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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
 第二十四章小泉政権の内政の失敗

小泉首相が政権を取る少し前からデフレが本格化し、デフレ循環が始まり出した。これに対し
小泉政権は、今までの財政出動による上からの公共投資を抑え、主に金融緩和によるアメリカ型
の供給重視政策をとった。公共投資を削減したことは、一つの英断であった。今までの政権がい
たずらに補正予算を組んで景気浮揚策を取って来たが、借金を増やすばかりでハカバカシイ効果
を上げることができなかったからだ。
 しかし小泉政権ができたころはすでに顕著にデフレ循環に入りつつあった。それ故需要を喚起
せずぃすなわちデフレで最もしなければならない需要を増やし企業の売上を伸ばすことをせず、
供給サイド重視策を取り、なおかつ金融システム強化するために金融機関の不良債権処理や合併
策を取ったことは、デフレを急速に深刻にし、日本の経済をここ三、四年の間にどん底にしてし
まった。現在はその踊り場にあり、もうこれ以上生活水準を落としたくないため貯蓄を取り崩し
ている状態である。また中国需要などの外需の僥倖もあって、少しはましなように見えている。
 これに対して新聞などの論評は概ね良いようである。しかし問題の解決には程遠い所にある。
 外需に対する輸出で稼いだ資金は主に輸出部門やあるいは投資資金として流れ、肝心のハート
ランドに均等に広範囲に回らず、業種により、よりデフレが深刻化している所もある。少なくと
も日本の基幹であるハートランドに十分な資金が行き渡っていないと言い得る。
 我々が望んでいるのはデフレ解消策であり、デフレ対策ではない。小泉政権の取る政策はデフ
レ対策であり、解消策には程遠いものである。
 小泉政権は、最初に少し辛抱すれば景気が良くなると言って
いたが、これは最初の政策段階から失敗が明らかであった。
1.供給サイド重視
2.金融機関の合併不良債権処理の仕方が、これは最初の政策段階か

3.低金利による過剰融資でインフレを起こそうとする政策
4.構造改革の失敗

最大の政策失敗は、1.の供給サイド重視策にある。アメリカの経済復活を猿まねし、IT産



業に投資し経済構造の変革を促そうとしたものだ。
 アメリカは、日本と違い工業製品の輸出が減り、農業は比較的強いが、製造業は日本などの追
い上げもあり、弱体化しつつあった。
 そこでアメリカは白身の製造部門を復活させ、また新しい産業を興すために、供給側すなわち
製造部門に思い切った投資を行ったのである。それがアメリカの産業構造を変え、IT産業の隆
盛と共に息を吹き返したのであった。
 これに対し日本は、特に製造部門は、国内需要を完全に満たし一九九〇年前後より洪水的な輸
出で世界の市場を席巻する勢いであった。日本の中小企業を中心とした産業経済基盤は、何層に
も重なり、複雑に張り巡らされたネットワークは、最強の生産システムとして機能していたのだ。
これに対して農業部門は脆弱であり、金融部門のネットワークはアメリカなどの個人投資家の多
さに比べて見劣りするものであった。
 日本のデフレはあきらかに不動産資産の急激な価格下落が大借金をもたらし、それへの返済か
ら大幅に資金量を減らしたことから始まっている。戦争などによって製造部門が崩壊したわけで
も、空襲によって社会資本が粉砕されたわけでもない。それにもかかわらず、供給重視策をとっ
たのである。お金は各種の補助金助成金の名目で、企業に流れた。しかし企業がほしかったのは
売上増であり、個人の需要増であった。その結果各企業は積極的に、様々な設備投資や研究や、
構造改革をした。しかし国内の需要が伸びないので、供給側にいくら力を人れても、デフレは買
い手市場なので需要額以上に供給は伸びるはずがないのである。
 供給サイドの資金は、デフレ解消に向かう事なく主に海外への需要に対する設備投資や直接投
資に向かってしまったと言えるだろう。デフレ解消のためには需要対策が必要なのだ。消費者に
対する癒しが必要なのである。
 また2.の金融機関の不良債権処理も異常な政策である。これは金融機関の信用を高めるため
だけの政策であり、産業を形成する企業に対して何ら寄与しないやり方であった。本来銀行は信
用創造によりお金を市中に回して資金量を豊富にしなければならない使命を持つものである。特
にデフレの場合、資金量の継続的な減少が続くのだから、資金の市場から引き上げはデフレの深
刻化を意味する。政府のやったことは、金融機関を合併し貸した資金を企業から引き上げる体力
をつけさせ、不良債権を処理することであった。そのもくろみは成功したが、日本のハートラン
ドは萎縮した。本末転倒の政策である。確かに不良債権の処理は、銀行の健全な貸出を再構築す
るために必要であったが、このような民間企業を犠牲にするようなやり方は、いびつな政策であ
り、禍根を残すものになった。自己破産や自殺者が増えたのである。企業の売上が伸び、貸し出




