それは土方が十二歳の頃。
この子供には家族と共に江戸の城下町に来ていた時に出遭った。
とある用事で商人と話をしている家族をよそに退屈だった歳三は
町から少し離れた川岸で川へ石を投げたりして遊んでいた。
平たくて少し軽い石を探し、石を川面に水平に投げると石が二度、三度跳ねて面白い。
それが楽しくて何度も何度も川に向かって石を投げていたが、
ふと川岸を見ると自分よりも小さい子供が小さく蹲るように座り、歳三の方を見ていた。
歳三が自分を見ていることに気づくと、にこっと可愛らしい笑みを見せる。
その笑顔が見惚れるほどとても綺麗で可愛くて。気づけばその子供に声をかけていた。
「お前、この近くの子か?」
「ううん。違う」
そう答えるとその子供は先ほどと違って少し淋しそうな顔をした。
「じゃあ何でこんなところにいるんだ?」
「お姉ちゃんとお買い物にきたの」
「ふぅん。姉さんと一緒じゃないのか?」
「今、昔のお友達と会ってるから一人でお散歩してたの」
「へぇ。お前も退屈してるんだなぁ」
「うん・・・」
淋しそうなその表情を見ていられなくなった歳三はある事を思いついた。
「・・一緒に遊ぶか?」
「え」
その言葉に少し嬉しそうな表情をした子供の顔が歳三の瞳をじっと見る。
「いいんですか?」
「俺も暇だしな。一緒に町にでも行って見物するか」
「うん、うん。行く!」
初めに見せた嬉しそうな笑顔に、歳三も微笑んだ。
ただ一緒に町に行って見物するだけなのに、こんなに喜んでもらえる事が嬉しくて。
もっとその笑顔が見たくて、この子供のためになら何でもしてあげたいと思った。
町に着くと、色んな店を見て歩いた。
女性に人気のある小物屋で初めて見る小物を二人で眺めたり、
甘味所の前でじーっと菓子を見つめている小さな子供に菓子を買ってあげたり、
町中にある小さなお寺で手を合わせてお参りしてみたり。
色んな事が新鮮でとっても楽しい時間を過ごしたのだが、それはあっという間に過ぎて。
「歳ー。用事が済んだから帰るわよ」
という姉の声が聞こえると同時に歳三は少し残念な顔をした。
そして傍で歳三の手を繋いでいる小さな子供も今にも泣きそうな表情で歳三を見ていた。
「ごめんな・・もう帰らなきゃいけないんだ」
「・・・うぅん。お兄ちゃん遊んでくれてありがとう」
離れるのが哀しいのにその気持ちをぐっと堪え、その子供はそっと手を離した。
「ごめんな・・」
最後に優しくそっと頭を撫でてやる。
「僕も、もう行かなきゃ・・。お兄ちゃん、また・・逢えるよね?」
「あぁ。また逢えるさ」
本当に逢える保証もないのに二人は約束を交わした。
そして歳三は傍にいた姉が手に持っていた(商人に貰ったであろう)
薄い紫色の手鞠をその子供に渡したのだ。
「ほら。約束の印。これを持っていればまた逢える」
「・・・本当?」
我慢が堪えきれなくてぽろぽろ涙を溢す子供に鞠を手渡して涙を拭ってやった。
「あぁ。また逢おうな」
「うん。約束だよ」
涙を溢しつつもその子供は最後に可愛い笑顔を見せてくれた。
――あぁ。俺はこいつに惚れちまってたんだな・・。
笑顔を見ると自分も嬉しくて、涙を見せれば自分の心が痛くなる気持ち。
きっと俺はそいつに惚れていたんだと思う。
そして最後の最後でその子供の名前を聞いていなかったことに気づき、
「お前の名前は?」と聞いたのだが、
「僕の名前は―――・・・」
そこから妙に記憶がなく、結局名前は思い出そうとしても思い出せなかった。
もう何十年も前の話なのだから記憶が薄れるのは無理もないであろう。
ただ、その子供とはあれ以来逢ってはいない。
唯一その子供といた時間を証明するのはあの時の手鞠だけ。
「・・・そんなことがあったのさ」
「・・・」
静かに土方の初恋話を聞いていた総司だったのだが、妙に反応が薄い。
「・・?総司?」
不思議に思った土方は総司の顔を覗き込み、名前を呼んでみた。
「宗次郎、ですよ」
「え?」
急に言葉を発したのに土方は驚いた。そしてその返答の内容にも驚いた。
「宗次郎なんです。それは、私」
余りにも驚いて聞き返してしまった土方に総司はもう一度答えた。
そしてその瞳に薄っすらと涙が滲んでいる。
「・・お前、なのか?」
「あの時優しくしてくれたお兄さん。始めてみた時から格好良くて、優しくて。
いつかまた本当に逢えたら・・って、そう思っていたんですけどね。逢えなかった」
嬉しくて涙が止め処なく出てきて、止まらない。
土方が手に持っていた鞠を自分の手に持ち、ぎゅっと胸に当て抱え込んだ。
「でも、そのお兄さんが貴方だったなんて、夢みたい」
涙が止まらない総司を土方は優しく抱え寄せて、あの頃のように優しく頭を撫でた。
「・・・逢えて嬉しい。大好きな優しいお兄さん」
あの頃、貴方が初恋だったという相手が私だなんて。
それが心の底から嬉しくて。涙が止まらない。
だって、貴方が初恋であったように私にとっても初恋だったのだから。
今、私の傍で愛してるって囁いてる彼が初恋の人。
これはきっと運命なんだと私は信じてる。これからもずっと信じ続けるよ。
だから今日も私は鞠をつく。
勿忘草色の鞠。
それは二人の大切な思い出。
end
無事後編終わりましたー。
ちょっとシリアスな甘いお話です。こういう出逢いもいいですね。
昔逢った初恋の人が知らず知らずに今の大好きな人だった。というお話。
こんなこと本当に運命じゃないと逢えないなぁ〜と由季は思います。
運命じゃなくても逢えるかもしれないけど。(笑)
ちょっとお気に入りの展開だったりします。
フリー小説2作品目、如何だったでしょうか?
また感想等頂けると本当に涙出るほど嬉しいですv
宜しくお願いします。拝読いただきありがとうございましたv
・・年齢をよく考えてみると二人は9歳離れているので
歳三が12歳なら宗次は3歳!!?ぎゃー(叫)。笑。
9/16
由希さまのサイト「星堕ちる最果て」さまが一周年記念にフリー小説とされていたのを、図々しくもささっとお持ち帰りさせて頂いてきてお話です。
もう、めちゃくちゃ総司可愛いー! 土方さん、格好よくて優しいー! えへへっ、私は優しいお兄さんの土方さんに萌えまくるタイプなんですよ。なので、このお話、とってもとっても私の萌えポイントにはまくまくっていて、超お気に入りになってしまいました。何しろ、その昔に実は逢ってた恋人たち! やっぱり運命の相手! 初恋は今の恋人!ってのが、もう大好きで♪
しかし、確かに年齢……由季さまのあとがきを読ませて頂いて、初めて気がつきました。宗次郎、3才か〜。いやいや、めちゃくちゃ可愛かったんだと思いますよ。よくぞ、土方さん、さらって逃げなかった!(笑)。
由季さま、フリー小説、ありがとうございました! 一周年おめでとうございます!
これからも、よろしくお願い申し上げますね♪>
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