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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第三章デフレのメカニズム、デフレとは

   
それでは、消費乗数の一定しない45度以下の角度の所得曲線が支配するところでは、どのよう
な現象が起こっているのだろうか。
 日本のデフレの端緒は、土地価格の崩壊により大借金が生じ、それによって資金の減少を惹起
させたことによっている。
 それゆえデフレというものは、市場に出回る資金量が減少することに原因があることが分かる。
しかも資金量の減少が続き、所得が減少し、貯蓄がなくなり、消費が生産高を下回るところから
始まる。
この45度線より角度が下がった所得曲線とはどんなものなのだろうか、あるいは逆に45度線よ


弟3章デフレのメカニズム、デフレとは
り角度が上がった所得曲線とはどんなものなのだろう。
 借金などにより、可処分所得が少なくなり、45度より角度が下がった所得曲線では、供給が常
に需要を上回る状態である。需要の低下に対して大きく生産高が変動するものである。
 借金が貯蓄を上回り、所得がすべて消費に使われるようになる時点が、生産高の少ない段階で
やってくるのである。
 この直線は、生産高より常に少ない所得を意味する。貨幣I単位に対して常に生産量がI単位
以上多い、言い換えれば貨幣―単位でより多くの生産物を買うことができる所得曲線である。お
金に値打ちのあるデフレの状態を意味している。逆に45度線より角度の上の所得曲線は、この逆
で貨幣1単位で生産物を1単位以上買うことができない。インフレの状態を意味している。
 B線は常に消費が生産高を下回る線である。遂にC線は、常に所得が生産量を上回る線である。
C線のような状況は戦争で生産手段が大きく破壊された場合を想起させるが、我々が扱うのは、
生産手段も消費も、。・健全な状態での需給状態の経済である(図105)。
 消費は、資金量の低下に伴ってこのB直線に沿って下方へ下がり続けている。同時にB線は角
度を下げていく。
この45度線より下にある所得曲線は、資金量が減ると生産高が大幅に減り、また資金量が増える
と生産高が大幅に増えることを意味している。逆に言うと生産高を大幅に増やさなければ需要が
増えず、資金量が増えないことを意味している。
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 では資金量の増減に伴ってこの直線はどのように動くのだろう。
特にデフレスパイラルと言われる状況下ではどうなっているのであろうか。貯蓄より資金が少な
くなった地点から、なおも資金減少が続いている状況では、あるいは資金の底が来ていない状況
では、所得曲線は、角度を下に下降し続ける。所得の減少とともに消費額が下がり供給額もそれ
に合わすように下がっていく。それは資金量の底が来るまで続く。非常に興味深いことにこの曲
線上を下降し、所得曲線すなわちデフレ曲線も角度を下げている時の企業の生産曲線は、右下が
りになることだ。デフレの悪循環、デフレスパイラルと言われるものは、この45度線以下のデフ
レ曲線を下りながら、角度も下げている状態の時のものである。資金量を枢軸に取り、横軸に生
産量を取ると、価格曲線は右下がりになる。
 これまでの常識では、企業の生産曲線は、右上がりで描かれていた。しかしデフレ状況で、貯
蓄がなくなった部分から、当面の借金の底を支配する所得曲線問での間では、右下がりの曲線に29
_二


なるのである(図107。
この現象は今までの経済の常識を覆している。
 これはデフレの状況下では、買い手市場であり、消費者の消費額に生産高を合わさざるをえな
いからである。その結果、消費額以上に、生産高が伸びないので、45度線以下の所得線が支配す
る需要額に対して生産高を合わさざるをえない。曲線上を下った供給量は、消費額で食
い止められ、下へ下への圧力となって、所得曲線をさらに下方へと角度を移動させる。これが図
のような需給曲線となる(図103)。
それではデフレ現象とは何か。
 デフレは、単に、継続的に価格が下がっていく現象ではない。資金量の減少が長く続く現象で
ある。資金量減少の圧力が価格を引き下げていくのである。
資金量の減少がデフレの真の正体である。価格の低下ではな
い。デフレを引き起こすのは、ハ
−トランド内部の資金量の減少である。国内の総生産物の量より資金量が減少することに起因し
る。
 デフレの特徴は、商品価格が下がるにもかかわらず、生産量が増えることである。しかし企業
全体の売上は下がり続ける。
資金量の減少の圧力が価格を下げていく。たとえ価格が上がったものがあっても、全体の資金量
が減少し続けていればデフレが続いているのである。
 例えば原油価格の高騰や、一部の輸入資材や食品が高騰した場合、それに関連する製品群の価
格が高くなっても、全体の消費支出が伸びなければ、デフレが続いているに過ぎない。このこと
を正しく理解していなければ、政策を決定的に間違うことになるだろう。
 巷には、なお価格の上昇下降だけを捕らえて、デフレ・インフレを論じる人たちがたくさんい
るからだ。

