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跡部の気まぐれで呼び出された宍戸はいつものように通された跡部の部屋で
西洋の豪華なデザインに似つかわしくない物を目の前に置いてあった。
「おしるこ?」
跡部が好きだという話も聞いたことがない宍戸は思わず確認の意味を込めて呟く。
「そうだ、食え」
跡部はそんな宍戸の真意を無視していつもと変わらない尊大な態度で頷いて食べろという始末。
「…理由は何だ?」
「あー?いいから食えよ」
「は?」
おかしな奴だなと思いつつ、
差し出されたおしるこを宍戸は訝しげに眺めた。
きっと跡部のことだから何か意図はあるのだろう。
跡部の考えることが何なのかさっぱり見当が付かない。
跡部が口を開くこともなさそうなこともわかる宍戸は、
平行線になりそうな状態に内心ため息をこぼした。
ここで、宍戸が朝の遅い登校になった日に話は遡る。
事の始まりは、正月明けの冬休みの部室での出来事だった。
跡部の家から何故か縁起物ということでおかざりと鏡餅が用意され、
それを飾って年越しをした。
それらはもちろん松の内は飾られていたのもあったから、
部員は改めてそれを見ていた。
「鏡餅おっきEー!」
「さすがだな、跡部の家のはでかいな」
その鏡餅は大きさは店のよりも大きく、なかなかお目にかかれないサイズだった。
岳人とジローはきゃいきゃい言いながらそれを見て自分の顔と大きさを比べていた。
それを見ていた忍足が何かを思い出したようにおもむろに話し出す。
「せや、知ってるか?お汁粉の話」
「えー、どんなの?」
「それがな、お餅は切っても切れないから
恋人同士でお汁粉を食べさせあうと縁が切れないって話や。アズキも縁起物やしな」
「えー!すごいレトロ。いつの時代の話?」
「っていうか、そこにロマンがあるやん」
「…そうか?」
「わからんか?」
首を傾げる跡部をにやにやとした笑みで忍足は問いかけた。
そんな忍足の意図を知ってか知らずか跡部は投げやりに返答した。
「お前の趣味が悪いだけだろ」
「跡部は結構、そういうの好きかと思ってんけどな」
「勝手に言ってろ」
跡部は取り合うつもりもないらしく、振り向いて何か事務作業を始めた。
忍足はそんな跡部を見て軽く肩をすくめる。
「侑士にしかわからないロマンじゃね?」
「あはは、むしろ粘着質な愛だよね」
「言えてるな」
「だよね」
そんな二人のやり取りを見ていたジローと岳人は横槍を入れはじめた。
おもちが切っても切れない縁を粘着質と言う夢のない二人の台詞に、
忍足は無駄と知りつつため息を付いた。
「自分らなぁ…」
そんなやりとりがあったことを宍戸は知らなかった。
だから、横柄におしるこを進める跡部が不気味でならなかった。
何かあることはわかるけれどそれが何かちっともわからないことが宍戸の箸を止めた。
「いい加減にさっさと食べねぇか。冷めるだろ」
一向に箸の進まない宍戸に跡部は微かに苛立ちを覚えた声で促す。
(このまま抵抗すれば何をしでかすかわからない)
「わかったよ、食べればいいんだろ」
跡部の機嫌を損ねる方が怖い宍戸が思いきって箸を進めた。
味はおかしくもなく、普通のお汁粉だった。ただ、全体に量が多かった。
「何だよ、この量」
「普通じゃねえのか?」
「ならお前が食べろ」
「そうか」
「ちょ、ちょっと待て!」
「食べろって言ったじゃねえか」
「自分の箸持って来いよ」
「いいじゃねぇか」
跡部は宍戸から奪った箸を取り、そのままおしるこをすすった。
口に入れたときの跡部は顔を歪ませたが、箸を休めずに食べていた。
そんな跡部の姿がますますおかしいと思った宍戸はどうしたものかとその場は従った。
後日、宍戸は偶然一人部室に居た忍足に疑問をぶつけることにした。
なんだかんだといっても跡部の奇行を分析することに長けた一人だったことは認めるところだった。
「跡部がお汁粉を無理矢理食わせるのって理由知ってるか?」
「ぶっ!」
「何だ?」
「跡部の奴、結局気に入ってるんやんか」
「俺にもわかるように話せよ」
「なんていうかな。跡部も案外ロマンチストって事や」
「は?おしるこ食べて何がロマンチストなんだよ」
「付き合ってるんやから、それも大事なことなんやって」
宍戸の問いかけに忍足は答える気もなく、はぐらかして自分の世界に入って頷いていた。
宍戸はそんな姿を見て諦めるしかなさそうだと思っていた。
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