「……あのね、三つお願いしていい?」
そう訊ねられた瞬間、土方は思わず可愛い恋人の顔をまじまじと見つめてしまった。
三つのお願い。
その言葉自体に驚いた訳ではなかった。というより、わざわざ、そんな事を言ってきた総司に驚いたのだ。
何しろ、彼の恋人はとびきり可愛いが、一方でとんでもなく気が強くて我儘で、子供の頃から手を焼かされてばかりだった。そんな総司が、今更ながらお願いなどと、珍しく殊勝な事を言うものだと思ったのだ。
「三つ?」
くすっと笑い、土方は手元の書類に視線を戻した。
ちょっと考え込んでから、認可のためにさらさらと筆を滑らせた。
「何で三つなんだ?」
「え、だって言うじゃありませんか、昔話なんかで。三つ願いごと叶えてあげましょうって」
「俺は神仏かよ」
「違うに決まってるでしょう。でも、だめ? 三つお願い聞いてくれませんか?」
「いいぜ」
あっさり頷かれ、総司の方が驚いた。大きな瞳でじっと男を見つめた。土方はまだ書類に視線を落としたままだ。
「本当に……?」
「あぁ、但し条件がある」
「やっぱりー」
予想通りの展開にため息をついた総司に、土方は喉を鳴らして笑った。顔をあげると、のばした手で総司のなめらかな頬をそっと撫でた。
「おまえも俺の願いを聞いてくれるってのが条件だ」
「三つ?」
「いや、一つだけだ」
「なぁんだ」
総司は安心して、にこにこ笑った。綺麗に澄んだ瞳が嬉しそうに土方を見上げた。
「それなら、聞きます。でも、私の三つの願いを叶えてくれてからですよ」
「当然だ。そのかわり、俺がどんな事を言ってもだぞ。何でもいう事を聞けよ」
「わかってます」
こくこくと頷き、総司は立ち上がった。弾むような足取りで部屋を出て行きながら、うきうきと言っている。
「でも、嬉しいなぁ。土方さんに何をお願いしようかなぁ」
「……」
もちろん、その後で。
部屋に残った土方が満足そうに薄く笑ったことなど、知る由もない総司だった。
翌朝、ぐっすり眠っていた土方の部屋の障子が突然、ぱーんっと開いた。
たたたーっと足音がしたと思うと、ぱふっと上に誰かが飛び乗ってくる。小柄な体だが、それでも衝撃はあった。いくら何でも目が覚めてしまった土方は、薄く目を開いて見上げた。
「……」
もちろん、そんな事をする人間は限られてる。というより、たった一人だ。
不機嫌そうに眉を顰めている土方を、鬼副長の上に馬乗りという命知らずな事をしている総司は、にこにこ笑いながら見返した。それも、とびきり可愛い笑顔で言ってのけた。
「朝ですよ! 土方さん」
「……」
「おはようございます。早く起きて下さいってば」
それに土方は総司の細い腕を掴んで、引き寄せた。布団の中へ引きずりこもうとするが、総司はばたばた暴れて抵抗した。
「駄目です。今日は一つめのお願い聞いて貰うんですから」
「一つめ?」
「はい。今日一日ね、お仕事休んで私につきあって下さい」
「二つだ」
「え?」
土方は布団を押しのけて起き上がると、軽くのびをした。それから、きょとんとしている総司の顔を、悪戯っぽい瞳で覗きこんだ。
「仕事を休むこと、おまえにつきあうこと。これで二つだろ?」
「えーっ」
「それでいいな?」
「やだ、ずるいー!」
「なら、やめとけよ。他の願いごとにしろ」
そう言うなり立ち上がり、さっさと着替え始めた土方を、総司は頬をふくらしたまま見上げた。
そんな総司が可愛くてたまらず、思わず身をかがめて、ぷうっとふくらんだ白い頬に指を押しあててやった。総司の唇から息が出て頬が元に戻り、またふくらむ。面白くて何度もくり返すと、そのうち、総司はぷんすか怒り出した。
「私はおもちゃじゃありません!」
「なら、そんなに頬ふくらますなよ」
にやにや笑いながらそう言った時、廊下に山崎が現れ膝をついた。
「副長、朝早くから申し訳ありませんが……」
「あ、だめです」
遮ったのは総司だった。いきなり山崎の前に行くと、きちんと坐って頭を下げた。
