ぱたんと背中で扉が閉まった。
オートロックなので、鍵がガシャンと閉まる。
その音を聞きながら、総司はのろのろと部屋の中へ入った。
今日はもうコンディション最低だったのだ。あの事実を磯子から聞かされては、まったく仕事にもならなかった。
インタビューでもとんちんかんな事ばかり云ってしまうしで、とうとう磯子から「熱でもあるんじゃない」と家へ帰らされてしまったのだ。
だが、それは総司にとって幸いだった。
こんな頭が混乱してる状態で、仕事になるはずもなかったのだから。
総司はソファに坐り込むと、呆然と前を見つめた。
(あの人……嘘をついていたんだ)
(恋人ごっこのことも、ここへ来た理由も皆……嘘だった……)
そう考えてから、総司はふるりと首をふった。クッションを抱きしめながら、きゅっと唇を噛みしめる。
(ううん……ぼくが嘘をつかせたんだ)
よくよく考えてみれば、土方は恋人ごっこの事も何も自分から云わなかった。全部、総司が勝手に思いこんで、恋人ごっこを押しつけたのだ。
内心、どれだけ困っていたことか。
いきなり、こんな子供の相手を押しつけられて。しかも、男相手に恋人ごっこだ。
彼があっさり引き受けてくれたことの方が、奇跡的だった。それも、あんなに優しくしてくれたのだ。
毎日ここを訪れ、総司を夢心地にしてくれた。
本当に、夢のようだった七日間。
それだけで感謝しなければいけなかったのに、挙げ句、愛まで告白して。
本当に、どんなに困っていただろう。
あれきり逢えなくなって、当然だった。あたり前のことだったのだ。
初めから、きっと呆れられていたのだろうから……。
「……っ、ふ…ぇ……っ」
総司はクッションに顔をうずめ、小さく嗚咽をあげた。
こらえようとするが、恥ずかしくて情けなくて、涙がどんどんこみあげてくる。どう見ても、とめられそうになかった。
(だったら、いっそのこと盛大に泣いちゃおう)
そんなことを思った。
ここで思いっきり泣いて泣いて泣きまくって、彼への想いを断ち切るのだ。この恋を終わらせるのだ。
ずっと恋してても、愛しても、どうにかなるものでもないのだから。
総司はくすんくすん泣きながら、準備としてタオルを取るため立ち上がった。洗面所へ歩いてゆこうとする。
その時だった。
ピンポーン!
あの時と同じように、ちょっと間延びしたベルが鳴った。
それに、総司は少しむっとした。
こっちは今から泣こうとしたとこなのに。
失恋にひたりこんで、わんわん泣きまくってやろうと決心してるのに、いったいどこの誰が何の用なの?
「……はぁい…」
それでも律儀に答えながら、総司は玄関へ向かった。
いつもどおり、ばたんと扉を開きながら、問いかける。
「どちら様で……」
だが、しかし。
その声は、途中でぷつんっと切れた。
総司の目が大きく見開かれる。
その前に、何やら小さな包みがすっとさし出された。箱の形状や包装紙から見るに、これは恐らく菓子だろう。
「こんにちは」
男はにこやかな笑顔で、云った。
「上の階に引っ越してきた土方です。今日は、引っ越しのご挨拶に伺わせて頂きました」
「……」
「これはつまらないものですが、ご挨拶の品です。お茶うけにでもどうぞ」
総司の手に、箱が手渡された。
思わず受け取ってしまう。
「……ど、どうも」
「……」
「ご丁寧に……挨拶、その、恐れ入ります……って!」
ぼそぼそと答えてから、総司はいきなりはっと我に返った。
思わず目の前で綺麗に微笑んでいる土方につめより、叫んでしまう。
「何で、どうして! ここにいるんですかっ」
「だから、上に越してきたって……」
「上にって、ぼくの上の部屋に!? そんなの全然、云わなかったじゃないですかっ」
「びっくりさせたかったからさ。作戦、大成功だな」
くすくす笑いながら、土方はぽんぽんと総司の頭をかるく手でたたいた。それから、勝手知ったる恋人の家とばかりに、さっさと靴を脱いであがってしまう。
リビングへと入ってゆきながら、云った。
「その菓子、生ものじゃないけど、マドレーヌだからある程度は早めに食べた方がいいよ」
「マドレーヌって、プレーンの?」
スリッパの音もぱたぱたと追っかけながら、総司は訊ねた。それに、ふり返った土方が答える。
「いや、おまえ、いちご味が好きだと云ってたから、そっちにした」
「あ、そうなんだ」
「チョコ味のも入ってる。あと、紅茶味も」
「三種類も? わぁ♪ 嬉しい!……って、そうじゃないのです!」
総司は我に返り、叫んだ。
ついついだい好きなお菓子につられてしまったが、そんなことで喜んでいる場合ではないのだ。
目の前にいるのは、あれほど恋焦がれた男なのだから。
いったい何がどうして恋人ごっこを引き受けたのか、今またどうして現れたのか、それを聞かなければ、いくら天然でお人好しの総司でも絶対絶対納得できない!
