洛楽写真日記 (040326〜27実施)
第20回:谷崎潤一郎「吉野葛」
 現代の谷崎研究の第一人者、立命館大学の明里千章先生のご担当で標記
「吉野葛」の世界を一泊して歩くという趣向である。

@櫻花壇

A古い町並み

B明里先生

C講義を受ける
 昭和5年12月、44歳の谷崎はここ櫻花壇@に籠もって数年来暖めてきた「吉野葛」
を完成させたのである。<終生のテーマである母性思慕の情感が、吉野の風物や
伝説と溶けあい、清冽な抒情性をたたえた名作「吉野葛」は谷崎「第二の出発点」
となったもので、谷崎中期の傑作である>(岩波文庫版カバーより)
 Aは多分当時と変わっていない町並み、Bは谷崎執筆の間の明里先生、Cは講義
風景。

D蔵王堂

E蔵王堂内陣

F吉水神社

G後醍醐天皇玉座

H如意輪寺
I後醍醐天皇陵
 初日は少し早めに到着したので付近を見て回った。
DE:金峰山寺の本堂(国宝)。634年生まれの役行者がこの地で蔵王権現を感得し、
   桜の木でお像を刻んで祀ったという。これにちなんで桜の木を保護し、また献木
   されたりして今日の桜の名所になったのである。現在の大伽藍は安土桃山時代
   のもので東大寺大仏殿に次ぐ大木造建築なのだ。
FG:金峰山寺とほぼ同時期に出来た吉野修験宗の僧坊であったが一時期南朝の
   元宮であり、また日本住宅建築史上最古のものといわれる初期書院造の代表作。 
HI:延喜年間(901〜923)の間に創建されていたが、後醍醐天皇の吉野滞在が始
   まって勅願所となり、崩御後、裏山に作られた御陵の守護に専念している。
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吉野川が大きく湾曲している所に和紙の里「窪垣内」がある。大和上市から
約13kmの道のりを小説の主人公たちは人力車に揺られてここまで上って来た。

J福西家

K講義を受ける

L実演中

M菜摘の大谷家
J:ここ窪垣内で一軒だけ残っている紙漉きの家である。原料のこうぞも干されて
  いる。谷崎や小説の主人公たちもこの風景を目にしたに違いない?
KL:ご当主からご説明があり、実演もしていただいた。
M:かの「初音の鼓」を保管している旧家である。飛込みだったので拝見できず。
  勿論、「ずくし」も味わえなかった。
ここが宮瀧。神武天皇が大和を征服する前に立ち寄って霊力を得たとか、
天武天皇が壬申の乱の前に身を潜めていたとか、持統天皇が何度も行幸
されたとか、義経が静と別れてこのあたりから峰の白雪を踏み分けて行った
とか。
左が妹山、右が背山(岩波文庫より転載)。哀しくも美しい「妹背山女庭訓」の
舞台である。
 狭い地域にこれだけの材料が蓄積されているので、谷崎がお得意の虚実
ない交ぜの小説をと考えたのも無理はないものと思う。結局は主人公の母を
慕う心と子狐が母狐を慕う話とを軸にした「吉野葛」で結実したのである。
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