1２月の楽しみ気ままに読書・のんびり読書
―好きな本から話題の本までアプローチ
この本読んだ！ 1２月の楽しみ
12/28『セヌとレッドのピラミッド』キャサリン・ロバーツ、米山裕子訳、岡部タカノブ絵、集英社、2003.08.10
世界七不思議シリーズの二作目。前回の舞台はバビロン。今回はピラミッド。しかも、三大ピラミッドを築いたカフラー王が登場する。
主人公の少年はまだ、カーテイルを編んでいる。友だちはとっくにカーテイルを着る儀式をし、自分自身の分身であるカーと現実の世界で決別している。会えるのは夢の中。
セヌが自分のカーであるレッドと、ミラミッドを巡る陰謀と冒険の中に飛び込んでいく。そして冒険を終えたとき、セヌはカーテイルを切るのだろうか。そう思ったとき、儀式が始まり、まさに切られようとするときに最後の事件が起こる。セヌの選択にとても納得した。
歴史事実に基づいているとはいえ、セヌトレッドのやりとりや、情景が浮かんでくる描写は、ピラミッドに興味がある読者もそうでない読者も話の展開を楽しめるだろう。
次回の舞台はどこか楽しみだ。
12/27『バーティミアス サマルカンドの秘宝』ジョナサン・ストラウド、金原瑞人/松山美保訳、理論社、2003.12、614p
「あ〜、おもしろかった」が614p読後の感想。特にバーティミアスが最高に魅力的だ。かれはジン（階級で言うとアフリートに次ぐ二番目の階級の妖魔）族の悪魔。年は5010才。今まで歴史上の大きな転機に関わってきたという。その彼が、なんと、見習い魔術師のナサニエルに召還されてしまう。ナサニエルは見習いではあるが、師匠の書棚から次々と本を持ち出して、魔術の高度な技を覚えてきた。でも、見た目はひょろひょろでかっこよくはない。
このペアがしたことは、自分に意地悪だった魔術師に仕返しすること。しかも、相手は腕利きの魔術師。くわえて、国家権力を手に入れて国を牛耳ろうと企んでいる。召還できる妖魔もものすごい。バーティミアスはナサニエルの問題に答えねばならず、サマルカンドの秘宝を盗み出すが、そこからが大変。捕まったり、脅されたり……そのたびに、バーティミアスは「こんなところでくたばるこんか」と機転を利かせて脱出する。その時々に独り言がおもしろい。
ナサニエル自身も幼さが残っているのだが、したたかで知恵を巡らせて解決する。
シリーズですっぱんされるとのこと、次回も元気いっぱいでちょっと皮肉屋のバーティミアスに出会えるのが楽しみだ。
12/26『裔を継ぐ者』たつみや章、東逸子絵、講談社、2003.11.30、318p
『月神の統べる森で』『月冠の巫王』『地の掟つきのまなざし』『天地のはざま』四部作の外伝。
今回の主人公はポイシュマの末裔、サザレヒコ。カムイの声も届きにくくなった五〇〇年後という設定だ。彼は幼い頃に大病を患い、そのご家族から大切にされすぎて育ってきた。弓も持たせてもらわず、狩りにもいけず。ただ、口は達者で、何でも言いくるめられるという自信があった。サザレヒコは親から巫女の跡を継ぐよう期待されるが、意に添わず禁断の地で狩りをしてしまう。しかも白蛇（実は悪しき者と同化したシクイルケ）を。村を追放されたサザレヒコの旅路が描かれるが、四部作で味わった世界の躍動感はない。
それが外伝の軽さなのだろうか。ポイシュマやシクイルケ、ワカヒコといった四部作で活躍した者たちの外伝を読みたかった。ただ、時代を下っての外伝であるため、もう一度あの重厚な、神との交わりのある世界に戻りたいという願望が刺激されるのだろうか。
引き続き東逸子のイラストが素晴らしい。表紙を眺めていると、物語の世界へ引き込まれそうな感覚を覚える。
12/23『女王陛下のスパイ！アレックス イーグルストライク』アンソニー・ホロヴィッツ、荒木飛呂彦イラスト、森嶋マリ訳、集英社、2003.11.30、295p
「女王陛下の少年スパイアレックス」シリーズの４作目。この４作目は今までの３作と持ち味が異なる。
それは、アレックスが自分の進むべき道を自分で選び取ったことと、自分の存在の意味を問い始めること、「孤独」の影を身にまとうことだ。
