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         デフレ・インフレの一般理論
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2008年6月20日 名目GDPと実質GDPの逆転の意味と影響

名目GDPと実質GDPの逆転の意味と影響。

国民所得は3方面から表される。一つは、主に製造業者の生産物の付加価値の集合体として。主に工業出荷額から導き出されるものである。
一つは、最終生産物から、費用を差し引いたものとして表され、小売店や百貨店の売上から導き出されるものである。
もう一つは所得の面から所得の集合体として計算される。賃金や企業の付加価値から導き出されるものである。

このうち消費は最終生産物の把握から、主に百貨店や小売店などの統計を用いて計算されている。これが名目GDPと言われるものである。これに対して生産物の面から、企業の出荷額を基礎にして付加価値を計算するものが、これが実質GDPである。

現在日本経済の病理は、名実GDPの逆転現象から脱却できないことにある。

これは、生産能力に比べそれに対する購買力が著しく少なくなったことから生じている。日本の場合バブルの崩壊による大借金が消費に必要な資金を大きく減じたのが原因である。
これにより需要と供給の差による通常の景気循環ではない、資金量と生産量に著しい差のある経済状態に陥るに至ったのである。
デフレの場合生産量に比べ資金量が大幅に減少し、貯蓄より借金が上回った状態である。またインフレはこの逆で、生産量に比べ資金量が大幅に増えている場合であり、貯蓄以上に投資額が多い状態を指す。
(ここで言うデフレやインフレは価格の上昇や下降を指すものではない。またケインズのインフレデフレギャップを言うものではない。あくまでも資金量と生産量の比率が変化した物を指す。)

このような資金量が少なくなった場合に、名実GDPの差額が発生するのは、生産量と資金量の大きな差から、低価格競争が発生し、低価格商品が多く詰め込まれる現象が起こるからである。

例として1個50円のものが千個で5万円の売り上げがあった市場が4万円の消費額に圧縮されると、供給額が減らないので1250個作られ、付加価値が10円減った40円で販売することが余儀無くされる。

これがデフレの資金量が著しく減少した状態の均衡である。需要供給のバランスから、50円のものが800個に減少するわけではない。
これを集計したものが名実GDPの差となって現れるのである。

この理由が分からないことから、すべての経済政策が間違ってしまうのである。資金の生産量に対する著しい増減による景気と、需要と供給の差額による景気循環は内容が異なるものであり、同じ政策を取ってはいけないのである。現在世界で生じつつある原油価格の高騰は、デフレの前触れである。潰し方を間違えると大恐慌に陥いるだろう。たとえ陥ってもその処方箋は既に存在しているので早晩解決されるであろう。(デフレ・インフレの一般理論参照http://www.eonet.ne.jp/~hitokotonusi

実際の統計では名実GDPの差額が出るのは次のような要員が考えられる。

企業からから出荷された生産物が、全部消費されず、返品になり、100円ショップなどに流れ、原価以下で売られる。
相手先から値引きが強要され、利益額が圧縮される。得意先等から包装や、デザインなどに工夫を要請され、原価が積み上がる。小ロット輸送や生産を余儀無くされ、コストがかさむ。
製品が売れないのでもう1ランク上の価格帯の商品を同じ価格で提供したり、一工夫した商品を同じ価格で出荷する。
このようなことが状態になり常に利益額が圧縮されている状態である。

この差額の大きさは、企業の儲け難さ、個人の所得の増え難さを物語っている。これが全体で計算されると常に損切りさせられていることになる。デフレ経済は常に誰かが損をしており常に退場を迫られているのである。
このような名目GDPが常に実質GDPの下にくる経済は、骨折り損経済であり、働いても働いてもその分が報われない経済と言えよう。利益額が常に拡大再生産を下回るため、これを解消するためには民間負担額を減らしたり、消費者側に資金を注入しなければならない。
(http://blog.so-net.ne.jp/siawaseninarou/名実GDPから見る経済政策の失敗参照)
このような経済は内需が減退しているため、企業は輸出に活路を求め、外需頼りになる。それ故輸出した分の生産量と輸出で稼いだ還流資金を、実質GDPや名目GDPに単純に加算してはならない。なぜならこの生産物や資金は国内市場を循環しないため、国内のデフレ状況を分かりにくくするためである。

