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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
 第二十二章消費税の上げ下げの影響、それは現在の日本にとって天国と地獄の差


現在の日本の状況(2005年8月)を、もうー’度、おさらいしよう。約五年ほど前、小渕内
閣の後、森内閣ができたころより、経済はデフレ循環が顕著に表れ始めた。その後の小泉政権は、
莫大な借金をつくった公共投資に頼った経済政策を取らず、主に金融政策、低金利、過剰金融政
策を取った。しかしこの政策は、借金にあえぐ大企業の延命と銀行の救済に効果があっただけで、
本来のデフレ解消策には何ら効果がなかった。言い換えると通常預金者が手に入れられる金利を
銀行に回し、銀行がデフレに対処できるようにしたのである。銀行を企業から貸し剥がしできる
ような体力をつくったのである。さらに内需を見殺しにしたため多くの企業が内需を見限り、外
需を求めて活動した。そこに中国の経済活発化により思わぬ僥倖を得たのである。
 しかしこのような政策は、肝心のデフレを解消し正常な経済に戻すものではなかった。日本を
輸出を主体に内需の弱い発展途上国の経済にしたのである。ここ五年ほどの恐るべきデフレの下



降圧力は、日本経済を三年ほどで一応の最下点に着けてしまった。これ以上生活レベルを落としたくないため、貯蓄を取り崩して生活を維持している状況の踊り場がやってきたのである。しか
しこれはデフレの状況にある場合、ある時点の底に過ぎない。正常な循環から来る底とは違うも
のだ。さらに低金利金融緩和策は、国内の個人消費を抑え、企業の生産を促すものであったので、
企業に輸出ドライブが掛かってしまった。外需による生産量が増えたのだ。国内は消費額以上に
供給は伸びなかったのである。この点をはっきりと政策担当者は認識しないといけない。二〇〇
四年の後半から外需による需要が増え生産量は増しており、少し好転して来たかのように見える。
しかしながら国の借金は増え、貸し出し残高が減っている。消費の顕著な指標である小売の販売
高は減少し、名目GDPは一向に上向いていないのだ。国の財政はますます悪化している。これ
が今の日本の状況だ。
 デフレはこういうとき、政府に借金を返すよう仕向ける罠を仕掛ける。増税して借金を減らし
均衡財政に戻せという号令だ。
 こういった状況で・消費税を上げると、どういうことが起こるか。
第1消費税を上げるということは、商品価格を上げるということ
 普通デフレ状況では、特に所得曲線が45度線以下にある場合資金量が減少、消費より常に生産
高が多い状態である。この時企業は激烈な競争を繰り返し、少しでも自家製品を売ろうと、しの
ぎを削る。こんな時、価格が上がることは普通あり得ない。
 企業は自己の利益を削り、付加価値を減らして、価格を下げ、リストラをし、企業の存続ギリ
ギリまで努力をしている。それでも最終的にどこかの企業に不良在庫が残ることになる。こんな
時、市場の脈絡と何の関係もなく、消費税を2%なり3%なり上げられると今までの企業努力は
無駄になり、今以上に消費額が減り、生産高との差が大きくなり、価格競争がさらに激しくなっ
て、損益分枝点を下回る企業が続出し、倒産・廃業が増えることになる。現在のデフレ状況では、
ほんのわずかな価格上昇がどれはどの市場収縮をもたらすか分からない恐ろしさがある。市場と
何ら関係のない消費税の引き上げは、単なる資金量の市場からの減少となって、現状の不安定な
所得曲線をさらに下にシフトさせるものである。大幅な供給減を招くことは明らかである。
 また消費税の引き上げを消費者の側から見ると、可処分所得の減少でもある。例えば所得十万
円の人に消費税7%が掛かると七千円を政府に持っていかれ、残の九万三千円か使える額になる。
人は使える額が減ると、より安く買えるものを買うか、必要のないものは買わなくなる。消費者
の選別が激しくなり、各企業はさらに苦しくなるだろう。しかし現在の日本が一番気にしなけれ




ばいけないことは、ほんのわずかと為政者は取るかもしれないが、ローン返済が多いギリギリの
生活者にとっては、ほんのわずかな所得の減少が、ずっしりと重く肩にのしかかり、破産者が大
量に出る恐れがあるということだ。
 それは消費者側だけでなく、生産者側でも発生する。損益分枝点で、会社の資産を換金しなが
ら、または食いつぶしながら、あるいは自己資金を会社に投入しながら、ギリギリまで営業を続
けていた企業に、とどめを刺すような売上減が生じることになる。
 残念なことにこのような破産者たちは、ハートランドの基幹として働いていた精鋭であること
だ。落ちこぼれではないのだ。消費税の引き上げは大量に、彼らを退場させるであろう。
 また消費者の価格に対する敏感さは今までの景気の状況の類ではない。生産者が生産要素を購
入する際の価格やサービスに対する敏感さもこれまでとは根本的に違う。いわゆるお付き合いで
少々高くても多少買って顔つなぎをしておくということがなくなったのである。価格で少しでも
負けると、何%下がるとか言うのでなく、零、無くなってしまうのだ。
 デフレの場合、45度線以下の場合、価格の上げ下げの1単位に対して常に生産量、または販売
量がー以上かそれ以上に反応する。価格弾力性が高い、価格に敏感とはそういうことだ。
 価格の変化の割合より以上に販売量が大きく動く。
 それゆえ価格のわずかな上昇すなわち消費税の上げは、予想以上の販売額の減少をもたらす。
あるいは販売額がゼロになる商品も出るだろう。
 消費税の例えば1%の上昇は、売上を1%以上押し下げる可能性が大きい。もっと押し下げる
可能性の方が大きいであろう。消費税の増税は、日本の突然死を招く可能性が大きい、あるいは
それに対する馬鹿げた対策を過度に取らなければならなくなるだろう。
 消費税のアップは、単に売上が減り消費税額が減るだけでなく倒産企業や、赤字企業が増えて
法人税収入も少なくなってしまう。政府の財政の立て直しができないだけでなく、所得がさらに
減るという悪循環を再びもたらし、ようやく踊り場に来た経済を、またも衰退させるのである。
これが際限なく繰り返されるのだ。まさに蟻地獄に勝手に転がり込んでいく愚行が現在の日本の
経済状態での消費税率の引き上げである。
 このようなデフレの時ほど政府の力量が試される時は、ないであろう。
第2消費税を上げるということは資金を市場から政府が取り上げるということ



