存していたために そうするようなシャトルも持ち合わせていない。さてどうするか。 各コロニーの人間達は知恵と勇気を絞る。空間移動手段は,太陽風で移動出来るようにした宇宙生命帆船, 分子レベルの糸を利用した巨大ヨーヨー,そして生身の宇宙空間ジャンプである。

 各コロニーは,アメリカが,ロシアが,そしてフィリピンが作ったものであり,当然これまでの歴史を 引きずっているため,国家間の慣習と対立のためにうまくいくはずもない。
 そこで主人公の活躍が始まる。主人公は十数歳の少年で, 大戦前からもステーションの無重力レベルでのジャンプ遊びを得意としていた。 この少年がステーション間の生身のジャンプを繰り返しそれぞれの国家的集団を融合させていく。 政治的な話も主であるが,それよりももっと純朴に,宇宙空間を何の助けもなしに ステーションからステーションへとジャンプしていく,そんな描写がただひたすら面白い。 当然理論的な裏付けもとっているが,それなくしてもワクワク楽しい物語である。久しぶりに一気に読んでしまった。


 
時間衝突 (バリントン・J・ベイリー)

 時間という概念を自分のものにするのは難しい。今我々が住んでいる世界は 4次元時空であるというが,縦・横・高さ(X・Y・Zの軸)の概念は判りや すいが,はてさてそこに時間の軸を持ってくると途端に判りにくくなる。縦で も横でも,そういった長さの軸にはプラス・マイナスを考え易いのであるが, そこに4次元のうちの一つである「時間」をもってきて,それにプラスとマイ ナスを考えるのは,ちょっと頭を悩ましてしまう。この本は,そんな時間軸に 対して何も気にせずに,時間というものに対してアイデアをぶつけてくる。

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 この本を読んだ感想としては,「一気に読んだ。面白かった。」 それに尽 きる。理論的な裏付けは明確ではないがアイデアが面白い。それほど長編でな いところもいい。ちょっと間延びしているところもあるが,そこはアイデアの 非凡さと物語自体が比較的短くまとめられたところに助けられている。

 時間衝突,原題は「Collision with chronos」,題名だけを見て,さて時間 が衝突するというのは一体何だろか,と中味を想像するのはちょっと難しい。 時間が関係している,もしかしてタイムトラベルものなのかいなとも思うが, はてさてよくは判らない。

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 舞台は遠未来,大規模核戦争の後,地球は「真人」と呼ばれる白人の軍事社 会が成立しており,その他の有色人種は亜種として滅ばされるか,またはそれ ぞれの居留区に押し込められている。(インディアンやアイヌのように)この 地球では,過去に異星人の破壊的な攻撃により一時期侵略されたという伝説が あり,考古学者達がその異星人の残した遺跡を調べている。さてこの遺跡が曲 者で,普通は時を経るほどに荒廃していくはずであるのが,意に反して,どん どん新しくなっている。 これは何を意味しているのか?

 結論は,異星人の世界と我等の世界とは時間が互いに逆行しているというの である。我等の世界は我等の時間波とともに進んでおり,異星人の世界は彼等 の時間波とともに進んでいる。そしてその互いの時間波は正面衝突コースを進 んでおり,あと4世紀ほどで大衝突を起こすらしい。地球人と異星人(という か時間の向こうからやってくる地球人)は,互いにその可能性を知ったため, それぞれ相手の世界を壊滅させることにより自分達を生かそうと試みる。地球 人は全面的核攻撃により,そして異星人は生物壊滅ウィルスにより,お互いを 滅ぼそうとしている。

 異星人は地球人より早くタイムトラベルを方法を発見していた。その方法は 自分達の時間波の一部を切り取り,非時間平面を通って未来 or 過去の時間線 に乗るという方法である。非時間という概念は面白いが,理論的な裏付けっぽ いものがあるわけではない。この辺はいわゆるハードSFとはちょっと違うと ころでもある。ただアイデアがとにかく面白い。

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 いわゆる戦いの物語ではあるが,一つの時間軸のプラスとマイナスの両側か ら互いの種族が進んでくるという設定が面白く,また時間というものが唯一不 変ではないというのが,概念的にも理解はできずとも頭の中にインプットされ てくるところが,非常に興味深い小説である。

 とにかく,こ難しいSFではないところが,お勧めの書である。


 
重力の影 (ジョン・クレイマー)