デフレは日本国内の問題であり、中国等の輸出品がデフレを招いた原因ではない。
これは同じように欧米で中国製品が参入していても彼らはデフレではなく価格購買力が上がって行くのである。それ故デフレがその直接の影響でないことは確かである。
しかしデフレは所得を下げるためより安い物を求める力が働き下級財への需要を促進する。それが国内の生産減退を招き、よりデフレを促進する方向に働くのである。それはデフレの原因ではないので、
国内の所得が上がれば下級財への片寄りは少なくなるものである。

逆転の影響:このような逆転現象が長く続くと、今の日本の病理が見事に現れてくる。

長く続くとコスト高になり利益率が減少する。手持ち資金が年々減っていく。これは企業も個人も政府も一緒である。企業が多くの費用を掛けて少なく儲けている。損切りしている企業や、赤字生産に陥る企業が増え、自転車操業の企業が多くなる。それ故企業経営が不安定である。少しの影響で多くの自己廃業、倒産が増える。

国内の需要が少ないので外需に頼る経済構造になる。
付加価値が少ないので所得が減少して行く結果低価格品への志向が起こる。その結果低価格の輸入品に購買力を奪われる。それが内需のない発展途上国と同じ貿易構造になる。

付加価値に価格が常に十分に載せられないため賃金が減少する。
下層階級が多くなり、生活できない食えない層が出てくる。浮浪者や日雇い労働者が増える。それがさらに消費減を招く。生活保護所帯に対する出費が増えさらなる税金が必要になる。

政府の借金が増え続け、民間負担が大きくなる。それがさらなる増税を呼ぶ。

弱肉強食、資本の潰し合い。資本力の差が最もでるのがデフレ経済である。

このような名目GDPが実質GDPより下位にくる逆転現象は、経済が常に損切りを迫られている経済であり常に多くの企業が退場を迫られている。

これは経済の成長ではなく赤字を増やして資金を欠乏させているのである。火の車、常に走らさなければ転ぶ経済なのである。これを日本ではいざなぎ景気を越える長期にわたる成長と呼び、未だに新聞紙上で礼讚している輩も見受けられる。しかし実際は使える資金が減少している縮小経済である。

いまなお財政が逼迫し企業倒産が増え、所得が下がり続けているに過ぎないのである。
経済の成長は物を増やすだけではできない。採算の取れる物を販売することが成長するということである。。デフレ経済では採算が取ることができない状態なのである。これが経済桎梏、歪縮の20年である。資金の著しい減少が生産に歪みをもたらしているのである。

これがいざなぎを越えたと称し6年以上続く経済成長の真の姿である。経済桎梏が本当の現状であり、成長ではあり得ないのである。日本の政策は単に生産量を増やしているだけであり、赤字を助長しているに過ぎない。これが名目GDPが実質GDPの下位にくる理由であり、名目が少ない実質GDPのの成長は無意味な徒労である。

現在の日本の大問題は、実質GDPの成長を経済の成長と取っており、これが大きな誤解を生んでいることである。
それ故政策に緩慢さが見られる。特に5大新聞と言われる論調にこの認識がないこと、経済学者がこの事態を見抜けないこと、そしてそれを鵜呑みにして、論じる評論家や政治家が後を立たず、問題の本質を見誤っていることにある。民間経済の深刻さ、危険度が分かっていないのである。

この名実GDPの差は現状の問題点を一番よく表している統計資料であり、もう一度よく研究してほしいものだ。この理由が明らかになれば誰も成長であるとは言わないだろう。資金が消滅しているに過ぎないことが分かろう。
一言主。http://blog.so-net.ne.jp/siawaseninarou/