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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第十五章デフレにおける過重労働

「働けど働けど我が暮らし楽にならざり」
この表現は文学的な表現としては、いろいろな見
識があるだろう。しかし今日の日本のデフレのもとでのこの表現は、極めて正当なものである。

○賃金総量の低下がもたらすもの

 企業に投下される生産要素はいろいろあるが、ここでは代表的なものとして労務費を取ってみ
よう。デフレでは資金量が減っていき、消費量が減り、企業利益が減り、その結果、生産費や経
費の見直しを始める。経営者は利益確保のためいろいろな製造経費を減らしそして人件費をも減
らす。企業によっては雇用量を減らしたり、給料を減らす対策を取る。しかしデフレは全産業に
かかわる問題であるため、ある企業の給料の多い少ないにより、他の企業に労働者が頻繁に動く



ことはない。他の企業も同じように賃金総額を下げているからだ。
 賃金が下がると、本来なら他の賃金の良い企業へ労働力の移動が起こり、労働の価値と賃金が
一致するところで均衡する。これがこれまで当然のごとく受けいられている均衡論である。しか
しこれがデフレでは、労働の価値と賃金が一致することなく、労働の価値以下に賃金が低下して
いくことになる。
 45度線以下の所得曲線が支配する状況下では、常に資金の減少が売上減をもたらし、それが常
に企業利益を圧迫し、経営資源の削減を促進させる。労働費も同じくその圧縮にさらされ、売上
減に応じて削減されることになる。その結果、これは各企業の問題でなく、全企業において賃金
総額が低下することになる。そうなると個人は、他の企業に移動しても賃金が増えるとは限らな
いので、賃金が低下しても、おいそれとは移動しなくなる。
 企業は賃金総額を低下させるため、労働者の賃金を少なくするとともに、労働者の量を調整す
る。正社員からパート従業員に、さらには日雇い、週雇いに変更していく。労働者はさらに賃金
が低下しても、ほか・に有利な仕事を見つけられず、今の職場に固執するようになる。企業も競争
の激化からデフレ特有の薄利少量生産を余儀なくされ、さらなるリストラを常にし続けることに
なる。企業は労働者の買い手市場ゆえ、賃金を労働価値以下にする。そして労働価値の高い者を
雇用し、低い者を解雇していく。
 これに対し労働者は、自分の労働価値を上げるため、いろいろな特殊技能を身につけたり、何
種類かの仕事を掛け持ちするようになる。さらに労働時間を増やして自分の生活レベルを下げな
いように賃金を増やそうとする。しかしデフレ下の競争は、労働価値以下に賃金が抑えられるの
だ。その結果生活レベルを維持しようとする労働者やローン返済をしなければならない労働者は、
より労働時間を増やして収入を得ようとする。
 そのような個人の努力にもかかわらずデフレは牙をむく。売上減はさらなる倒産を招き、労働
の機会をさらに減らしていくのである。賃金以上によい働きをする労働者が時間を増やして労働
すると、それより働きの悪い人たちの仕事を奪ってしまい、失業が増えることになる。それがま
た消費減に結び付き悪循環を繰り返していく(図107参照)。このことは他のすべての生産要
素や生産物の価格をも本来の価値以下にすることを意味する。インフレの場合はこの逆ですべて
の生産要素や生産物の価格が本来の価値以上になることを意味する
 需要供給曲線が45度より下がった場合、借金の負担を解消し資金を増やすためには生産高を大
幅に増やす必要がある。このデフレ下で生産高を増やすということは、労働価値より低い賃金で
長時間働かなければならないことを意味する。しかしながら遅かれ早かれデフレの状況は長期間
働くことも削減するであろう。これがデフレの労働者の過酷な状況である。