８月の楽しみ
気ままに読書・のんびり読書
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この本読んだ！
８月の楽しみ
8/29『呪われた首環の物語』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、佐竹美保絵、野口絵美訳、徳間書店、2004.07.31、352p
「同じ湿原に暮らす〈人間〉と〈巨人〉、水に棲む〈ドリグ〉。怖れ、憎しみ合っていた三つの種族の運命が、ひとつの呪われた首環をめぐって一つにあざなわれ、〈人間〉の跡継ぎのゲイアは、〈巨人〉の少年ジェラルドと友だちになるが……」との紹介に興味がわく。
魔法と、言葉と科学と、同じ事柄でも見方と使い方によって呼び方が違い、怖れられかたも、物事を自分たちの視点からのみ判断することの愚かさも知っているつもりで読み進んでいたに違いない。いつの間にか、主人公のゲイアたちを人間だと思いこみ、〈人間〉であろうとさえも思わなかった。〈巨人〉が「ユリ・ゲラー」と話したとき、火も使わずに四角い箱が料理をつくる描写で、ゲイア＝人間＝〈人間〉だと思いこんでいた自分に気づく。このときの驚きというか、安堵感というか、「読み進めてよかった」と思わせる。〈巨人〉が我々人間であるとわかった時のおどろき、「さすが、ジョーンズ」と嬉しくなる。
いがみ合っている状態を、「話し合い」で解決しようとゲイアは腐心する。その様子に「魔法」を使わないでもファンタジーは面白いと頷ける。佐竹美保のイラストも、物語の舞台〈湿原〉のイメージを見事に伝えてくれる。
8/23『ダレン・シャン�将機＾任猟覯Α�Darren Shan、橋本恵訳、小学館、2004.09.10、278p
ハーキャットの正体を突き止める前巻から、バンパニーズ大王との闘いに話が戻ってきての展開となる。
ダレンが「純化」の時を迎え、それに合わせたかのように大きく物語が動く。正体不明で何者かわからなかったシルク・ド・フリークの団長ミスター・トールの正体がわかるし、ダレンの生まれ故郷へ戻ってきて、妹に男の子が生まれているし、バンパニーズ大王のスティーブに息子が登場するし……それに、「闇の帝王」がどっちにしろ世界を征服するという予言がなされる。
今までの謎が解けていく巻で、最後に残ったのが、「闇の帝王」になるのは果たしてダレンかスティーブか、の謎だ。ここで読者の想像力がかき立てられる。その面白さを満喫するためには、他の謎を解明しておく必要があったのだろう。
当初は20巻ほどの予定だったのが、次作で終わりになるという。
8/20〜22『女騎士アランナ�検‥狙發諒�石』タモラ・ピアス、本間裕子訳、奥田みき、PHP研究所、2004.08.11、494p
シリーズの完結編。「いよいよクライマックス」と帯のことばにあったが、伝説の宝石をトートル王国へ持ち帰ること、王国が平穏になることという山場と、アランナの自己実現とがかみ合っているようでかみ合わない気がする。
最後に、すべての闘いに決着をつけたアランナがしたことが、ジョージへの結婚の承諾であった。それは一つの決着だとは思うが、結婚・出産が最終的に幸せをもたらす……と結んだようで、今ひとつアランナの魅力としては納得できない。
8/21『ジャッキー、巨人を退治する！』チャールズ・デ・リント、森下弓子訳、佐竹美保絵、創元社、1995.12.22、324p（創元推理文庫）
昔話の「ジャックの巨人殺し」がもとにある。昔話では、ジャックは固有名詞ではなく、繰り返し物語の歴史上に存在する代名詞だという。今回のジャックは、なんと、「引っ込み思案で変化がない、おもしろくない」とボーイフレンドが言いはなった、ジャッキーことジャックリーン。つまり、女性だ。その発想もとても興味深かったし、舞台が「今」なのもおもしろい。「今」に重なって存在する「今の妖精郷」で巨人の率いる悪の集団に善の代行者としてジャックが王女救出にかり出される。しあｋし、妖精郷は古びた存在ではなく、今のテクノロジーをも共有する。鉄に弱かった者どもも歴史の流れの中で、耐性をもちひるまなくなったし、ハーレーをも乗りこなす。「鉄に弱いはずなのに？」とのジャッキーの問いに「シェイクスピアの頃は鉄も普及してなかっただろう」と答える妖精族に妙に感心したりもする。
一行は最終的に五人となる。リーダーはジャック。そして、親友のケイトも大活躍する。妖精族の王子が「国のためというより、ジャッキーのため……」と語るが、まさしく、この話は国を救う物語でありながら、友情や信頼の物語でもある。勿論義務もあるが、それに勝る「生きることを大切にする思い」に支えられた登場人物たちの行動に引き込まれた。
