久しぶりのデートだった。
 外はもう夜の帳も降りて、クリスマス前のため、きらきら輝くイルミネーションが眩いほどだ。
 様々な店が並ぶ街路を、土方は総司と寄りそい、歩いていた。見下ろせば、総司がにこりと可愛い笑顔をむけてくれる。
 それに微笑み返すと、総司は初々しく頬をそめた。
「……」
 夜だから目立たないよという土方の言葉に従い、手もしっかり繋いでいる。そんな小さな事が、とても嬉しい。
 指さきから感じる彼のぬくもりが、愛しかった。
「……あ、可愛い」
 総司が足をとめたのは、一軒の店先だった。
 様々な小物がならべられた、雑貨店だ。
 フレンチスタイルなのか、トリコロール柄の看板が可愛らしい。
「入るか?」
 そう訊ねられ、総司はこくりと頷いた。












 店内に入ってみると、意外なほど広い店で、客の数も割合多い。
 淡く明かりを落とした店なので、土方も総司も人目を気にせず中をまわる事ができた。
 綺麗な食器や布、キャンドルなどが置かれ、いかにも総司が好みそうな可愛らしい雑貨も多い。クリスマスが近いためか、プレゼントにおすすめのものたちも置かれてあった。
 土方はその中にある洋書に目がひかれ、手にとった。
 ぱらりと捲れば、美しい庭園の光景が広がる。
 それを眺めていると、総司が傍らで小さく声をあげた。
「わぁ、可愛い」
 手にとり、ぎゅっと抱きしめている。


 見れば、それはぬいぐるみだった。
  いかにも外国ものらしい、白い猫のぬいぐるみだ。
 しっかりとした布地で作られていて、手触りもよさそうだった。


「欲しいのか?」
 小さく苦笑しながら訊ねた土方に、総司は少し頬をあからめた。
「……子どもっぽいなと思いますか?」
「いや、可愛いと思うよ」
「このぬいぐるみが?」
「違う、おまえが」
 そう云って恋人の細い肩に手をまわし、その躯を柔らかく抱きよせた土方に、総司は耳朶まで真っ赤になった。
 周囲をみまわし腕から抜けだそうとすると、優しい笑顔で云われる。
「大丈夫。誰も見てないから」
「でも……」
「皆、プレンゼント選びに、夢中になっているよ」
「本当に?」
「あぁ。それより、そのぬいぐるみ、気にいったのか」
 恋人の問いかけに、総司はちょっと恥ずかしそうに頷いた。
 ぴっと尖った猫の耳に、指さきでふれる。
「何だか、とっても気にいってしまったのです」
「なら、買おう。もちろん、クリスマスプレゼントとは別にね」
「でも、贅沢じゃ……」
 相変わらずの総司に、土方は思わず苦笑した。
「本当の贅沢は、こんなものではないだろう。それに、クリスマスプレゼントは、もう用意済だ。気にいってくれると嬉しいが」
 そう云って、耳もとにキスを落とした土方に、総司は真っ赤になってしまった。男の腕の中で俯き、小さな声で礼を云う。
「あ、ありがとうございます」
「それで? 白の方でいいのか」
「え」
 云われて見下ろした総司は、初めて気づいたようだった。


 白猫とならんだ、黒猫。
 つやつやした毛並みが表現され、まるで本物の猫のようだ。


 そっと抱きあげてみれば、黒い猫の方が少し大きかった。
「これも綺麗で、いいですね。可愛いというより、何だか綺麗な感じ」
「なら、黒猫にするか」
「どっちもいいなぁ……うーん、どうしよう」
 考えこんでしまった総司に、土方は思わず微笑んだ。
 ぬいぐるみを前に真剣に悩んでいる大天使が、可愛くてたまらない。
 土方はくすっと笑ってから、手をのばし、白猫と黒猫両方を取り上げた。それを二つとも総司の腕に抱かせる。
 きょとんとして見上げる総司に、優しく微笑みかけた。
「一匹だけじゃ、淋しいだろう?」
「え」
「二匹一緒にしてやらないと、可哀想だからね」
 そう云った土方に、総司は目を見開いた。
 思わず、手の中の黒猫と白猫をじっと見下ろす。
 総司の腕の中で、二匹の猫は仲良く寄りそっていた。
 一緒にいる事ができて、とても幸せそうだ。


 ───まるで。
 愛しあう自分たちのように。
 ずっと、いつまでも。
 傍にいたいと願う、恋人たちのように。


「……はい」
 こくりと頷くと、総司は嬉しそうにぬいぐるみたちを抱きしめた。
 淡い光だけに満たされた店内で、その姿は誰よりも可愛らしく優しい。
 白い翼が見えないのが不思議なほど、清純な大天使そのものだ。
 誰よりも激しく、一途に愛してくれた少年。


(……俺だけの総司)


 土方は僅かに目を細めた。
 胸の内から、底知れぬ激情が込みあげてくる。
 それは、あの時の狂おしいまでの絶望だったのか。それとも、今なお胸を抉る悲哀なのか。
 だが、晒すつもりはなかった。この愛しい存在に、教えるつもりもない。
 永遠に。
「……総司、愛しているよ」
 心をこめて、そう囁いた。
 黒い翼のように腕をひろげ、愛しい少年の躯を、その中に閉じこめてしまう。
 そして。
 あの頃とかわらぬ瞳で彼を見つめる総司に、優しく甘いキスをあたえたのだった。