 現役の実験物理学者による作品である。 そのせいか大学構内の様子がかなりリアルに描かれている。 実験室のゴタゴタした状況,大学にはつきものの工作所の様子など 生々しく描かれている。

 一人の研究者と美人大学院生が高温超伝導物質を利用したホロスピン波の研究をしている。 二人は電場と磁場を回転させ,ひねりを加えるような実験装置を組み上げ予備実験を始めたが, そのときいきなり装置が消えてしまった。

 何がおかしいのか,調査を進めるうちにこれはある一定の場(領域)をツイストさせ その中にあるものを影宇宙のものと交換させる働きがあることが判った。 影宇宙とはいわゆるパラレルワールドであるが,その世界とは重力以外の 力は相互作用をしないという。

 このツイスター現象を発見するのが物語の初めであり, この現象については「超ひも理論」を基礎にした説明が加えられている。

 さてこの発見にある企業が目をつけた。 企業はスパイを利用し,ツイスター場発生装置を盗むため,大学の実験室に侵入してくる。 実験室には主人公の研究者と遊びに来ていた友人の子ども達がいた。。 研究者は侵入者から装置を守るため,装置そのものを手の届かない影宇宙へと 飛ばそうと装置を作動させる。
 ところが運悪く,このとき設定したツイスター場の中に ちょうど子ども達が入ってしまっていた。装置はもう止めようがない。 子ども達がもしも場の境界接してしまえば,その身体はこちらの宇宙と影宇宙とに 分割されてしまう。研究者は咄嗟の判断で子ども達を抱え,装置とともに影宇宙へと 飛んで行ってしまう。

 一方装置を狙い,一儲けを企む企業は装置自体が消えてしまったため, 今度は共同研究をしていた美人大学院生を付け狙い拉致してしまう。 大学院生から装置の内容を聞き出すため,恐怖の自白剤(副作用が強烈なため, アルツハイマー症もどきになってしまう)が準備されている。

 超ひも理論から発展させた物理理論と影宇宙を設定した科学性, 大人一人子供二人による未知の世界での大冒険, そして悪辣企業と美人大学院生とを含んだサスペンス。

 本物の科学を基礎におき想像を膨らませた物理の世界で, ハードSFとして充分読み応えがある。またさらに,冒険物語や サスペンスものとしても充分楽しめる。

 物理の研究者が新たな発見を行い,その技術を利用して悪者をやっつけ, 最後はハッピーエンドで,新発見もあまねく全世界に行き渡っていく。 このへんの流れはホーガンの「創世記機械」にちょっと似たところがある。


 
アンドロメダ病原体 (マイクル・クライトン)

 アンドロメダ病原体・・・といっても別にアンドロメダ星雲からやってきた未知の病原体の話ではない。

 1960年代(アポロの月着陸の前だったか・・・),アメリカ軍部はより破壊力の強い生物兵器を探して, 未知の地球外細菌(病原体)の収集計画も進めていた。大気圏外に衛星を打ち上げ,地球周回軌道を飛行させつつ大気圏外生物を収集し, 地表に回収するという計画である。

 地球外細菌収集計画の第7番目の衛星は打ち上げ2日後に軌道を外れ,小さな田舎町に不時着した。 物語はこの田舎町に対して衛星の捜索・回収に向かうところから始まる。

 第7番目の衛星は恐怖の細菌を採取して地表に落下していた。落下地点である田舎町の住人はほぼ全員が 一瞬のうちに自らの血液を凝固させ死に絶えていた。衛星の回収に向かった軍の兵士達も一瞬のうちに死んだ。

 特別に選ばれた科学者グループは,この細菌を田舎町より採取し,国家予算で築造された特別研究施設で恐怖の細菌の解明と対策を練り始めていく。 あわや人類全滅かと思われるところまで事態は緊迫するが,最後の場面で細菌は無害なものへと突然変異し,人類は全滅を免れる。

 ラストはかなり安直である。しかし,そこへ至るまでがなかなかに面白く,一読するに足る物語である。


 
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(フィリップ・K・ディック)

 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」,かなり有名な作品である。
 ずっと以前からこのタイトルは知ってはいたが,有名であるがゆえにこれまで読んでいなかった。

 面白い作品である。人間とはなんだろう。アンドロイドは?
 もっと早く読んでおきたかった作品だと思う。

 タイトルだけから想像していたのは,アンドロイドであるがゆえに見る夢も電気羊なのかな? (人間なら羊の夢を見ても生身の羊なんだろう)と単純に思っていた。しかし全然違っていたんですね。 電気羊を飼っているのは人間だった。