「すみません。今日は副長を休みにして下さい。私と約束したんです」
「……はあ」
呆気にとられている山崎に、総司の後ろで土方は苦笑した。まだ寝乱れている黒髪を指さきでかきあげながら、言った。
「すまんな、山崎君。今日だけは見逃してくれ」
「い、いえ、その……わかりました」
慌てて歩み去った山崎を見送り、総司は土方を見上げた。
「これで逃げられませんからね」
「わかってるよ。けど、おまえもいいな? 二つだぞ」
「仕方ありません。でも、まだ一つ残ってますからね」
しっかり念押しする総司を眺め、土方は微笑いながら頷いた。
「わぁ! おいしそう!」
総司は目を輝かせ、たくさん並んだお菓子を眺めた。
その前で菓子屋の娘、菊はにこにこしながら立っている。傍らの土方にも愛想のよい笑顔をむけてきた。
「沖田はんのお好みはどれでっしゃろ? 特別に一個おまけさせて貰いますえ」
「え、いいんですか? 嬉しいなぁ」
この菊と総司は友達だ。恋仲とかでないことは確かだが、可愛らしい菊と清楚で綺麗な若侍の総司は、傍から見ると確かに似合いだった。それがまた土方には面白くない。
「……決まったのか、早くしろよ」
思わず不機嫌な低い声で言ってしまった。それに総司はびっくりしたように見上げたが、すぐ視線をお菓子に戻してしまった。そのまま、うっとりと眺めている。そんな仕草にも妙に腹がたった。
(おまえは俺より菓子の方が大事なのかよ)
意味不明の嫉妬にめらめら燃えながら、土方はもう一度促した。
「何でも買ってやると言っただろ? そんなに迷うなら全部にしちまえ」
「食べきれませんよ。でも、んー、じゃあね、これとこれと……」
総司は五つの綺麗な菓子を指さし、菊はそれを丁寧に包んでくれた。お代を払って店を出ると、菊はしとやかな笑顔で見送った。
「また来とくれやすぅ」
「はい、また近いうちに来ますね」
甘い声で返事してる総司に苛立ち、土方は足を速めた。もちろん、その手は総司の腕を掴んでいる。
「土方さん、ちょっと……痛いんですけど」
「……」
「怒ってます? あ、そうだ。お菓子買ってくれてありがとう」
そう言ってから、総司は不意に小さく息をついた。それに気づき、土方は足をとめてふり返った。思わず眉を顰め、その綺麗な顔を覗きこんだ。
「疲れたのか?」
「そうじゃないけど、土方さんが歩くの早くて……」
「あぁ、悪かった。そこの茶屋で休もうか」
「そんなにしなくても……あ! 休みますっ、休みたいっ」
突然、総司は土方の手をふり払い、ばたばたと駆け出してしまった。慌てて追ってゆくと、既に、ちゃっかり緋毛氈の上に腰かけている。
「何なんだ、いったい」
「あのね、ここのお団子すごくおいしいんです。食べていきましょう」
「……あぁ」
土方は両刀を抜き、腰を下ろした。すぐ娘がお茶を運んでくる。総司は土方の分まで団子を頼んでから、にこにこ笑いながら話しかけてきた。
「ここ、前に来た時、すごくお団子がおいしかったんです。とくに三色団子がだい好きで」
「一人で来たのか?」
「いいえ、斉藤さんとです」
そう答えた瞬間、土方の形のよい眉が顰められた。あ、まずかったと思ったがもう遅い。
不機嫌そうな男の低い声が響いた。
「……斉藤と?」
「あ、えーと、その、たまたま巡察の帰りに一緒になったから、この近くで、その……」
「総司」
「はい!」
思わず元気よく返事してしまった総司に、土方はくすっと笑った。瞳の色を和らげると、のばした手で総司の艶やかな髪を撫でた。
「前から言ってることだろ?」
「……土方さん」
「俺以外の男とあまり出歩くな。そういう話を聞くのは、いい気分しねぇんだ」
「はい……」
こくりと頷いた総司に、土方は微笑んだ。そっと総司の躯を抱き寄せ、頬や額に甘く唇を押しあてた。耳柔を甘咬みしながら、とびきりのいい声で囁きかけた。
「……いい子だ」
「土方さん……」
