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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第十四章デフレ解消のメカニズム2

徹底的に叩かれたハートランド
 はじめ土地資産の暴落により端を発した日本のデフレは、資金をハートランドから奪い、各種
保険医療費などの値上げは、ハートランドからさらに資金を枯渇させていった。リストラにつぐ
リストラは、個々の企業から余分な含み資金を吸い上げ、稼働率の低下は遊休地を増やし、消費
税は赤字の企業からも、いや応なく取り立て、さらなる換金に駆り立てている。売上は縮小によ
る縮小を続け、損益分疑点を既に何年も前に下回っている。
 低金利による銀行政策は、個人の金融利得を奪い、本来ハートランドヘ回るお金が銀行に行っ
てしまい、さらに不良債権処理は貸し剥がしとなってハートランドを萎ませた。
 世界に冠たる経済を築き上げた日本のハートランドは、何の落ち度もなかったにもかかわらず、
間違った経済政策によってボロボロにされ、自己破産の激増に、ハートランドは軋み、ハートラ
ンドの悲鳴は自殺者を増やしている。



 しかしながらこのことを声高に言わないハートランドは、しなやかであり、粘り強く、日本の
勤労意識とあいまってしたたかに生き延び、今また、きっかけさえあれば大きく羽ばたくところ
まできている。何か少し栄養を与えればすぐに大空に飛翔するであろう。

ハ−トランドヘの癒し・ハートランドに資金を回す方法

 日本のハートランドは、中小零細企業を中心とする銀河系星団のようなものである。そこにお
金を回すには、大企業に対してなす政策とは別の観点が必要である。大企業への政策であれば、
ある程度狙いをつけ、個々の大企業に個別の政策を取れば成果を得やすいだろう。しかし非常に
小さく複雑に絡み合った集団に対して公正に、しかも広範囲に資金を回す必要がある。それには、
今までとは少し違った観点からの政策が要求される。
 今までの経済政策は、主に上から狙いを定め特定の企業や産業になんらかの特典や、仕事を与
えて経済の活性化を図ろうとしたものであったが、デフレのような全体の資金量が少なく、材料
や人が余っている状況では、単にそこに人や物が集まり、そこに行われた特典や資金を単に食い
つぶすだけで、余計な投資や消費が派生しにくい状況になっている。今までより安い値段で集ま
りやすく、その部分が活性化し膨張しても、他の部門、人や物が希薄になった部門が増え、結局
全体の拡大に寄与しないのである。
 それゆえハートランド企業を活性化し復活させるためには、ある産業分野に資金を提供したり、
ある地域に重点的にお金を投下したりするのではなく、日本全体、あるいはあらゆる産業に均等
に資金が行き渡るような政策が必要である。
 またその資金が貯蔵され難いものであるべきである。企業が使えば使うほど得するようなもの
やサービスを提供し、なおかつ企業がそれを自ら積極的に享受しようとするようなものが良い。
究極的には所得曲線の角度を再び45度線に近づける政策を取ることである。
 これには企業の内部へ資金を入れる今までの方法と企業の売上から回す方法がある。
 日本などの中小零細企業が密集した産業基盤において、あらゆる企業に資金をあまねく公平に
注入するには、彼らの売上から注入するのが良い方法である。デフレはあくまでも買い手市場で
あるからだ。
1.高速代金の割り引き、ガソリン税の軽減など、企業や個人が使えば使うほど得するようなも