「つまりさ」
土方はソファでゆったりくつろぎつつ、いつもどおり総司がいれてくれた珈琲を飲みながら、云った。
その姿はすっかり、この部屋に馴染んでしまっている。
「あの日、俺はここへリフォームの挨拶にやってきたんだよ」
「リフォーム?」
「買い取ったはいいが、色々手直ししたくてさ。で、リフォームします、工事の騒音でご迷惑おかけしますって、挨拶するために来た訳だ。そうしたら、いきなりおまえが恋人ごっことか云い出して。あれよあれよと云う間に……」
「えーっ! だって、土方さんも否定しなかったじゃないですか!」
思わず拳を固めて力説してしまった総司に、土方は苦笑した。片手をあげ、くしゃっと前髪をかきあげる。
「いや、俺もさ、大ファンのおまえに恋人ごっこして欲しいなんて云われて、ラッキー!って舞い上がっちゃったしね」
「ラ、ラッキーって……」
「だって、そうだろ? 日本中の憧れの的の歌姫と恋人ごっこできるんだ。それで喜ばない男がいるか? 間違えられてるってのはわかってたけど、俺、絶対、このチャンス逃すものかと思ったね」
土方は、隣に座った総司を、深く澄んだ黒い瞳で見つめた。
そっと手をとると、握りしめる。
「だからさ。おまえが俺を好きだと云ってくれた、あの七日目の夜。嬉しかった……」
「……土方さん」
「あの時、おまえに答えを云えなくてごめん。俺も、おまえとつきあうなら、ちゃんと身辺整理しておきたかったし」
「身辺整理って、土方さん……もしかして結婚してたの?」
「まさか」
土方は肩をすくめ、笑った。
「違うよ。つきあってる女もいないけど、ま……その、所謂セフレってのがいたから。そういうのと全部縁切ったんだ。でなきゃ、おまえ……相手にしてくれないだろ?」
「あ、あたり前ですっ」
総司は顔を真っ赤にして、きゃんきゃん叫んだ。
「そんなの絶対、だめ! セ、セフレだなんて絶対許しません」
「ふうん……と、いう事は」
土方は形のよい唇の端を、ふっとつりあげた。
「今後、おまえがそっち方面の相手してくれるって事だよね?」
「へ?」
きょとんとした総司は、訳がわからないという表情で、土方を見あげた。
それに、土方はにっこり笑いかけた。
「俺だって、恋人とする方がいいに決まってるしさ。な?」
「いいって……」
「ほら、前にも云っただろ?」
土方は総司の耳もとに唇を寄せると、僅かに目を伏せた。悪戯っぽく笑いながら、そっと囁く。
「いつか、甘いおまえを食べさせてくれって……」
「ぼくを食べちゃうって……え、ぼく……ぇ、えぇぇーっ!?」
ようやくわかったらしい総司に、もう一度にっこり笑いかけた。
云ってる事とはまったく逆の、きれいな笑顔だ。
「もちろん、OKだよな」
「な…何云って……っ」
総司は慌てて立ち上がろうとしたが、すぐさま彼の腕の中に引き戻されてしまった。それどころか、ひょいっと抱え上げられ、男の膝上に坐らされてしまう。
「ちょっ…やだ、離して!」
「今すぐは何もしないって」
「あたり前です! そ、それに土方さん、めちゃくちゃ展開早すぎだし、肝心なこと云ってないし、ぼく、答えてないし……っ」
「? 何のことだ?」
不思議そうに問いかける男に、総司は頬を紅潮させた。
すうっと息を吸って、もう一度「あなたが好きです」と告白しようとした時だった。
土方が「あぁ!」と不意に、声をあげた。
総司を抱きしめたまま、「あぁ、そうか。また俺突っ走っちまったな」とか何とか、呟いてる。
それに小首をかしげると、ちゅっと音をたてて頬にキスされた。
「土方さん?」
「ごめん」
「え?」
「おまえの云うとおりだ。肝心なこと忘れていた」
土方は総司の躯を膝上に抱きなおすと、その瞳を覗き込んだ。
それから。
甘い甘い声で、優しく囁いた。
「好きだ、愛してる」
