優しい夢を見ている
いつまでもどこまでも
幸せで優しい夢だ
その夢の中
おれときみは誰よりも幸せで
愛してると囁けば
きみは花のように微笑ってくれる

そんな夢だ
優しくて、泣きたくなるくらい
……幸せな夢だ







 初めに誘ったのは総司だった。
 戸惑う斉藤の耳元に、艶やかな唇を寄せて囁いたのだ。
「……私とつきあってみませんか?」
 と。
 この時代、衆道は忌むべきことではなかった。なので、その点で斉藤が戸惑ったのではない。初めての経験でもなかった。
 ただ、斉藤が思ったのは「彼」の存在だった。
「おまえ、あの人が好きなんじゃないのか」
 事が終わった後、斉藤は腕の中で心地よげに余韻にひたる総司に訊ねた。
 それに、総司はきらめく瞳で聞き返した。
「あの人って……?」
「土方さんだ。おまえ、あの人のこと……」
「好きですよ」
 総司はにっこり笑い、指さきで斉藤の頬から首筋を撫であげた。
「でも、斉藤さんのことも好き。だから、安心して下さい」
「そうじゃなくて、あの人のこと好きなのに、おれとこんな事してていいのか?」
「さぁ、いいんじゃないですか」
 身を起こすと、総司は着物の小袖を羽織った。
 まっ白な肌にあちこち散った鬱血の痕。
 それと紺色の艶やかな小袖があいまって、まるで元禄の小姓のような凄艶さだ。
 総司はくすくす笑いながら、乱れた黒髪を指さきでかき上げた。
「おかしな斉藤さん。全部やっちゃってから、そんなこと聞くなんて」
「総司」
「私はあなたとつきあう事にしたんです。あなたのものになる事にした。これ以上、何が不満なの?」
(……だが、おまえの心はここにない)
 そう斉藤は心の中で苦々しく呟いた。
 が、それを口には出さない。出せば終わりだと思っていた。
 ずっと恋してきた総司。
 その総司とつきあえて、体まで己のものにして、この上、心まで望むのは傲慢なのだろうか──?
 おれは、おまえの心が欲しかったのに。
 だが、斉藤はその深い葛藤と想いを口にはせず、黙ったまま手をのばした。
 総司の細い腕を掴んで己の体の下に引き込み、組み伏せた。
 そんな斉藤に、一瞬、総司は不安と恐れ、苦痛に似た色を瞳にうかべた。が、あらためて覗き込んだ時には、見事に消し去ってしまっている。
 ゆっくりと瞬き、甘えるような表情で男を見上げた。
「また……欲しくなっちゃった?」
 艶然と笑い、総司は両手をのばした。しなやかに細い両腕で斉藤の首を抱いてくる。
 その細い体を抱き寄せながら、斉藤は固く目を閉じた。
 

 

 

 池田屋事件から暫くたった頃だった。
 総司と斉藤のつきあいが始まり、その関係が大きく変わったのは。
 それまで、二人はいい友人だった。友人ではあったが、それほど深い関係でもなかった。むしろ、斉藤が総司に一方的に懸想していたのだと言ってもいい。
 だが、その恋は、あくまでも一方的なものだった。
 何故なら、総司の澄んだ瞳は、いつもただ一人の男にだけ向けられていたから。
 新撰組副長、土方歳三。
 容姿だけ見れば、これほど端麗な男もいない。その実、目的達成のためなら手段を選ばない苛烈なまでの冷酷さをもっていた。鉄の規則で隊を縛り統括し、それに背いたものは容赦なく断罪した。
 が、その一方で、驚くほど脆く優しい一面ももった男だった。
 例えば、総司の存在だ。
 幼少の頃から育てた総司を、土方は兄同然の態度で可愛がっていた。心を許し、総司のためなら何でもしてやる程だった。
 そんな土方に、総司が恋するのは当然のことだった。
 斉藤が総司と出逢った頃、既にもう総司は土方を愛していた。初恋ゆえの激しさで、彼だけを一途に見つめていたのだ。
 土方の気持ちはわからない。
 ただ弟のように思っているのか。
 それとも一人の若者として愛しているのか。
 どちらにせよ、斉藤は叶わぬ恋だと諦めていた。
 あれほど別の男に恋してる総司を、ふり向かせれるはずがないのだ。
 だが、総司は突然、ふり向いてくれた。
 そして、斉藤の焦がれるような瞳を見返すと、その腕の中に飛びこんできたのだ。
 ……苦しくて切ない恋だった。
 今ならわかる。
 総司が斉藤の胸に飛び込んだのは、彼を思い切るためだったのだ。だが、そんなこと出来るはずなかった。
 総司にとって、土方という男は特別だったのだ。
 他の誰もとってかわる事のできない、憧憬にさえ似た愛しい存在。
 その恋は、夜空に輝く星のように、いつも総司の胸奥でひっそりと輝いていた──






