ぽかぽかお昼寝
「……総司?」
歳三は風呂あがりで火照った躯に着物を手早くつけながら、呼びかけた。
だが、返事はない。
先程まで風呂場近くで掃除やら何やらをしていたはずなのに。
しゅっと音をたてて帯をしめてから、歳三は外へ歩み出た。
まだ陽は高い。
だが、今度の仕事の図面あわせだけで戻ってきた歳三は、春の陽気のせいか少し汗ばんでいた。
それに、総司が湯をわかし、風呂を用意してくれたのだ。
きちんと洗いたての着物も用意して。
まるで可愛い幼妻のような気配りだが、歳三にとって総司は似たようなものだった。
何しろ、まだまだ幼くとも、この世で一番かわいくて愛おしい恋人なのだから。
「総司? どこだ」
歳三は土間を覗いてみたが、そこに総司の姿はない。
買い物にでも出たのだろうかと思いながら、歳三は縁側の方へ出てみた。
とたん、「あぁ」と思わず笑ってしまう。
そこには、以前お光から貰ったお布団が敷かれてあった。というよりも、干していたのを取り込んだ処なのだろう。
そのお布団にうもれ、総司がころんと寝転がっていたのだ。
「……総司」
歳三は傍らに跪き、そっと呼びかけてみた。眠っているのかなと思ったのだ。
だが、総司はぱちんと目を開き、彼を見上げた。
きれいに澄んだ瞳。ちょっと上気したなめらかな頬。
ふっくらした桜色の唇が、彼を呼んだ。
「兄さん……」
「風呂からあがったよ。おまえも入るか?」
「ううん、いいです……それより、兄さん、ふわふわ」
「? ふわふわ?」
訝しげに小首をかしげた歳三に、総司はぽんぽんと布団を小さな手で叩いてみせた。
それから、にっこり笑う。
「ね? ふわふわですよ、お布団」
「なるほど」
「お陽さまの光をいーっぱい吸って、ふわふわしてるの。まるで雲の上にいるみたい」
可愛い事を云う弟に、歳三は思わず目を細めた。
「そうか、雲の上か。そりゃ気持ち良さそうだな」
「うん、だからね」
総司はころんころんと転がると、自分の傍らの場所をあけた。
大きな瞳で彼をみあげ、ねだるような甘い声で云ってくる。
「ね? 兄さんも……ここに寝て?」
「……ここにか?」
「うん」
こっくり頷いた。
それに、ちょっと息を呑む。
「……」
どこか幼い艶さえ感じさせる弟の表情に、一瞬、疼くような熱を覚えた。だが、歳三はすぐさまそれを自分の中に押し隠した。
もっと、ゆっくり待ってやりたいから。
この手の中で。
柔らかな幸せと甘い恋を感じさせてやりたいから。
黙ったまま弟の傍にそっと寝ころんだ歳三に、総司は嬉しそうに笑った。
彼の腕に細い指さきをからめ、鈴のような笑い声をたてる。
「……」
すりすりと身をすり寄せてくるあたりがちょっと困ったものだが、ふわふわした布団も、総司の甘い匂いも、たまらない心地よさだった。
思わず総司の細い躯に腕をまわし、抱きよせた。
その柔らかな髪に顔をうずめた。
腕の中にあるほっそりとした躯が、何よりも愛おしい。
「……ん……」
風呂あがりだという事もあり、身を横たえたとたん、とろとろと眠気が訪れてきた。
歳三はその誘惑に抗わず、瞼を閉じた。彼の腕の中にいる総司も、うつらうつらしかけているのがわかる。
それを感じながら、歳三はふと思った。
……もしかすると。
幸せというものは、こういう小さな処に転がっているのかもしれない。
ささやかだが、とても大切な幸せは───
歳三は愛おしい弟の躯を抱きすくめると、その頬にそっと口づけを落とした……。
「……あらあら」
「へぇ」
四半刻ほどして、声が庭に響いた。
お裾分けとしてお菓子を持ってきたお磯と、用事で訪れた斉藤だった。
庭に入ったとたん目に飛び込んできた光景に、思わず顔をみあわせてから、小さく笑いあう。
縁側に広げられた布団の上で、歳三と総司が寄りそうようにして眠っていたのだ。
歳三は総司を守るように抱きすくめ、総司はそんな兄の胸もとに顔をうずめるようにして、ぴったりと身をよせあい眠っている。
ふたりとも幸せそうな、とてもやすらいだ寝顔だった。
恋人たちの優しい午睡。
斉藤とお磯は指を口にあてて「しー」と合図してから、そっとそっと、その場を離れたのだった。
春の陽気に
ふわふわお布団
ぽかぽかお昼寝の恋人たちは
幸せいっぱいなのです
