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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
 第二十一章インフレ時における景気対策は、なぜデフレ下では通じないか


所得線が45度線上にあるインフレの時、景気循環や、商品の一巡により一時的な景気後退が起
こっても、資金量が大幅に減るというようなことはなかった。例えば戦争などで、生産手段が破
壊され、長期にわたり供給量が減ってしまうということもなく、また土地の資産価値も一時的な
もので、長期に渡り減り続けることはなかった。また株や公社債も結局は元に戻ることが多く、
総じて潜在的な資金量の減少は生じていなかった。また広範囲に渡り資金量が減ることもなかっ
た。
 それゆえその対策も、低金利政策などの投資や消費を促す誘導的なものでよかった。失業対策
も次の雇用までの繋ぎ資金でよく、雇用者と企業との能力ギャップを補うような職業訓練で十分
間に合っていた。また消費者と製品とのギャップも企業減税や研究促進のための補助金助成で十
分であった。
 しかもその対策も、買いオペ売りオペに代表されるような金融機関同士の調整で事足りていた。
それはあくまでも、一時的な供給需要ギャップを埋め合わせるものであった。
 しかしバブルと言われた日本の株や土地資産の投機的な価格上昇は土地本位制と言われた銀行
との兼ね合わせもあり、その崩壊は、急激な上地資産、株価の減少をもたらし、莫大な借金をこ
しらえるに至った。
その借金の返済のため、企業や個人は稼ぎを投資や研究費より借金の返済に回し、所得は貯蓄や
消費よりローンの返済に回されることになったのである。その結果が企業の売上減となって表れ、
所得減となった。それがさらに企業や個人の資産の投げ売りにつながり、日本は広範囲にわたり
大幅な資金量の減少にみまわれた。
 その結果、日本全体の資金量が大幅に減ることになった。金融政策はもともと潜在的な資金を
市場に適切に呼び戻すものである。資金量が大幅に減っていないという条件の下での政策である。
このような資金量が大幅に減り、市場に出回る資金量が供給量より減った時、生産者に資金を回
しても景気の復活にはつながらない。日本の上部機関がこの資金量の大幅減というものの理解が
足りず、普通の景気循環と同じ政策をとり続けたこと、それが日本経済を完全なデフレ状態には



うり込んだ原因である。
 これは今までの日本経済が戦後失われた製造手段の復活のため傾斜生産方式を取って来た結
果、繁栄をもたらしたことに起因していると言えよう。供給量を増やすことこそが、また輸出が
増えるような研究や商品開発こそが、当時の課題であったからだ。日本も戦後五十年も経つと必
需品は誰でも普通持っている成熟した消費社会に変容していたのである。この時に著しい借金増
に起因する需要減退か始まったのだ。日本の経済の中核である生産システムは無血であった。当
時世界から集中豪雨的な輸出と言って嫌われていたのである。それなのに政策担当者が取った政
策は、さらなる供給強化策のようなものであった。需要の創出に対して何ら効果のある政策を取
らなかったのである。
I.ケインズばりの財政出動による公共事業政策、これは何度も行われた。これはある一定の景
気の下がり具合を鈍化させる効果を持っていた。初めのころはまだ経済も下がり始めであり、投
資乗数、消費乗数とも結構良かったからである。しかし後になるにつれて効果が少なくなってい
った。本格的なデフレがやってくるにつれて乗数効果が表れ難くなってきたのである。市場に回
る資金量が減り続けた結果、貯蓄以上に資金が減り、消費が供給を下回ってしまった。それは、
土地価格のすさまじい値下がりにより生まれた借金が市場への資金を枯渇させ、政府の投下した
資金と乗数効果以上の資金減少を招いていたからである。結局その公共事業に突っ込んだお金は
大借金として今も我々の肩にのしかかっている。
 この公共事業対策は、主に建設業などの負債の多い事業分野に投下されたので、ほとんど借金
返済に回り、所得の増加に結び付かなかった。またハートランドヘの需要には何ら波及効果がな
かった。
2.所得減税。短期の所得減税は、日本人の貯蓄指向の強さから消費に火がつかず、単なる借金
になってしまった。ハートランドヘお金を回すためには、使えば得になるようなものでなければ
効果がないのだ。例えば消費税減税、有料道路の代金引き下げ、公共料金の引き下げ、ガソリン
税の引き下げなどこのようなものの引き下げが、結局ハートランドに薄く幅広く需要をもたらす
ものになるのだ。
 度重なる減税や補正予算による経済刺激策が功を奏さなかったのは、ひとえにハートランドヘ
の需要刺激策がなく、お金がハートランドの市場出に回らなかったからだ。
3.借金というものは単に我々が背負っているのではなく、返していかなければ少なくならない
ものである。四十五度より下がった所得曲線の形を、もう一度思い浮かべてほしい。この曲線が
下に角度が振れれば振れるほど、すなわち借金が増えて負担が増えるほど、私たちは所得にくら
べて生産量を多く増やさねばならないのだ。ここ最近で生産量が飛躍的に伸びるような技術革新
や発明は見当たらない。にもかかわらず政府は民間産業に生産高増強を追っているのである。
 ケインズ型の経済政策は、借金を増やして供給を増やそうとするものである。それは日本のデ
フレにおいては、需要に対する資金を抑え、所得曲線の角度を下に押しながら生産高を増やそう
としているものである。思いっきりブレーキを踏んでアクセルを吹かしているようなものであろ

 四十五度線より下に角度が振れた所得曲線は、需要を引き上げた方が近回りであることを顕著
に物語っている。