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  top          デフレインフレの一般理論
 
 
      第十一章デフレ時の消費者行動と生産者行動

デフレ時の所得減少は、消費者の行動にどう影響を与えるだろうか。同じ所得の減少でも所得
曲線が45度より角度が下がっている場合とそうでない場合では、消費者のゆとりが違う。今仮に、
ローン返済をしている人の所得が急に減った場合、あるいはそのローンが急に増えた場合を考え
てみよう。この場合所得の割に借金が意図せずに増え過ぎてしまったとしよう。
 日本がデフレになった一つの理由はここにあるのである。借金が所得の割に増え過ぎたという
ことだ。さらに日本のデフレを悲惨なものとしているのは、お金に対する道徳心が強く自己破産
をしたくないという意識と、今までの日本経済を支えてきた勤勉さの二つである。お金に対する
道徳心と勤勉さがデフレをより早く深く進ませている。
 所得の減少は、借金を返すことに優先され、消費はその後になる。価格に対する弾力性が極め
て高くなり、低価格品に消費が流れていく。その結果、市場は買い手市場になる。



 その結果企業は、特に返さなければならない借金を多く持っている企業は、借金返済のため、
利益を確保しなければならない。それゆえ価格を引き下げ売上げを増やして利益を確保しようと
する行動を取りやすくなる。そのため価格を下げ、1単位当たりの付加価値を下げ、販売量を増
やし利益を上げようとする。他の企業もこれに追随するので売上が減り、予想より利益が少なく
なっていく。この循環がデフレを深めていく。
 資金量の減少は、各企業に生産量を増大させ、付加価値を減じるように働くのである。各企業
は競争から価格を下げながら生産量を増やし、利益を上げようとする行動をとる。しかしながら
デフレ経済では、増やした生産量が各企業の思惑道理に全部売れるわけではない。競争の激しさ
から各企業は、売上金額を減らし利益を減じ、売れ残り品を生じさせることになる。
 ここが普通の経済との違いだ。
 一般的に、企業は価格の上昇に応じて生産量を増やし、価格の下落に合わせて生産量を減じる
ものだ。
 また需要と供給のギャップからくる調整では、需要の減少は、価格の低下を通じて供給を減ら
す方向に持っていくはずである。
 しかしデフレの下ではその産業にもたらされる資金の量の限界から、企業間でその資金の奪い
合いになり、どの企業も価格を減じて消費者の歓心を買おうとする。そして販売量を増やして売
上を伸ばそうとする。しかしデフレの場合、毎年毎年その産業にもたらされる資金量が減ってい
るため、どの企業も十分な販売量を確保できず売上額を減じることになる。それが産業全体では、
価格の低下にもかかわらず、供給量が増えるのである。
 この、販売価格の低下にもかかわらず生産量が増えるということが分かりにくければ、次のよ
うに考えてもよい。販売価格の低下にもかかわらず生産経費が増えると、すなわち企業は単に自
分の付加価値を減らしただけということになる。
 たとえで言うと、今まである企業がABCDEのランク付の商品を販売していたとする。そし
てある社にDランクの物を売っていたとしよう。しかし価格競争が激しくなって、その社にCや
Bのランクを同じ価格で売ったとしよう。CやBは、Dより生産費がよりかかっているにもかか
わらず、利益を得られなかったのである。というよりは利益を取れなかったと言えよう。なぜか
は消費者の買い控えによる。
 これがデフレの生産者行動だ。この読みを間違えると、今のデフレの状態(資金が継続的に減
じていく)でも生産量が増え、実質GDPが増えていく現象を景気が上向きであるかのような判
断をしてしまう結果に陥る。実質GDPと名目GDPの乖離逆転現象は他の原因もあるが、根本
的には、これすなわち、資金量が減少しその結果、生産量が増えていることに尽きるのである。
 各企業は付加価値を低下させすなわち価格を下げて、今まで以上の売上を確保して利益を確保
しようとするが、これが実質GDPを伸ばす原因である。そして各企業が付加価値を滅らし売上
増をもくろむが、他企業の競争と、消費者の買い控えにより思ったより売上が確保できないのだ。
これが名目GDPに表われている。すなわち実質GDPと名目GDPの差が付加価値のなくなっ
た分であり、企業の利益が失われた分と言えよう。企業がいかに苦境にあるか伺い知ることがで
きるだろう。