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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第十三章デフレ解消の処方箋

日本は今、デフレと言われる状況にある。それは水槽の中の金魚に例えると、バブルの頃に比
べると水が半分以下になり、金魚も付加価値のない小さなものが、たくさん増え過ぎた状態にな
っている。りゅうきんや出目きんが少なくなって、付加価値の小さい和きんが増えたのである。
今でも金魚が多すぎて窒息しそうなのに、少しでも水量が滅って、水圧が下がると、呼吸難から
大量に窒息死してしまう状態にある。水圧すなわち資金量の圧力が低く当然水量が少ない。まだ
少ないながらも水が抜けていく状況にある。栓が抜けたままになっていて、増える水の量より出
る水の量の方が多い状態である。水抜き栓は普通閉めないで、上から新鮮な水を入れそれに応じ
て下に水が抜けるのが金魚を生き生きさせるために必要である。新陳代謝が経済にも必要なのだ。
この、上から入れる水と下から抜ける水の量、すなわち資金量を調整するのが金融機関の役割で
ある(図ABC参照)。
正常な経済状態
資金量
デフレの状態

資産

資金量
ハートランド
 輸入

 資金が減少し、資産部門・ハートランドから資金
が流出し、需要がさらに輸入品に流れる。ハートラ
ンドの生産物は、付加価値を思うように付けられず、
低価格品かたくさん増える。資金の新陳代謝が行な
われず、ハートランドに流れない。値打のない和金
ばかりが増えて呼吸できなくなっている。
-
図B
92
93
資産1輸入
ーハートランド↑v’
 ハートランドがト分に大きく、資金覗か
適切であり、付加価値が競争原理から適当
な範囲に収まっている。貯蓄もあり資産へ
の有余の流出も適当である。金魚も出目金、
瘤金、和金など配分良く泳いでいる。

図C
石油価格の高騰と資金量
       -
インフレの状態
石油価格高騰する前の正常な状態
図E

図D
デフレ時の状態(現在の状況)
石油の高騰後普通の状態の場合
図F
 資産ハートーフンド生産




輸入部門
 資金が増えすぎ、ハートランドの生産物
が大きくなり過ぎ、資産部門へと資金が大
量に流れる。輸入は贅沢品、高価格品が増
える。金魚が成長しすぎ価格の高い瘤金、
出目金か増える。
資金量
 水量が激減し、金魚も小さくなっている。
 しかも多く増えすぎて、ハートランドに水が
十分行き渡っていない。水圧が下がり、今なお
資金の流出が続いている状態。下級財として輸
入品が幅を利かしている。ハートランドの縮少
と共に資産部門への資金流出が止まっている。
 資産、ハートランドの生産物にト分付加価値
が付けられない。
資金量
        ハートランドー
資産159

輸入部門
 原油高騰分か適度に製品価格に転嫁される。輸
出大部門が一升増え、ハートランドも・升増える。
資産部分はほとんど変わらない、資金量は全体で
.升増える。
資産1輸入

ハートランド‡
 正常な経済の範囲で仮に輸入部門が2升、ハー
トランドの生産物が5升、土地資産等から3升と
する。
 ハートランドが十分に大きく、資金量が適切で
あり、付加価値が適正な範囲に収まっている。
 貯蓄もあり、資産への資金の流出も適当である。


図G
図H
インフレ状態の場合の原油高騰
デフレの下で原油高騰後
資金量

図1
図J
デフレで原油高騰前
デフレの下で輸出が伸びた場合
資産
ハートランド
輸入部

         
 輸入部門が1升増える。ハートランドは便乗値上げで
2升増える。資産部門もある程度増え全休でも資金量が
予定以上に増える。
 インフレの場合、石油価格の上昇分が、その価格の値
上がり分以上に転嫁されハートランドの資金も資産の資
金も増え全体での資金量も増えることになる。いわゆる
便乗値上げである。しかし値上げが過ぎると消費が少な
くなって景気が下降し、調整されることになる。
資産
ハートランド
輸入部
 デフレの場合、輸入品素材価格の高騰は、製品価格に
転じることがかなり困難なため、ハートランドの資金か
輸入部門に流出し、ハートランドの企業はより困難に陥
りデフレはより深刻化する。製品価格に転じられないの
は、消費が低迷しているため。また土地資産価格もハー
トランドでの有効な利用価値が減じるため下げにつなが
る。株式も企業価値の低下から下がる。



