目次に戻る 

次ページに進む

  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第十七章素材価格の高騰とデフレ

   
今の日本のデフレの現状において輸入素材価格が上昇するとはどういう意味を持つか。
 簡単に言うと、日本全体の資金がその高騰した輸入品に回り、その分日本のマーケットに投下
されたであろう資金が減少することになる。
 イメージで説明すると、水槽の底に下水板が入れてあったとしよう。水槽の底から下水板まで
の間が輸入品の部分とする。水の量が全然変わらずで、下水板だけが10cmほど高くなったと
すると、下水板の下の水の量が増えたことになる。すなわち輸入品素材の部分が価格が高騰し増
えたのだ。しかし逆に下水板の上の分は、全体の資金量が変わらないので、少なくなる。輸入素
材に対して資金がより使われ、国内の資金が輸入素材に費やされたのである。(図H参照)
 それは日本国内の資金量がさらに減ることを意味し、製品価格への転嫁が非常に難しい状況で
あることが分かる。



 デフレは価格の低下が続くのが本質でなく、資金量が市場から減り続けることによって、供給
過多になり激しい販売競争が生産物価格を下げていくのである。素材価格の高騰により、日本国
内の資金が奪われるなら、なおデフレが続いているのであり、消費者物価指数が上がったからと
いってもデフレの解消ではない。
 輸入品価格の高騰は、さらにデフレを深刻化するものになる。素材価格の上昇は他の製品価格
に転嫁していくが、資金量が減少し旺盛な需要がない経済では製品価格の転嫁が難しく、企業は
自己の付加価値を減じざるをえなくなる。その結果、商品価格を上げることもできずハートラン
ドの企業群は、普通であれば同じ資金で購入できたであろう資金では足りず、余計なお金をより
多く、価格上昇した素材に投入しなければならない。各企業は乏しい持ち金の中からさらに余計
に素材価格に資金を取られるわけだ。それゆえ各企業はそれ以外のものをさらに切り詰め、さら
なる買い絞り、仕掛かり品の在庫減らしをしていくことになる。
 輸入素材価格の上昇により、製品に価格が転嫁され、価格が上昇するが、資金が市場から減り
続けている限り、あくまでもそれはデフレ下の価格上昇であり本来の正常な経済の価格上昇とは
異なるものだ。
 輸入素材価格の上昇が長く続くことは、日本のハートランドをさらに疲弊させることになる。
所得などの増加がなく資金量が増えない場合、各個人は所得が減り、価格弾力性が非常に強くな
っている。それゆえ製品価格のわずかな上昇であっても、販売量が大幅に下がる可能性があるの
で、各企業はなかなか価格を上げることができず、企業自らの付加価値を減じて販売しがちにな
る。また消費者は価格が上昇した製品が必需品である場合、それ以外の商品を切り詰めるように
行動する。
 このようにデフレ下での製品価格の上昇は、売上の上昇をもたらさず、所得が上昇することも
ない。各企業においては、さらなる利益率の低下を招き、それが新たなるリストラの引き金にな
る。損益分枝点以下になる企業は倒産するか廃業することになる。