一方、黒谷屋敷への道を歩きながら、土方は複雑な気分だった。
 知らず知らずのうちに、ため息がもれてしまう。
「本当は、俺から誘うべきだよな」
 土方は黒髪を片手でかきあげつつ、呟いた。


 約束を破ったのは彼なのだから、本来なら、彼の方から誘うべきなのだ。
 いや、実際そうしようと思っていたのだ。
 だが、どこを探しても総司の姿はなく、とうとう外出の時刻になってしまい、仕方なく玄関へ行ったところで、突然、後ろから声をかけられたのだ。


 びっくりしてふり返ると、立っていたのは総司だった。
 なめらかな頬を紅潮させ、大きな瞳を潤ませた総司は、息を呑むほど可愛く可憐だった。
 こんな姿、他の誰にも見せたくねぇ! と、ついつい独占欲丸出しで思ってしまったが、総司は全く周囲の視線に気づいていないようだった。
 そして、誘われたのだ。


 ……正直な話、驚いた。
 安堵と訳のわからなさがごちゃ混ぜになった状態ではあるが、とにかく、嬉しい事に変わりはなかった。
 一度約束を破ってしまった自分なのに、総司はまた誘ってくれたのだ。あの初心で恥ずかしがり屋の総司が再び誘ってくれるなど、思ってもみないことだった。
 大きな瞳を潤ませながら「もう一度誘ってもいい?」なんて聞かれて、その気にならない男がいるだろうか? いや、いない。
 冷静沈着さが売りの鬼の副長として売っている俺でも、あれはやばかった。可愛さのあまり、危うく、総司を抱きしめてしまう処だった。
 可愛くて、愛しくて。
 だが、隊士たちの手前、それをむき出しにする事も出来ず、口元を覆うことで何とかやり過ごした。そうして、返事をし、さっさとその場から逃げだしたのだ。
 総司を抱きしめてしまわないうちに。


「だが、どうして急に気持ちが変わったんだ?」
 思わず不審げに呟いてしまった。
 今更考えても仕方のない事だが、どのみち総司が誘ってくれだのだからもういいはずなのだが、性分なのか気になって仕方がない。
 あれこれ考えた末に、頭に浮かんだのは、意味ありげに笑っていた近藤の顔だった。
 とたん、深々とため息をつきてしまう。
「俺以上の策士じゃねぇか」
 やれやれと肩をすくめた土方は、黒谷屋敷への道を歩いていったのだった。












「え、土方さん、まだ帰っていないのか?」
 土方の部屋を訪れた斉藤は、そこにぽつんと坐っている総司の姿に、驚いた。
 もう日も暮れてしまい、当然の事ながら、総司の頭には猫耳がぴょこんと生えてしまっている。尻尾も生えていて、それは今、力無く垂れていた。
 総司の前には二つ並べられた膳。とっくの昔に、料理も冷え切ってしまっている。
「昼間、黒谷へ行く土方さんを見送ったんですけど」
「あの後、見つけたんだってな」
 面白くなさそうに呟いた斉藤は、だが、小首をかしげた。
「それにしても、遅くないか? 会合が長引いているのかな」
「それならいいんですけど」
 総司はきゅっと桜色の唇を噛みしめた。
 夕餉の時刻が過ぎてしまっても、土方は帰って来なかったのだ。急用が出来たなら知らせが来るはずなので、会合が長引いているとしか思えない。
「おまえ、ずっと待っているつもりか?」
「はい」
 こくりと頷いた総司は、心配そうに耳をすます仕草をした。だが、広い広い西本願寺の屯所だ。玄関で土方を迎える声がしたとしても、ここまでは到底届かない。
「先に食べたらどうだ。待っていてもいつになるか、わからないぞ」
「でも、お腹すいていませんから」
 いつも小食であり、尚かつ淋しがり屋の総司は、最近、土方と一緒でなければ食事をとろうとしないのだ。
 その熱愛ぶりに、げんなりしつつ、斉藤は言葉をつづけた。
「おまえの躰にもさわる事だろう。また倒れたら、どうするんだ」
「……」
「オレがここにいてやるから、ほら、食べろよ」
「……」
 何度も促され、しぶしぶといった動作で、総司は箸を手にとった。
 だが、その瞬間だった。
 遠くで喧騒が起こったのだ。はっとした総司の前で、斉藤も表情を引き締めた。素早く部屋を出てゆく。
「……っ」
 総司も思わず出ようとしたが、自分の耳に気づいた。両手を耳に当て、立ちすくんでしまう。
 だが、待つこともなかった。すぐさま、斉藤が駆け戻ってきたのだ。
「土方さんに何かあったのですか!?」
 飛び込んできた斉藤の顔を見るなり、総司は血の気がひくのを覚えた。
 ただならぬ様子に、状況を察したのだ。それに、斉藤は口早に告げた。
「襲撃されたらしい。ついていた小者が駆け戻ってきて、注進したんだ」
「場所は!」
「寺町の……」
 場所を言ったとたん、斉藤は傍をすり抜けようとする総司に気づいた。それに、慌てて腕を掴む。
「総司、おまえ、耳が」
「そんなの……どうだって構わない!」
 大声で叫ぶなり、総司は斉藤の手をふり払い、駆け出した。廊下を走り、厩へ飛び込むと、無断で馬を引き出す。
 鞍と手綱を手早くつけて飛び乗り、勢いよく馬の腹を蹴った。
 高い嘶きをあげ、馬は走り出した。総司は馬の上に身を伏せるようにして、走らせつづけた。もう無我夢中だった。夜、外へ出たらいけないとか、自分の姿形の事など、すべて吹っ飛んでいた。