「……土方さん、見合いしたらしいな」
 そう訊ねた斉藤に、総司はびくりと肩を震わせた。
 紅葉の美しい清水寺だ。
 見上げると、黄金色と紅の色彩があふれ、まるで美しい帯を広げたようだった。その下を二人は恋人同士らしく寄りそい、ゆっくりと歩いてゆく。
「……らしいですね」
 総司は小さく微笑んだ。
「何でもどこかのお武家の娘さんみたいで、とてもいい縁談らしいですよ」
「……だからか」
「え?」
 ふり向いた総司を、斉藤は見下ろした。
「だから、おまえはおれに抱かれたのか。これ以上、恋していてもどうにもならない。叶うはずのない恋だからと、諦めるために」
「斉藤さん、言ってる意味がわかりません」
「おまえはあの人が好きなのだろう」
 思わず強い調子で云った斉藤に、総司はくすっと笑った。
 男の頬にかるく口づけ、甘い声で囁きかけた。
「この間も言ったでしょう? 斉藤さんが好きですよって」
「誤魔化すな」
「もう……仕方ないなぁ」
 ちょっと困ったように笑い、総司は斉藤の腕に手をからめた。きらめく瞳が彼を覗き込んだ。
「斉藤さん、思ったより真面目だから。もっと遊んでる人を選んだ方が良かったのかな」
「総司! おまえ……っ」
「でも、私が斉藤さんのこと好きなのは本当ですよ。これだけは嘘じゃない。だから、斉藤さんを初めての男に選んだのですから」
「……」
「私はね、あの人を……愛してます」
 ゆっくりと総司は呟いた。
「!」
 ようやく聞けた真実の言葉に、はっとして見下ろすと、総司は目を伏せていた。なめらかな頬に長い睫毛が翳りをおとす。
 その一方で、縋るように斉藤の腕にからめた手に力がこもった。
「好きで好きでたまらなくて……あの人のためなら何でもできるくらい、愛してます」
「だったら……!」
「あの人に、私は相応しくない」
 きっぱりした口調で総司は言いきった。
「あの人は誰よりも綺麗で、眩しいくらいの存在で、私の憧れで。だから……あの人を汚したくないんです。あの人の人生を、誰よりも輝かしいものにしてあげたい。ううん、そうなるべきなんです」
「……」
「私のこんな想い、あの人には邪魔なだけです。あの人の前では、私はいつも可愛い弟。世間知らずで汚いことも知らなくて、何の悩みもなく、いつもにこにこ笑っている弟。それでいいんです。こんな……どろどろした私なんか、あの人には絶対に見せたくない」
「総司……」
 思わずその名を呼んだ斉藤に、総司は小さく笑った。
「でもね……一人は淋しいじゃないですか」
 必死に笑顔をうかべながら、だが、それは今にも泣き出しそうな表情だった。ほんの少し頬に指さきでふれたら、大粒の涙がぽろぽろ零れてしまいそうな……。
「こんな私を、こんな汚くて真っ黒なものを抱えている私を、一人くらい知ってて欲しいじゃないですか。だから、斉藤さんに縋ったんです。斉藤さんなら受け止めてくれる気がしたから……」
「おれは……」
「ごめんなさい。酷い話ですよね、最低ですよね。でも、これが本当の私だから……」
「総司……!」
 我慢出来なかった。
 愛しくて愛しくてたまらなかった。
 総司のためなら、何もかも投げ出してもいいと思った。
 こんな淋しそうな顔をさせないためなら、何でもしてやりたかった。心の底から、愛してやりたいと願った。
 あの人の代わりでも構わないから──
「総司……好きだ」
 そう囁き、斉藤は総司の細い躯を抱きしめた。
 優しく唇を重ね、舌をからめあう。
 ともすれば逃げようとする甘い舌を追い、何度も吸い上げた。
 その時だった。
 ゆっくりと総司が目を開いた。口づけあいながら、ぼんやりと斉藤の肩越しにあるものを見つめる。
「!」
 次の瞬間、総司の目が大きく見開かれた。
 思わず斉藤の胸を突き放し、後ろへよろめいた。それに斉藤は驚き、手をのばしてその躯を抱きとめた。
 が、総司はそんな斉藤を見ていなかった。ただ茫然と、前方の光景だけを見つめていた。
「……?」
 その視線を追ってふり返った斉藤は、鋭く息を呑んだ。
「──」
 土方が立っていたのだ。
 傍には美しい娘がおり、それが見合いの相手なのだろうとは思った。だが、土方はそんな事をまるで忘れてしまっているように見えた。
 驚愕の色をうかべた黒い瞳が、二人を見つめていた。
 僅かに唇が震え、ゆっくりと固く拳が固められるのを斉藤は見た。
「……斉藤、おまえ……っ」
 もしかすると、無理強いしているように見えたのかもしれない。彼の可愛い大切な弟同然である若者に、無体をはたらいているように。
 だが、弁解する気にもなれず立っていた斉藤を動かしたのは、総司の声だった。
「斉藤さん、行きましょう」
 そっと腕に手をからめてくる。
 土方の誤解をとく行為だった。そうする事で、これは合意の上での口づけと抱擁だったと知らせたのだ。
「総司!」
 背をむけようとしたとたん、男の鋭い声が飛んだ。
 それに総司はふり返った。
 今さっきまでの艶然とした表情とはまったく違う。
 あどけない、無邪気な笑みをうかべた。
 いつも土方に対してむけてきた、明るく可愛らしい笑顔。
「お似合いですね」
「……総司」
「婚礼には私も呼んで下さい。楽しみにしてますから」
 そう言うと、総司は一礼してみせた。娘の方にも丁寧に挨拶をしてから、今度こそ背をむける。
 斉藤と寄り添うように腕を絡めながら、その場から立ち去った。
 土方は、追ってこなかった……。