「……土方…さん……」
「だから、俺の恋人になって下さい」
総司の目が見開かれた。
それから。
「……え? お、おい、おまえ何で泣いてるんだ?」
「だって、だってぇ……っ」
総司は土方の胸もとに顔をうずめると、わんわん泣いた。
さっき決心した時よりも、盛大に。
だけど、その涙に失恋の苦さはなくて。
だい好きな男の腕の中、甘酸っぱくて。
まるで。
いちごミルクみたいな……。
そして、総司はぐすぐす泣きながら返事したのだった。
もちろん。
内容は決まってる。
Yes以外の答えを、彼に返すはずもないのだから───……
[End. Or, do you start?]
好きになった時から
恋は始まるの?
ううん、ちょっと違うかも
はじめて逢った時から
この恋は、はじまっていたんだよね?
昼下がりのカフェだった。
春の日射しが少し色づき、オレンジ色の光をふくませ始めている。
それをガラス越しに見あげ、土方は僅かに目を細めた。
彼が腰かけている席は、このカフェでも人気のカップルシートだ。店内には背をむけた形で配されたソファからは、大きな窓ガラスごしに都会の光景が一望でき、おまけにこのカフェは高層ビルの上層階にあった。
見事な眺望と、珈琲の味、そしてこの秘密めいた席から、最近、このカフェは二人のお気にいりだった。
むろん、総司のだい好きなスイーツも理由の一つだ。
ここのスイーツは種類も豊富でおいしい。そのうちのどれを、今日は食べるつもりなのか。
やはり旬のいちごだろうか。
そんな事を考えながら薄く笑うと、ちょうどそこへ可愛い恋人が現れた。
「お待たせ」
ちょっと息をはずませている。
薄い色のサングラスをかけ、だが、変装というかコーディネートしてもらったのか、どこから見ても少女のような恰好だ。
もちろん、スカートなどは履いてないが、ジーンズの短パンからすらりとのびた細い足、ちょっと大きめのピンク色のシャツに、同じくピンクのソックスに白いスニーカーという恰好だった。
思わず見惚れてしまうほど、可愛らしい。
「……今日はまた、えらく女の子してるんだな」
手をさしのべてソファに坐らせてやりながら、土方は優しく笑いかけた。
それに、総司がちょっと頬を染めた。
「磯子ちゃんがね、土方さんと逢うって云ったら、この恰好させてきたのです。絶対似合うし、きっとぼくだとバレないだろうからって……」
恥ずかしそうに身じろいだ。
長い睫毛が瞬き、上目遣いに男を見つめる。
「ね……? 似合ってる?」
「あぁ」
土方は頷き、そっと総司の細い肩を抱き寄せてやった。ついでに、柔らかな髪に口づける。
「よく似合ってるよ。可愛い」
「よかったぁ」
ほっとしたように微笑み、総司はメニューを手にした。うきうきした様子で、スイーツを選びはじめる。
それを、土方は僅かに目を細めながら、眺めた。
マネージャーの磯子は土方の存在を知らされた時、かなり驚いたようだった。だが、結局は総司の気持ちを優先したのだ。認めてくれているのかどうかはわからないが、反対もされていない。
もちろん、絶対バレないように──という事だけは、厳守だったが。
(まぁ、俺の身辺調査した時点で、その心配も消えたようだがな)
総司にはまだ教えていないが、土方はある堅い職業についているのだ。誰が聞いてもその肩書きに納得するような仕事だ。
だが、それは表の仕事だった。
裏の仕事については、磯子たちも調査しきれていない。いや、出来るはずもないのだ。
(だいたい知られたら、こっちも困るさ。余計な仕事が増えちまう)
(……いや。それはともかく、何よりも総司だ。こいつにだけは、絶対に知られたくねぇからな)
土方はソファに身をしずめ、スイーツ選びにまだ悩んでいる総司を眺めた。
