電脳名画座


閉じる [X]

ザ・ハッカー: TAKEDOWN

実録!仁義なきサイバー戦争


 11歳にして米軍のコンピュータに侵入し、史上最大のクラッカーと呼ばれたケヴィン・ミトニックを,若き天才ハッカー,ツトム・シモムラ(下村努)が追い詰めていくサイバー・ファイトを映画化したのが「ザ・ハッカー:TAKEDOWN」(1999年,米,ジョー・チャペル監督,日本では劇場未公開)である(ハッカーとはコンピュータ技術に長けた人のことで,その技術と知識を使って悪いことをするのがクラッカー)。
 原作は,ジョン・マーコフと下村努の書いた「若き天才日本人学者VS超大物ハッカー テイクダウン」。クラッカーのミトニックは卑怯で執拗で陰湿な粘着質の悪役であり,主人公のツトムはハンサムでスマートで賢くて強くてかっこいい天才学者──という設定だ。
 そりゃまあ,確かにミトニックは犯罪者なのだけれど,それにしてもローラースケートを駆ってロン毛をなびかせながらサーバー・マシン群の隙間を疾走するツトム(ラッセル・ウォン)は,わざとらしいくらいにかっこいい。
 そんな彼を追い落とそうと試みる矮小でひねくれ者の小悪党ミトニック(スキート・ウールリッチ)…という設定で物語は進む。

 電話で声色を使ってパスワードを聞き出したり,宅配便の配達人に扮装したり,ゴミ箱をあさってプリントアウトされたデータを探したり…。ミトニックの肉体的ハッキングにひたすら敬服。実際のハッキングが肉体的にどれほど大変な作業なのかがよくわかる。それにしても,これが現実に起きた事件なのだからすごい。
 とはいえ,そこはやはり映画。ほころびもある。ミトニックがツトムの加入している信販会社のコンピュータをハックし,「シモムラ」名義の情報を探るシーン。ディスプレイに映し出されている加入者の氏名をよーく見ると…。Shimomura, Tsutomu以外にはShimomura, AokiにShimomura, Watanabe…なんじゃこりゃ?!
 ツトム以外はおかしな名前ばかりじゃないか。パーソナルネームがアオキにワタナベって,そんな日本人はいませんよぉ!
 細部の考証に日本人のアドバイスがなかったってことがモロバレじゃん(笑)。

 さて,コンピュータだ。ツトムもケヴィンもFBIも,みんな仲良くIBMのデスクトップを使っている。もちろん,協賛企業あっての映画なので,現実がどうだったかは別問題。
 ケヴィンがノートPCを操作するシーンでは,Windows 3.1のプログラムマネージャ(アプリのアイコンが並んだウィンドウ)が映っている(懐かしー♪)。時代的には間違いないのだが,本当にWindowsでハッキングしていたのだろうか?
 ケヴィンは,とにかく『小ざかしい悪党』として描かれる。確かに彼は犯罪者で,その逮捕に協力したツトムは正義の味方なのだが,映画を観ていくうち,だんだんケヴィンのほうに感情移入していくから不思議だ。
 ヒーローのツトムに嫉妬して勝負を挑むケヴィンは子供っぽく,どこか憎めない悪役なのである。ツトムには優秀で従順な部下がおり,彼らの協力でツトムはケヴィンを追い詰めることができる。一方ケヴィンは孤独で,親友が一人いるだけ。
 しかしケヴィンの親友は,警察に乗り込まれることを覚悟で彼をかくまう。うーむ,ひねくれ者の僕としては,かっこよすぎるツトムより悪党でどうしようもないケヴィンのほうが幸せな生き方をしているんじゃないかって,思ってしまうのだよねぇ。

 職人技の世界はかっこいい。悪さをしていなければ,世のため人のためになったのに…と,思う。みなさんは,決して真似しないように。

【補足】
 映画では描かれていないが,後にケヴィンはその知識と経験を活かして、組織のセキュリティ対策を支援するコンサルタント業を始め、様々なハッキング手法とその対策を紹介した書籍“The Art of Deception”(日本語版の書名は「欺術(ぎじゅつ)」、岩谷 宏 訳)を著した。その中で彼は、家族と友人への深い感謝を記している。

閉じる [X]