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「私は過去との清算に行ってくるよ」
「ああ」
「きっと…」
「何だ?」
「いや、帰ったときに話すよ」
きっと、君にももうすぐ訪れるのだろうね
そう言うことはできなかったけれど、彼がつけないといけないけじめは私のものよりも重い
誰が見ても明白な事実
だけど、私たちはお互いにこれからの未来を選ばないとならない
もう先には伸ばせないところまでそれは来ていて、実際にはもう手遅れなのかもしれない
それでも自分で選ぶことができたのは幸運なのかもしれない
伸ばすだけ伸ばしていたそれはどの時機に線引きすればよかったのかなんてことも、もはやわからない
随分と長く生きていたつもりだったけれど、結局あのときから何一つ上手に立ち回れない自分がいることに気がついた
初恋の人を忘れるためにわざと離れて、忘れられなくて
他の人のぬくもりで埋めようともして、それも上手くはいかなくて
似た境遇と思っていた佳人は行き場のない気持ちすら幸せと言えて
私はただないものねだりをする子供のようで
羨みながらも持て余す気持ちを整理することもできなかった
そんなときに久方ぶりに出会った同期の少年は何も変わらない姿を見た
その姿を見たとき足元が固まった気がした
ちゃんと歩けそうな気がした
何かが変わるかもしれないと思ったのは軽い思いつきだった
じゃあ、どうすれば良かったのかなんて本当のところ答えなんてないような気がした
ただ言えるのは、大切なものが多すぎて両手で抱えても、
それは零れ落ちるほどになっているということだろうか
いつの間にこんなに増えていたのだろう
きっと、花菖蒲を受けた時、歯車が回った瞬間から、加速して増えたのだろう
「ねえ、私がいなくなれば少しは寂しいかい」
「当たり前だろう」
「ならさ、私のことは好き?」
「…」
「それを聞くのは反則だよね。ごめんね、忘れて」
「…お前は、いいのか?」
「何が?」
言いたいことはわかったけど、あえて言わなかった
その口から聞きたい言葉があったけど、きっと今はお互いの枷になるから聞かないのが賢明だろう。
どの言葉を選んでも私たちの枷にしかならないのだから
絳攸も何も言わない
私も(冗談じゃなければ)何も言えない
―― 交差する視線
言葉を交わさなければ何一つ本当のことはわからないのに、見つめあっただけで全てがわかるような気がした
どれほど時が経ったのかわからなかった
慌ただしい宮城の一室なのに、そこだけが切り取られたように静かだった
このまま時が止まるのじゃないかと思うほど、お互いに見つめあったまま
視線は絡みがならも少しも動けずにいた
明るかった陽が赤く色を変えたとき、どれほどの時間が経ったのかを知った
赤く染まる絳攸の顔を見ていて、時間は来たのだと思った
「じゃあこんな時間だし、君も吏部の仕事があるだろう。帰り道がてら送っていくよ」
絳攸はいつもなら怒るところなのに、動かずにいた
改めてその顔を覗き込むと色々な音が不協和音に重なった時のように不快に顔を歪めていた
やがて軽くため息をつくと、諦めたような表情になり辛うじて聞き取れる声で呟いた
「お前が戻る頃には俺もきっと選ぶのだろうな」
それに対する返答はできなかった
その返答の代わりに人目がつかないところまで彼の手を引いて歩いた
手を離すとき、もう一度この手に触れることができるようにと心から願った
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