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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
 第二十六章デフレにおける低金利は無意味


デフレの時、需要側の資金が増えないと生産高が増えず所得が増えない。
 貨幣の量とものの需給量が一定の割合で1対―である場合、所得曲線は45度線になる。横軸に生産量を取り、縦軸に資金量を取ると、生産量に比例して所得が増えて行くことになる。あるい
は、国民総生産物に対して資金が一対一になる線が45度とも言えよう。
 しかしながら資金量がものの需給量より増えた状態になると、生産物に対しより多くの付加価
値がつけられるので、あるいは付け易いので、生産量より所得が多くなり、所得曲線は45度線以
上の角度になる。
 逆に資金量がものの需給量より少ない場合、生産物に対し正当な付加価値以下の価格が付けら
れるので、所得は生産量より少なくなる。所得曲線は45度以下の角度になる。
 この45度の線の所得線とそれ以上の所得線、あるいはそれ以下の所得線の差が資金量の差(物



 
と貨幣の比率)を表している。
 また生産量の割に資金量が少ないと、所得が上がらない。それ故直線は45度以下となる。資金量が少ないと生産物に付加価値を載せ難いのでどうしても45度線以下にならざる負えない。さらに生産量を増やそうとしても、消費(所得)又は資金量に限度があるためさらに曲線が上がるこ
とはない。
 生産額がすべて所得となり、消費となる経済において(貯蓄がない)、お金の量が物の量より
相対的に少ない場合、生産量が増えても、適正な価格を生産物に載せられないので、所得が生産
の割に伸びないことになる。それ故所得曲線の角度が45度以下になる。
 物の価値と貨幣の価値が適正な場合、この場合生産量と同じように所得も伸びるので45度線に
近いものになる。適正な価値が生産物に付けられることになる。
 物の需給量より貨幣の量が多いインフレの場合では、45度線以上の角度になる。生産物に価格
を載せ易く、生産量以上に所得が増えることになる。
 インフレの時、資金過剰により、常に付加価値上昇圧力があるので、一循環毎に生産額より所
得が大きくなりインフレが続く。企業はお金分捕り合戦に主力を注ぐようになり、生産物や商品
に対する創意工夫より、簡単に価格を上げられる方法や、生産調整をして価格を上げようとする。
インフレは物の供給量が少なくなりそれを確保することが主要な問題となり、生産物や資産に価
格を乗せ易くなる状況を具現化する。消費者は、生産やサービスの割合以上に所得が大きくなる
ので、作った物はすぐ買われ、値段がどんどん上がって行く。ハートランドの生産の拡大が続く
と、労働が逼迫する。賃金の上昇はあらゆる生産活動に及び、あらゆる生産物の価格を本来の価
格以上に上昇させる。インフレの場合、資金量が伸び、需要が伸びても供給が増えない状態であ
る。この時、単に供給を増やそうとする政策を取れば、付加価値がすぐに上乗せされ、供給以上
に需要を伸ばす結果になる。まさしくバブル造成政策になってしまう。資金量をなんら制限せず
供給量を伸ばすことは、ただ単に価格を上げるだけである。それ故消費者に回る資金量を削減す
る必要がある。消費者の負担を増やし消費量を押さえる政策を取ることが肝要である。
 デフレの時、資金過小により、常に付加価値減少圧力があるので’一循環毎に生産額より所得
が少なくなって行く。それ故デフレが続く。企業は付加価値を減じた生産物を増やし売上を伸ば
そうとするが、思うように売上が伸ばせず、在庫増を余儀無くされる。消費者は、企業の売上減
から、所得減を余儀無くされ、ますます早く買わなくなる。