8/18『パーラ 下 古城の秘密』ラルフ・イーザウ、酒寄進一訳、佐竹美保絵、あすなろ書房、2004.07.20、237p
8/17『パーラ 上 沈黙の町』ラルフ・イーザウ、酒寄進一訳、佐竹美保絵、あすなろ書房、2004.07.20、281p
上巻で物語り世界をパズルを当てはめるように組み立て、下巻でそれをスリルいっぱいに崩していく。そんな面白さのある上下の関係が読み進めるのを後押ししてくれる。
パーラは主人公の少女の名。言葉を創り出すことのできる力を持ち、果敢に挑んでいく。しかし、哀れみや後悔といった心の揺れも持ち合わせている。「自分探し」の冒険がクライマックスを迎えるとき、古城にまつわる不思議ないきものの行く末までぴたっと収まるべきところに収まる安堵感がある。この、パーラの姿にエールを送る面白さにくわえて、もう一つの作者からのメッセージが聞こえてくるようだ。
「ことば」をなくすことは、なにも奪い取られるときだけでなく、その価値に気づかずに差し出してしまうことがある。この指摘（詩の王ジット＝シレンチアの町を沈黙で覆い尽くそうと企む老人のもの）は、「ことば」の大切さをどこかに忘れかけている人類への警告に違いない。
後書きで酒寄進一が、『暁の円卓』との関連を取り上げている。心の中に猜疑心を植え付ける闇の円環を20世紀の陰とし、沈黙を呼び寄せるジットに打ち勝つパーラを21世紀への光としていた。
一冊の物語に秘められた、もう一つの物語が読み取れるかと、問いかけられているようだ。
8/15『時の町の伝説』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、佐竹美保絵、田中薫子訳、徳間書店、2004.06.30、424p
人類の地球上における歴史には、果たして果てがあるのだろうか？そんな疑問を持ったことはないだろうか？
時間は永遠に流れる物だとは理解しているが、それが人類にとっての時間で、一直線に続いているものだと、考えることもなく信じている読者には、「おお〜っ！」という感動を伴う物語世界が展開する。今の時間に平行して、もう一つの時間を取り上げる物語ではなく、時間が直線ではなく馬蹄形に展開し、その隙間の空間に存在したのを、切り離したのが「時の町」。時の町は、金・銀・鉄の三つの力を歴史に分散し均衡を保っているという。その鉄を手に入れ、銀を盗み取り、世界を掌握しようとするたくらみに対するのが、20世紀の大戦の疎開騒動の時間からさらわれた少女ヴィヴィアン。
ものごとの最初を探り当てることで、今の問題を解決するストーリー展開、ヴィヴィアンのくじけない考え方、そして、あっと驚かされる最後の人物設定のどんでん返し……こういうタイムトラベラーもあるのだと引き込まれて読み通せる。
最後に少し疑問、人類が宇宙に去った後、馬蹄形の歴史はどう進むのだろう？
8/13『ミミズのふしぎ』皆越ようせい写真・文、ポプラ社、2004.06、35p
表紙の写真に、ミミズの顔、しかも小枝をくわえた唇の迫力満点アップ。
土の上に見かけるころころの団子は、ミミズのうんち。そんな場所は、栄養がたっぷりで植物にはいい環境だとは知っていても、ミミズの顔など普段意識はしない。まして、食事の様子など想像も及ばない。食事から、うんち、そして、いろんなミミズの種類、卵……初めは、おそるおそるページをめくっていた手が、「次は何だろう」とミミズの世界に引き込まれていく。気に留めなかったことが、拡大され、わかりやすく配列された写真で興味の対象にかわっていく。そんな楽しさにあふれている。
皆越ようせいの土壌動物によせる思いが、「みんなつちといっしょにいきてるよ。」のフレーズから読み手にじわ〜っと広がってくる。
8/12『ダーウィンのミミズの研究』新妻昭夫、杉田比呂美絵、福音館書店、1996.06.01、40p
あの進化論のダーウィンがミミズの研究を４０年近くもかけてやり通したなんて知らなかった。その内容を読むと、ミミズの自然な生態系内での能力をありのまま記録することを大切にしていた。だから、時間を縮めることなく、ミミズが土を作るスピード、10年間で７.５�僂鮓‐擇垢觴存海鬚垢襪砲蓮�10年の数倍はかかることになる。言われてみればそうだが、昨今時間を縮めての実験をテレビの早送りで見慣れているせいか、妙に新鮮だ。
自然を相手に物事を考えるには、これくらいのゆっくりとした準備期間が必要だということになるのだろう。
8/11『ロビン・フッド物語』ローズマリー・サトクリフ、山本史郎訳、原書房、2004.08、349p