原油が高騰すると、ハートランドの企業は高くなった石油製品を買うので資金が
輸入部門に流れる。その結果
輸入部が1升増え、ハートランドが一升減る。
資産部門も少し減る。




 デフレの下で、ハートランドの輸出部門か伸び
た場合、ハートランド内の資金が輸出部門へ流れ
る。輸出で稼いだ資金は輸出部門の設備投資に回
されるか、外貨や資産、株式などの投資資金にな
る。内需が不振なので内需主体の企業には投資さ
れない。貯金が少ないので資金がすぐに貯蓄量を
上回りバプルになりやすい。


図K
デフレ下の増税後
デフレ状態

資産
ハートランド
輸入


 デフレにおいて赤字補填のための増税をするとどうなるか。
 これが行なわれると、確実にハートランドの資金が奪われる。全体の資金
が減少し、低価格競争が激化し下級財の輸入品か増える傾向になる。一升税
金を取ると、全体の資金が一升減ると仮定しても輪入部門が増えるためハー
トランドの資金は増税分以上に少なくなる。ハートランドが縮少するため資
衆部門の資金も減少する。


 バブルの頃と比較するとまず水量が違う、当然水圧が違う。金魚の大きさが違う。また金魚―
匹当たりの周りの水の量が違う。豊富な栄養価の高い水が適度にあると大きくなりやすい。周り
に資金の貸手がたくさんあり、資金の浸透圧も高く、成長しやすい状態だと言えよう。またハー
トランドの層も多くの層からなっており、厚みも大きい。ハートランド内部にも十二分に資金が
回る状況だ。水がたくさんある時、金魚は成長しやすく大りやすいものだ。生産物も付加価値を
付けやすく、価格を上乗せすることがたやすい。
 ある一匹の金魚、言い換えれば、ある産業または企業なりが政府の政策や援助により大きくな
れば、金魚が大きくなり、それがまた周りの産業、金魚を大きくする。そしてその大きくなった
分、水量が増し、水槽からあふれてしまう。物の価値以上に付加価値が付きやすい。これがバブ
ルの状況だ。
資金が適当な好調な経済であれば、所得や生産量に応じて資金が調節される。
 しかし現在のデフレ状況は、まず資金量が少なくなり資金の浸透圧が当然低くなっている。水
圧が低いのだ。ハートランドは、階層が少なくなり厚みもなくなっている。金魚は小さくなり、
数も水量の割に多くなっている。資金の浸透圧も低く、ハートランドの隅々まで水が行き届かな




くなっている。一匹の金魚すなわち一つの産業や一企業を取り囲む資金が少なく、また栄養価の
ない物になっているため、成長し難い状態になっている。十分に付加価値を付けるだけのお金を
身に付けられないのだ。それほど消費者の財布のひもが堅く、消費に十分に資金が回って行かな
い状況である。
 デフレの解消の核心部分はこのハートランドの幅厚みを広げ、そこに資金をうまく回し、売上
を伸ばすことに尽きる。消費量と生産量の循環を何度も繰り返し、付加価値を蓄えながら毎年毎
年消費量を増やし、それに応じて生産量を増やしていき、産業基盤の幅を広げ、厚みを増し、階
層を多くし、その間ネットワークを効率よくすることによって、デフレが解消していくのである。
それ以外に夢のような回復手段はないのだ。
 日本は、他の国と比べて高度に発展した産業国家であり、製造システムこの中小零細企業と大
企業が複雑に絡み合い効率の良い第2次産業を形成している。
 日本の基幹はこの製造システムにあり、それが日本の大部分を占め、この部分の発展なしに今
の日本はなく、この部分が枯渇して将来の日本はな
―○
ーV
 これは日本人の働く意識が勤勉を第一とし、金融資産による利子生活をよしとしない気風も後
押ししている。この点が、アメリカなどのように金融資産による経済も高度に成長を遂げている
国との違いだ。
 それゆえ日本の企業の世界進出は、進出した国に産業を形成し、その国の生活水準を上げるの
に貢献している。逆にその進出した国の企業が成長を遂げ、逆に日本自体に進出するぐらいにな
っている。
 このような日本企業の長所を世界に広げることは、地球規模での日本の世界貢献となり、世界
の各地に確固とした経済基盤をつくることになるであろう。それゆえこのハートランドの復活は
日本一国の問題と考えるよう、世界の経済基盤をより速やかに発展させることの問題である。
 ではどうすればハートランドに水が回るのだろうか。どうすればハートランドの厚みが増すの
であろうか。
I.政府による上からの資金投入
 この多くが公共投資という名前で行われたが完全に失敗した。それは資金量がそれ以上に滅っ




