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  top          デフレインフレの一般理論
 

                     第七章インフレ時の消費曲線、デフレ時の生産曲線





需要量が多く供給量が小さい場合。これには供給量に比べて資金量が非常に多い場合と、資金
量とは関係なく単に供給量が小さい場合もある。未開発国などは単に供給量が少ないことが多い
であろう。その場合も同じような傾きの所得消費曲線になる。しかし
この場合価格が上がったからといって、生産量が上がるわけではない。システムになんらかの不
調があり、思うように生産ができないのである。またデフレの場合も、単に供給が需要を上回っ
ている場合がある。
 しかし今我々が扱うのは、このような場合でなく、もう少し発展した経済でハートランドの大
きい小さいや効率性を別にして、需要供給の調節が普通に行われ、貨幣経済の発達した経済を研
究対象にするものである。それゆえ供給量の限界をある程度決め、それに対して資金量が多い少
ないを決め、その経済を研究対象とすることになる(図105)。


 インフレの時、つまり45度線より角度が上がった場合、45度線との差は何なんだろう。45度の
所得消費曲線というのは、一種の理想線であり、この線上のどこかに完全雇用の供給量が存在し、
また需給が一致しており貨幣価値も生産物の価値と等しいと仮定している。これはすなわち国内

純生産に対して資金の割合が
一対一になるよう45度に設定していることになる。それゆえ45度線以上の角度の所得曲線の場合、
少なくとも、ハートランドで供給される生産物の量より多い資金が存在していることになる。そ
の資金は、戦利品や朝貢貿易などの場合は、政府や国が持つことになる。輸出超過の場合は、主
に企業が持っていることになる。減税などは消費者や個人が持つことになる。
 ある時、所得消費曲線が45度線上にあり、ある一定の消費需要があり、一定の貯蓄性向が存在
している国民経済において、資金がなんらかの要因によって急に増え、その額が所得からの漏れ
の分、すなわち貯蓄以上に増えた場合、この時の貯蓄の分量以上に資金が増えたと仮定する。そ
してこの資金の大部分がハートランド内部の生産物や国内需要の生産設備に費やされたものとす
る。言い換えると貯蓄より多い資金が投資として国内市場に流れたとする。
 そうすると先ず45度線に沿って生産量が上昇し完全雇用が達成され、
生産限界に至る。それ以上の資金の過剰な存在は、労働者不足を招き、それが賃金上昇を労働価
格以上にさせる。それがあらゆる生産現場にふえんし、生産物がどんどん値上がりして行くこと
になる。商品価格もどんどん値上がりしていく。生産物の取り合い競争は、価格上乗せ競争とな
る。生産力が限界に近付きつつあるので、生産物はそれほど伸びず、それに対して価格を本来の
価値以上に上乗せして、販売競争することになる。
 その競争は、本来の付加価値そのものを追加するのではなく、言葉の美辞麗句や、取るに足り
ない細かな長所の強調などによって、どうやれば価格を上げられるかを競うものになる(デフレ
の全く逆である。デフレでは何も付加価値を今以上に付けられなければ、価格は下がっていくの
であり、すばらしい付加価値を付けても価格は現状維持か下がる傾向にある)。
 その結果45度線を超える所得曲線で、しかも貯蓄の漏れ以上に資金が増える地点から消費曲線
が生産曲線を追随していく形になる。それゆえ価格が上昇しても消費量が増えることになる。市
場は売り手市場であり、生産量に応じて消費が左右されるからである」(図103参照)。
 しかしながら現実的には、45度線から上にあふれる資金は、そのほとんどの分が金融資産や株、土地資産、外貨に回り、ハートランドにはなかなか回らないであろう。ハートランドに回らない




理由は、すでに一通りの購買需要が達成されており、資金が増えても基本的な必要品の買う量は
それほど増えないからである。またハートランドが拡大している間は、資金が主にハートランド内部に流れそれ以外の資産には流れにくい。なぜならハートランドの拡火大中はその中に資金を入
れたほうが利益が多いからである。そしてその拡大が止まり資金があふれ出すと急速に資産等に
回り始める。ハートランド以外の資産へ資金の増加は、わずかな心理的な状況や取るに足りない
美辞麗句の類のものにも敏感に反応する状況を招来し、付加価値がわずかにもかかわらず、大き
く価格が上昇する資産インフレを招きやすい。貯蓄という担保を超えた資金の増加は、糸の切れ
た凧のようなものであり、どこまで上がるか、どこに行くか、またどこに落ちるか分かったもの
ではない。しかしながら資産の上昇も最終的にはハートランドのかせぎで限定されることになる。
 現在の原油市場の値上がりを勘案されるとよい。価格が上昇しても消費が激減するわけでもな
く、また価格が上昇しても生産量を増やすわけではない、どちらかと言えば売り惜しみしている
のだ。インフレの場合、生産量を上げるより価格を上げやすい状況になっている。特定の商品の
インフレと市場全体のインフレは区別するべきであろう。
 生産者は資金量が増え消費者の購買意欲が増すと、生産量を抑えて価格を上げようとする。消
費者は先行きですぐに価格が上がることが分かっているので、借金をしてでも早く買おうとする。
それゆえ資金量の増加は価格をさらに上げ、生産量を抑えて、45度線からよりいっそう離れよう
とする。この時は、消費額が増えるが消費量は生産量と同じ量になって、消費量は思うほど伸び
ない。消費者が十分満足するほどの消費量は確保できない。生産限界点すなわち完全雇用を実現
する供給量に達すると、その圧力から供給曲線は急上昇していくことになる。角度上昇ドライブ
がかかる。
 逆にデフレの場合、生産曲線が消費曲線と同じ形になる(図107)
。それゆえ価格が下がっても生産量が増えることになる。しかし売上(生産高)は下がる。市場
は買い手市場であり消費者の消費に応じて生産高が左右されることになる。その結果、まず資金
量が減り消費者の買い控えが始まると、生産者は価格を下げ、生産量を増やして売上を確保しよ
うとする。消費者は先行きさらに価格が下がることが予見されるので我慢してでも倹約して、買
うことを先延ばししようとする。その結果、価格が下がっても企業の思惑ほど消費されない。生
産者の売上は消費者の購入分だけの売り上げになる。それ以上の生産物は売れ残りとなる。それ
ゆえ資金量(すなわち生産高)の減少は、さらに価格を低下させ生産高を減らすことによって、
よりいっそう供給線から離れようとする。消費額とそれに応じた生産高が一致した地点を起点と
して、角度が下にシフトし始めるのである。企業は、その消費額を所与として、さらに販売促進
に努め、価格の低下と生産量の増加が大きいほど、角度下降ドライブがかかることになる。その
消費額以上の生産物は売れ残りとなり損きり商品となって、企業の赤字になっていく。