うっとりと男の腕に身をまかせそうになって、総司ははっと我に返った。
ここは戸外なのだ! それも往来に面した茶屋! いくらよしずの陰になってくるからと言って、これはやばいだろう。
慌てて躯を離そうとすると、より強く抱きしめられた。
「やっ、土方さん……だめ……っ」
一瞬だった。
土方は素早く総司の唇に接吻すると、すぐさま腕の力を緩めた。
緋毛氈の上で坐りなおしながら、総司は顔を真っ赤にして思わず俯いてしまった。他の客に気づかれたかどうか、確かめる余裕もない。娘が運んできてくれた団子さえ、すぐには食べれなかった。
そんな総司の隣、土方は悠然とした様子で茶を飲んでいた。
そのまた翌日のことだった。
久しぶりに祇園で新撰組の宴が開かれた。と言っても、近藤を抜いた幹部だけの集まりだが、それでも春の陽気のように賑やかなものだった。
「三つ願い事叶えさせられてるんだって? それも交換条件付で」
にんまり笑いながら聞いていたのは、例によって耳が早い原田だ。
それに土方は肩をすくめた。
「まぁな。今夜で最後の一つだ」
「へぇ、もうおねだりされたのかい?」
「いや、これからさせる」
そう言った土方に、原田は声をたてて笑った。
「成程、待ちきれない訳だ。一計を弄したって奴だね」
「そういう訳じゃねぇが、俺も我慢の限界超えちまってるからな」
「確かに。女遊びを禁じられるわ、肝心の恋人には拒否されるわ、そろそろ切れる頃だろうなぁと思ってたよ」
「勝手に言ってろ」
苛ただしげに舌うちし、土方は手もとの酒をぐいっと煽った。
もう一ヶ月なのだ。
あの我儘で可愛い恋人がその気になれないからと、彼との閨事を拒み出して一ヶ月もたっていた。
彼が欲情しようが何だろうがお構いなしで、いやです、その気になれませんときっぱり断ってくる。挙句、無理やりしたら別れてやるとまで言われたら、もう手の出しようがなかった。
だから、閨事を交換条件にしてやろうと思ったのだ。
おまえの願いを全部聞いてやったんだから、俺の願いを聞けよと。
少々強引だが何とかなるだろうと、土方は思った。
(……それに……)
広間の反対側で斉藤たちと談笑してる総司を、土方は手招きした。すぐさま総司は立ち上がり、いそいそとやって来る。こういう所は素直で可愛いものだ。
「何ですか?」
彼の隣にぺたんと坐り、総司は小首をかしげた。大きな瞳が彼だけを見つめ、果実のような唇がつやつやしている。今すぐでも食べてしまいたい可愛さだったが、そこはぐっと我慢して土方は杯を取り上げた。
「酌してくれ」
「あ、はい」
総司は零さないように気をつけて酒を注いでくれた。それを飲んでから、杯を総司に差し出した。
「おまえも飲めよ。少しつきあっていけ」
「いいんですか?」
びっくりして、総司は訊ねた。
お酒が弱いので、いつもあまり飲ませて貰えないのだ。総司は嬉しそうに杯を受け取ると、注いで貰った酒を飲んだ。こくこく飲んでから、おいしーと笑う。
それに、土方は唇の端を僅かにつり上げた。
当然だ。何しろ、総司好みのとびきり甘口で喉越しのよい酒を、わざわざ用意させたのだから。
「もっと飲むか?」
「はい!」
うきうきと答え、総司はまた酒を飲んだ。巧みにすすめる土方に酒を飲まされ、そのうち、酔いが回り始めた。だんだん頬が桜色に上気し、瞳がとろんと潤んでくる。
「おいしぃ、これ……果物みたいな香りしますねぇ」
「そうだな。おい、大丈夫か?」
「うーん……なんか、躯がふわふわして気持ちいいですぅ」
そう答えた総司はぼーっとした表情で、周囲を見回した。そして、不意に「あ!」と叫んだ。
何だと見た土方に、指をさしてみせる。
「あれ、あれして下さい!」
「はあ?」
「ほら、あれ。あの、永倉さんがして貰ってるの」
見ると、永倉は酔ったらしく芸者の女の膝ですやすや眠っていた。つまり膝枕だ。
「土方さんの膝枕で、私、寝たいですぅ」
そっちかよ。
俺がして貰う方じゃなくて?
