逃げる場所


俺はいつからか逃げ場を失っていた。

多分、テニスをすることに期待をかけられるようになってから

ゆっくりと逃げ場を失っていたのだろう


亜久津がココを去るときに残したモノ

逃げ場を失っていた俺にはそれが逃げる場所になった

でも、その逃げ場所も今日でお別れ

これで俺は逃げ場所を失うのだと

実感していく

この瞬間が永遠に続けばいいのにと思える

いつからこんなに弱くなっていたのだろう


「おい、千石…」

「あれー?南どうしたの」

すっかり、校舎裏の片隅は人が来なくて先生も見回りに来ないので

俺の逃げ場所となっていた。

まさか、今日でお別れと思っていたときに南に見つかるなんてね。

「”あれー”じゃないだろ!!

いくら人が来ないからって校舎裏でタバコなんて吸うな!」

「だって見つからないと思ってるから」

「どこからそんな自信が来るんだよ」

「俺ってラッキーだからね」

南がここに来ることのが意外だけどね。

まあゴミ焼却場の角を曲がった所なんて人は来そうで来ないだけだっただけか。

「…お前」

「ホントに今日、南に見つかったのが初めてだったんだけどね」

「見つかる見つからないだけの問題じゃないだろ?

中学生の体には良くないだろ?テニスにだって良くないし」

「南らしー」

「笑わずに止める!」

「ハイハイ」

南の言うことは常に正しい。当たり前のコト。

先生が言うことと同じ”正しい”ことを言う。

さすがは部長さん、優等生な発言だと感心してしまう。

「お前テニス上手いのにそんなので落ちるのってもったいないだろ」

「南のそういうトコ俺好きだな」

綺麗事ばかりいう当たり前の真面目な優等生の言葉。

お堅いし、融通も利かない。そんなことを言う南は好きなのだ。

なぜか綺麗事をいう先生の言葉よりも受け入れられる。


「茶化すな。」

「ホント、南みたいに綺麗なことを言う人は側にいてくれないとね」

南は俺の言うことに”?”という表情を向けてくる。

うーん、曖昧すぎて伝わらないモノなのかな?

「これは亜久津が残してくれた俺の逃げ場なんだよ。

俺だってこんなモノで逃げられるか?って思ったんだけどね。

試してみるとね、逃げ場所になってくれたんだ」

「…中学生がタバコなんて体に良くないぞ。もっと他に趣味とかあるだろ?」

「んー、折角もらったし試すのも悪くないと思っただけだよ。

タバコはこれで終わり。これに逃げるのも今日で終わり」

笑いながら最後のタバコを火を消す。別れ難い気もするけどまあ仕方ないね。

南は俺がタバコを消すのを確認しながら何か考えてるみたいだ。

「お前が笑ってるよりもお前の心の許容量はいっぱいなんじゃないのか?」

「そうかな?」
こういう普段鈍いのに変なところで勘がいいところがイイよなー。

こういうところは自分では気がついてないんだろうけど

言われる方としては驚かされる。不思議と南だからか気は悪くなかった。

「悩みとかあったら聞いてやるぞ」

「…あはは」

「お前、人が真剣に話してるのに」

笑ってごまかそうと思ったけど、南の本気の表情を見てると

ついつい普段は言わないことも話そうと思ってしまう。

これって南のすごいところだよな。

正直に話しても全ては無理でも受け入れてくれようとする。

そういうところが好きなんだよ。

「さすがにねー、ラッキーだけじゃ試合には勝てないなと実感したのですよ。」

「お前はすごく頑張ってるよ。ラッキーだけでそんなに上手くはならないよ」

「でも、負けてばかりじゃ意味はないでしょ?

もっともっと跡部クンや手塚クンのようにがんばらないと

上は果てしないんだよね。熱血クンな努力は嫌いだけど、

負けてばかりはもっと格好悪いからね」

「そうだな。」

「そうでしょ?中学最後の思い出は美しく終わりたいしね」

「有終の美を飾るのか」

「そ、綺麗な思い出で終わればまた価値観も変わるはずだろうからね」

「そうだな」

「それしか中学三年間やってないんだからヤルしかないでしょう」

南が俺を起こそうと手を伸ばした。

俺はその手を取る。

南に軽く抱きついた。

他意はなく何となく触れたくなった。


「千石?」



「悪い悪い、よろめいちゃったよ」

すぐに南から離れて俺たちは部室に向かった

またこれからひたすら逃げ場所を欲しいとすらも考えさせない

頑張るだけの日々が戻るのかと実感した

同時に逃げる場所が今日で終わりになるのか

少し寂しい気がした

まあ真面目な南にはこんなこと言えないけどね。


なんとなく、山吹はタバコやってそうと言うことで(亜久津が要因?)
思いつくままタバコネタを少々。実際タバコ吸う人の気持ちとかは
私は吸わないので知らないです。
他校とかでもいい気もしたけどタバコが一番逃げ場所で似合うのは
私の中で千石だったのです。氷帝はなんだかんだといっても
イイ子な所は拭えません。私立イメージだからか?