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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
 第二十五章デフレと所得格差


デフレで格差が広がる理由
 インフレや正常な経済に比べて、45度線より角度が下がった所得曲線が支配する経済いわゆる
デフレ経済においてなぜ所得格差が問題になるのだろうか。インフレや正常な経済では格差が出
ていないのだろうか。
まずインフレとデフレの違いによる所得格差の表れ方
 お金が物の需給量より多く貯蓄以上に資金が市場に出回っている場合、すなわちインフレの場
合、お金があらゆる階層に豊富に存在し、一つのところの大発展が他のところのお金を減らすと
いう減少は起こらない。それどころかその大発展しているところの影響を受け、その周辺に資金
を増やす場合が多い。余剰資金が大発展している所に向かうがどこも資金が逼迫することがない
状態である。市場全体でお金が増えている状態なので、どこかの階層が大幅に増えても他の階層
が割りを食う事なく、それ以外の層もお金を相応に増やしている。しかし物に視点を移すと、他
の大発展は材料や労働力を大量に使うため他の部門の材料や労働力が逼迫し、価格を値上がりさ
せることになる。しかし同じように賃金も上昇しているので購買力が失われない。資金の増加は
国全体の所得を大きくする。それ故、最下層とトップの差が正常経済やデフレの場合に比べて大
きくなる。あらゆる階層に資金が流れ込む。その結果、所得格差が大きくなっても、最低層も以
前より所得が増えているので窮乏することがない。しかし所得の上昇に応じて物の価格が上がっ
ているので平価購買力は所得の上昇ほど伸びない。
 所得格差は民間企業間では、扱っている商品やサービスによって違ってくる。金融資産や土地
を扱っている業者、また相対的に過小な商品を扱っている業者が価格を上げ易いので徳をするこ
とになる。
 民間と公務員とでは、民間の方が所得上昇が早くなる、しかし民間に行く公務員がたくさん出
るので、公務員の労働力を確保するため、賃金がスライドし易い状態になるので格差は生じ難い。
税収増が非常に大きくなる。しかし予算を計上してもそのほとんどが土地資産や人件費に費やさ






れ満足なサービスを提供できない。
 人々の不満は、他の人の所得の多さより、物の価格の高さに向けられる。所得が下がらないの
で生活レベルの低減を実感することがない。誰しも所得が上がるので総中流社会という意識社会
が生まれる。しかし実際の購買力が増えた訳ではない。所得の上昇と共に生産物価格や資産価格
も上昇するので、所有物はあまり変わらない。
1.インフレの場合資金が豊富に存在するので、所得全体の額が増え、階層が非常に細分化し、
最低層と最上層との差は実際には、デフレや正常な状態と比べて非常に大きい。
2.どの層も所得が増えているので窮乏していると誰も思っていない。下流層が少なくなり、中
流や上流が増える。意識的な中流や上流が増える。
3.民間労働者は、第二線の労働者や公務員層に対して仕事の内容で不平が多いが、所得に対し
て不満が少ない。
4.階層に対する不満より物の値段に対する不満が増大する。
5.物の所有者に対してやっかみや不満が欝積する。容易に買えない上地の所有者、高額な車の
所有者、金融資産の所有者などに対してやっかみが増える。
6.実際の購買力はあまり変わらない。資金の過剰な社会は、所得も上昇させるが、生産物価格
や資産価格も上昇させるからである。過小労働でも所得が上がる。デフレでは、過剰労働でも所
得が上がりにくい。正常な場合では、労働の質、量に対してそれ相応の所得が得られる。
 インフレとデフレの商品価格と所得の関係は砂漠の蜃気楼のようなものである。百万のオアシ
スを買おうとして百万稼いだ時にはオアシスは百五十万になっている。そのくり返しである。デ
フレは遂にオアシスの価格が下がってもそのたびに所得が下がり手が届かないのである。
 デフレの場合すなわちお金の量が物の需給量より少なく、貯蓄以下に減っている場合、インフ
レの場合と全く逆の現象が生じる。
 この場合、資金が年々減少して行く。放っておいても来年の所得が減る。このような場合一つ
の産業なり企業なりが国内で大発展を遂げるとその産業や企業にお金や労働力、資材などが集中
することになる。その結果他の企業や産業から資金や労働力が移動することになる。インフレ時
の不足は、価格の上昇を招くが、デフレの場合、物や労働力の移動かおこなわれるだけで価格の
上昇はほとんど見られない。全体に物や労働力が余っているからである。全体の資金量が減って
いるので、一つのところの発展は、他のところの資金の枯渇を招く。激しいお金の取り合いが物