ていたことにも起因するだろう。土地価格がさらに低下して不良債権という名の借金が増えたた
め資金が借金返しに回り、市場に出回らなかったのだ。もう一つの理由は、公共投資は、特定の
産業だけを支援することになり他の産業を空洞化させ資金が全体に回らなかったことによる。
 確かに公共投資は、平成の初めの頃は経済が急速に悪化するのを防ぐ効果があり、二、三年も
ったが、その後モルヒネ効果はどんどん薄れ、平成十年頃には、もはやその効果もなくなってし
まった。
 またIT産業などへの支援時化策はその産業の金魚を大きくする効果があるが、全体の資金量
が減り資金圧力が減っているので、その特化した産業へ、人、物、資金が流れ、確かにその産業
はいいのだが、他の産業や地域から、人、物、資金が流入し、他の産業部門や地域がへたってし
まう現象が起きてしまう。それゆえ一つ、あるいは複数の選ばれた産業への特化は、デフレ下で
は、全体のデフレ解消には、あまり結び付かない。
 底が抜けた水槽の中では、言い換えると入る量より出る水量の方が多い水槽では、一つの企業
や産業の膨張は、真空状態に空気を発散するような物で、全体の資金量は決して増えない。
 また45度以下の角度の所得曲線の下では投資乗数も消費乗数も当てにできない。公共投資によ
る供給増大策は、他面赤字による負担でもあるため借金が増える。これはハートランド縮小圧力
になる。
2.低金利過剰金融政策の失敗。無意味なインフレ目標
 日本の低金利と過剰融資政策は、デフレにより倒産する企業を少なくする政策であり、社会不
安を和らげる効果はあるが、あくまでも深刻化するデフレの対策であり、デフレを解消するもの
ではない。一時的臨時的な政策であるに過ぎない。
 今の日本の景気の根本原因は、深刻な需要不足である。にもかかわらず日銀の金融政策は、企
業に資するものである。低金利は、明らかに消費に対して逆効果である。企業はお金を借りない。
銀行がお金を押し付けようとしても、国内には投資するものが見つからない。
 もしインフレ政策を取るなら、個人金利を上げ、企業の貸し出し金利との差額を日銀が持つ方
が、確実に良い結果が得られよう。
 外需を当てにしている会社や、外国での資産運用を考えている会社に資するだけで、日本国内
の需要を当てにしている会社は、借りないのだ。今、日本の上場企業の三分の一が無借金経営と
いう報告を見たことがあるが、彼らは国内に投資をしないのだ。需要を創出しない低金利過剰融
資政策は無意味だ。そのお金は再び公社債市場に回り、バブル的様相を呈している。
 水槽で説明すると、資金の過剰融資策は水槽の上から水を入れているということである。しか



しハートランドの中枢部へ資金が浸透せず、資金が資産の部分であふれている状態である。中枢104
部からは低金利によって資金が漏れていき、中枢部はますます金魚が増え、息苦しくなっていく。
中に資金という水が浸透していかないのである。
 また輸出という水が上から増えているが、ハートランドヘなかなか浸透していかない。日本の
ハートランドは、上からの資金と下からの資金の板ばさみになりながらも、一向にほぐされない
格好になっている。
3.供給を重視したアメリカの復活のまねをした政策
 日本はもともと生産力の強い経済国であり、今のデフレは資金量の減少と共に、消費が落ち込
んだことによる。さらに資金を企業に突っ込み、いろいろな補助金を出しても、需要がなければ
良い商品やサービスであっても誰も買わないし利用しない。
4.短期減税の失敗
 なぜ日本で減税は失敗したのであろうか。
 本来資金を市場に回す政策であるはずなのに
。減税は少なくともデフレ解消策の正しい選択の一つであった。