 核戦争の後,地球に残された人間達は,そのステータスシンボルとしてペットを飼うのが常識となっている。 しかしながら本物のペットは非常に高価で,かなりの金持ちでないと手に入れることができない。 そこで,本物を手に入れることのできない人間達は電気仕掛けの動物を購入し飼育していた。

 この作品の主人公である警官(かつ賞金稼ぎのアンドロイドハンター)も電気羊を飼育している。

 さて火星から8人のアンドロイドが地球へ脱走してきた。このアンドロイドを殺すと賞金は一人当たり 千ドルになり,全員をやっつければそれで本物の動物を購入することができる。 警官は早速アンドロイド狩りに乗り出した。


 
終わりなき戦い(ジョー・ホールドマン)

 コラプサー(縮潰星)ジャンプ航法(ある物体を十分な速度で縮潰星にぶつけると,その物体は 銀河の別の場所にピョンと飛び出す)では,ひとつの縮潰星に飛び込んだときと同じ速度で,別の 縮潰星から宇宙空間に飛び出す。二つの縮潰星間を移動するのに要する時間は完全にゼロである。
 さて,このコラプサー・ジャンプを使って,恒星間航行をしていた移民船がどこかの宇宙船に追撃・ 破壊された。敵はトーランと名付けられ,このトーランと人類の一千年以上におよぶ戦いをこの小説は 綴っている。

 主人公は,戦争の極く初期に徴兵された「マンデラ」という男で,1143年におよぶ戦いを 生き抜いていく。コラプサー・ジャンプに基づく相対論的時間差のために,一度戦った相手と 次に戦うときには,お互いに数百年の時が過ぎており,武器もすっかり変わっている。このため, どちらかが一方的ということがありうる。
 物語は氷の惑星での戦闘訓練から始まる。訓練は過酷で兵士達はやがて殺人機械と化していく。 訓練の様子および戦闘については,宇宙空間のどこかの惑星上で行われるのであるが,結構生々しく あって,そして淡泊である。

 作者はベトナム戦争に参加していた。ベトナムで戦っている間,自分の故国やその他の国では平和で 安穏な暮らしが営まれている。反戦運動も激しく行われていた。この時代では,世界大戦の時期とは 違い,戦争をしているときの意識,愛国心といったものはおそらくあまり生まれてこず,局地で戦って いる際には,ただ戦闘機械(殺人機械)となってその場にいるしかなかったのかもしれない。 この小説が淡々と戦いを綴っているのも,そのような背景があるのだろうか。淡々と物語は綴られてい くが,頭のなかにズンと残る小説である。


 
スピーシーズ −種の起源− (イヴォンヌ・ナヴァロー)

 SFというよりもホラー小説である。  地球外知性探査を目的として,巨大な電波望遠鏡から人類のメッセージが送り出された。 そして18年の後,誰もがまさかと思っていた宇宙からのメッセージが受信された。

 メッセージはDNAの新しい塩基配列に関するもので,これを人類のDNAと組み合わせてはどうか, とのコメントが記されていた。科学者達はコメントに従い,新しい塩基配列のDNAを人間の卵子に導入した。

 卵子は驚異的な成長を示し,わずか1週間で小さな少女にまで成長してしまう。 恐怖を抱いた科学者達は,この少女を抹殺しようとするが,すんでのところで逃げられてしまう。

 この後は,逃げる少女と追う科学者グループのストーリーが延々と続いていく。 逃げる少女は刻一刻と美貌の女に成長し,接触した人間を次々に殺害していく。
 もともと映画をベースにして作られたものらしく,展開が極めて映像的である。 ラストシーンもあわやというところで,傷だらけになった科学者グループが勝利する。 ラストはやはりホラー映画そのものだなあ,安易だなあといった印象で終わってしまう。


 
プタヴの世界(ラリイ・ニーヴン)

 人類が宇宙航行を始め,そして海の知性体「イルカ」とのコンタクトも始まった時代において, イルカが海底から「海の像(Sea Statue)」を発見した。

 実はこの「海の像」は,はるか20億年前に宇宙船トラブルのため,停滞フィールドに身を包み, 近隣の惑星を目指して緊急着陸した異星人であった。 停滞フィールドとは,その内部では時間が全く進まない場であり, 従って20億年経とうとも内部の異星人にとってはほんの瞬間のことである。

