気ままに読書・のんびり読書
　　　　　―好きな本から話題の本までアプローチ

この本読んだ！ ９月の楽しみ

9/25『盗神伝Ⅲ　アトリアの女王後編　―告白―』Ｍ・Ｗ・ターナー、金原瑞人＆宮坂宏美訳、あかね書房、2003.09.20、313p
　ついにクライマックス。エディスの女王に仕える盗人ジェンとアトリアの女王との駆け引きがだんだんエスカレートしていく。まさかこんな方法でアトリアの女王に勝とうとするのか、と思わせる作戦がおもしろい。強大な敵に対して、屈服するのか、それとも協働して対抗するのか、二人の女王が治める国の関係がもつれたほどけたりしながら話がすすんで行くのも見逃せない。
　最後にジェンは望むものを手に入れるが、「なぜ」とやはり問い返さずにはおれない。訳者の後書きでは、「ラブストーリー」だと評してあったが、確かにそう思える。Ⅰの記憶が生々しいので、どちらかといえばラブストーリーよりも、冒険譚を期待したいところだ。
　Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを並べてみると、背表紙のデザインが連なって妙に悦に入ってしまった。

9/23『12歳たちの伝説　Ⅳ』後藤竜二、鈴木びんこ絵、新日本出版社、2003.08.15、155p
　近づくサッカー大会。６年１組の実行委員になった草平の視点から話が展開する。この６年１組は５年生の時からパニック学級といわれ、学校の中でも担任が長続きしない問題のクラスとされている。そんなクラスの子ども達を生き生きとそれぞれの個性を表面に出して描き出している。１人称で語られるが、草平だったり、秀人だったりとその時々の心の動きが読み手にずしんと響いてくる。
　サッカー大会という学校行事をこのパニック学級がどう受け止めるのか、きっと一波乱もふた波乱もあるに違いないと思っていたが、案の定メンバーが集まらず、集まってもサッカーにはならないと問題だらけだ。それでも、普段おとなしい草平の粘り強さに、それぞれが自分の個性を発揮して参加していく。12歳。反発心と、あこがれを同時に秘めるこの時期を前向きに描ききったところがいい。
　最後のページは、６年１組の優勝を伝える「ジャングル」（学校通信だろうか）だ。前ページの「雨天決行。」から空白の１ページをへてのこの記事が心に残る。
　Ⅰ～Ⅲは読む機会がなかった。Ⅳを読んでみて、この３冊も読んでみようかと思う。

9/19『サブリエル』再読
　前回読んでからずいぶんたつが、本棚の背表紙を眺めているうちに、読み返したくなった。何度も読み返したくなる本と、一回だけでいい本といろいろあるが、何度も読み返したい、反芻し直したいという欲求に駆られる本と出会えることは幸せなことだ。

9/14『ドーム郡ものがたり』芝田勝茂、佐竹美保絵、小峰書店、2003.06.30、335P
　1981年福武書店から出版されたものを、改稿し、装幀、挿画も新しく描き起こしたもの。残念なことに、その福武書店からの『ドーム郡ものがたり』を読んでいないので、二つを比べることができない。しかし、今回読もうと思ったのは、佐竹美保がイラストレーターであったからだ。最近復刊した作品のイラストを佐竹美保が描いているものがよく目につく。この佐竹美保現象について、』じっくり時間をかけて考えたいと思いながらもとにかく今は読むことにとどまっている。
　作品の内容は、ドーム郡という架空の世界が舞台である。そのドーム郡に危機が迫り、その危機から脱するためにラノフの学校の新米先生であるクルミに白羽の矢が立つ。クルミの旅立ちから、帰郷、フユギモソウ退治までの一連の物語「ドーム郡小史」が、羊皮紙に書かれてあり、それを訳者がひもといてくれた形で話が進んでいく。誰かがすでに描いたことのあるような物語の感じでありながら、かかしの登場や退治の方法、それに至る信念の持ち方にオリジナリティを覚える。
　シリーズ構成されており、この続きがあるという。きっと、途中で姿を消したヒース先生が何かキーマンになりそうな予感がする。

9/1・2『鏡の中の迷宮　水の女王』カイ・マイヤー、遠山明子訳、佐竹美保絵、あすなろ書房、2003.07.10、295p
　「魅惑の水上都市ヴェネチアをめぐってくりひろげられる華麗なるダーク・ファンタジー第１部」とジャケットの見返しに書かれている。その通り、現実の地名でありながら、しかも読み手の記憶にあるような町の様子でありながら、大きくその世界が違っているところに興味が引かれる。魔法の鏡や、空飛ぶ石のライオン、エジプト軍が空飛ぶ太陽の船で包囲して３年にもなる等々。物語の始まりは観光都市ヴェネチアそのもので、ゴンドラに揺られた２人の少女が描かれている。そのうちひとりは盲目。そして、二人ともそれぞれ孤児院から鏡職人の工房に弟子入りするという。その工房も、年のへんぴにあってなにやら怪しげな噂がつきまとっている。
　幕開けから、静かにでも確実に読み手をその世界に引き込む筋立てがすばらしい。石のライオンの扱いも、単なる騎馬ではなく、昔はことばもしゃべり人間と戦ったという歴史もだんだん明らかになる。きっとここは次への複線だろうなぁと想像しながら最後まで楽しめた。最後は、何事かすごいことが起こるのを予感させる、地獄の使者まで現れてきた。二巻以降、ライオンと飛び去った少女メルレと、工房に残った鏡の目を持つ少女ジュニパの運命が気になる。
　カイ・マイヤーは『七つの封印』シリーズを最近読んだが、あまりおもしろくなかった。それで、書店で表紙に惹かれながらも読んでいなかったが、佐竹美保のイラストに後押しされて読むことになった。本編の中には、ほとんど挿絵はないが、表紙の建物の細やかさといい、ブルーのを貴重とした色遣い、その中で空飛ぶライオンの背にいる少女の淡い緑の服が目にとまる。背表紙の黒も印象に残る。