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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
  dai 6第六章搾取経済、所得曲線が45度線以下の経済状態

    いわゆる搾取と言われるものは、所得曲線が45度線以下の角度の経済状態の時に顕著に表れる
ものである。
 ある時、国民経済が何かのきっかけで大きな借金を背負った時、それが非常に大きく全貯蓄量
を上回る場合、所得曲線は角度を下げ始める。それがデフレの始まりである。資金量の低下に応
じて、供給量がそれに合わせざるをえず、それがまた消費を減退させ、資金の低下を招き、生産
高が消費額に応じたものに減少する。これがデフレの悪循環(デフレスパイラル)である。
 このデフレスパイラルは、借金額がこれ以上増えず資金低下がこれ以上減らない地点の所得曲
線が支配する経済状態まで、需給を減らしながら、角度を下げながら進んで行く(103参照)。
 個人はローンの返済のため消費を削り、政府は赤字財政を解消しようとするため、増税するこ
とにより資金を民間から取り上げる。ますます資金が減っていく。企業は借金返済のため、自ら
の価格を引き下げて売上増を図ろうとするが、結局消費額以上は売れず、赤字を増やす結果にな
る。
 需給曲線が下方に角度を下げていく理由は、政府なり、企業なり、個人なりが借金を背負って
いるため、それを返すための圧力が生じているためである。それが換金圧力となって下方に角度
を下げていく。45度線以下の所得曲線が支配する経済では、資金のわずかな減少で大幅に生産高
が減少し、所得が大幅に減少することが示唆されている。逆に生産高がかなり大きく伸びても、
資金量があまり伸びないことが示唆されている。このことは、デフレにおいて供給の増加を図る
よりも、需要の増加を図った方が景気が回復しやすいことを物語っている。民主経済か搾取経済
かの一つの目安は、所得曲線の角度が45度以上であるか、以下であるかであろう。
 私達が軍隊、警察、公務員などの負担を背負ってもなおかつ角度が45度以上であれば民間が憂
位な民主経済といえよう。しかしその負担が45度を切るものであれば官が民間を圧迫する搾取経
済である。特にデフレに入っておれば、それは搾取そのものである。
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 45度線以下のデフレの経済は本当の搾取経済である。また強制労働の世界でもある。それは借
金の返済と税金の支払いのため、労働価値以下の賃金で、しかも長く働かなければならない世界



である。これは民主主義とは言えない経済である。搾取は民間の経済が縮小する中で、第二線の
労働者たち(民間の生産に貢献せず主に税金で生計を立てる人たち)の所得はそれに応じて縮小
せず、民間の負担が大きくなり、不当に搾取されている状態である。
 また第一線の労働者(経営者も含む)は、正当な労働価値以下の水準の所得しか手に入れるこ
とができず、しかも生活するために長時間労働して穴埋めしなければならなくなる。生活のため、
価値より低い低賃金で、長い時間働く必要がある強制労働または過剰労働の世界である。
 これはマルクスの言うような資本家による搾取ではない。45度線以下の経済では、資本家、企
業経営者も同じく資本を食いつぶしているのである。資本家は自己の資金を貨幣価値以下にしか
運用できず、経営者は経営手腕に対する正当な対価をもらうことができない。ここで特に言及し
ておくのは、45度線を下回る角度の所得曲線が支配する経済では、年金制度が機能しないことで
ある。年金制度は現在の資金を将来に使うために先送りするものである。それゆえ現在の資金を
減少させることは、現在のデフレをさらに促進させることになり、その先の将来がさらに悪化す
るのは明らかである。それゆえ現在、年金制度の維持のため消費税を増額するような議論は経済
原理を知らない人たちの絵空事に過ぎない。暗愚である。
 我々の社会は、否応無く政府関係者、軍隊、警察、一般公務員などを、税金という負担を負い
ながら、維持している。しかしながら彼らは生産を担う者ではなく、税金という俸禄をもらいな
がら、そこから支出のみを行う者たちである。ハートランド(生産物を生み出す経済産業基盤)
の資金の大きさは彼らの負担の大きさによって非常に左右される。
 税金と借金の負担によって、可処分所得が減少し、資金量が45度線以下の経済になった場合、
ハートランドは自壊作用によってどんどん縮小していく。しかし養わなければならない、生産に
何ら関与しない人たちの分である税金の量は、ハートランドの減少とは無関係に存在し、民間に
大きな負担としてのしかかるのである。
 ここで特に問題になるのは、公務員等の第二線の労働者たちの貯蓄である。これが多ければ多
いほど民間からの所得の漏れが大きくなり、所得曲線が下方に傾くことになる。税金として第一
線の労働者から第二線の労働者に移転された所得は、金部使われなければ、第一線の労働者の所
得形成に支障を来すことになる。第二線の労働者が国内の生産物の消費に使わなかった分か所得
曲線の角度を不当に下げているのである。ここで不当にというのは、45度線より角度が下がって
いる経済では状況に応じて第二線の労働者の所得や税金を減じなければならないが、それが十分
になされていないという意味においてである。
 所得曲線は、45度線より角度が低い位置にあるので、わずかな負担が大きく民間の所得を減じ
ることになり、また逆に生産高を少々増やしたとしても、所得がなかなか伸びない状態になって
いる。これは江戸時代の日本のような、強制労働、奴隷労働に近い状態と言えるであろう。
 江戸時代はまだ産業革命の恩恵を受けず生産効率の悪い時代であり、常に負担が大きく、45度
線以下の経済が支配した時代であった。このようなことが現在の日本において起こっており、民
主主義の時代に相いれない。一刻も早く負担を軽減し所得曲線を45度にしなければならない。