 

 

 
 それから三日後だった。
 総司は斉藤に逢うため、ある茶屋へ向かっていた。
 夕暮れの中を歩いていたが、途中で自分がつけられている事に気づいた。
 浪士なのか、それとも──?
 総司は立ち止まり、刀の柄に手をかけたままふり返った。
「……新撰組の沖田です。何か御用ですか?」
 問いかけた総司に対し、相手は無言だった。黙ったまま、ゆっくりと歩み出てくる。
 その男の顔を見たとたん、総司は別の意味で頬を強張らせた。
「……土方さん」
「……」
 土方は暗く燃えるような瞳で総司を見ていた。
 あの日のように、拳を固く握り締めている。
「つけてきたんですか?」
 総司は困ったように笑った。
 静かな声で、九才も年上の男を宥めるように云った。
「あんまり気分のいい事じゃないですよ」
「こうでもしないと、おまえは俺に話をさせてくれないじゃねぇか」
「副長命令なら、いつでもお呼びに応じます」
「俺は副長として話してるんじゃない、一人の男として話してるんだ」
「……わかりました」
 総司は諦めたように、ため息をついた。
「聞きましょう。何のお話ですか」
「わかってるはずだ。おまえ、斉藤とつきあっているのか?」
「……その件でしたら、この間ご覧になったとおりです。でも、私が誰とつきあおうが土方さんには関係ないじゃありませんか」
「……」
「こんな事してる暇があったら、あの綺麗な娘さんの所にでも行ったらどうです。あの人を妻にするのでしょう?」
「……やめた」
「え?」
 ぽつりと答えた土方の声に、総司は目を見開いた。
 それに、土方は淡々とした声でつづけた。
「あの縁談はなかった事にしてもらった。どうしてもその気になれなかったんだ」
「なかった事って……どうして! すごくいい縁談だったのでしょうっ? 相手も土方さんを気に入って、土方さんも……なのに、どうしてっ?」
「おまえが好きだからだ!」
 突然、土方は声を荒げた。
 茫然としている総司に、両手をのばした。細い肩を掴んで引き寄せ、きつくその背がしなるほど抱きしめた。
「おまえが好きだ。愛してるんだ……!」
 男の腕の中、総司は大きく目を見開いた。
 呆然としたまま、彼の言葉を聞いている。
「ずっと否定してきた。おまえは可愛い弟だと思い込もうとしていた。けど、どうしても駄目だったんだ」
「……土方…さん……っ」
「この間、斉藤に口づけられているおまえを見た瞬間、怒りと嫉妬で目の前が真っ赤になった。気が狂いそうだった。あの時、ようやくわかったんだ! もう誤魔化せない、自分に嘘はつけない。俺はおまえだけを愛している……!」
 そう言いきるなり、土方は総司を路地裏へ引きずりこんだ。
 傍の壁に若者の躯を荒々しく押し付けると、後ろ髪を掴んで引き寄せた。、噛みつくように口づけてくる。
 初めての口づけだった。
 初めて感じた、彼の唇の感触だった。
 総司の頭の中がぼうっと霞んだ。
「んっ……ふっ、ぅんっ……ぁ……」
 甘く舌を絡めあい、激しく求めあった。何度も角度をかえて口づけられ、心を置き去りにしたまま躯が暴走を始める。