 貯蓄性向と借金がその原因を解く鍵だろう。デフレにおける所得減少は個人の将来への不安を
増大させ、減税分はほとんど貯蓄に回ってしまった。
 短期減税分は日本の場合消費に回らなかった。少なくともアメリカのような短期減税による効
果はなかった。ローンや借金の多さも影響したであろう。消費に火がつくことなく、単なる赤字
政策になってしまった。
 この四つの政策すべてが、日本のハートランドヘ資金が回ることなく無意味に終わってしまっ
た原因なのである。これからも、同じことを何度しても恐らく変わらないであろう。これらの政
策はいずれも、今までの教科書では良い政策であると言われてきたものだが、経済の基礎的状況
が違えば逆効果に過ぎない。日本のデフレに対する無考察の成れの果てである。
○ハートランドヘお金を回し再びハートランドを活発にする方法

 デフレは普通の状態より資金量が少なくなっている現象であり、また資金が徐々に滅っていく


状態である。資金量の減少の単純な指標は国内の小売企業の売上高で分かる。銀行貸し出し残高106
の動向を見てもよい。
 水圧の低い状況では、一つの企業なり産業なりが発展し大きくなっても、また政府のテコ入れ
や大規模な公共事業などが行われても、水かさが増えない。のれんに腕押しのようなものになる。
あるいは真空状態に空気を放すようなものである。ある産業、例えば携帯電話産業などは、この
デフレ下でも非常に活発に発展している部門だが、そこへの消費の増大は、他の商品や製品への
縮小となる。全体のパイは伸びていないのだ。
 入、物、材料なども、その部門で大量に使われるが、入や物材料などは逼迫しない。単にそち
らに単に人や物が集まるだけであり、他の産業の余剰人員や材料がそちらに回るのだ。彼らの消
費が減り、売上が減った分か余るからだ。価格を上げるためには、そちらに行くなという、逆に
引っ張る力が働かなければ、上がらない。逼遺憾が出なければ価格は上昇しない。
 資金量が減り水圧が減っている状態では、価格を上昇させるためには、二、三ヵ所で大きく発
展するよりも、幅広い範囲でわずかでも発展させることが重要である。それにより材料や人員に
逼迫感が出るからだ。
 また単に水槽内に資金を豊富に投入し、資金の流出量より大きく資金を役人して、流人量の方
が多くなるようにしたとしても肝腎のハートランドに資金が回らなければ、経済の活性化には向
かわないだろう。単に生産物以外の資産や土地、公社債市場にお金が回るだけで、不景気の中で
のバブル、資産インフレ的な状況になるだけだろう。日本の政策が失敗したのは、単に資金量を
安易に増やそうとしたことが原因であろう。
 現在の日本は、低金利、過剰金融政策により、このような状態になっており、肝心のハートラ
ンドにお金が浸透することなく、株式市場は実態以上の価格になっているように思われる。それ
は外国の投資家がいずれ
日本の復活を見越して価格の安くなった日本株を買っているからである。さらに金融機関の再編
合併により、企業が利用しうる資金供給手段が少なくなっており、貸し剥がしのしやすい状況が
できつつある。それがまたハートランド企業から余計に、資金を奪っている状況だ。
 銀行の貸し出し残高の毎年の減少は、このハートランドからの資金流出を物語っている。今ま
た不良債権処理がかなり進み、これ自体は、やり方は別として、いいことだが、銀行が再び積極
的に融資を開始したとしても、その実態をよく把握しないといけない。 その融資の行き先の多くは、鉄鋼などを代表とする外需を謳歌している企業への融資がほとん
どである場合が考えられるからである。あるいは上地資産や株式市場に流れたり、外国投資を考
えている企業への融資かもしれない。さらには、企業買収資金を調達しようとしている会社かも
しれない。現在の状況では、銀行は当然、有力な市場をもっている企業に投資をする。日本のハ
ートランド企業へはなかなか回らないだろう。ここ何年かは銀行の融資全額の伸びより融資先の
把握をすることが、デフレ解消に向かっているのか再び沈滞していくのかを判明する手掛かりに
なるだろう。