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  top          デフレインフレの一般理論
 
第十章実質GDPと名目GDP、その逆転の意味と解離

現在の実質GDPのわずかな伸びは、資金量が下げ止まり、資金量が増えている中で、生産量
が増えている状態ではない。資金減少が続いてる中での生産量の増大であり、それはデフレに内
在する換金圧力から価格を下げ売上を伸ばそうとする行動によるものである。
 さらには外需に対する生産量の増大である。それゆえ、実質GDPの伸びだけで、日本国内の
景気が上向きであるとは言えない。少なくとも市場に出回る資金が増えて生産量が増大しなけれ
ば、単なるデフレの状態の中での生産増であろう。それは、国内の売上の低下を、価格を安くす
ることにより売上量を増やして補おうとしているに過ぎない。あるいは外需に頼り、輸出により
生産量を増やしているだけだ。
資金の減少圧力は、生産物の価格を下げ、売上を伸ばそうとさせる。その結果売上が伸びてい



ないのにもかかわらず生産量が増えてしまう。または売上が伸びずに生産経費が増えるのである。
それが実質GDPに数えられ、実質GDPに換算される。それゆえデフレの場合実質GDPは、
実体よりより良く反映されるのである。
 そもそも実質GDPを重視するようになったのは、世界経済の多くの国ではインフレ状態が普
通の状態であり、それゆえ名目のGDPでは、余計な資金が数えられてしまい実体経済を的確に
表されなかったからである。しかしながら日本のように資金が不足している経済では、すなわち
デフレ経済ではその逆で、実体経済は名目のGDPの方がよく表わしている。
 実質GDPの問題点は、製造経費が増えた生産物が同じ価格で売られたり、同じ価格の製品が
より安く、多く売られた場合も、それを換算してしまう所である。デフレでは、価格が安く多く
販売され、売上が伸びないから、実質GDPが良いように見える。それゆえデフレでは、名目G
DPを使った方が実体がよく分かるのである。
 実質GDPと名目GDPの差額が、正常な経済状態より多すぎる資金量、または不足している
資金量を表している。
 例えばインフレのような名目の方が実質GDPの上にくる場合、その差額は過剰な資金を表し
ている。
 逆に名目の方が実質GDPの下にくる場合、不足資金を表しているのである。
実質GDPの成長だけに捕らわれては、日本国内の実体が分からない。デフレの状態では、実質
GDPの生産物は少なくなった資金量の中であふれかえっている状態なのである。
 企業は消費者の買い控えにより買い手市場になっており、企業が望む付加価値(利鞘)を十分
に生産物に上乗せすることができずに、生産物を販売している。これは個々の企業にとって、生
産量は毎年増えているにもかかわらず売上が減少または横ばいという現象である。この現象が実
質GDPと名目のGDPの逆転の理由である。すなわち生産量は伸びているが、売上が生産量の
伸びに比例して伸びていかないのである。
 資金量が継続的に減少している市場では、各企業は、価格を下げ売上を伸ばして利益を確保し
ようとする。しかし他の企業も同じように価格を下げて追随し、生産物は市場にあふれることに
なる。これに対して消費者は、下がった所得でも同じ生活レベルを維持するため、より安い商品
を買い求める。がこれにも限度があり、多くの企業は、価格を下げても予想した分量が売れず、
利益が少なくなる。残った生産物はさらに次期に安売りされることになる。この循環の繰り返し
が実質GDPと名目GDPに表われているのである。




○デフレにもかかわらず実質GDPを成長させる理由

1.価格を引き下げてより多く販売する。
2.より経費のかかる物を付加価値を下げて販売する。デフレではこのような取引が増える。
 特に、ここ二〇〇〇年から二〇〇四年頃までの経済データは、それをくっきりと浮き上がらせ
ている。その理由は現政権(小泉政権)になってから公共投資を抑え、その分の成長力が反映さ
れず、分かりやすくなったのである。
 もう一つは、外需すなわち中国経済の発展などのように輸出が活発になり、日本国内の企業が、
日本国内の需要を見限って、外国の需要にシフトした態勢を作り上げたことにも起因するであろ
う。デフレは国内の衰退を招き、外国に逃げることができる企業は、外国へ資金、技術を移転し
ているのである。内需が弱く輸出に頼る経済は発展途上国に多く見られ、日本もすでにその兆候
が現れ始めたと言えようか。
 発展途上国経済は、輸出でたくさん稼いでも国内にお金が平等に回らず、貧富の差が激しいの
が特徴である。発展途上国の多くの国が、このことをすでに証明しており、日本もこのままの政