 デフレの場合供給が増えてもなかなか需要が伸びない状態だから、そこへ供給を増やそうとし
ても需要が壁となる。そして思うような付加価値を付けられず、たとえ売上量が伸びても売上額
が減っていく減少が起こりやすい。それがさらに所得減となり資金を減らして行くことになる。
 それ故デフレ時にお金を殖やす方法を供給側に持って行っても無意味である。生産量は増える
が、需要が増えないので企業は、付加価値を十分載せられず、さらに売上が伸びず、在庫を増や
す結果になる。それがリストラや所得誠につながって行く。あるいは他の成長している国の輸出
部門に投資されることになる。お金を貸すと言っても需要側(消費者側)は、所得が減少してお
り貯蓄もないので、お金を返す当てが無いから当然お金を借りない。また供給側(企業側)もお
金を無利子で融資してもらっても返さなければならないのなら、売上が伸びない可能性が高く、
返す当てがないので借りない。供給側にお金をくれてやっても借金返済に回されるだけで、売上
の上昇には結び付かない。
 しかし、需要側にお金を適切にやると確実に消費し始める。消費者側の負担減や減税すること
を意味する。デフレ時の消費者は実際に所得減を体験しているので、将来への不安が強く、所
得税の直接の減税をしても消費に結び付かない。お金が使えば得になるような政策を取らなけれ
ばならない。
 デフレ時に企業側に有利な政策を取っても消費が伸びない限り景気は上向かない。それ故デフ
レ時の政策の基本は消費者の負担減をもたらす政策である。
○取るべき金利政策
:低金利は、消費者側にとって貯蓄のマイナスを意味する。さらなる資金減を意味する。デフレ時に低金利政策を取ることはより一層デフレを促すことになる。
 生産者側にとっては設備投資がやりやすくなり、生産量を増やすことになる。しかし資金が減
っているためますます付加価値を乗せにくくなって行く。いわゆる資金を減じて生産量を増やす
ことになり、それは所得線をさらに下方に引き下げることを意味している。
 低金利は消費者側の預金を減らし、購買力を減らす方向に向かわせる。
 デフレ時の低金利は、企業側にとっては生産力増強や技術革新をもたらすが、全体の売上増に
単純に結び付かず在庫増になったり、他の企業を淘汰することに結びつきがちである。しかも各
企業は、内需が不活発であれば、その方向の設備投資や研究開発、市場開発をせず、需要の活発
な部門、主に輸出部門に投資することになりがちである。デフレでは、一つの企業の台頭や、強
力な技術革新は、他の多くの企業を死滅させ






 ある産業の躍進は他の産業を衰退させる。資金減の中での競争は、共存を許さないのである。
 デフレ時に供給側に安易に融資をすることは、さらに競争をあおり、淘汰を促し、よりデフレ
を深刻化するものである。
それではインフレの場合どうなるか。
インフレの場合の高金利はほとんど意味が無
い。このインフレの場合というのは、ケインズの
意味するところではなく、貯蓄量以上に資金が市場に出回った場合のインフレのことである。貯
蓄から市場に回る資金をすべて投資と名付けると、貯蓄額がすべて投資となり、さらに貯蓄を投
資が上回るところから歯止めの効かないインフレが始まるのである。ケインズは、貯蓄と投資を
均衡させることを命題としている。しかし投資が貯蓄を上回る状態や、借金が貯蓄を上回る状態
のことを言及しているものではない。
 高金利にすると消費者の預金が増え資金がさらに市場に出回り易くなる。
 企業は金利が高くなり、設備投資がやりにくくなり、生産量が減じることになる。そうなると
ますます付加価値が生産物に載せやすくなり、価格が上昇する。よりインフレになり、生産物の
少ないバブル的状態になり易い。このようなインフレの場合高い金利政策で押さえ込もうとする
のは無意味である。消費者の負担を高め消費を抑制するのが効果的である。日本の一九九〇年頃
のバブルを生じさせ押さえられなかったのは、増税を積極的にしなかったからであり、消費税を
上げるべきだったのだ。さらには、市場から資金量を減らし、土地を大量に供給すべきであった
のだ。国鉄の土地も資金を減らすことに成功していれば、売った方が良かったであろう。
 ここで明らかになったことは、デフレの場合、低金利政策を取ることや、インフレの場合にお
いて、高金利政策を取った場合、企業側と消費者側に違った効果が現れ、より悪い方向に導くこ
とである。
 インフレの際の高金利政策は、購買力をさらに増し、生産力を減少させより一層のインフレを
招く。デフレの際の低金利政策は、購買力を減少させ生産力を伸ばすように働く。それはより一
層デフレを深刻化させる。
 それ故、金利政策だけをなおも取るならば、インフレの場合預金金利を低くしたほうが効果が
あるということだ。
 これは驚くべき逆説だが、実際私も驚いた結論であるが、理論から導き出されるものである。
普通であるなら、貸し出し金利を高くして生産量を抑制して所得を減らし不景気を演出するのが





