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七人のおたく cult seven

正義のおたくパワーが大炸裂


 日本の2大電気街、東京・秋葉原と大阪・日本橋。ここでは「お帰りなさいませ、ご主人様」のメイド喫茶や、ショーウィンドウにアニメキャラのフィギュアを並べたお店が、今や当たり前の景色となっている。メイド喫茶はとうとう韓国にも進出して人気を呼び、村上隆ら美術家の活躍で“OTAKU”は世界共通語になりつつある。

 21世紀の今でこそ社会的に認知された「おたく」だが、この映画が制作された20世紀末頃には、まだまだ(よく言えば)『異端』(悪く言えば「汚くって、キモくって、内向的で変なことをする人たち」という負)のイメージを抱えていた。
 そんな状況の中、「おたく」たちを敢えてヒーローとして描いたのが「七人のおたく cult seven」(1992年、東映、山田大樹 監督/一色伸幸 脚本)である。
 当時大人気のお笑いコンビ・ウッチャンナンチャンの初主演作ということで話題になった。山田監督は、デビュー作の「湘南爆走族」(1987年、東映)で暴走族をヒーローに描いた人である(江口洋介と織田裕二のデビュー作で、単純に面白かった)。

 物語は、ミリタリー(軍事)おたくの星(ナンチャンこと南原清隆)が、格闘技・盗聴・コンピュータなどのエキスパート(要するに「おたく」)を集めて組織するところから始まる。その目的は、中尾 彬演じる網元・高松に連れ去られた女性ティナの赤ん坊を奪回すること。
 ティナは東南アジアからやってきた女性で、たまたま同じアパートに住んでいた星が彼女の境遇に同情し、勝手に奪回作戦を遂行しちゃったのだ。
 格闘技のエキスパート・近藤を演じるのは、南原の相方・ウッチャンこと内村光良。通信教育で学んだ空手がリアル世界で炸裂! 盗聴おたくの女子高生・令子(浅野麻衣子)が入手した電話の音声を、パソコンおたくの田川(江口洋介)が合成するなど、メンバーの特技を活かした作戦が展開されるのだが……。
 メンバーの中でおたくでないのは、山口智子演じる田川の恋人・りさ1人だけ。彼女はどこでもかっこいい。当時女の子にモテモテだったはずの武田真治(舞台版「電車男」で13年振りにおたく役♪)が演じる改造車&アイドルおたくの国城は、意外にもズルくて情けない役どころ。
 敵だったはずの漁師が実はフィギュアおたくの神様と呼ばれた人物で、星たちに尊敬のまなざしを向けられる。そんな風に、単なるエキスパートとは違うおたく独特の世界観が、笑いと共に描き出されていく。

 パソコンおたくの田川はソフトウェア・ベンチャー企業の社長で、simcite(シムカイト)という凧揚げのシミュレーションソフトを何年もかけて開発している。シムシティなど、シミュレーションものが流行した時代だ。
 離島まで持っていく田川の愛用パソコンは、懐かしのMacintosh Plus♪ 時期的にClassic(1990年発売)かなと思ったのだが、キーボードの厚みから見てClassicではなさそう。森の中に置かれたコンパクトな筐体が美しい。この頃のMacは絵になったなぁ……(実は僕、今も棚に飾っている)。
 田川の会社のオフィスでは、懐かしいベージュ色のMacが多数登場。ディスプレイには英語版「アクアゾーン」(熱帯魚を飼育するシミュレーション・ソフト)が映し出され、「熱帯魚にご飯あげて」なんて台詞が聞ける。
 田川のノートパソコンは、初代PowerBookの170か140(同じデザインなので、どっちだか分からんかった)。会社の開催するパソコン教室では、生徒用にSEかSE30、先生用にQuadra 700が使われている(これも一時期使っていて、その後棚に展示、後にヤフオクで売ったけど)。粗い2Dのストリート・ファイターが映し出されたり、何とも懐かしいシーンの連続だ。

 コンピュータ関係では、Apple、Aldus(アルダス――ソフトウェアメーカー、DTPソフトで有名)、雑誌「MAC POWER」が協賛しており、作中でもDTPソフトのPageMakerやQuickTimeが紹介されている。その他、ミリタリー関係では「アームズ・マガジン」、格闘技では「武術」などの雑誌が協力。マニアを納得させるために努力した痕跡がうかがえる。
 とは言え、そこは映画。一般大衆を納得させるために敢えて、なのだろうが、おたくの持つ病的なこだわりは程良く抑えてある。今見れば、おたくと言うより極度なマニアって感じだ。

 この映画が公開された当時、Windowsのバージョンは3.1。インターネットもマルチメディアもまだまだ一般ユーザーには遠い存在だった頃である。協賛の絡みもあるだろうけれど、“パソおた”と言えば“Macユーザー”という描き方にもある意味で納得できる。
 ちなみに、これは随分後から聞いた話なのだが、僕の知人(ガン&ミリタリーマニア)がたまたまこの映画のロケ現場を通りかかった際、ナンチャンにガン・アクションを指導したそうだ(当然だが、スタッフにはクレジットされていない)。
 後に「ショムニ」や「喰いタン」などのテレビドラマで幅広い演技を見せ、ベテラン女優となった京野ことみが、アイドルの役で登場してデビュー曲を歌っているシーンも見もの。実に初々しい。
 なお、主演の南原、内村両氏は、この作品で1992年度日本アカデミー賞・新人俳優賞と話題賞を獲得している。

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