 これは、資金がさらに減ることを意味する。もっと悪いことは、消費と生産の循環であり、付
加価値を生み出す産業基盤から、すなわちハートランドから資金を奪うことになるということで
ある。この奪われた資金が赤字補填に回されると最悪になる。何らハートランドに還流されない
からだ(図K参照)。
 本来なら消費を通して企業に入る収入が政府によって無理やり失われ、その結果、所得減から
消費の減退を招き、企業の売上が減ることになる。
 たびたび政治家が□にする言葉に、消費税の増分を年金に回すというのがあるが、これも同じ
くハートランドから資金を奪うことには何ら変わりがない。消費税で奪われるか、年金保険料で
奪われるかの違いに過ぎない。どちらも今の資金量を奪い将来に回すというものだ。今をさらに
悪くして将来は見えてこないだろう。年金の政策自体が、インフレもしくは所得曲線が45度線以
上の上にある場合に合理性のあるものであり、45度線以下の場合にはどのようにいじっても整合
性のある対策は取れないものだ。
 ハートランドからの資金減少は、さらに生産の縮小を意味する。
 デフレの消費者行動は、価格の変化に対して極めて大きな変動を起こす傾向がある。

 消費税を上げるということは、商品価格を上げることである。ここ何年かの所得減少は、確実
に個人貯蓄を減らし、また貯蓄を満足にできない人たちが増えている。今まで中流と思っていた
人たちが、下流の範疇に人って来ているのである。こういった時消費税を例えば2%上げた場合、
その反動でそれ以上の売上の減少を招くことになる。2%消費税を上げ売上が5%下がったらど
うなるだろうか。税収が下がることになる。それでは消費税を下げるとどうなるか。それは先ほ
ど書いた消費税の上げと、逆の減少をもたらすことになる。ハートランドに対する資金導入とな
る。
 消費税を下げるということは、価格を下げるということだ。この場合、企業にとっては、何ら
努力することなく、付加価値を減じることなく生産物価格が下がることになる。たとえその企業
の販売量が変わらなくても今までの分が売れただけで企業は売上を増やすのである。
 消費者にとっては、可処分所得が変わらずに消費する量が増えることになる。
 デフレが長く続くと今まで富裕そうであった人たちの所得が減じ、低所得者層が増えていく。
低所得になると貯蓄をする余裕がなくなり、所得のほとんどを消費に回す家庭が多くなる。そう
いった状態の時、消費税が下がり、その分、可処分所得が増えると、増えた収入のすべてを消費
に回すことになる。その消費分か各企業の売上増となり企業の資金増となる。これはハートラン
ドの内部に広範囲にわたり、平等に起こり、初めはほんのわずかなものであっても、その循環の
取引が何度も繰り返され、拡大再生産の循環に人っていく。
 恐らく日本の今の現状であれば、消費税を2%下げて、3%に戻す方が税収は増えるであろう。
なぜなら売上が2%以上伸びる可能性が高いからだ。消費者の価格弾力性が高い状態では、価格
の1単位の減少に対してそのリバウンドがより大きい。販売量が1以上増えるのである。これが
各企業の売り上げを増やし雇用量も増やす。おそらく消費税2%減少に対して、売上が2%以上
上がり、消費税額自体も増える。そして黒字の企業も増えるため法人税収も増えるだろう。これ
がデフレ解消のきっかけとなり、日本は再び軌道に乗り始めるであろう。
 消費税の上げ下げは、日本の命運を決める可能性があり、現在の為政者や政治家の考え方では、
悪い地獄にもって行きそうである。八年ぐらい前の橋本内閣の折、消費税を3%から5%に引き
上げたが、その結果は九兆円の消費税収と九兆円の法人税減収により効果がなかったはずである。
それよりデフレが進んでいる現在において、消費税を上げることは、税収を減少させることにな
ることは明らかであろう。それより怖いのは、ハートランドの企業が著しく疲弊し、世界に冠た
る日本の企業群が死に絶えることであろう。
 どちらを選択した方が良いかはすでに明らかだ。
 今日本に必要なのは45度線を上に引き上げ、税収を上げることだ。消費税の減額はこれを同時
に達成するであろう。