前作までは、確かに危険な任務であったし、下手をするとアレックスは命を落とすことも考えられた。しかし、M6という国家権力に支えられた組織の恩恵を受けていた。だから、「いやだいやだ」と口にはするが、アレックス自身楽しんでいる風が感じられた。ところが、今回は事情が大きく違う。アレックスは、休暇先でガールフレンドのサビーナに関わる事件に首をつっこんでいく。まさしく、自分からその渦中に呼び込むのである。しかも、M6の保護なしに。ということは、手にする武器を持たずにということである。アレックスが子どもだましの物でなく、本物を要求しても与えられなかった。それは14才という年齢を考慮してとのことであったが、今回はその考慮もない。敵はただアレックスを殺すために挑んでくるのである。そんな状況の中で、アレックスが選んだのは、今までの経験から培った能力を最大限に発揮し、保護を期待することなくクレイを倒すことだった。つまり、アレックスの進むべき道がはっきりと示されるのである。やめるやめない以上に天命とでも言おうか。
「孤独」はスパイとしての独り立ちを感じさせる。サビーナとの別れはまさしく、孤独の影を背負うための必然であろう。確かに、普通の少年がスパイとして活躍するということも考えられるが、親や兄弟、恋人に内緒で世界へ飛び出していけるであろうか。孤独であるからこそ、発揮できる能力がこれからのアレックスには必要だろう。しかも、今回彼の父親が浮かび上がる。「殺しや」として。この驚愕の事実をこれからどう受け止めていくのだろうか。
読みながら最後のあたりで、前に観た「ロード・ツゥ・パーティション」という映画を思い出した。父親が殺し屋であることを知った少年。父親を殺された彼が、その先どういきていくのか。観客に余韻を残した。シリーズとして、次作が楽しみな面もあるが、ここから先は、読者ひとり一人の想像に任せるというのもいいかもしれない。
12/21『七人の魔法使い』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、野口絵美訳、佐竹美保絵、徳間書店、2003.12.31、344p
発想、展開、結末とどれをとっても独創的で愉快。
最初に作者の覚え書きとして十の命題があげてある。それぞれがジョーンズの他の作品に当てはまり、思わずそうそうとうなずいてしまった。
混乱の解決のために７人兄弟の末っ子を捜すのだが、「きっと○○だ」と途中から思い始めた。ところが最後にどんでん返しがあり、その仕組みに驚かされた。
12/20『竜の騎士』コーネリア・フンケ、細井直子訳、WAVA出版、2003.09.01、574p
「なにものにもおびやかされない「わが家」はどこ？」この帯の言葉と、群青の表紙に惹かれて読み始めた。
竜が登場するが、舞台は現代。人間に追われて、北の国の奥深くの谷に隠れすうんでいる竜たち。そのすみかにまた人間がやってくる。逃げ出すべきか、それとも戦うべきか。話し合ってもわかる相手ではないとコボルトに言われる。闘い好きで、何でも自分の物にしたくなるのが人間だと彼らは明言する。
そんな人間の中にも、竜の存在を当たり前のこととして接することのできる少年と教授。その助けを借りて、新たなるすみか「空の果て」を探す銀色の竜ルング。それを追う巨大な金の竜ネッセルブランド。ネッセルブランドは、竜狩りのために錬金術師が創造した邪悪な機械？。そこに、ジンが絡み、バジリスクが現れ、怪鳥ロックまで出現する。「話題のいきものてんこ盛り」だけれど、それに振り回されずに、冒険の展開を楽しめる。
12/13『デルトラクエスト�供。咳討硫�国』エミリー・ロッダ、はけたれいこ絵、岡田好恵訳、岩崎書店、2003.12.15、253p
リーフ、ジャスミン、バルダの三人が目指すは、三つ目の島、ケラス島。ピラの笛を完全な姿にして、いよいよ影の王国へ乗り込む。
影の大王とは何者？と興味を募らせ、三人と一緒に影の王国へ。なんと地底からピラ人の「念」によって地上に送られる。ＳＦスタートレックの転送シーンをだぶらせてしまった。自分が解けて？また再構成するのって、一体どんな感じなのだろう。リーフは地上に出てすぐには立ち上がれずにはいつくばっていた…。おもしろい発想は他にもある。大王の工場でオル人がまた現れるのだが、前回の失敗で大王はオルよりももっといい物を創り出した。それが、「転成」。なんと、耳の中にミミズ状のいきものが入り込んで操るのだ。これは他でも聞いた（観た・読んだ）方法だ。と、こんな風に何となく馴染みのある方策が登場するが、それでも飽きさせないのは、登場人物の描き方のていねいさによっていると思う。
最後のマリリンの種明かしは、ちょっと予想外。でも、リーフとジャスミンの関係には、やっとだねと拍手を送りたい。
これでシリーズが完結する。シリーズ物のおもしろさを、�気料苅鹸�と�兇料苅慨�で堪能した。
12/1『狐笛のかなた』上橋菜穂子、理論社、2003.11、342p