 ずっと恋してきた男との口づけは、総司を陶然とさせた。
(……土方さん……好き……)
 総司は思わず両手をあげ、男の広い背を抱きしめかけた。が、不意に我に返った。
 いけない。
 この人を汚してしまう……!
「いや、離してッ!」
 総司は叫びざま、土方の躯を両手で突き飛ばした。そのまま背をむけ、路地裏から飛び出した。
 一度もふり返ることなく走り去った。
「……総司っ!」
 愛しい男の声が胸に痛かった……。

 

 

 
 斉藤は何があったのか、すぐにわかったようだった。
 すべてを話し終わった後、じっと俯いている総司に、斉藤はため息をついた。
「……終わり、だな」
「え?」
 顔をあげた総司に、斉藤は薄く笑った。
「これで終わりだと言ったんだ」
「終わりって……いったい……」
「もともと、おまえはおれをあの人の代わりにしていた。だが、あの人がおまえを好きだと言ってくれたんだ。これでもう終わりだろう」
「だ、だって……斉藤さん……」
 突然の言葉に、総司は戸惑った。
 そんな若者の姿を、斉藤は静かな瞳で見つめた。
「おれとおまえは遊びの関係だった。そこに心なんかなかった。だから、別れるのも簡単なはずだ」
「簡単って、でも、私は……っ!」
 総司は思わず斉藤の膝もとに縋った。
「私は斉藤さんが好きだから。斉藤さんと一緒にいたいと思ったから! それは……初めはあの人を思い切るためだった。でも、私はいつか……」
「本気になっていたのか?」
 斉藤はくっくっと喉を鳴らして笑った。
 それに、総司は鋭く息を呑んだ。
 まるで別人のようだった。
 人を馬鹿にしきった、侮蔑にみちた笑い声。
「こっちは生憎、逆に冷めてしまったんだ。おまえの躯は良かったが、遊びにしか思えなかった。本気にはなれなかった。おれもおまえを挟んであの人と争うなんか、真っ平御免だ。そんな面倒なことはしたくない」
「斉藤さん……っ」
「それとも、自惚れていたか。本気で好いてもらってると、遊びじゃないと思っていた訳か。そんな酔狂なのは、おそらくあの人ぐらいなものだろう。おれは男相手にそこまで本気になれやしない。真っ平御免だ」
「……」
 総司の目が大きく見開かれた。
 まるで信じられないものを見たように、斉藤を見つめている。
 その瞳が訴えていた。叫んでいた。
 嘘でしょう?
 今の言葉は、全部嘘なのでしょう?
 あの口づけも告白も抱擁もみんな、遊びだったと言うの……?
「……」
 茫然としている総司の前で、斉藤は煙管を取り出した。
 病もちの総司の前では決して吸わなかったものだ。だが、今、斉藤は平然と煙管に火をつけ、紫煙をくゆらせ始めた。
 まだ坐りこんでいる総司を、斉藤は冷ややかに一瞥した。
「話は終わりだ。ほら……さっさと出ていけよ」
「斉藤さん……」
 思わず総司は手をのばし、男の躯に縋りかけた。
 が、それを鬱陶しげにふり払い、斉藤は低い声で言い捨てた。
「お遊びの時間は終わったんだ」
 