大きな瞳をきらきらさせ、桜んぼのような唇を微かに尖らせて。
なめらかな頬を上気させている、可愛い恋人。
今や世界中の誰よりも、愛しい存在となった少年。
ファンであることは、真実だった。だからこそ、この仕事を引き受けたのだ。
自分ならもしかすると、助けてやれるかもしれないと思った。こんな気持ち、自分らしくないと苦笑したが、総司の歌は本当に好きだったのだ。
もちろん、今は総司の何もかもが好きだ。
その明るく素直で、優しい性格も。
甘く澄んだ天使の声も。
可愛い笑顔も。
彼を見つめてくれる、その瞳も。
みんな、自分でもびっくりするぐらい好きだった。愛しくてたまらなかった。
「ね、土方さん?」
ようやく注文を終えたらしい総司が、不意に呼びかけてきた。
大きな瞳で、まっすぐ覗き込まれる。
それに、柔らかく微笑み返した。
「何だ」
「あのね、ぼくたちもう恋人同士でしょ? 本当の恋人だよね」
「もちろんだ」
「じゃあね、もう土方さんのお仕事……教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「そうだな」
土方はソファの背に片腕をおきながら、小さく笑った。
「教えてやってもいいが……簡単には駄目だね。クイズ形式ってことでどう?」
「何、それっ」
「けど、その方が愉しいだろ?」
悪戯っぽい口調で訊ねられ、総司はうーんと考え込んだ。
「そうかなぁ。……でも、まぁいいです」
「じゃあ、いくぞ」
土方は深く澄んだ黒い瞳で総司を見つめながら、云った。
「俺の仕事の語源は、ハシーシュだと云われている」
「??? 全然わからない。もう一つ、ヒント出して下さいよ」
「しょうがないな……じゃあ」
僅かに小首をかしげてから、告げた。
「……別称の語源。タシギって鳥、知ってる?」
「いえ」
「それがヒントだ」
「何それっ、余計わかんなくなっちゃったんですけど」
総司は桜色の唇をとがらせ、ぷうっと頬をふくらませてしまった。
どうやらはぐらかされたと思ったらしく、水をとってごくごく飲んでいる。
それを眺め、土方は苦笑した。
はぐらかしてなどいない。
ハシーシュとは、大麻。それを語源とした呼び名が、アサシンだ。
人の身も心も毒する大麻が語源とは、お似合いだと云うべきか。
呪われ、歪んだ話だが。
そして、別称がタシギという鳥を語源としている事も、事実だった。
タシギ狩りの名手である事から、発した呼び名。
だが、むろんのこと、総司に本気で教えてやるつもりなど全くなかった。
はぐらかすつもりはないが、言葉のあやで煙にまいた事は確かだろう。
土方は、総司からついと視線を外し、窓ガラスの向こうに広がる光景へ視線をやった。
その黒い瞳が、昏い怜悧な光を帯びた。
まるで──奇跡だったのだ。
甘さなど欠片もない、危険な恋。
総司がもしもアレを見つけていれば、そして、中身を知ってしまっていたならば。
恋人として愛しあえることなど、ありえなかったのだから。
総司が何も知らなかったおかげで、アレはあの部屋から回収できたし、この手にかけずに済んだ。
もちろん、下見にきて恋人ごっこに巻き込まれたのには驚いたが、結局は、総司を手にいれる事ができたのだ。万事OKと云うべきだろう。
そもそもは、あの部屋の前の住人が原因だった。
前の住人──売れない俳優のアキラ。実は、彼はある企業の情報を盗み出し、それをネタに強請たかりをしていたのだ。何億という金を要求していた。
だが、その企業が国の研究機関であり、盗まれた情報が国家機密だった事がアキラの運のツキだった。すぐさま国から抹殺命令が下されたのだ。
アキラは今頃、どこかの海にでも沈んでいるだろうが、そっちは俺の仕事じゃない。それよりも盗み出されたデータを回収し、他にそれを知った者がいれば消し去ることが、今回の仕事だったのだ。
