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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
   第九章インフレになる理由


インフレになる理由、45度線以上の所得曲線ではどのような現象が起こっているのか。
 所得曲線が45度から上方に角度を上げて行く理由。
 ある時なんらかの理由によって資金が非常に増えた場合を考えよう。それは洪水的な輸出の結
果かもしれないし、戦争による略奪品であるかもしれない。あるいは異常な低金利や銀行の過剰
な信用創造によるかもしれない。
その資金の大きさは貯蓄の量をはるかに上回るものであるとする。
 始めは45度線上の所得曲線を対象として考えよう。この線は理想の線であり、どのような角度
の所得曲線もやがてこの線に収斂されるものである。そしてこの線上のどこかに完全雇用が達成
され生産限界点がやってくる。それを理想の均衡点とする。
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 この線には一定の貯蓄と消費が存在する。またその所得曲線から派生する需要曲線と供給曲線
も存在する。そして資金量が供給曲線と需要曲線の間、すなわち貯全量の間にあったとしよう。
資金がどんどん増えていき、消費と所得の漏れである貯蓄と同じ量まで増えると、その供給曲線
は完全雇用を実現するものになる。この地点からさらに資金が増えると生産量が増えず、付加価
値だけが上乗せされ所得曲線が45度を上回る。資金の洪水が生産限界というダムの土手にぶつか
り、水がせり上がるのである。
 これがバブルにつながりやすい状況である。
 インフレは、資金量が貯蓄量を上回る地点から始まる。これは、所得からの漏れである貯蓄の
量を市場に出回る資金が上回った地点という意味である。投資として国内のハートランドに流れ
る資金が全貯蓄量を上回った地点である。
 完全雇用が達成される所得曲線上において、生産量が限界に近づくに従い、徐々にあちこちの
企業や産業分野において労働力不足が顕著になり始め、労働価値以上の賃金が支払われ始める。
これが生産費用を上昇せしめ、生産量の割合以上に、生産物価格を押し上げていく。その結果、
売上が増大し、所得が生産物の価値以上に増え、所得曲線の角度を上昇させる。所得曲線の角度
が上がるにつれて、供給曲線はどんどん上昇する。それに応じて需要曲線も角度を上げていく。



個人の消費は、企業の生産曲線に追随せざるをえなくなる。企業の付けた価格で買わざるを得な70
くなる。売り手市場になる。価格の上昇にもかかわらず、消費額は増えていくことになる。どん
どん供給曲線が上昇し、需要曲線も同じように上昇するが、やがて資金量が増えても生産量が滅
らず付加価値が増えない地点がやってくる。それがインフレの終わりであり、そこから下降が始
まる。
 これは、資金の増加が需要を超えて増えていく場合、その資金のすべてをハートランドの生産
物を買うと仮定している場合である。しかしそれは全く現実的ではない。
 すべての資金がハートランドの需要と供給に投下されることはまれであろう。実際は金融資産
や土地資産にその資金の大部分が回ることになる。
 インフレとデフレの間のつかの間の均衡は、貯蓄の量の間に資金量が存在する場合だけである。
すなわち我々の所得から税金を差し引き、なお可処分所得から貯蓄が存在する場合において、資
金量がこの貯蓄の範囲にある場合に釣り合いが取れているのである。ケインズ経済が応用できる
のはこの範囲だけである。
現実には、貯蓄の分か、投資と
いう形で市場に資金として出回ったり、金融緩和策や輸出の過
剰による資金が市場にあふれる事態になると、ハートランドの生産物に全部の資金が向かうこと
はない。なぜなら需給曲線が供給曲線と需要曲線に分離し始めるころから、消費者は、基礎的な
必需品は一応揃っており、生活に満足している。それゆえそれ以上に所得が伸び、消費が増える
状態であっても、所得に応じてどんどん消費が伸びるわけではなくなっている。そういう時に資
金量が貯蓄を上回ってしまうと、ハートランドの生産物よりそれ以外の土地資産、金融資産に回
ることになる。あるいはハートランドの生産物に回ったとしても、ぜいたく品や奢侈品に向かう。
あるいは高額な輸入品に回るのである。これは一国内のハートランドが相対的に大きくなると、
それ以外の資産価格が相対的に低下するので買いやすくなっているからである。このことは、資
金量が貯蓄の範囲にある時から既に始まっている。貯蓄が低金利策などの金融緩和政策によって、
市場に出回ると、その分かハートランドの生産物に対する設備投資や消費に回るか、あるいは土
地や金融資産に回るかはその時の情勢によるが、貯蓄額が多い状態すなわち所得からの漏れが多
い状態であればあるほど、金融資産類に回る事が多くなっていく。これが貯蓄量を超えた資金量
になると急速に資産価格が上昇し始めるのである。
 現在の(二〇〇六年一月頃)の株式の上昇はデフレの下、貯蓄量が少ないにも関わらず、それ
以上に資金が増加していることが原因である。


 また政府が、雇用対策や景気対策のため、あるいは社会資本の充実のため、資金増加を図った
場合、それはハートランドの生産物に向かうことになる。
 政府が意図して、ハートランドに資金を投下しない限り、普通に放っておけば、民間資金は大
抵資産に回って行く。
 一九八五年以降から一九九〇年頃の日本は、低金利政策と洪水的な輸出によって資金が貯蓄量
を上回る状態にあり、さらに政府はそれまでと同じように公共投資を行っていたので、所得曲線
も45度を上回った角度にあったと思われる。それがバブルと言われる投機市場と入手不足を生み
出したのである。土地資産や金融資産の価格も、ハートランドの増大縮小に左右される。
 ハートランドが縮小され45度以下の所得曲線が支配する状態では、資金が少なくなり大部分の
資金がハートランドに費やされ、資産価格は大幅に下落する。遂にハートランドが大きくなり45
度線に達し貯蓄ができるようになると、相対的に資産が安くなる。しかし資金が貯蓄以上に増え
ると資金の大部分が、資産に回り始めハートランドに比べて相対的に資産が高くなっていく。結
局資産価格の高騰も、ハートランドの収益力に左右され、それ以上のものは購入されなくなる。
そしてまた価格が調整されていく。土地の収益還元法や株式等の収益還元法などの法則が支配す
る世界である。