 さて,ちょうどこの「海の像」が発見された時代に地球では,「時間遅延フィールド」という場が開発された。 人類は時間遅延フィールド内に「海の像」を入れることにより,その停滞フィールドを解凍したが, 実はフィールド内にいた異星人は,卓越したテレパシイ能力によって,過去に全宇宙を支配していた種族であったのである。

 物語は,この異星人とフィールド解き放つ際に一緒にいて精神を乗っ取られた人間とさらに国連の代表の三者が, 異星人が太陽系内に残した「テレパシイ能力増幅ヘルメット」を探して,海王星を目指して宇宙船をとばしていくことで進んでいく。
 このヘルメットがあれば,異星人の能力は極端に増幅され,地球人類を簡単に支配することができるのである。

「プタヴの世界」はニーヴンの処女長編である。その後の「ノウン・スペース・シリーズ」に連なる基礎となった 作品であり,「リングワールド」等の作品に繋がっていく。力が入っていて,なかなかに面白い作品である。


 
プロテクター(ラリイ・ニーヴン)

 銀河の中心付近にパクという星があり,そこの住人パク人は自分の子孫を守るため互いに戦争を繰り返している種族であった。
 パク人は,その進化の過程において「幼年期」「ブリーダー期」「プロテクター期」と過ごしていく。 そしてこの「プロテクター」がパク人のそれぞれの種族(子孫)を守る役目を担っている。

 さてこの戦争を繰り返している世界を250万年前に脱出し,「ブリーダー」を満載して地球を目指した一団が存在した。
 そのはるか後になって,ちょうど戦争で自分の守るべき種族(子孫)を失ってしまった一人のプロテクターが, パク星の図書館でこの事実をつかみ,地球を目指した子孫を発見・保護したいがために,地球へと向かって旅立つ。

 地球を目指した一人のパク人の「プロテクター」と小惑星帯の一人の住人(小惑星帯の住人はベルターと呼ばれる)のファーストコンタクトがなされた。 ファーストコンタクトを実現したベルターはパク人に囚われるが,パク人の食料である「生命の樹」を食べることにより, 自身が「プロテクター」とかしていく。 時は22世紀,人類は小惑星帯に文明を築き,また外宇宙にも植民星をいくつか築いている時代である。

 その後のパク星では,ブラックホールか銀河中心の大爆発か何か判らないが,パク人が自分達の星を引き払い, 地球を目指して大船団が進み始めていた。 24世紀にはこの大船団の先陣が太陽系に迫り,戦闘が始まるのが避けられない状況となってきている。

 ところで地球人は,実はこの250万年前にパク星を脱出したパク人の子孫であった。  プロテクターは自分の子孫を守るという習性を持っている。
 地球人のプロテクターとなった人間(ファーストコンタクトで自らがプロテクターとなったベルター) は地球人を守るためにパク船団と戦闘を始める。

 この作品は,ニーヴンのノウンスペース・シリーズの初期にあたる作品である。物語は24世紀頃までであるが, この後,種々の異星人との接触を経て,有名な「リングワールド」の探検へと進んでいくのである。
 さてこの「プロテクター」は結構有名な作品であるが,個人的にはもっと初期の「プタヴの世界」の方が好みではある。


 
時の果ての世界(フレデリック・ポール)

 宇宙創造のしばらくの後,「超プラズマ知性体」が産まれた。この知性体は恒星内部を住居とし, 1千万度程度の温度が快いと感じている。光よりも早い通信手段を持ち,一つは「ERP」 (アインシュタイン・ローゼン・ポドルスキイ)といって,時間を伴わない即時通信である。 またもう一つは「タキオン」通信。タキオンはそのエネルギーの低いほど速度が早くなる性質を有し, 我々の親しんでいる物質とは逆の性質を持っている。

 地球人類は宇宙への進出を始めており,ようやく20光年以上離れた恒星系に植民惑星を作るべく, 植民宇宙船を飛ばし始めた。植民の第1陣,第2陣が惑星に到着し,数十年をかけてかなり植民惑星も格好がついてきた。

 この時期,「超プラズマ知性体」は知性体同士の互いの抹殺ゲームを続けており,その関連で,人類の植民恒星系を 光速近くまで加速し,恒星系ごと宇宙の彼方へ吹き飛ばしてしまう。