当たり前の経済政策であろう。しかし資金が物の価値より多く出回っているインフレ経済では、
資金量を減らしながら、生産量を増やしてやる方が、所得線の角度を減じられるのである。資金量を減じ、生産量を増やし、付加価値を乗せにくくすることにより、インフレが解消して行くの
である。
 ということは、デフレの場合逆になろう。私は初め、デフレの場合預金金利を高くし、企業へ
の貸し出し金利を低く設定するのが良いと考えていた。
 というのは、だれしも考えるように、借金の多い会社が金利負担から経営が困難になるのでは
ないか、そしてせっかく浮上してきた景気が逆折れするのではないか。と懸念していたからであ
る。そしてこの変則的な逆ザヤは日銀や銀行が持てば良いと思っていた。だがどうやら違うよう
だ。やはりデフレでは、高金利の方がデフレ解消に結び付くのだ。金利を上げて生産量を減じる
方向に進める方が所得線を上げて行くことになる。生産量を減らし、付加価値を適度に乗せる方
が、企業の赤字が少なくなるだろう。今現在の状況では、借金会社がかなり減ってきている。た
だ単に金利を上げた方が良いのだ。現在の日銀の政策(二〇〇六年五月)は低金利過剰融資政策
から転換したが、なお低金利を維持しようとしている。これは恐らく後世、間違った政策だと指
摘されるだろう。低金利の維持は悪戯にデフレ下のバブルを促進するだけである。
結論一デフレでは高い金利の方が効果的である。
 インフレやデフレに効果的なのは、消費者に直接負担増や負担減をもたらす政策である。イン
フレの時は負担をかけ、デフレの時は負担を軽減することだ。特に消費税は負担を掛けたり、軽
減したりすることに大きな効果をもたらす。デフレの時に消費税を掛けることは、強制的な労働
を強いるものであり民主主義の国が取るべきものではない。もともと税金というものは、所得曲
線が45度以上の状態の時に掛けることが望ましく、それ以下の時に税金を課するのは国民を隷属
的なものにするものであり、強制的な苦役に過ぎない。
 正常な状態での金利政策
 物の需給量と貨幣量が一定でバランスが取れている時に、貯蓄がないことを前提にした時。
 低金利による金融緩和は、消費者側の資金量を減らすことになり、購買力を減じる方向にはた
らく。しかし企業側にとって設備投資がし易くなり、生産量が増えることになる。よって所得曲
線に慟く力は平等であり、傾きを変えることはないだろう。また遂に高金利にすると、消費者の
購買力が上昇し、企業の生産量が落ちるように慟く。生産者側にも消費者側にも平等に働くので、



所得曲線は変わらない。この場合低金利、高金利政策は中立であると言えるだろう。
 物と貨幣の関係が正常で貯蓄のある場合、この場合の高金利、低金利の効果は従来から良く研
究されているのでここで言う必要はないかもしれない。
 ただ、この理論から言い得ることだけを指摘することにしよう。インフレデフレと決定的に違
うのは、所得線が45度線の近くにあり、貯蓄が存在し所得と消費の間に一定の比率が存在するこ
とだ。この場合貨幣価値と物の価値がほとんど同等である。
 しかも貯蓄の存在は、生産量より消費量が少ないことを意味している。貯蓄の存在はまた急激
な変化に対してクッション材の役目を果たしている。それ故低金利高金利は、消費者側の需要や
市場に出回る資金量に対して、確固とした反応があるわけではない。それ故高金利低金利は、も
っぱら生産者側の供給に影響を与える物である。貯蓄のある正常な経済は、供給者側が、所得ー
貯蓄=消費の総体に対して、生産量を調節することによって、均衡を導くものである。それ故、
資金が貯金の下限に近い場合は、供給側への資金注入である公共投資を呼び水にし、低金利にし
て生産者側の生産量を上げるのが良い方法である。逆に、資金が貯蓄の上限に近い場合、供給者
側への資金注入を減らし、高金利にして生産者の生産量を減じるべきである。それによって均衡
へと結び付く。正常な経済の場合低金利高金利の選択は状況に応じて実施すべきであり、どちらかを取るべきと言える物ではない。