策が続くと、近い将来同じようになる可能性がある。幸いにも現在は貿易黒字なので、すぐにじ
り貧に陥ることはないであろう。
 最近特に経済評論家たちが、日本経済の状態が良くなっていると強調する材料の一つに設備投
資の割合がある。しかし、これとて日本国内の需要に対しての設備であれば喜ばしいことである
が、輸出に対する設備投資であればデフレの解消には程遠い結果である。
 さらに実質GDPと名目GDPの乖離の差の大きさは、政府が企業にいろいろな不況対策(例
えば、構造改革なんとか、あるいは失業なんとかなどの供給重視政策の範疇に入るもの)を取り、
いろいろな名目で、企業に融資しやすい状況をつくっている結果、企業の方に資金が集まり、需
要がないにもかかわらず、企業は多くの研究費や設備を投資し、生産手段を近代化した結果がこ
の差額の大きさに表われている。
 需要が必要なところにもかかわらず、供給手段に力を入れたことが、こんな結果を招いたのだ。
デフレでは、消費額が壁になって生産額をくい止めているのである。
 それゆえ、実質GDPの伸びだけを見て、景気が回復傾向にあるというのは、大きな間違いを
生む恐れがある。二、三年ほど前のGDPは明らかにデフレの深刻化を物語っていた
 にもかかわらず、実質GDPの伸びだけに捕らわれ、景気の判断を良しとしたのは滑稽であっ

た。名目GDPと実質GDPの逆転の中で実質GDPの成長のみを見て景気を判断し神武景気を
越えたと言ったあきれたたわごとは、日本経済史上の後世の恥となるであろう。名目GDPを加
味し景気を判断しなければ、デフレの判断を間違うであろう。特にデフレでは、名目の値が重要
である。何にも増して市場に提供される資金が増えているかどうかが、重要なのである。貸し出
し残高が末端の銀行で増えているかどうかが鍵なのである。物の生産量ではない。企業の売上で
ある。企業の利益額ではない。
 とかく今までの経済学は、生産量を中心にしており、その結果実質GDPを基礎において、景
気を分析したり、実質GDPの結果だけで景気の上向き加減を判断している。実際インフレ経済
であればそれは概ね正しいだろう。貨幣が大幅にあふれている状態では、実質どれだけ生産経済
が伸びたか分からないからだ。
 しかしデフレではそうはいかない。すべての評価は貨幣でなされるのだから。実質と名目GD
Pの逆転は企業が付加価値を生産物に付加する困難さを物語り、生産物の価値以下の価格で販売
を続けていることを示している。経済は需要と供給で決まる。生産量だけをカウントしても意味
がない。売れて始めて完結するのだから−。売り上げの増減を考慮せずして実体は分からない。
 最近の日本の政策担当者は、名目GDPと実質GDPの差や逆転の意味が分からず、故意に名
目GDPを隠そうとしているようにみえる。最近とみに、コアCPIなる言葉を、実質GDPと
対比させながら、自らの失敗政策である低金利過剰政策の募引をするため、いたずらに使ってい
る。しかし現状を考えて見るとよい。原油価格が上がり、生産経費がよりかかり、価格が上昇す
るのは当たり前なのだ。物価も上がって当然の時なのだ。これはデフレでも起きる現象なのだ。
それゆえ名目GDPを同じように対比させ、企業が生産物に付加価値を乗せられる状況にあるか
どうかを示す必要がある。またここで私が言うデフレ・インフレの価値の上昇・下降はマクロ的
なものであり個々の生産物の価格の上昇下降を意味するものではない。
 また消費者物価指数を実質GDPと対応させ判断するのは、非常に冒険的である。実質GDP
と名目GDPの数値は同じ生産物の範躊から選ばれており、関連性が非常に高く、同じ路上で判
断できる。しかしこれと消費者物価には同じ範疇から抽出されているようには思えない。消費者
物価の対象となる商品詳とGDPで対象にするものはかなり違うように思われる。それゆえ実質
GDPとコアCPI(主要消費者物価)の関連から物事を判断するのはかなり危険であろう。
 日銀が量的緩和の解除の口実に使っているに過ぎないかもしれない。

これまでの説明で明らかなようにデフレ時は、価格の上下だけで判断できない。資金量あるいは
売上が増えているかどうかなのだ。それをみるためには名目GDPの値が重要だ。それによって
企業が製品に価格を上乗せしたかどうかが分かり、資金量の状態が分かるからだ。名目GDPを
明らかに提示しないのであれば、それは彼らが国民をだますためにわざとそうとしていると結論
づけられるであろう。
 それこそ日本を奈落の底に陥れる蛮行であろう。
 今までの経済学はデフレなどまず起こりえないだろうとの前提で書かれているが、実際に日本
はデフレなのだ。これまでの経済学ではデフレを解消することはできないことを肝に銘じよう。