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  top          デフレインフレの一般理論
 

                     第ハ章 ハートランドとは


我々の人との取引は、初めは単なる物々交換から始まり、貨幣が使われるようになり、金融資
産というものが形成されるようになった。しかしすべての始まりは、需要と供給の繰り返しから
始まったのである。
 それがあらゆるものや生産物に価格を付けていったのである。ある国の土地資産や金融資さんも、
また美術的な資産も、この需要と供給の繰り返しから派生したものであり、全く関係のないもの
はありえない。
 需要と供給の繰り返しは、付加価値を生み出しながら複雑で効率の良い産業基盤を作り上げて
いく。時にはそれを増殖しながら、また時には縮小を繰り返しながら資産をつくり、逆に借金も
つくっていく。この経済的な何層にも重なり、複雑に絡み合いながら効率よく生産物を生み出し
ていく産業基盤を、ハートランドと呼ぶことにする。


 一国の経済を決めるのは、このハートランドの大きさによる。入道雲のように上に豪快に資金
を巻き上げ、吸収するのは、このハートランドの力強さによるのである。国土の広さ、人口の多
さだけでは資金の密度は測れない。
 例えば、中国は人も多く、国土も広く、また資金量も多いが、資金の密度が薄いと言える。水
槽に例えると、水槽の幅が広く高さが低いと言えるだろう。日本は、それに比べると幅がずっと
狭まり高さは非常に高くなっているだろう。アメリカは日本の経済規模の何倍かなので、日本よ
り幅が広く高さも同等かそれ以上であるかもしれない。世界中を見回すと、この産業基盤がもた
らす積乱雲が高い国が発展している国であり、低い国や発生していない国が不活発な国と言える
であろう。高さが資金を集め、吸収する度合いとなる。これはその国の内部においても同じよう
に、積乱雲の高さにより発展している地域かそれとも過疎化されている地域かが判断できる。
 現在の日本は、東京の土地分野と名古屋地区の組み立て産業が、上昇気流となり、大きな積乱
雲になりつつある。その積乱雲がさらに周辺の資金を吸収し大きくなって、最終的に日本全土の
上空の雲となって、資金の雨を降らすことになるのか、それとも積乱雲が全土に雲を広げ資金の
雨を全土に降らす前に、周辺の資金が枯渇し上昇する勢いがなくなり、積乱雲が一瞬にして雲散
霧消してしまうのか、まだなんとも言えない状況である。
 日本は一九九〇年の土地バブルの崩壊により莫大な借金を背負ってしまった。その結果資金が
年々減少していくデフレ循環に入ってしまったのである。これを解消するのも破産するのもハー
トランドの需要と供給の繰り返しによる。それ以外の方法は、ない。破産は日本人の労働への健
全な思い人れを奪い去り、政府への信用を再びなくすことになるだろう。労働の貴さを信じるこ
とができない人がたくさん生じ、生産活動に支障をきたすようになるであろう。それはすなわち
日本の製品、品質への疑念となり、以前のように活発な生産活動を行えなくなるということだ。
 健全なハートランドを取り返すためには、資金のハートランドからの流出を止め、資金をハー
トランドに供給する必要がある。日本のデフレの解消はこのハートランドに資金を潤沢に回すこ
とに尽きるのである。
 インフレの場合は、物の取り合いになり、仕入れ先が重要になる。しかしデフレの場合は、お
金の取り合いになり、販売先が重要になる。ハートランドの復活は売上から、売上が増えること
が大事なのである。売上利益ではない。デフレにおいて売上利益を偏重するのは、デフレ促進策


になる。

O日本のハ−トランドの特徴

 一九九〇年頃、日本は洪水のような輸出を続け、国内では人手不足からコストプッシュインフ
レに見舞われていた。土地資産、金融資産などの望外な価格になっていた。しかし国内の工業生
産物はそれほど値上がりしてはいなかった。国内のハートランドの企業は価格を上げることより、
シェア争いを繰り広げ、生産物に対して付加価値を余計に付けなかったのである。日本の工業生
産物は労働力以外の生産要素をほとんど無限に手に入れることができたことにもよる。それは極
めて健全で良心的な産業基盤であった。この時、価格を上げようとすれば容易にできたであろう
が、しなかったのである。
 この産業集団がデフレに嵌まると、逆によりいっそうデフレを急速度で深刻化することになっ
た。低価格で販売シエア競争繰り広げることに慣れた集団は、デフレにもかかわらず安売り競争
をしたため、販売量が伸びず売上が下がり、かえって損失を出したのである。今なお続く電化製
品やスーパーマーケットの大規模化と安売り競争、コンビニエンスストアの出店競争など、特に
国内の需要に重きを置いている企業の販売競争は、デフレの速度を加速させている。
 さらにこのデフレで明らかになったことは、ハートランドの縮小は、金融資産や土地資産など
の生産物以外の価格も下げるということだ。貯蓄がなくなり、所得と支出が一致すると、資産へ
資金を回す余裕がなくなるからである。逆にハートランドが拡大し貯蓄ができるようになると、
資金が生産物以外のものに向かい始め、資産価格が上昇していく。さらに資金が貯蓄額を上回る
水準になってくると、資産価格はバブルと言われる水準に達する。
 このハートランドの縮小と増大は、ハートランドにかかる負担の大きさと、生産効率の高さに
依存する。
○経済の見えざる手は最大不幸をもたらす
 資金量が減少している経済では、あるいは45度線より低い角度の線の下にある経済では、人々
が自分の幸福をもたらすように行動することがさらなる不幸をもたらす結果となる。莫大な借金
を背負った政府機関も、同じく借金を背負った各企業も、またローン返済にあえぐ消費者も、
個々の欲望のままに行動することは蟻地獄に自ら喜び勇んで飛び込むことと同義である。