し金額が増える政策を取るべきだったのだ。
 あくまでも民間企業の売上を伸ばすような需要対策を施しながら、不良債権処理をするべきで
あった。
 この結果日本の産業の根幹をなす付加価値を生む土壌すなわちハートランドの何重にも重なっ
た層が少なくなり、その幅も資金が引き上げられた結果、狭まり貧弱になって来ている。日本は
この産業の中核土壌を失えば、これから先、永遠に復活することはないだろう。
 3.のインフレ目標を掲げた低金利政策は、需要の喚起がなければ、無意味なものである。
 今日本国内には優良な投資先がなく投資乗数が非常に少なくなっている。これは日本国内の需
要が一向に回復せず、さらに厳しくなっているからだ。こんな時、いくらポンプでお金を低金利
で押し付けても誰も借りない。返すような投資先が見つからないからだ。多くの金が外需に回り、
また外需に対する設備投資に回っているだけだ。しかもこの低金利過剰政策は個人需要を減退さ
せ生産量を増やすデフレ促進策になっている。
しかしながら低金利による法外な過剰金融は、貸し剥がしに対する倒産などを少なくし、一応
の経済の危機状況を緩和させて来たのは事実であろう。しかしこの反動がどのように出るのか油
断はできない。特に日本がデフレから脱出しかけの時の反動が非常にこわいと思われる。すでに
デフレ下での株バブルの兆候が見て取れる。輸出の増加は資金が投資に流れ、内需に向かわず、
また内需を伴わない金融緩和は、資金を株や外資、外需用の投資に向かわせている。日銀は当座
残高にこだわっているが、そこにこだわる理由は全くない。いつでも資金が融通できるように企
業が初期の景気浮揚段階で必要な資金を滑らかに融通できるだけの資金を用意するだけでいいの
である。金融を引き締めてはならないが、インフレ目標など必要ない。金融緩和だけでデフレの
下ではインフレにはならない。
 このことはここ四年の政策で明らかになっている。金融緩和はデフレ解消にはなんら意味がな
く、ただ資金繰りにあえぐ企業を生きながらえさせ危機を緩和させているに過ぎない。そしてデ
フレを長引かせているのだ。
4.……失敗した構造改革−。
 間違った構造改革に変貌。小泉政権の産業に対する構造改革はどういったものをイメージして
いたのであろうか。





 公的機関や公的な仕事を民間に委託したり任せたりするアウトソーシング的なものは、日本道
路公団、郵政民営化などにより進んでいるが、公的機関の構造改革の行き先はよく見えるが、産
業構造の行き先は、間違った方向に進んでいるように見える。
 一九九〇年頃、集中豪雨的な輸出と海外から恐れられ日本は海外需要に依存しない自らの内需
によって立つ産業構造を目指していたのではないか。
 しかしここにおいて日本の産業構造は再び外需に依存したものに、急激に変わりつつあること
だ。それも非常に脆弱なものに変貌している。以前の日本は、内需も旺盛であり、その設備投資
の余剰のようなもので輸出を活発に行っていた。内需も好調であり、輸出にも対応できる柔軟な
構造であった。しかし今の現状は内需が期待できず、その結果、外需に頼らざるを得ない状況に
なっている。設備投資自体も初めから外需を意識したものであり、国内での販売を考えたもので
はないものが多い。内需を期待できない発展途上国並の経済になりつつある。その結果、日本の
中核的な産業基盤が脆弱化しつつある。後十年もこの状態が統けば日本は先進工業国家群から脱
落していくだろう。
 明らかに小泉政権の取った低金利過剰金融政策は、内需を減らしてしまい、供給重視策取った
ため多くの企業は外需を目指さざるをえなかった。意図せざるとも輸出強制策を取ったのと同じ
ことだ。企業への低金利融資や各種助成金は輸出に、また海外進出に貢献した。今政府の意図せ
ざる輸出強制策が中国の思わぬ需要増によって逆に救れているだけである。これが次の年度も
続くとは限らないだろう。輸出による還流資金を積極的にハートランドに回す政策が必要である
(図I参照)。