 彼を助けなければ。


 ただ、それだけだったのだ。
 斉藤が云っていた場所が近づいてくると、喧騒が耳に届いた。何か怒号が飛び交っている。
 その中に、土方という名を聞き取り、総司は、かっと全身が熱くなるのを感じた。彼を傷つける男たちへの怒りが、総司を奮い立たせたのだ。
「土方さん……!」
 馬から飛び降りざま、叫んだ。そのまま刀を抜き放ち、男たちへ殺到してゆく。
 突然現れた総司に、男たちは驚いたようだった。だが、そんな彼らの様子など気にもとめず、総司は刀を振るう。
 跳躍し、一気に斬り下げたかと思うと、そのまま右手の敵を横なぎに払った。ざぁっと血が飛び散る。
 ひけ! という悲鳴のような声とともに、男たちは去っていった。斬られた仲間たちを抱え、必死に逃げてゆく。
 それを総司は追わなかった。追うどころではなかったのだ。
「土方さん!」
 壁に、土方は凭れかかっていた。あちこち斬られたらしく、黒い着物に血が滲んでいる。
 片足を投げ出すようにして坐りこんだまま、総司を見上げた。痛みがあるだろうに、それでも、笑ってみせるあたりがさすがだ。
「ざまあねぇな」
「土方さん」
「まさか、おまえが来るとは思ってもみなかったよ」
 苦笑する土方の傍に、総司は跪いた。手拭いを取り出し、彼の傷の手当てを始める。
「どうして、私ではないと思ったのです」
「どうしてって……」
 云いかけ、不意に、土方は驚いたように目を見開いた。傷の痛みも忘れ、思わず身を起こす。
「総司! おまえ……っ」
「え?」
「夜なのに、耳がねぇよ。尻尾も」
「!」
 云われて初めて気がついた。確かに、慌てて手をやってみれば、頭の上に耳はない。ふり向いてみると、尻尾も消えていた。
 見上げてみるが、紺色の空に満月が煌々と輝いている。
 だが、それでも、夜だ。確かに夜であるはずなのに、猫耳も尻尾もないのだ。
「消えた……?」
 小さく呟いた総司の小柄な躰を、男の両腕が引き寄せた。ぎゅっと抱きしめられる。
「総司、良かったな! おまえ、元に戻れたんだ。本当に良かった」
「え、あの……土方さん」
 総司は外で抱きしめられた事に顔を赤くしつつ、彼の顔を見上げた。
「あの、土方さんは喜んでくれる…の? 私がもとに戻って、嬉しいのですか?」
「当然だろう! 夜、一緒にどこかへ出かけたくても、出かけられねぇし、何よりもおまえが心配だったんだよ。あんな耳と尻尾があったんじゃ、困る事も多いに決まっていたしな」
「でも」
 思わず云いつのってしまった。
「土方さん、云ってたじゃないですか。初めての……時、助かったなって」
「は?」
「尻尾と耳があって、それで助かったって。でなきゃ、私なんて、抱くこと出来なかったんでしょ? 嫌だったんでしょ? 私、だから……!」
 言葉を続けかけた時だった。
 大勢の足音が近づいてくるのが聞こえ、総司は、はっとして息を呑んだ。慌てて土方を庇うように立ち上がる。
 だが、それは味方の足音だった。それからすぐ現れた新選組隊士たちの姿に、ほっと安堵の息がもれる。
「土方さん、大丈夫ですか」
 中から斉藤が声をかけてきた。それに、土方がぶっきらぼうな口調で答える。
「見てのとおりだ。肩を貸せ」
「はい」
 斉藤が肩を貸してやり、土方を立ち上がらせる。歩き始める男の背を、総司は見つめた。
 云いたいこと、聞きたいことは、沢山あった。だが、今は聞けない。
 とにかく土方の手当てが先だった。無我夢中で叫んでしまったが、今は彼の傷だけを考えなければならないのだ。