のを安くすること。その他にも間接税や公共サービスの低減なども効果があるが、できるだけ薄
く広く行き渡り、効果のあるものが望ましい。中でも高速道路代金の割り引きは、日本道路公団
というものを解体し、借金を少なくして民営化し、さらに代金を安くするのであれば、デフレの
解消政策の理想型と言えるであろう。逆に医りょう費や年金保険料の値上げ等はデフレ促進策で
あり少なくとも確実にデフレを深めてゆく。
 ガソリン税や、高速代金の減額は、個人消費に対して著効があるが、効果を受ける人たちが、
やや少ないきらいがあろう。しかしこれらは確実にハートランドに資金を流し込むであろう。
2.個人消費を利用し売上げ高を伸ばして資金を回す方法
 従来のように個々の企業にお金を回しても、有効な消費需要がない状態では、運転資金に回る
のがせいぜいであり、また研究開発費としての投資も、よほど革命的な商品でなければ売れない。
またそういった商品が開発されると、その産業はその一汁に押さえられ、かえって失業者が増え、
所得は減少することになりかねない。それが全体が収縮しているデフレの宿命だ。デフレでは資
金が増えない限り供給額は増えない。いくら生産量を増やしても消費額によって制限されるから
だ。
 所得が伸びないデフレにおいて、消費を伸ばすためには、製品価格を安くすること。これが重
要だ。それによって購売量が増えるからだ。
 特にデフレの場合、売上増が期待できず、その結果所得が増えることは期待できない。また企
業も損益分疑点を下回っている状態では、さらなる付加価値減は企業の命取りになる可能性が大
きい。このような状態でなおかつ製品価格を下げ、消費量を伸ばし、その結果売上増となること
が、肝要である。個々の企業に売上増による資金を供給することが、ハートランドヘの資金供給
となるのだ。これが公平で広範囲に渡る資金供給方法である。これの最も効果的なものは消費税
の軽減であろう。他にも同じような効果の上がる物が考えられれば、実行すればよいだろう。
 デフレのように所得が循環的に低下していく状況では、消費者の価格弾力性は非常に高くなっ
ており、価格に敏感に反応する。それゆえ消費税の減額分は確実に企業の売上高に繁栄される。
すると企業の売上高は付加価値を減じることなく伸び、それが各企業の資金になるのだ。この資
金は、初めは少ないが非常に広範囲に渡り、人々が最も必要としている物資を扱う企業を潤わす。
最も必要なところに回るのだ。
 さらに大事なことは、資金が少ないながらも広範囲に渡って供給されるということだ。これは
どの産業でも、また一産業内のどの企業にも、資金が調達され、同時に人、物、材料などが、ど





の企業でも前より必要になり、全体的に逼迫感が出てくる。
 この全体的に逼迫感をもたらすことがデフレを解消する指標となる。このように公共投資など
ではもたらすことができなかった逼迫感を出せるところが消費税減税の良いところでもある。間
接税の減税などもデフレ解消に確かに効果があるだろうが、内部留保が確実に投資に回るとは限
らない。これは所得税の短期減税が日本では消費に回らず貯蓄やローン返済に回り失敗したのと
同じで、個人への内部留保も確実に消費に回るとは限らないからである。
 それゆえ直接的に個人消費を増やし、資金をハートランドの企業へ投下するには、消費税の減
税が最も良い選択だろう。買わなければ恩恵を受けられないからだ。
 この消費税の減額は、所得曲線を上方にシフトさせる効果を伴うものである。企業の売上を増
やすということは、それに対応した在庫量や、材料費、人件費、その他の経費を増やすことにな
る。企業の含み益が増え、企業資産が増えることである。
3.今、日銀は、低金利過剰融資政策を取り、インフレにしようとしたが失敗した。明らかに失
敗だ。毎月融資額を・いくらと決めて貸し出していてももはや誰も借りなくなっている。それはそ
うだ、企業は需要がなければ投資をしないからだ。売上が増える可能性がなければ、低金利でも
借りないのである。
 低金利は企業にお金を投入する一方法で直接的なものである。しかし工夫が足りないのは、投
資先をつくってやらないことだ。なら企業に投資先をつくってやれば良い。それには銀行の預金
金利を引き上げ、個人消費を引き出す必要がある。企業の貸し出し金利と預金金利の連動を止め
ろとは言わない。しかし個人の預金金利を上乗せすることだ。企業には低金利で、個人には高金
利にせよとは言わないがもう少しましな金利を付けよ。デフレでは高金利にする方が消費が増え、
生産量が押さえられるので、デフレ解消につながると理論的には考えられる。
 デフレ時の需給曲線をもう一度思い浮かべてほしい。
 この時消費の増加が大きく生産高を伸ばし所得を増やすのだ。
 デフレ時の低金利過剰融資政策は、個人消費を減退させ、資金を肝心なハートランドに回さず、
もっぱら土地や金融資産に再び回り、企業は止むをえず外需主体の生産に切り替えさせたのであ
る。現状は低金利過剰融資政策の失敗がもたらした外需主体の企業群の頑張りによって、辛うじ
て踊り場を維持しているに過ぎない。デフレ曲線は資金を増やさなければ供給が増えない曲線で
ある。
4.公営企業の民営化による効率経営、警察、一般公務員、など第二線の労働者の削減など、ハ
ートランドにかかる負担を減らす。新たに資金を追加できない場合、所得曲線を45度にシフトさ


せることが大切である。
5.個人の資金を奪わない政策を取る。
 個人向け国債を発行しない。現在の資金を少なくし先送りすることになる。
 税金に固定資産の物納を広く認める。資金を民間市場に残す必要があり、税金によって資金を
市場から奪ってはならない。
 年金保険料の負担を減らす。保険料の増加は、個人の資金を減らし、消費を減らすことになる。
 ハートランドの復活には、個人の可処分所得が増える政策を取ることが肝要なのだ。一方で資
金を減らし、一方で資金を増やすようなちぐはぐな政策を取らないことだと言えよう。