思わず突っ込みたくなったが、すぐに土方はにやりと笑った。
何しろ、こうなるのを待っていたのだ。いつもおねだりをしてくる総司のこと。酔ってしまえば、願い事など関係なくつまらぬ事でもねだってくるだろうと予測していたのだ。
「いいぜ」と言いながら、膝をくずしてやった。もちろん、肝心なことは忘れない。
「そのかわり、それが三つめの願いだぞ」
「三つめぇ……?」
酔いで頭が回ってない総司は、ぼんやりと聞き返した。男の策略にまんまとひっかかった事には気づかず、すぐ、こくんと頷いた。
「いいですぅ、何でも」
「よし、いい子だ」
満足そうに笑う土方の膝もとに、総司はころんと横になった。小さな頭を彼の膝に乗せてくる。
まるで猫みたいだと思った。そうでなくても、我儘で気の強いところは猫そのものなのだが……。
そんな事を考えながら視線を落とすと、ほんのり桜色にそまった項が柔らかな髪の間から覗いている。土方は思わず手をのばし、それに指さきを滑らせてしまった。
「う、ん……やめて下さいってばぁ。擽ったい……」
総司はくすくす笑いながら身を捩った。それに、土方は尚のこと煽られ、首筋から耳裏をしなやかな指で撫であげた。
「ふ…ぅ……ん……っ」
甘く艶かしい声が桜色の唇からもれ、どくんっと躯中が熱くなる。今すぐ抱いてしまいたいくらいだった。
その時、ふと周囲の様子に気づき、土方は顔をあげた。
「……」
何しろ、いつも冷徹で厳格な副長があの一番隊隊長に膝枕してやっているのだ。しかも首なぞを撫でてじゃれあっている。どう見てもやばい光景だった。
が、土方が顔をあげたとたん、皆はすぐさま元通り騒ぎ始めた。見て見ぬふりで、酒をくみかわしあっている。もっとも、斉藤などは完全に固まっていたが。
そのうち、総司は土方の膝の上でくうくう眠ってしまった。その艶やかな髪を撫でてやりながら、可愛い寝顔を眺めていると、原田がまたやって来た。
「……作戦成功って奴かい?」
「まぁな」
苦笑した土方に、原田は肩をすくめた。それから、すっかり寝てしまっている総司を見下ろした。
「で、これからどうするつもりだい?」
「もちろん、この後、たっぷり頂かせてもらうさ」
「怖い恋人をもって、総司も大変だねぇ」
そう言った時、総司は土方の膝上で「う…ん……っ」と寝返りをうった。ごそごそと躯の向きをかえ、土方の袴に顔をうずめるようにして眠ってしまう。思わず原田は苦笑した。
「眠ってんのに誘ってるよ。あんた、もつかい?」
「そろそろ、やばいな」
土方は総司の肩に手をおき、軽く揺さぶった。
「総司、総司……ほら、起きろ」
「う…ん、何……?」
ぼんやりと総司は目を開いた。
「もう……お酒、飲めませんよ……」
「酒はもういいさ。そのかわり、もっといい事をしてやるから」
「え、いい事って何……?」
「いい事さ」
不思議そうな総司に、土方は優しく微笑んだ。そして、まだ眠そうな総司の華奢な体を両腕で抱き上げると、そのまま宴会最中の広間を大股で横切った。呆気にとれて見ている幹部たちなどお構いなしで、襖を開けさせ出ていってしまう。
それを見送り、原田はひらひらと手をふった。
「総司、ぶっ壊されるなよ〜」
「な、何? え……っ」
部屋に入ったとたん、褥に上におろされ総司はびっくりした。
すぐさま伸しかかってきて、着物を脱がせてゆく男に、酔いも覚めてしまう。
「何です、これ。どういう事……?」
「俺の言うこと何でも聞くんだろ」
「え、それは……っ」
「三つ全部叶えてやったぞ。今度は俺の番だ」
「ちょっ、待って……あっ、やぁっ……んぅっ……」
男の唇が首筋に、胸に、押しあてられ、ぞくぞくと甘い痺れが背筋を這い上がった。酔いとあいまって、ひどく感じやすくなっている。
着物をすべて脱がされ、お互い素肌をあわせる頃には、総司もすっかり従順になっていた。何度も口づけあい、抱きあい、求め合う。
やがて、深く交わった時、総司は歓喜の声をあげて土方にしがみついた。
「ああッ!……土方…さんぅっ……っ」
「……総司……っ」
「い、いいっ……あぁっ、はあ…っ、土方さん……好きぃ……っ」
可愛く泣き声をあげる総司に、土方は微笑んだ。律動を激しくしてゆきながら、その細い体を強く抱きしめる。