 さて時が経ち,やがて宇宙の終焉が間近に迫ると,宇宙全体は冷え切ってしまい, 超プラズマ知性体が居住する恒星も,もはや「わい星」として存在しているのみで, 絶対温度で数度といった世界である。
 こんな折り,はるか昔に光速近い速度で,宇宙の彼方へ吹き飛ばされた恒星からのシグナルを検知した。 終焉宇宙の最後に残された居住可能恒星として,超知性体は僅かな「わい星」のエネルギーを蓄積し, 当の恒星を目指して自らの情報をタキオンに載せ,恒星を目指して進み始める。

 恒星を好みの住処とする「超プラズマ知性体」をアイデアとして出しているのはなかなかに興味深い。 読み始めの最初はちょっと違和感を覚えたが,慣れるにつれ,プラズマ知性体の物語は面白くなってくる。 しかし地球外惑星への植民者達の物語は少々まだるっこしい。
 折角の面白い卓越したアイデアがあるのに, 新惑星での人類の葛藤やセックスの話が長くページを占めるのは興味がそがれてしまう。

 この小説は上下の2巻に分かれているが,どちらかといえば,宇宙の終焉に近づく下巻のほうが面白い。 ただ,最後がちょっと中途半端で終わっているのが残念である。


 
コンタクト(カール・セーガン)

 ファーストコンタクトもの。

 テーマとアイデアは面白いが,読むには非常に疲れてしまう。上下2巻に分かれてかなり長い物語であるが, 盛り上がりは下巻の極く一部にしかない。まだかまだか,もうそろそろ盛り上がるかと読んでいくのだけれど, 結局,研究所の中の泥臭い話や政治上の駆け引きが殆どを占めていて,SFとしてはあまり面白くない。

 20世紀の終わりにニューメキシコにある天文台の電波望遠鏡が,素数の連なりからなる信号をキャッチした。 これは明らかに意図的な信号であり,地球外知的生物からのメッセージであることが確認された。

 メッセージを解析していくと,そこにはあるマシンの設計図が含まれていた。 アメリカ,ソ連,日本でそのマシンの組立が進められ,やがてマシンは完成する。 乗組員には世界の全域から5人の科学者が選ばれた。マシンは幾多のワームホールを経由して銀河系中心へと辿り着く。

 そこでは,はるかに進んだ文明が宇宙の改造を試みていた。無限に膨張する宇宙が無に帰すのを食い止めるため, 局所的に密度を高め新しい銀河を産み出そうとしている。

 5人の科学者はこの現実を知った後地球へ帰ってくるが,だれも信じようとはせず, 結局5人は研究の第一線から外されてしまう。話はそれで終わり。 折角のアイデアなのだから,せめてもう少し展開して欲しいものである。


 
さよならダイノサウルス(ロバート・J・ソウヤー)

 「さよならダイノサウルス」というタイトルの示すとおり,これは恐竜を一種の主人公とした物語である。 原題は「END OF AN ERA」,一時代の終わり,というもので,直接恐竜をイメージするものではないが,内容から言えば, 邦題のほうが判りやすいように思う。

 人間の主人公は,古生物学者で公務員でそして恐竜研究家である。この人間がふとしたことからタイムマシンで, 6千5百万年彼方の白亜紀末期へと旅立つはめになる。タイムマシンに乗り込むのはたった二人。 しかもその相棒はこの主人公の離婚した元妻の愛人である。まあ,これは人物描写に深みを与える背景なのだろうが。

 白亜紀へとタイムトラベルした人間がまず出会うのは当然恐竜であり,物語は恐竜をメインとして展開していく。 ところで,恐竜は一体どういう生態だったのか? なぜ恐竜はあんなに巨大なのか? そしてなぜ恐竜は絶滅したのか?  といったところが誰しも気になるところであり,この物語もそういうところをついて展開していく。

 しかしながら,こういった問いに対して,この物語はちょっと違ったアプローチをしている。 しかもハチャメチャで非常に面白いストーリーなのである。
 何故恐竜は巨大になれたかという問いに対して,それは当時の地球の重力が半分しかなかったからであるとか, 何故そうかといえば,それは火星の生命体が自分達の重力レベルに合わせるために地球の重力を調整したからであるとか。 そうして火星生命体が地球の恐竜達を奴隷化しており,しかもその生命体はタイムトラベルによって, 地球人類をも奴隷化しようとしているとかいった内容を組み立てている。

