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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
     第十六章公務員による搾取、第一線の労働者と第二線の労働者


ここでは民間労働者、自営業者、経営者を第一線の労働者と呼ぶことにする。それ以外の国や
地方公共団体から給付を得る人たちを第二線の労働者と呼ぶことにする。これには政治家、警察、
自衛隊、国家公務員、一般公務員、教員などである。
 第一線の労働者とは、生産に寄与する人たちで、なんらかの付加価値に貢献する人たちのこと
を指す。図(104)で言うとゼロ地点からE点までの生産高に寄与する人たちであり、ハート
ランドの担い手である。
 これに対し第二線の労働者は、ハートランドの生産高に間接的に寄与するが直接所得を形成せ
ず支出のみを構成する人たちである。それゆえ税金という形で、一線の労働者の所得から、その
禄を貰い受けて生活をしている人たちのことを指す。
 この両者の生活は、デフレやインフレになると大幅に違った経済状況になる。




 デフレ状況になると、すなわち所得曲線の角度が45度以下であり資金が貯蓄より下がった場合
民間の労働者はローン返済や生活水準を維持するため賃金価格が下がっても転職もできず、長時
間労働を受け入れて働き続けなければならない。さらに働いている企業の業績が悪くなり操短に
なれば、余った時間を他の企業で働いたり祝祭日も仕事をしなければならない状態になる。これ
は労働価値が本来より下がっているため生活水準を維持するためには労働時間を増やす必要があ
るからである。
 これは民間労働者だけでなく経営者や自営業者も同じで、販売する生産物価格が下がっても、
販売を止めることができず、本来の付加価値以下でも生産しつづける。その商品の売上が頭打ち
になると、他の商品市場に進出してでも売上を確保しようとする。しかしそれほど働いてもその
甲斐なく淘汰されていくのがこの四十五度線より下の所得曲線の意味である。自営業者や経営者
といえども、このハートランドの伸縮に従わざるを得ないのである。
 自営業者や経営者はこのデフレの渦中に、自己の資産や所得を投げ打って、企業の存続に躍起
になっているのである。それゆえ、マルクスのいうような資本家を日本の経営者の多くに適用す
るには無理があろう。さらに経営者や自営業者は、ハートランド内で付加価値の生産に関与して
いる。それゆえ第一線の労働者である。
 インフレの状態すなわち四十五度線以上状態では、第一線の労働者にとって、第二線の労働者
の負担がそれほど大きな負担に思われない。というのは、インフレにおいては、本来の労働価値
以上に労働価格が高くなり生産物も本来の付加価値以上に価格が高くなっており、所得が本来の
ものより増えている。税金は貨へいで支払うので同じ負担であれば軽くなる。所得も、民間の方
が比較的、上がりやすいだろう。インフレの場合民間の方が有利である。
 しかし、いったん四十五度線以下のデフレ状態に入ると、その負担は大きなものに変わる。ハ
ートランドの所得曲線は、第二線の労働者への負担と借金によって、四十五度線以下に下がる。
所得がどんどん落ち始めると、今まで負担していたものの割合がどんどん増えていく。デフレに
おいては、本来の労働価値以下に労働価格が押さえられ、また生産物の価格も本来の付加価値以
下に押さえられ、所得が本来の働き以下になっている。デフレは資金の取り合いであるため
、税金を貨へいで払うためには本来の働き以上の労働量が必要になる。デフレでは官より民間が
不利になり、民間が官より搾取されている状態になる。本来デフレに突入と同時に第二線の労働
者の賃金を減らすべきものであるが民間にくらべて大幅に遅れやすい。