(私って、だめ)


 総司はきゅっと唇を噛みしめた。
 彼が傷を負った身であることも忘れて、つい、あんなふうに云いつのってしまったのだ。斉藤が来なければ、もしかすると口論になっていたかもしれない。彼は怪我をしているのに。
 無事だとわかったとたん、躰中の力が抜けるようだった。だからなのか、土方に甘えてしまったのだ。
 そんな自分が情けなくて、総司は半泣きになりそうだった。
 しゅんとなって俯いていると、土方がふり返った。
「総司」
 呼ばれ、はっと顔をあげる。それに、土方が隊士たちの手前か、厳しい口調で云った。
「後で俺の部屋に来い。必ずだ」
「え、でも」
 自分はもう耳も尻尾も消えたのだ。あの部屋にいる理由がないはずだった。なのに。
「俺の命令が聞けねぇのか」
 ぴしゃりとした物言いは、明らかに怒気を含んでいた。はっとして見れば、土方はやはり怒っている。切れの長い目も眦がつりあがり、口元も引き締まっていた。
 男の冷たい怒りに、訳がわからぬまま息を呑んだ。
「……はい」
 しばらくたってから返事をした総司に、土方はそれきり背を向けてしまった。斉藤と一緒に歩いてゆく。
「……」
 総司は、その後を追いながら、そっと片手で頭にふれた。













 その夜と云っても、かなり遅くなってしまったが。
 手当てが終わったと聞き、総司は土方の部屋へ向かった。見れば、先ほど食べようとしていた膳も片付けられている。
 敷かれた布団の上で胡座をかいていた土方は、総司を見ると、唇の端を軽くあげた。
「心配かけちまったな」
「そんな……ことありませんけど」
 思わず拗ねたように云ったとたん、土方の表情が曇る。それに慌ててつけ加えた。
「ご、ご飯食べられないぐらいだったから、さっき、斉藤さんと一緒にご飯を食べました」
 ますます土方が眉を顰めてしまったため、総司は斉藤さんと一緒というのがまずかったのかなぁと思った。
 そんな事を考えながら、ぼーっと突っ立っていると、土方がため息をついた。視線をあげ、片手をさしのべる。
「来い」
「え?」
 突然の言葉に、総司は目を瞬いた。それに、土方は苛立ったようで、声を荒げた。
「さっさと、こっちへ来い」
「は、はい!」
 条件反射的に答え、慌てて彼のもとへ歩み寄った。少し離れた場所に坐ると、こっちだと布団の上を示される。それに躊躇いはしたが、総司はそろそろと布団の上に乗った。
 そのとたん、だった。
 手首を掴まれたかと思うと、ぐるりと天井が大きく回った。気が付けば、総司の躰は布団に沈み、土方にしっかり組み敷かれてしまっている。
「え? 何……?」
 びっくりして目を丸くする総司を、土方は見下ろした。黒い瞳が恋人を見下ろす。
「おまえ、とんでもねぇ事を云っていたな」
 不意の言葉に、総司は目を瞬いた。
「何…のこと……?」
「だから、さっきだ。外で俺に叫んでいただろう。初めての時がどうのって」
「……」
「俺がおまえの耳と尻尾がなけりゃ、抱くことできなかったはずだと、そう云っていたじゃねぇか」
 見上げた土方の黒い瞳は、怒りを湛えていた。屈辱感と怒りに燃えているような気さえする。
 だが、それに怯む訳にはいかなかった。ずっと自分も悩んできたのだ。