を通して演じられ、その結果儲けられる側と儲けられない側に別れ、負け組が非常な困難に遭遇
することになる。
 一部の上流階級と多くの下層階級に別れる。さらにインフレの時と違い起業の機会が少なくな
り、負け組と勝ち組が固定し易くなる。輸出輸入業など経済が好調な外国との交流がある産業が
得をする。所得が直接減るので、貯蓄が減り消費を切り詰めることになる。誰もが生活レベルが
落ちたことを実感し階層が下がったと考える。最貧層が打撃を受ける。人々の不満は所得誠に対
して非常に強くなり、不当な儲けに対し手厳しくなる。生活困難者が増え、自己破産、自殺、犯
罪が増える。将来に対する不安が大きくなる。
 デフレ時における具体的な格差要因
1.民間と公務員の格差
2.輸出企業と国内販売企業の格差
3.デフレによる国内需要の低迷による格差、
4.輸入代替品の増大による格差
5.量的緩和などの低金利過剰融資による格差
 この5つの格差が考えられる。このうちI、と3、4による格差がデフレ本来のものである。
5、は政策的な失敗による。
 1の格差、民間と公務員の格差は、所得曲線が45度線より以下に角度が下がると、民間の経済
はどんどん収縮し始める。縮小再生産に入りどんどん所得が減って行く。しかし公共のサービス
はそれに応じて減る訳ではない。各種補助金や不況対策により出費がかえって増え、税金や公的
サービスの料金が増えていく傾向になる。それ故たとえ負担が変わらずとも、ハートランドの経
済が縮小し民間の所得が減ると、民間の負担率が高くなっていく。民間の所得は経済の縮小に応
じて、減少するが、公務員給与は、経済の縮小とは連動せず高止まりする。
 それが公務員と民間労働者の格差を生み、デフレが深刻化するにつれ差が大きくなって行く。
政府や地方公共団体は、民間からの税収減から財政赤字が続き、赤字補填のためなお、税収増を
図ろうとする。それがさらに、第一線の労働者(なんら補助を受けずに付加価値を増やす民間労
働者、経営者)と第二線の労働者(税金や補助金から助成を受けたり、法律で守られている組織
の労働者、経営者)の格差を広げて行く。特にデフレに陥った経済では、第二線の労働者の労働
3権を認めることは、民間労働者との差を一層強める物である。公務員は支配老儒であり、民間
の資金を吸収する側になる。マルクスのいう労働者には入らない。公務員の労働3権は制限して