そうだ……もしも、あの時。
総司が既にデータを見た事が判明してしまっていたとしたら、それが事実であったとして。
それでも、可愛い総司をあんな目にはあわさない。
俺なら、そうだな。
とろけるように甘い甘い夢の中で、恋の虜にして。
花びらを降らすように、愛だけをあたえて。
そして。
一瞬のうちに。
この手で。
土方は僅かに目を伏せ、ひっそりと嗤った。
(……優しく殺してやるさ……)
「わぁ、おいしそう!」
気がつけば、総司がはしゃいだ声をあげていた。
目の前にならべられたケーキやパフェに、大喜びしている。
すっかり機嫌もなおったようだ。こういう素直なところが本当に助かる。
総司はうきうきした様子で、スプーンを手にとった。まずは、だい好きな苺ミルクをすくいとっている。
一口食べてから、「んー、おいしい♪」と目を輝かせた。
ここの苺は最高級だし、ミルクも朝直送しているという話だから、それはおいしいだろう。
可愛らしいなと思いながら眺めていると、総司がにこにこ笑いながら見あげてきた。
「ね? とってもおいしいですよ」
「そうか、よかったな」
「土方さんも、一口食べません?」
「いいよ、俺は」
あっさり断った土方に、総司はちょっとベビーピンクの唇をとがらせた。その表情がまた、小悪魔的で可愛らしい。
「えー、でも。とってもおいしいんですよ」
「……」
「ぼく、土方さんに一口でいいから食べて欲しいな」
「……はいはい、わかりました」
土方はため息をつき、苦笑した。
「俺のお姫様は、わがままだから」
「でも、ぼくならわがまま云ってもいいんでしょ?」
悪戯っぽく、だが、どこか甘やかで誘うような瞳で見つめられ、土方の苦笑がより深まった。
片手をのばし、総司の柔らかな髪をくしゃっとかきあげてやる。そのまま、額に甘いキスを落とした。
「……仰せのままに」
そう答えた土方に、総司はちょっと瞳を揺らした。今頃、不安になったらしい。
そっと男の肩に頭を凭せかけながら、問いかけた。
「あのね……ぼくのこと好き?」
「もちろん」
「こんなわがままなぼくでも、愛してる?」
「あぁ、愛してるよ」
「でも……でもね、天使の歌姫は素直で優しくて可愛くて、とってもいい子でしょ。世間じゃそうなってるでしょ。なのに、本当はこんなわがままなぼくで……土方さんは本当にそれでいいの?」
「もちろんだ」
笑いざま、柔らかく抱きよせた。
見あげる総司に微笑みかけ、もう一度、キスを落としてやる。
……どれだけ愛しているか。
虜にされてしまっているか。
この俺が誰かを愛し、己自身以外で守るべき存在をつくってしまったのだ。
その危うさを、おまえはきっと知らないのだろう。
人の命を奪う。
それを生業とするスナイパーが。
おまえを愛するという、この意味を。
「……わがまままでもいいさ」
土方は総司の髪をしなやかな指さきで弄びながら、僅かに目を細めた。
「世間に知られている、優しくて素直で可愛い天使の歌姫じゃない……わがままで、甘えたで泣き虫なおまえを、可愛いと思っているのだから」
「土方さん……」
「俺が好きになったのは、ありがままのおまえだ」
土方は総司の髪に額に頬にキスを落とすと、耳もとに唇を寄せた。
そして、優しく微笑みかけながら。
甘やかな低い声で囁きかけた。
「……愛してるよ」
想いをこめたその言葉に。
総司はびっくりしたように、一瞬だけ目を見開いた。
だが、すぐ、ぱっと花が咲いたような笑顔になると。
土方の胸もとへぎゅっと抱きついて。
幸せそうに、こう応えたのだった。
「だい好き!」
嵐みたいに激しくて
ちょっとスリルがあって
優しくて切なくて
いちごミルクみたいに甘い
ある日、突然やってくるものはなぁんだ?
そのこたえはね
運命の恋