 二人の主人公は,火星生命体のこういった企みを知ったからには,人類を守るため(というか,変な生命体に自分達が操られるのが嫌だから), 白亜紀の地球重力を半減しているメカニズムを破壊するのに何とか成功する。
 さてその結果はどうなるか。いきなり二倍になった重力下の基では,巨大恐竜は生きてはいけない。 また当然ながら火星生命体も生きてはいけない。これで,人類は「めでたし,めでたし」である。

 ストーリーの骨組みは非常にユニークで面白いし,作者はこういった古生物に詳しいらしく, 恐竜達のことも生き生きと描かれている。。 しかし,なぜ,別れた妻とこの自分の相棒とが愛人関係でならなけらばいけないのか? 物語を面白くするためかもしれないが,あまり必要性がないように思われる。 こういった余分な振り付けのないほうが,私個人としてはSFとして楽しめるのだが。


 
ターミナル・エクスペリメント (ロバート・J・ソウヤー)

 自分が存在しているということを如何にして証明するか。我々は時として こんな思考にはまり込むことがある。デカルト的に言うならば「コギト・エ ルゴ・スム ; 我思う 故に我あり」。こう思ってしまえばそれはそれですん でしまう。プラトンはイデアというものを案出し,アリストテレスは実体の 上に思考というものがあるという。このへんを考えれば,思考・意識という ものが我々を存在ならしめているものだということになる。

 ところでこの本は,別にそんな小難しいことを語っているわけではない。 もっとシンプルな,それでいて人間の生(存在)というものに取り組んでい る。

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 この本はなかなかに面白く,また読みやすいこともあって一気に読むこと のできるSFである。(難解な単語が少ないところも嬉しい) そして過去 からの哲学的な問いに対する一つの解を与えている,といっては言い過ぎか もしれないが,一つのアプローチであることは確かである。 古代ギリシア の時代から云われているような,「はかない肉体と永遠の魂」,このことを 物理的(SF的)に検証している。

 主人公はあるカナダ人の医学博士。学生時代に臓器移植手術に立ち会った 際に脳死と判断されたある臓器提供者の身体が,臓器摘出手術の最中にピク ピクと動くのを目の当たりにしたことより,脳死が本当の死なのかどうかに 疑問を持ち始める。 やがて彼は,長い時を経た後に「スーパー脳波計」な るものを完成させた。 これを使えば脳が完全に活動を停止する瞬間を捉え ることができるという。

 さてこの「スーパー脳波計」を用いた初実験の際に驚異的な発見がなされ る。脳がその活動を完全停止した後,一つの電気フィールドが頭蓋を抜け出 していくというのである。 主人公はこの電気フィールドを「魂波」と名付 けた。

 いわゆる魂といえるものを捉えた限り,それを探求しようとするのは自然 の流れである。このため主人公は「死後の生」と「永遠の生」そしてリファ レンスとなるべき「普通の生」の3種類のシミュレーションをコンピュータ 内部に創り出し,「生」の探求を始める。

 一方,このような状況と平行して妻の不倫が設定されており,彼は悶々と その現実に苛まれる。そうこうしているうちに,妻の不倫相手と,さらに妻 の父親が殺害されてしまう。その犯人はどうもコンピュータ・シミュレーシ ョンに関係があるらしい。

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 「スーパー脳波計」を使って実験を行なっていくあたりはSF。殺人事件 が起こって,その犯人を突き止めていくためにシミュレーションと試行錯誤 の格闘を進めていくあたりはミステリー。謎解きものが含まれるSFは結構 多いが,そんなに頭を悩ませなくても読み進んでいくことができる。

 さて主人公の見つけた「魂波」,人の死んだ後に最後には一体何処へ行く のであろうか。エピローグは,やはり皆さんで読んで確かめていただくのが 一番である。(ちょっと安易なエピローグという気もするが・・・)

 ところで,この作者は主人公の妻に不倫をさせるのが好きなようである。 前作でも妻の不倫と主人公の精神的葛藤が強く語られている。まあ,そのよ うな設定が物語を進めていく上での必要条件にもなっているのだろうが,い つもいつも妻の不倫でなくても物語は進められると思ってしまう。さて,ど んなものだろうか?