腕の中、総司は甘美な快感に悶え泣いていた。その白い首筋に頬に何度も口づけた。
もう二度と放したくない。
我儘で身勝手で、でも、可愛くて可愛くてたまらない恋人。
「……総司、愛してる……っ」
その夜、土方は一ヶ月分の欲望を吐き出し、結局、朝まで総司の泣き声が途切れる事はなかったのだった。
「……辛いか?」
「あたり前です」
総司は褥に突っ伏したまま、拗ねたように言った。
翌朝だった。朝と言っても、もう陽は高くのぼってしまっている。
それに土方は困惑したように眉を顰めた。「すまん」と小さく呟き、そっと腰をさすってやりながら言葉をつづけた。
「俺もさ……ずっと我慢してたからな、昨日は箍が外れちまったんだ」
「いったい何度したと思うんです」
「二回……か?」
「三回です!」
ぷんすか怒る総司に、土方は笑った。腰を撫でてやりながら、耳もとに唇を寄せてくる。
そっと甘い声で囁いた。
「けど……おまえも気持ち良かったんだろ?」
「それ、は! よかった……ですけど……」
口ごもり、真っ赤な顔を布団にうずめてしまった総司が可愛い。それを眺め、土方は満足そうに喉を鳴らして笑った。
総司はそっと顔をあげ、彼を見上げた。
朝の光の中、土方はまだ白い夜着のままで褥の上で胡坐をかいていた。ちょっと寝乱れた黒髪を鬱陶しそうに指さきでかきあげる、どこか艶っぽい仕草。こちらの視線に気づき、優しく微笑みかけてくれた。
一ヶ月ぶりの、二人で迎える朝だった。
(……幸せ)
総司はうっとりと思った。
何だかんだ言って、結局、三つの願いを全部叶えてもらったのだ。
そう……三つめの願いごとも。
昨夜、土方がちゃんと叶えてくれた。自分が恥ずかしくて言えなかった願いごとを。
一ヶ月前に拒否してから、土方は逆に気を使ってしまったのか、全く誘ってくれなくなってしまったのだ。
自分の我儘のせいだとわかってはいたが、今更、どう誘っていいのかわからなかった。夜に何度も彼の部屋の手前で引き返しては、とぼとぼと自室へ戻っていたのだ。
それで考え付いたのが、三つのお願いだった。その中に紛れ込ませてしまおうと思ったのだ。だが、一番叶えてほしかった三つめの願いは、結局──
(土方さんの願いごとと同じだったなんて、すごく嬉しい)
幸せな気分のまま、にっこり笑った総司に、土方はまた微笑んでくれた。そっと頬に口づけると、起きれるか?と訊ねてくる。
それに頷き、そろそろと総司は身を起こした。まだ腰辺りが重く痺れているが、愛する彼にされた事なら、むしろ幸せだった。
総司の着替えをきちんとしてやると、土方もさっさと身支度を整えた。もう一度、畳に跪いて総司の躯を抱え起こした時、土方はふと何かを思い出したようだった。
「そう言えば……」
「え?」
「おまえ、三つめの願いごと、本当は何にするつもりだったんだ?」
そう訊ねてきた土方に、総司は思わず笑った。
「膝枕ですよ」
「あれは成り行きだろ? そうじゃなくて、おまえが初めに考えてた奴だよ」
「わからないんですか?」
悪戯っぽく聞き返した。
だい好きな人。
ちょっと強引で、でも誰よりも優しくて。
きっと、この人が考えているより、もっともっと深く激しく。
初恋の熱情のまま、誰よりも愛しい人──
総司は潤んだ瞳で見上げ、かわいらしく小首をかしげみせた。
「……本当にわからない?」
そう訊ねた総司を、一瞬、土方は見つめた。
だが、すぐに喉を鳴らして笑うと。
その両腕で、可愛い恋人の躯を思いっきり抱きしめたのだった……。
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[あとがき]
相変わらずの、いけいけバカップルです。やっと真珠の涙で書いた茶店シーンが書けました。誰が見ていようとお構いなしの土方さん〜♪ 書いてて一番楽しかったのは、宴会のシーンです。土方さん、総司を酔わせてやり放題。黒稀さまリクの膝枕もなんとか出来ましたし。ちょっとですみません。土方さん、悪戯ばっかりしてるしなぁ。
とてもはっぴーな気分で書けたお話でした。皆様、黒稀さまが、これを読まれて少しでも幸せな気分になって下されば、とても嬉しい!です。>
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