 全部、本当の事なのに、どうして怒られなくちゃいけないの?


「……本当の事だもの」
 短い沈黙の後、総司は答えた。それに、手首を掴む土方の力が強くなる。
「何だと?」
「だから! 全部、本当の事じゃない。尻尾と耳がなくちゃ私を抱けなかったことも、嫌で仕方なかったことも」
「おまえ、いったい何を云っているんだ」
「子ども扱いしないで! 私、全部、わかっているんだから。耳と尻尾があって助かったって云ったじゃない、耳と尻尾がない昼間に抱いてってお願いしたら夜にしちゃったじゃない。それでも、違うって云うの?」
「違うに決まっているだろう。俺がおまえを」
 土方は言葉をつづけかけた。だが、総司はまるで聞いていない。
 見下ろす男の躰の下で、子供のように目を閉じると、唇を震わせた。
「初めから、おかしかったんだもの。土方さんみたいな人が、私なんて相手にしてくれるはずないのに、耳と尻尾が珍しかったから手を出したに決まっているのに」
「総司、そん――」
「私が莫迦だったのです。全部本気にして、勝手に舞い上がって、私……」
「いい加減にしろッ!」
 とうとう、土方が一喝した。びくりと目を見開いた総司を、歯ぎしりしたい程の怒りを覚えつつ見下ろす。
「おまえ、何もわかってねぇよ。俺がどんなにおまえを大切に思っているか、愛しているか、何もわかってねぇくせに、いったい何を好き勝手云ってやがるんだ」
「何もわかってないって……」
「実際、何もわかってねぇだろうが。おまえは、俺がそんな物珍しさで手を出すような男だと、本気で思っているのか。おまえに対する俺の気持ちを、おまえはそれ程軽いものと考えていたのか」
 土方は手首をぐっと掴むと、身をかがめた。顔を近づけ、瞳を覗き込む。
「いいか、一度しか云わねぇから、よく聞けよ」
「……」
「俺はおまえを愛している、この世の誰よりも大切に思っているんだ。それは、耳や尻尾があるからじゃねぇ。そんなものより、ずっと昔……おまえと初めて逢った時から、惚れてきたんだ」
「……う…そ……っ」
 総司の目が大きく見開かれた。呆然として、彼を見上げている。
 それに、土方は深々とため息をついた。
「告白した時、俺は言っただろうが、子供の頃から好きだったと。今更云うことじゃねぇと思うけどな。しかも、嘘だと云われるなんざ、冗談じゃねぇよ」
「だって、だって……初めての時……」
「尻尾と耳があって助かったって、云ったことか? あれは、おまえの苦痛が少なくなったからに決まっているだろうが。随分、俺を受け入れやすくなっていたしな」
「……」
 たちまち、耳朶まで真っ赤になってしまった総司に、土方は小さく笑った。思わず、その両腕で包み込むように、ぎゅっと抱きしめる。
「可愛いなぁ。こんな可愛いおまえを、俺が愛さないはずがないだろうが。初めて逢った時から、可愛くて可愛くて仕方なかったっていうのに」
「土方さん……」
「愛しているよ、総司。耳や尻尾があろうがなかろうが、猫だろうが人だろうが、俺はおまえを愛している。いや」
 ふと、土方は言葉を途切れさせた。少し照れたような表情になると、低い声で云った。
「おまえしか、愛せない。俺は、自分の姿も何もかも忘れて、俺を助けに来てくれたおまえしか、愛することが出来ない」
「土方…さん……」
 桜色の唇が震えた。
 そのまま、両手をのばして男の躰に縋りつくと、ぎゅっと抱きつく。
「私…も、私も愛してる。あなたしか、土方さん……あなたしか、愛せないから……」
「総司……」
 泣きながらしがみついてくる恋人を、土方は抱きしめた。
 そして、猫耳があった辺りに口づけると、ようやく手にいれることの出来た可愛い恋人を、優しく愛しはじめたのだった。