もうひとつの問題点は、第二線の労働者の貯蓄が所得形成の漏れになっていることである。民
問のハートランドの資金を税金として徴収し、第二線の労働者に移転した資金は、全部使われてこそ
所得曲線の角度を維持することができる。使い残した分は、所得曲線の角度を下に下げる
ことになる。民間が借金の増大により貯蓄をなくしたにもかかわらず、なおかつ所得の漏れが存
在することは問題である。
 このような第二線の労働者の貯蓄は、デフレ状態であった江戸時代や室町時代の庶民がギリギ
リの生活をしている中で、殿様や将軍がここかしこに造った、贅を尽くした別荘や庭のようなも
のと同じである。殿様の贅沢三昧のお金が第二線の労働者の貯蓄に当たるであろう。
 デフレにほうり込まれるや否や、第一線の労働者と第二線の労働者は、全く違う状況下におか
れる。一方はいや応なく所得が減っていき、今までと同じような負担でも所得の減少によって、
大きな負担に変わっていく。これに対し第二線の労働者は、ハートランドの縮小とかかわりなく、
所得は保証されているのである。
 この第一線の労働者と第二線労働者の差をうまく調整することが、より滑らかにデフレから脱
却する一つの方法でもある。
 デフレ解消のために二つの政策を第二線の労働者に取る必要がある。一つは第二線の労働者の
賃金総額を減らすこと、これによってハートランドが負担する総額が減り、民間需要が増える。
もう一つは、第二線の労働者の個人個人の賃金を減らし、貯蓄をさせないことが肝要である。言
い方を変えると所得のほとんどを消費に回さなければならないような収入にするということだ。
よく公務員の給与を減らすと消費が減り景気に悪影響が出るというがそれは間違いである。単に
公務員への資金移転が少なくなるだけであり所得曲線の角度が上昇し民間需要が増えるのであ
る。特にデフレの場合、民間は貯蓄がないためほとんど資金が支出に回されるので確実に景気回
復につながる。インフレや正常な経済では民間にも貯蓄があるので民間に回った資金が確実に支
出に回るという保証はない
 経済政策としては、言うことは可能であるが実際の政策として日本がこのような政策を取れる
かどうかは別の問題である。
 一つの理由は、彼らにも労働組合が存在することである。「万国の労働者よ、団結せよ」と言
ったマルクスが意味していたのは民間労働者であり、彼の労働価値説の意味しているのも、生産
に寄与している人たちを対象にしている。それから類推しても第二線の労働者は金融資本家より
さらに支配者側であり、彼らが労働三権を振りかぎして一致団結し、自らの権利を守るのは、特





権階級がさらなる特権の維持を目指して行動しているにすぎない。彼らの労働組合が活躍すれば
するほど、民間から掠め取る税金やサービスが増えるのである。第二線の労働者が、マルクスを
語り、労働三権を振りかざすのは、お門違いであり、間違った解釈である。彼はハートランドか
ら直接所得を得ない人たちを労働者とは呼んでいないのである。
1,取るべき政策
 今の日本において比較的余裕のある資金を持っているのは、民間でも政府でもなく、公務員層
である。新たに借金をすることなく、多くの資金を民間のハートランドに回すために、この層の
資金を活用すべきである。
○経済政策として有用な物
 官業の民間への移動、今、第二線の労働者が行っている仕事、特に半官半民の仕事や、規制に
守られた仕事を民間に移し、所得形成に替える。これは誰しも言うことで、これ以上言う必要は
あるまい。郵政事業の民営化などがこの代表であろう。第二線の労働者を第一線の労働者に変え
るのである。
2.年金を一体化し、民間を支える方向に持っていく
 幸か不幸か、瓢箪から駒のように年金が一体化されるようである。年金の問題点は保険料が増
えるとハートランドのスミズミまで影響を受け、消費が一段と悪化することだ。それゆえ民間の
保険料がこれ以上に悪化しないように、将来の年金額が減っても、今、支払う保険料を減らして
はいけない。将来の年金はデフレが解消されればいくらでも変えることができるが、今支払う保
険料を増やして経済がさらに悪化すれば、将来の年金などなくなるからである。逆に第二線の労
働者の保険料の負担を増やさなければならない。これによって彼らが貯蓄を取り崩して、消費に
回す分を増やす必要があるからだ。
 第二線の労働者の方はこれを読むと気を悪くされるかもしれないが、経済的にはこれが正しい
やり方である。デフレ下では所得の漏れを早急に是正し、ハートランドの所得形成に回す必要が
ある。経済的に見て、第二線の労働者の年金保険料を増やし、第一線の労働者の年金保険料を減
らす方向にもっていくことが、正しい選択である。こうすることにより、第二線の労働者のハートランドの所得の漏れを是正することができる。

3.雇用保険を払わせる
 これも同じく所得の漏れを是正する方法である。第二線の労働者の雇用保険料を増やして、そ
れを第一線の労働者の雇用保険料に回し、負担を軽減する。もしくは雇用促進事業や訓練費に補
填する。保育所の増設、時間の延長、預かり費の軽減に資する。
 ほかにもいろいろ考えればよい方法があると思うが、デフレ下では圧倒的に第一線の労働者が
不利であるということだ。本来の経済の担い手を痛め付けることになる。デフレからの早急な脱
出方法としてこのような方法も一考かと思われる。その道の専門家が考えればもっと良い方法が
出るであろう。
4.第二線の労働者の給与を物価の低下に合わせてスライドさせる。又は民間給与に合わせてス
ライドさせる。
 これは所得曲線の角度を45度線に近づけるのに重要なものである。デフレにおいてはすぐにし
なければならないことであり、官民かく差があるから是正するのではなく、デフレにおいて本来
実行しなければならないものである。