おまえは知らない。
俺の本当の顔を。
「はい、土方さん」
そう云って渡されたものを、土方は呆れたように眺めた。
掌の中にある、小さな可愛らしい京菓子。
「はいって……何だ、これ」
「お菓子に決まってるじゃありませんか」
総司の方も呆れたように云ってから、自分の菓子を口の中に放り込んだ。
うん、おいしいっと嬉しそうに笑って、ふと土方の方を見やる。
「食べないのですか? おいしいのに」
「いや、だから、何で」
「は?」
「何で、俺が菓子なんざ食わなきゃならねぇんだよ」
不機嫌そうに放り出した土方に、総司は桜色の唇を尖らせた。
「お菓子ぐらい、食べてもいいでしょ。とってもおいしいし」
「俺は、甘いもの嫌いだ」
「そんな事、知ってますよ」
「なら、どうして」
「だって」
総司は大きな瞳で土方を見上げ、甘えるように小首をかしげた。
「土方さんとお菓子食べたかったんだもの」
「……」
「とってもおいしいんですよ。だから、ね? 今度そのお店に連れていって下さい」
「……結局は、それが目的か」
「お願い、聞いてくれるでしょ?」
ずっと昔から。
それこそ初めて出逢った十才の頃から、幼い恋人として溺愛されてきた者の強みだ。
彼が自分に逆らえない事を、しっかり知っている。
案の定。
「……仕方ねぇな。明日にでも連れていってやるよ」
端正な顔に苦笑をうかべた土方に、総司は歓声をあげた。
「やった! 土方さん、だい好き!」
大喜びで彼の躯に抱きついてくる。
それを優しい笑顔で見下ろしながら、土方はそっと総司の柔らかな髪を撫でてやった。
可愛い可愛い、総司。
おまえにだけは、知られたくない俺の真実。
「あのね」
総司は愛らしく笑いながら、云った。
「さっき芹沢さんの処にも、持っていったんですよ」
「……そうか」
「あの人、酒豪のくせに意外とお菓子も食べられるから」
「らしいな」
そう云った土方の膝上に、総司は仔猫のように這い上がった。彼の胸もとに身をよせてしまう。
「おいおい」
「気持ちいいー」
「子どもじゃねぇだろうが。それに、誰かが来たら何事かと思うぞ」
「いいんです、別に」
「俺にこんな事するのは、おまえぐらいだな」
「ほんと不思議ですよね。土方さん、こんなに優しくて甘甘で子どもっぽい処もいっぱいあるのに、皆、それ知らないから」
「じゃあ、皆は何と云っているんだ」
「……内緒」
総司はちょっと笑ってみせた。
だが、土方は知っている。自分が隊内で何といわれているか。
冷酷だ、残忍だ、鬼だと、さんざんな云われようなのだ。だが、それに反駁するつもりはなかった。
土方は目を伏せ、薄く嗤った。
(……何しろ、皆、本当の事だからな)
抱きしめる男の腕の中、総司はそれこそ猫のように身を丸めた。気持ちよさそうに目を閉じ、うとうととうたた寝を始めてしまう。
土方はその腕の中の愛しい宝物を、どこか翳りのある瞳で見つめた。切れの長い目がすっと細められる。
総司、おまえは知らない。
俺の本当の顔を。
いったい、俺が何をしているのか。
芹沢達を罠にはめ、追い込もうとしている事も。
既にもう、この手が汚れてしまっている事も。
おまえは……何も知らない。
「それで……いいのさ」
土方は総司の柔らかな髪を撫でながら、そっと囁いた。
額に、瞼に、頬に、口づけをおとしてやる。
「おまえは何も知らなくていい。何も知らず、俺の腕の中にいてくれれば……」
この幸せがいつまでも続くはずもなかった。
秘密は必ず暴かれるだろう。
彼の本性も、すべて知られる時が来るだろう。
だが、願わくば。
その終わりの時が、ほんの少しでも遠い事を願って。
「……愛してるよ、総司」
そう囁いた土方の腕の中、総司が夢心地にか幸せそうに微笑んだ……。
意外と総司は全部わかっているかもしれません。