 後日談。
「ふうん……それはそれは良かったですね」
 斉藤は、副長室で、はっきり云って不機嫌だった。
 報告に来たついでに、怪我が治った土方に、いかに総司が優しく看護してくれたか、二人が仲良くなっているか、さんざん聞かされてしまったのだ。
 当然、恋敵である斉藤にとっては、聞いても全く面白くない話だ。
「で、何でオレにそんな話を聞かせるんですか」
 斉藤は思わず聞いてしまったが、聞いたとたん、後悔した。
 土方は端正な顔に笑みをうかべると、とっても意地悪そうに云ったのだ。
「そりゃ、おまえ決まっているだろう。惚気だよ」
「……」
「いや、妙な期待を抱かないよう、しっかり釘を刺してやったと云うべきかな」
「妙な期待って、何です」
「さぁな」
 にやりと唇の端をあげて笑ってみせた土方に、斉藤はさっさとこの場を去るべきだと思った。立ち上がり、部屋を出てゆく。
 後ろで、報告終わってねぇだろうという声が聞こえたが、そんなもの知った事ではない。
 稽古でもして気分転換するかと歩いていると、中庭の方で、鈴を転がしたような笑い声がした。見れば、総司が猫と戯れている。
 にこにこしながら猫を抱いたり、撫でている様子は、微笑ましいのだが、先ほど、さんざん土方に惚気を聞かされた斉藤は、猫にまでやきもちを妬きたくなってしまった。
「あ、斉藤さん」
 総司が気づき、斉藤の方へやってきた。腕に猫を抱えている。
「その猫、どうしたんだ」
「さぁ、わかりません。迷い猫みたいですね」
「ふうん」
「でも、可愛いでしょう? 私、あんな目にあったけど、猫ってやっぱり可愛いと思うんですよね」
 いや、オレにはおまえの方がずっと可愛い。
 そんな言葉が喉元まで出かかったが、斉藤は云っても仕方のない事とごくりと飲み下した。それを知ってか知らずか、ひとしきり猫と遊んでいた総司だが、向こうで一番隊隊士たちが呼ぶ声に、はっと我に返った。
「あ、いけない。巡察がもうすぐだったんだ」
「急がないと、支度、まずいだろう」
「そうですよね」
 こくりと頷いた総司は、猫を地面に降ろした。そうして、大急ぎで駆けてゆく。その小柄な背を見送り、斉藤はため息をついた。
「まったく……人の気も知らないで」
 そう呟きながら、足元の猫に視線を落とした。可愛いとは思えないし、総司が先ほどまで抱いていたと思うと、妬ましさがこみあげてくる。
 あの細い腕に抱かれるなど、猫であっても許せない気分だ。
「オレも猫だったら、総司に抱いて貰えるのにな」
 思わず、ため息まじりに云った斉藤は、ふと気が付いた。猫がじいっとこちらを見上げているのだ。
 ぴかりと猫の目が光った気がした。
「……」
 しばらくの間、斉藤は猫と見つめあっていたが、そろそろと視線を外した。自分が稽古場に行こうと思っていたことを思い出し、歩き出す。
 気分転換に竹刀をふるって稽古に励もう。
 そう思いながら歩いてゆく斉藤の後ろで、猫が「にゃあ」と鳴いたのだった。



















この後斎藤さんの運命やいかに? なーんて続編はありません(笑)。とっても楽しく書けたお話です。猫耳とシッポって総司、本当に似合うと思うのです。次は、狼の耳がついた土方さんかなぁ。いや、妄想も出来てません〜。
ラストまでお読み下さり、ありがとうございました♪