「天に輝くお星さまのように」後日談
「──兄さん」
ちょっと舌ったらずな声が、歳三を呼んだ。
それに、歳三はふり返った。
「何だ」
「あのね、お洗濯もの終わった?」
「あぁ」
「じゃ、ごめんなさい。こっちへ来て貰ってもいい?」
「わかった」
今日は、とてもいいお天気だ。
きれいな青空が広がり、清々しかった。
そのため、歳三は洗濯物を干していたのだ。
まだまだ総司の脚は治らないし、その上、この間の橋の事件で余計にひねってしまったため、しばらくの間、洗濯物などは歳三がする事にしている。
「どうした」
縁側に坐っている総司に訊ねると、云いづらそうに口ごもった。
「ん……あのね」
「何だ」
「お買い物、行きたいの」
「飯の支度のためなら、俺が行ってきてやる」
「そうじゃなくて、その」
総司はごそごそと身動きした。
「私の……お買い物なんだけど」
「総司の? 何を買うつもりなんだ?」
「えっと、その……お磯ちゃんがいいの出てたって教えてくれて、それで……」
「菓子か?」
「違います。そうじゃなくて……」
「何だ、云えよ」
総司は大きな瞳で、縋るように歳三を見あげた。
「い、云わなくちゃ……だめ?」
「あぁ」
「私……その、あまり云いたくないなぁって……」
その言葉に、歳三はぐぐっと眉間に皺を刻んでしまった。
不機嫌な顔になるのは、自分でもどうしようもない。
「……俺に内緒ごとって事か」
気づけば、低い低い声で云っていた。
自慢じゃないが、自分は嫉妬深いし、独占欲も強いのだ。
それが総司の事になると、もうどこまでも見境ってものがなくなる。
ぷいっと顔をそむけた。
「なら、勝手にすればいい。お磯とでも買い物に行ってこればいいだろう」
「え」
とたん、総司の顔がさっと青ざめた。
手がのばされ、細い指が兄の袂をきゅっと掴む。
「兄さん……怒った? 怒っちゃったの?」
「……」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの……私、そんなつもりじゃ……」
たちまち、総司の大きな瞳が涙で潤んだ。
驚いて見れば、しゃくりあげつつ、必死に涙をこらえて桜色の唇を噛みしめている。
その可憐な様が、胸が痛くなるほどいじらしい。
歳三は慌てて傍らに跪くと、そっと両手で頬をつつみこんだ。
「ごめん。意地悪なことを云ったな」
「兄…さん……」
「俺に内緒かって思ったとたん、やきもち焼いちまったんだ。ごめん」
「やきもち?」
総司はびっくりしたように、目を見開いた。
それから、ふるふると首をふる。
「そんな、兄さんがやきもち焼くような事じゃないの。それじゃ、自分に自分でやきもち焼いてる事になっちゃうし」
「? 自分で自分にって……どういう意味だ」
「あ、えーと……それは、その」
総司はちょっと迷ってから、不意に両手をのばした。
抱っこか?と小首をかしげると、うんと頷く。
それに笑って身をかがめてやると、するりと歳三の首に細い両腕で抱きついてきた。
可愛らしい声でおねだりする。
「あのね、全部ちゃんと教えるから、一緒に買い物へ行ってくれますか?」
「一緒に行ってもいいのか?」
「はい」
にっこり笑った総司に、歳三もたちまち相好をくずした。嬉しそうに笑うと、その細い躯を優しく両腕で抱きあげる。
頬にふれる柔らかな髪。
間近で感じる甘い息づかい。
覗き込めば、花のような笑顔をむけられて。
もしかすると。
下手をすれば。
今度のことで、失っていたかもしれない存在。
そんな事になったら、頭がおかしくなる。
俺が死んだ方がましだ。
それぐらい、愛してる。
命よりもずっと、大切な大切な。
俺だけの恋人───
「……総司、好きだ」
「兄さん……」
「おまえだけが好きだ……この世の誰よりも愛してる」
ふと胸をこみあげた、切なく狂おしい──だけど甘酸っぱい気持ちのまま、そう告げた歳三に、総司は頬をぽっと紅潮させた。
そして。
彼の肩の窪みに恥ずかしそうに火照った頬を押しつけると、小さな小さな声で答えたのだった。
「……だい好き」
その後。
かねてより決めていたとおりに総司が綺麗な黒い扇子を歳三に送り、大喜びした歳三が宝物のようにその扇子を大事にして、それをまた思いっきり見せびらかされた斉藤が憮然とした事などは、また別のお話なのである。