 政府機関は借金の返済のため増税を繰り返し、消費者は所得減からますます価格の安いものに
指向していく。生産者は借金の返済のため売り急ぎをし付加価値をますます減らしていく。この
状態が統けば産業基盤の崩壊は目前である。
 経済の見えざる手は、デフレの時こそ政府の政策が必要であることを教えている。経済の見え
ざる手は、いつも経済を調和に導くものではないのである。縮小均衡に入った経済は、それぞれ
の経済主体が己の欲望のままに行動すれば、経済活動の体系そのものを破壊してしまうことにな
る。
 ケインズの説明する主な経済学は、人類が産業革命によって手に入れた効率の良い生産方法に
よって、おのずと形成された45度線以上の経済を対象としていたのである。その上に警察、軍隊、
政治家、一般公務員などの費用を負担して、均衡していたのである。しかしながらその負担が大
きくなり過ぎ45度線以下の経済状態に入ると、ハートランドが急速に収縮し始め、負担能力がな
くなっていく。年金システムなどは45度線以上の状態で可能な仕組みであり、45度線以下の経済
ではいかように変えようと、用をなさないものである。
デフレはお金の取り合いである。このような時、政府は権力によって独占的強制的に大量に資
金を市場から奪ってはならない。政府の増税は、あるいは国民に加える資金的な低下圧力はいか
なるものでもデフレを深刻化するものに過ぎない。
 45度線以下のデフレの状況において、税金、借金、公共料金の値上げ、警察、軍隊、政治家及
び一般公務員の増大は、上から所得曲線を抑え、ハートランドを圧迫せしめ、資金をさらにハー
トランドから絞り出させるものである。
 外需による供給の増大は、ハートランドの内部の資金を輸出部門に回らせる。輸出部門の生産
物は増え、一時の惨状よりハートランドに明かりを灯すものである。しかしこの生産物は内需か
ら発生したものではないので内部に付加価値と共に還流するものではない。それは国内の卸や小
売などの流通経路を通らずそのまま外国に輸出される。その結果輸出部門以外のところは増えず、
所によっては余計に資金が還流し難いところも出てくることがある。外需により得た資金は、内
需不振状態の国では、輸出部門の企業は国外用の設備投資を主にするものであり、さらに余った
資金は外貨や金融資産や土地資産に回すものであり、なかなかハートランドの中心部まで届いて
いかないように見受けられる。発展途上国の多くの国で見られるように内需が弱く輸出に頼る国
は貧富の差が激しいのが特徴である。




 おそらく輸出で得た資金はハートランド全体に公平に回り難いのであろう。幸いなことに日本
は、輸入より輸出が上回っているので、資金は輸出により豊富になるが、内需に還流する方法を
考え出さねばならないだろう。
 供給を伸ばして景気を回復させるやり方は、明らかに45度線以上のケインズの作用する経済状
態である。45度線以上の所得曲線を見れば明らかなように、供給が少し伸びただけで資金がそれ
以上に伸びるのだ。
 その逆に、45度線以下では、供給を大幅に伸ばしても資金は少ししか伸びないのである。いや
資金は増えないのである。逆に資金負担を少なくしてやれば供給が大きく伸び、所得も大きく形
成されることになることが分かる。
 産業革命以来、世界の国々では生産効率が非常に高まり、供給曲線が45度を上回るのが常体に
なった。しかし日本のバブルとその後の日本の政策は、尋常を外れた不可思議なものであった。
それゆえ工業国と言われる国で初めて供給曲線が45度を下回るという大失態を演じたのである。
 その後もまともな道筋を立てず、闇雲に場当たり的政策を遂行した結果、ハートランドを潰し
にかかっているのである。彼らは自分たちの政策が日本の産業基盤を潰していることさえ自覚し
ていない。現在の低金利過剰金融政策も、国内の需要を少なくし、供給を伸ばす従来の方法だが、
45度線以下では、需要低下分を補うためには、大幅な供給量が必要なのだ。国内だけでは失敗に
終わったであろう。
 しかし日本のしたたかなハートランドは、技術の優位性から国内需要の衰退を目の当たりにし、
国外需要へとシフトしているのである。その結果が現在の踊り場にあるという日本の経済状態で
ある。しかしそれとて日本政府が予期して取った政策ではなかった。
 この外需が入道雲のように空高く舞い上がり、日本全国にお金を降らすとは考えにくいものが
ある。輸出の増大は円高に振れ、輸入品が増えそれへの需要はハートランドからの資金の流出に
つながるからである。また日本の産業構造は本来の内需に主体を置くものから輸出に主体を置い
たものに変わりつつある。このような発展途上国のような産業構造は、貧富の差を生みがちであ
る。日本の将来の構造として、良いとは言えないものである。現在の外需に主力を置くものにシ
フトしたのはハートランドのやむをえぬ行動であるに過ぎない。
 これ以上ハートランドを破壊してはならない。