「12,3世紀のイギリス。獅子心王リチャードの時代。統率力と義侠心、決断力、機知に優れ、仲間を最後まで見捨てない頼りがいのある男。いたずら好きで、負けず嫌いで、お人好しだがみんなに愛されるロビン・フッドの血湧き肉躍る物語。」とジャケットの見返しに紹介文がある。「ロビン・フッド」という名前はポピュラーで、弓の名手で頭の上に載せたリンゴを射抜いたというエピソードが記憶になる。しかし、その生涯を綴り終えている物語の記憶がない。ロビンの最後がロジャ卿と従姉妹のはかりごとで、ベッドの上で血を抜き取られるとは思いもよらなかった。
また、リトル・ジョンとの出会いや、タック修道士との絆、マリアンとの恋……それぞれの話が丁寧に描かれていて、記憶の中にあるロビン・フッドと照らしながら楽しく読める。
サトクリフの作品は、手に取るまでは早いが、読み通すのに時間がかかる。そんな印象だったが、これはロビンの冒険にまきこまれて一気に読めた。
8/7『スパイダーウィック家の謎２ 魔法の石をさがせ』ホリー・ブラック、トニー・ディテルリッジ絵、飯野眞由美訳、2004.07、143p
謎が少しずつ解けていく展開で最後までフルスピードで駆け通している感じの２巻目。いよいよ妖精のすがたをとらえることのできる、魔法の石が今回の目玉グッズ。それと同じように、つばを目に塗ってもらうと姿を見ることができる妖精も登場してくる。
登場人物が少しずつ増え、３作目の絡まり合いが期待できる。
8/5『スパイダーウィック家の謎 人間、見るべからず』ホリー・ブラック、トニー・ディテルリッジ絵、飯野眞由美訳、2004.07、141p
物語の始まりは、１件の古びた屋敷に引っ越してきたこと。なんと、その屋敷には妖精が住み着いている。その妖精の秘密をすべて書きとめた本が、秘密の場所に隠されている。その本を手に入れるのが、ふたごのジャレット。そして、サイモンと姉のマロリー。
妖精の本を見つけて……てという物語りながら、３人の兄弟が個性的で、ハラハラさせられるのがいい。出てくる妖精も描写が細かく、イラストも既存のイメージとは違っているようで面白い。
141ページで、あっという間に１巻が終わり、話の枠組みがわかった程度。300ページほどならまとめてもらっても、話の展開を一時に味わえていいと思うのだが、細切れにシリーズ化するのは出版の都合だろうか。カードが付き５巻そろえると特性アイテムがもらえるなど、ちょっと遊びが多すぎる気もする。
8/4『いたずらロバート』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、エンマ・Ｃ・クラーク絵、槙朝子訳、ブッキング、2003.11.01、142P
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの1989年に出版された物語の復刊。
３５０年前の眠りから、ひょんな事で目覚めてしまう設定は、ちょっと期待はずれ。ジョーンズの複雑な構成になじんでいる読書としては、話のスムーズな進み方に物足りなさを覚える。
８／１・２『女王陛下のスパイ！アレックス スコルピア』アンソニー・ホロヴィッツ、荒木飛呂彦イラスト、森嶋マリ訳、集英社、2004.07.31、303p
あの14才の少年スパイアレックスが、本物の銃を手にし、暗殺に向かう。
年齢から今までは、本物の武器を持たせてもらえなかった、アレックスの身に一体なにが起こったのか。自分の出生の秘密を知りたいと思うのは誰しも同じ。アレックスは、前作の最後で「スコルピア」というキーワードを聞かされる。その言葉からなにがわかるのかを探りに、舞台はイタリアへ。すんなりと謎が解けるはずもなく、父親がスコルピアという組織の腕利きの殺し屋だったことを知り、殺された原因を聞かされ、復讐をするのかと自問自答する。スコルピアは大人の組織、それに比してアレックスは14才。対等なはずがないのにいつの間にか、アレックス同様読者も同じ立場で次にすべき事を選択させられている。
そして、父親を殺したMI６への復讐となるのだが、実は事実はそれほど単純ではなかった。まさに、大人の世界の複雑なスパイ合戦がそこには存在していたのだ。真実のすべてを知り、両親の自分への愛情を知ることは、銃を撃ったアレックスにとっては、どれほどの苦悩だったことだろう。しかし、14才、少年スパイとして陰を背負い始めたアレックスが、今回自分の足で正義の道としてスパイになることを受け入れたように思える。
これでよかったと思いながら、最終章。最後にはスナイパーに襲われたアレックスが道路に横たわる。やはり、アレックスはもはや少年スパイではないのだろう。次作があるというが、読みたいと思いつつ、これ以上大人の社会の枠に組み込まれなくてもいいのでは、この終わり方でよしとしよう、とも。