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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
  第十八章石油価格の高騰

輸入品素材価格の上昇は原油の高騰に代表される。日本は原材料を輸入して、それを製品にし
て販売する工業生産国である。原料をほとんど国外に頼っているので、原油の高騰は日本経済に
とって非常に重要な影響を及ぼすものである(図FGHI参照)。
○石油ショックと狂乱物価当時と現在の違い
 石油価格が当時以上に上がっている。しかし当時と同じではない。日本が、石油価格の高騰に
一喜一憂しなくなっているといわれている。それも確かに一因だ。しかしデフレによって消費者
心理が変わってしまったのが大きな原因である。物価の値上がりに対して買いだめして対抗しよ
うとしない。買いだめするほどの余裕がなくなっているのだ。省エネが徹底され、石油価格の高
騰がすぐに価格に大幅に跳ね返ることもなくなっている。しかし当時との一番の違いは、石油の
高騰があらゆる国内商品を高騰させる起因なったということだ。石油ショック以後、価格体系が
大幅に変わった商品群もあった。しかし今はどうだろうか。三十二年前当時、狂乱物価と言われ
るほど消費物価が上がったのである。しかし、現在消費者物価が上がったという話はあまり聞か
ない。ただし平成五年の秋口から既に素材産業の大手は値上げを実施している。もし三十二年前
と同じような状況なら、もうすでに価格に転嫁なされていいはずだ。しかしまだ行われていない。
その一番の違いは、製品に価格転嫁できないことである。企業は消費者の価格に敏感に反応する
行動を恐れ値段を上げられないのだ。それほど消費が停滞していると言えるだろう。それゆえ、
企業は製品に価格を転嫁できず、自らの資本を食いつぶしている。企業部門は原油の高騰という
素材価格の上昇と、消費者の買い控えにより、上からの圧力と下からの圧力で、より資金を流出
させ疲弊し、資本力の足りないところから倒産していくのだ。
 今の状況を見ていると、前の石油ショック当時は大幅に製品価格が上昇し、消費不況に陥った。
それによって調整されたのだ。しかし今回は少しは価格に反映されるが、企業が望むほど価格が
転嫁されず、消費不況と言われる状態は起きない。デフレ不況にあって消費不況が起きないとい




う表現もおかしい話であるが。少なくとも価格転嫁によって消費が折れてしまうほど価格が上昇
しないという意味である。本来消費不況になる方が適切な経済と言えよう。ゆえにわずかな価格
上昇をしながら小安状態で表面は進んでいるように見えるが、内面、日本国内の産業はさらなる
苦境に追い込まれていくことになる。企業はさらに付加価値を滅らし倒産や廃業に追い込まれて
いく

現在実質GDPが少しながら伸びて
いる。これは原油という輸入素材が値上がりして生産経費
を増やしているから、それが統計に反映して実質GDPが伸びるのは当たり前のことなのである。
問題はスーパーマーケットや百貨店、コンビニ等の小売の売り上げが伸びるかどうかなのである。
すなわち名目GDPの値が伸びているかどうかである。さらに実質GDPを伸ばすのは外需を頼
りにした輸出製品の製造である。ここ最近は中国特需などで調子がいいので実質GDPに反映さ
れている。しかしこの外需もそもそも政府の内需切り捨て策によって、企業が内需を見切って外
需にやむをえず変えたものである。それが今、運よくGDPを支えているに過ぎない。
 デフレ下の原油価格の高騰は、国内経済をさらに深刻化させるだけであり、ハートランドの危
機である。
 今後石油製品の価格が上がり、消費者物価が上がったとしても、消費が増えたかどうかによっ
て景気判断を見極めるべきだ。
 実質GDPの伸びは、原油価格の高騰による経費の増大か、あるいは外需の生産量の伸びだ。
外需の生産高の伸びは資金の増加を期待できる。しかし外需による国内の資金増加は、国内消費
になかなか反映されない。
 実質GDPの伸びだけを見て、このようなデフレ特有の現象を、日本はかつてない長期の経済
成長を遂げているとか言うのは、もう止めよう。岩戸景気を抜いた、神武景気が云々も、名目G
DPが実質GDPの下をはい回っている現状では何の意味もない。日本のようなデフレ経済では、
実質だけで判断するのは誤りである。名目を重視すべきなのは当然のことだろう。
 また石油製品の価格が値上がりし、それによって消費者物価指数が上がったとしても、それだ
けでデフレが解消しているわけではない。
石油製品の価格の高騰をもって、もはやデフレではないというのはお粗末であろう。
 国内の生産物に、石油製品の値上がり分をうまく乗せられるほどの資金が存在してこそ、デフ
レの解消がなされるのである。