しかるべき物である。

2・輸出企業と国内企業の格差。
 国内の需要が低迷しているため、輸出に活路を求める企業が増える。中国等の外需活性化によ
って輸出関連企業が潤い、内需のみの企業が振るわない。それによって所得格差が出ている。外
需で潤う企業の労働者の賃金は下がらないが、国内需要を主な収益源としている会社の労働者の
賃金は低下する。また株式市場において、株価に国内企業の不振が反映され、外資や、株価の高
い会社に買われ易い状況を作っている。
 それゆえ、それ相応の内需がなければ、国内の産業別の賃金格差が激しくなる。デフレが長く
続くほど輸出入業者が有利になる。
3・デフレによる国内需要の低迷による格差、デフレは国内の消費のあり方を変えてしまった。
所得の減少は価格弾力性を非常に高くした。その結果、必要な物と不必要な物を的確に見分け余
計な物を買わなくなった。また高額品より低価格品にシフトしている。さらにITなどの最先端
品などの現在の必要な商品に需要が偏っている。また正常な経済に比べて高機能なサービスや機
械性能を持った高付加価値生産物が多くなる。デフレの場合消費者は、すべての商品を買う余裕
が無いので、ひとつ何か高額品を買うと他の物を節約する傾向がある。それ故デフレによる需要
低迷は、好調企業と不振企業がはっきり分かれ、勝ち組負け組と言われるような現象を生む。全
体の資金が滅っているためにこの差が大きく現れる。例えば最先端を行くパソコンや、携帯電話
などは他の需要を食いながら売上を伸ばしているといえるだろう。その時代の一番人々が必要と
している産業の一人勝ちになる。さらに高価格品を扱っている企業より、低価格品を扱っている
企業の方が有利である。
4・輸入代替品による格差、
 デフレにより需要が低迷すると、低価格品や付加価値の高い値頃品に需要が集まる。それゆえ
輸入品の下級財の代替品に需要が奪われてしまう。国内産業の輸入品に代わられ易い産業が落ち
込むことになる。
 輸入品に代わられた産業と代わられ難い産業との問で格差が出る。繊維産業などの労働集約型
の産業群は苦戦を強いられることになる。
5・量的緩和による低金利過剰融資政策は、輸出産業や、外国への投資をする産業や、国内の株
式市場に大量に資金が流れる政策になってしまった。最も必要である国内需要産業に十分に回ら



なかったのである。
 その結果輸出産業、多国籍企業、株式市場で人気の高い企業が潤い、その他の国内産業との格
差が生まれた。
 政府やその担当者がいかに言い逃れようとも、デフレによる国内需要の低減は、勝ち組産業を
さらに一層勝たせ、負け組との差を広げて行くのである。民間と公務員の格差も広がって行く。
それが資金が貯蓄以上に減少したデフレにおいては当然の成り行きである。貯蓄があれば格差は
幾分柔らかく調整される。しかしデフレのような貯蓄の少ない経済社会は、所得の多い少ないに
よって大幅に差ができてしまうのである。人々は少なくなった資金を物やサービスを通して取合
いをし、さらなる資金減少を招くのである。また縮小再生産は、公務員と民間の格差を広げる。
低価格品への需要転換は輸入品の増大をもたらし国内産業を窮乏化させて行く。これがデフレ下
でのありふれた状況である。さらに輸出産業の奨励は、国内の低迷により、より一層その飛躍が
明らかになり、その外需で稼いだ資金は投資資金となって国内に還流している。その投資資金は
より有利な外貨に流れたり、輸出関連企業の株式や設備投資に回され、最も回ってほしい内需部
門には回らない。資金がなかなか国内のハートランドに還流しないので、それがミニバブルのよ
うな現象を株式市場や一部の土地の上昇にもたらしている。今年も2006年の土地の公示価格
が発表されたが、一部で顕著な上昇が見られたが、全体では下がっているところがほとんどであ
る。デフレか否かの判断は、全体の土地の資金量が増えたかどうかで判断できる。全体の資金量
が減っているのであれば、よい土地に資金が流れ、他の地方の資金が滅ったことによる。単に資
金選好が起こっているに過ぎない。
 日本の量的緩和政策は無駄に資金が株式市場に流れ、さらに外需を基礎にしている輸出業者に
流れ、彼らの外国で稼いだ資金が国内に還流し、ミニバブルとなってしまった。以前のバブル時
代のインフレ時のバブルではなく、デフレ時のおけるバブルになっているのである。デフレ時に
おけるバブルは貯蓄が少ないゆえにすぐにハートランドの生産量を上回る資金が市場に出回った
のである。
 これからの政策は、株式バブルを押さえながら、如何に資金を内需に還流させるかにある。
 いまだ増税論議がかまびすしいが、ここで増税することになるとどうなるか。まず政府は完全
にデフレの罠に引っ掛かったことになる。赤字補完のために民間の資金をさらに吸収するという
暴挙に出るのである。
 さらに一番吸収すべき外需で潤う企業より現在内需で苦しんでいる産業や中小零細企業に大き
な影響が出る。勝ち組の輸出企業や公務員は影響が少ない。
 政府が今考えている消費税の10%税率は今苦しんでいる産業を直撃する物であり、負け組をよ
り負け組にする物であり、勝ち組の影響はほとんどないであろう。