 

 

 総司が部屋を出ていった。
 その足音が遠ざかってゆくのを、斉藤はじっと聞いていた。
 身動き一つせぬまま、じっと若者の小さな足音だけを感じて。やがて、それが消えた時、思わず両手に顔をうずめた。
(……総司……!)
 愛していた。
 もう何もかも捨てていいくらい、愛していた。だが、だからこそ、突き放さなければならなかったのだ。
 もともと、自分はあの人の代わりだった。
 それでいいと思っていた。
 だが、人間は欲深い生き物だ。
 一つ手に入れば、また一つ手に入れたくなる。
 いつのまにか、斉藤は総司を愛し、そして、愛されたいと願っていた。総司の心が欲しかった。
 だが、それは決して叶わぬ想いだった。
 斉藤に抱かれながら、総司の心はいつでも土方のものだった。土方のもとにあった。それを知っていながらも、斉藤は懸命に総司を愛したのだ。
 愛して愛して愛しぬいて……。
 だが、総司はいつも土方だけを追っていた。
 永遠に報われるはずもない恋だった……。
(……こんなに愛してるのに)
 斉藤は低く呻いた。
 愛しくて愛しくて、気がおかしくなりそうな程、愛していた。
 総司を抱きしめる時。
 あの澄んだ声で「斉藤さん」と呼ばれ。
 花のように微笑いかけられる瞬間──
 おれは、この世の誰よりも幸せだった……。
 まるで夢のような一時だった。
 誰よりも……愛していた。
 この命さえ引き換えにしても構わないくらい、誰よりも──……
「──」
 不意に斉藤は立ち上がった。部屋を飛び出し、階段を駆け降りた。
 矛盾した行動だとわかっていた。
 総司をつかまえて、どうするべきなのか何もわからなかった。
 ただ、それでも。
 愛してると。
 おまえだけを愛してると告げたくて……!
「!」
 斉藤は玄関へと走り出たところで、足をとめた。框の上、肩で息をしながら立ち尽くした。
 薄暗い室内から見るからなのか。
 灯篭の明かりの中、二人の姿が浮かび上がって見えた。
 細い背を見せ、ゆっくりと歩んでゆく総司。そんな若者を迎え、そっと優しく抱き寄せる一人の男。
 何か囁きかけた土方の胸に、総司は顔をうずめた。
 泣いているのか、その細い肩が震えている。
 土方は痛ましげな表情で、その華奢な躯を優しく抱きすくめた。そして、肩を抱いたまま、そっと促し歩き出した。
 ゆっくりと歩み去ってゆく二人。
 まるで、ずっと前からそうであったような、恋人たちの姿。
 斉藤はそこに立ち尽くし、二人を見送った。
 どうすることもできないままに。
 もう……恋は終わったのだ。
 夢は醒めてしまったのだ。
 
  ──愛してる……

 告げられなかった言葉は、夕闇の中、とけて消えた……。

 

 


……そんな夢だ
優しくて、泣きたくなるくらい
幸せな夢だ

だが、それももう終わった
おれときみは
夢から醒めてしまったのだから

あれから
もう二度と
幸せな夢は、見ない……
 












[あとがき]
 ……斉藤さんファンに喧嘩売ってます? すみませんすみません。でも、一度こういう話を書いてみたくて。これだけ読むと、土方さん、すごくいい所どりですよね。またいつか、土方さんの視点から書けたらいいなと思うのですが。しかし、やっぱり、斉藤さんは報われない姿が似合ってますよねー。


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