 また逆に、内需に回る資金量が増えていれば、価格が下がっていてもデフレではないといえる。
例えば好調な携帯電話などでは価格が下がっていても、それが生産量で捕われ、売上が伸びてい
るのである。日本の高度成長時代を担った巨大スーパーは、薄利多売を旗印にし、価格破壊を唱
えて商品の値引き合戦をしながら巨大になっていった。価格を下げても売上が伸びていたのであ
る。好調な経済ではこういう現象がよく起こっている。これをデフレとはだれも言わないだろう。



 また、資金量が増え価格が上昇しても生産量が伸びにくいのがインフレと言える。生産能力を32
超えて資金量が増えているのである。
 それではデフレの所得曲線上ではどういう現象が起きているのであろうか。詳しく見ていこう。
 供給過剰のデフレの所得曲線上で資金量が減少し、それに応じて消費額が減少すると、今まで
製造されていた生産物をすべて吸収することはできない。普通であれば、少なくなった消費額だ
け生産物が購入され、残りは売残り在庫として残ることになる。しかし資金減少がつづくデフレ
スパイラルでは、さらに競争圧力から付加価値を下げてできるだけたくさん生産物を買わそうと
する力が働く。それが所得線の角度を下げるのである。結局生産高は消費額を最高限度として消
費額とともに減少する。
 この時、企業の生産曲線は、消費曲線と同じ姿になる。すなわち価格に対して右下がりの曲線
になる。価格が低下しても生産量が増えるような曲線である。
 企業は、消費者の買い控えにあうと価格を下げるように行動し生産量を増やす方向に向かいが
ちになる。
 一つの理由として生産者も借金を背負い、それを返さねばならないという圧力が換金に走らせ
やすいと言えるかもしれない。ともかく生産者は消費者の買い控えにより、価格を安くして販売
すれば売上が伸びるという幻想を抱く。しかしそれは過去の好調な経済の時の名残に過ぎない。
一社の廉価販売は、他社を刺激する。他社も負けないように安売りせざるを得ないのだ。
 なぜならデフレのもとでの消費者は、価格に対して非常に敏感に反応するため、少しの価格の
違いで販売量が大幅に変わるからだ。しかも無駄な物は買わない。既に貯蓄がなくギリギリ以下
の状態であり、また時間が経てばさらに安くなる可能性があるのを知っているからでもある。生
産者同士の熾烈な価格競争の勃発により、生産者は付加価値をどんどん減らしていくことになる。
価格を低下させても消費者は以前より所得が減り消費に回せる分か少なくなっている。それゆえ
生産者は価格を下げて販売量を増やし、売上を伸ばそうとした試みが、予想以上に販売できず、
結局売上が減少してしまう。
 結局生産者は、消費者の購人分だけしか売れないのである。残りは売れ残りとなり、それ以下
の値段で換金されることになる。これが競争企業の各社で起こり、その産業に従事する企業の多
くは赤字になる。それが各企業に生産費の縮小、規模の縮小などのリストラを起こさせることに
なる。それがさらなる所得誠になり、企業の売上が毎期、以前より減少していく。それがさらに
各企業に価格競争を促し、付加価値を減じた生産物をより多く作らせていく。それもまた多くが
売れ残り次の価格低下の原因になっていく。そして付加価値の減価競争に耐えられなくなった企


業から順次、大量に倒産廃業していく。
 価格曲線は左が高い右下がりの曲線になる。資金量の減少に連れて、価格が下がりながら生産
量が増えていく。
 また遂に資金量が増えると価格を上げながら生産量が減っていくことになる(図107)。こ
れがデフレ時の生産曲線である。この根本原因は、他の代替品がないからである。例えば普通の
経済であれば、賃金の低下は他の好調企業への労働者の移動により解消されるが、デフレの下で
は、他の企業も同じく不調であり、移動し難い状態にあるからである。
 これが資金が滅少し、貯蓄がなくなった地点から企業の付加価値がなくなり、産業が崩壊する
地点までの企業の生産曲線であり、行動基準になる。
 簡単に言うと、生産量が増えているにもかかわらず、売上(生産量×価格)が増えないのがデ
フレ時の現象である。
 また、生産量が増え、価格が下がっているにもかかわらず売上が増えるのが、好調な経済であ
る。
 さらに、生産量が増えず、価格が上昇し、売上が伸びるのがインフレ時の現象と言えよう。
 デフレ現象の特徴は、100円ショップの存在ということになろうか。付加価値の少ない価格
の安い物が市場にあふれながら、資本力の競争に敗れた企業から順次操業を止め、櫛欠けるよう
に企業が滅っていくのである。インフレ時の、物が市場から消える、売り惜しみする現象とは逆
になる。
 このことを把握しておかないと、名目GDPと実質GDPの逆転現象の中での、わずかな実質
GDPの伸びを景気が上向きであると勘違いしてしまうのである。
 現在、景気がいざなぎをこえたとか、神武景気をこえるかとか、非常に長期にわたり景気が回
復基調であると言っているのは、デフレが長期にわたり持続していることの証明に過ぎないので
ある。