 まあとにかくアイデアも面白いし,魂というものに正面から取り組んでい るし(?),難解なところもないので読みやすいし興味深い一品である。


 
邪馬台国の秘密 (高木彬光)

 この小説,「邪馬台国の秘密」はSFではない。そもそも作者の高木彬光氏は推理作家の範疇におかれて いる人物である。では何故このSFでない「邪馬台国の秘密」をここに挙げているかというと,それは ただ単に私が邪馬台国関係の話が好きだというためだけである。

 邪馬台国とは三世紀の古代日本に存在した日本で初めての大国であるらしいことと,その国を治めていた のが女王「卑弥呼」であって,当時の中国「魏」に使節を送ったり,答礼使を迎えたりしていたという。 なぜ,邪馬台国や卑弥呼や当時の外交のことが判るかというと,「魏志倭人伝」に書かれているからである。

 しかしながら,この邪馬台国の所在地がはっきりと判らない。「魏志倭人伝」には朝鮮半島から「邪馬台国」 までの道のりがそれなりに書かれているのだが,その叙述だけからでは所在地を特定することができず, その所在について,これまでに数多くの論文や著作が発行されている。その多くは「魏志倭人伝」の記述 の謎解きのようなものであって,高名な学者であれ,市井の研究者であれ,はたまた作家であれ,その アプローチの仕方は大きくは変わらない。だから,学者が書けばややこしい難解な文書になるし,作家 が書けば,物語風になって読みやすくなるのである。

 で,この「邪馬台国の秘密」ではその所在地は大分県の宇佐付近ということになっている。宇佐というのは 別段新しい説ではないらしいが宇佐に至るまでの道程が論理的・合理的に推理されていて,読んでいる 者は結構納得させられてしまうのである。ややこしくて,且つこじつけっぽい学者の説より,余程判りやすい かなと思ってしまう。

 ところで,邪馬台国の所在地については,大きく分けると「畿内説」と「九州説」があって,いっとき 九州説がかなり優勢になっていたが,ここ最近は畿内説も盛り返しており,近畿地方に住む私としては 是非とも畿内にあってほしいと思うのだが,さてどうなるだろうか?
 少し前には島根県で銅鐸がまとめて発掘されるなど,新しい発見もあって,日本の古代史はこれから もっともっと面白くなっていきそうである。


 
宇宙船ビーグル号 (A・E・ヴァン・ヴォクト)

 おもしろい! 読んでいて楽しい!

 もう50年も前に書かれたもので,科学的考証などもあまりないけれども読んでいて本当に退屈しない。 スケールも壮大で突拍子もないアイデアも散りばめられている。

 ビーグル号・・・最初に聞いたような名前だなと思うが,ダーウィンの航海記に出てくる測量船にあやかっているらしい。 スペース・ビーグル号は千人乗りの男ばかりの巨大な宇宙船。乗組員はほとんどが科学者で一握りの軍人たちも乗り込んでいる。 最近のSFだと必ずといっていいほど女性の乗組員が乗船しており (というか女性が結構多い), 男ばかりというのが何とも昔ふうである。

 スペース・ビーグル号は反加速という超光速ドライブを使って星雲間を調査飛行しているのだが, この宇宙船に次から次へと想像もつかないような異星人が襲いかかってくる。 「クァール」,「リイム」,「イクストル」,「アナビス」と4種の異星人 (怪物) が舞台に登場ししてくるが, この中で具体的な実体を持っているのは「クァール」と「イクストル」の2異星人。

 物語の最初は,クァールの心理描写から始まる。 異星の怪物の視点から描かれているためか,いかにして宇宙船を乗っ取ってやろうかという異星人の心がよく表されており, 読んでいて,「頑張れ!もうちょっとで宇宙船を乗っ取れるぞ」と感情移入してしまう。

 さてこの物語の主人公は「エリオット・グローヴナー」という科学者で,情報総合学(ネクシャリズム)の専門家である。 情報総合学というのは,これまでの科学の全てを包含したような学問で,主人公グローヴナーは一種の 頭脳的スーパーマンである。
 物語に登場してくる4種の異星人(異星の怪物)は,それぞれが知恵を働かせ宇宙船の乗っ取りを企むが, 全てこの驚異的な頭脳の持ち主グローヴナーに撃退されてしまう。

 親しみのもてる「クァール」,化け物のような「イクストル」。この2者が圧巻である。 それぞれが滅び行く異星人の末裔で,なんとか生き延びようと悪戦苦闘しているところが, 哀しさを感じさせる。

 こ難しいSFを読んでいる合間に,こういうのを読むとなんとなく「ホッ」とする。


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