総司はぼうっとした顔で、鏡を覗き込んだ。
 土方に言われ、いつもどおり寝支度をしに来たところだ。簪を軽いものに変えて、緋襦袢に着替える。
 いつも通りの作業をしながら、総司は上の空だった。何しろ、本当の意味での床入りなのだ。


 あの土方さんと、床入する。


 そう思っただけで、頭の中が真っ白になった。緊張するなと言われても、緊張してしまう。
 自分の正体がばれたことがわかっただけでも驚きなのに、その上、好きだったと告白され、あれよあれよと言う間に今夜契りを結ぶという話にまでなってしまった。
 それに、総司はほとんどついていけないでいる。
 何か急ぎすぎない? と思ってしまうし、これでいいのかなぁと、不安を感じてしまうのだ。
「土方さんは、これでいいの?」
 部屋に戻った総司は、思わず訊ねてしまった。素直な性質で、隠し事が出来ないのだ。
 それに、土方は訝しげに総司を見た。
「何が」
「だから、今夜のことです」
 総司は褥の上にちょこんと坐り、訊ねた。
「私、まだこの花魁の格好ですよ。それで、そういう事しちゃっていいの?」
「……」
 土方は、まじまじと総司の姿を眺めた。
 ほっそりと華奢で小柄な躰に、色鮮やかな緋襦袢を纏っている。雪よりも白い肌がよく映えた。
 長い睫毛に、綺麗に澄んだ瞳。ふっくらとした桃の花のような唇も、細い指先、帯を垂らした柳腰も何もかもが、男を欲情させる。
 むろん、土方は、総司自身を愛していた。総司が少年の格好をしていようが、少女の格好をしていようが、可愛いものは可愛いのだ。
 だが、花魁の格好というものは、格別のものがある。
「俺は……別に構わねぇが」
 ちょっと躊躇いつつ、言った。
「おまえは嫌か? 花魁として俺に抱かれるのは、嫌なのか」
「そうじゃないけど……うーん」
 総司は小首をかしげた。
「土方さん、私と契り結びたいんですよね。でも、それは花魁の格好をしているから? こういう格好じゃなきゃ、その気にならない?」
「あのなぁ」
 思わず苦笑した。
「俺を何だと思っているんだよ。惚れた奴相手なら、どんな格好をしていようが何だろうが、抱きたい時に抱くさ」
「そうなんですか」
「じゃあ、聞くがな、おまえは、俺が江戸にいた頃のバラガキ姿だったら、その気にならねぇのか。武家姿の俺だから、その気になるのか」
「まさか!」
 総司はぶんぶんと首をふった。
「そんな事あるはずありません! あなたがお店の格好をしていても、お殿様の格好をしても、どんな格好でも好きです。大好き、格好いいなぁと思っちゃうし、その気になってしまうのです」
 一気に言い切って、総司は何だか恥ずかしくなってしまった。思わず頬を熱くして、俯いてしまう。
 土方は微笑み、その白い手をとった。そっと顔を覗きこんで、優しい声で囁きかける。
「ありがとう」
「……っ」
「すげぇ嬉しいよ。ますます、おまえを抱きたくなった」
 男の言葉に耳朶まで赤くした瞬間、握られた手が柔らかく引かれた。あっと思った時には、男の腕の中に抱き込まれている。
 見上げると、優しく唇を重ねられた。何度も角度をかえて、甘く濃厚に口づけられる。このあたり、さすが百戦錬磨、馴れているなーと思ったが、口には出さないでおく。
 やがて、褥に躰を横たえられた。いつものように、柔らかく抱きしめられる。
 だが、その後がいつもと違った。
 土方が緋襦袢の合わせを押し開き、首筋や肩口に口づけてきたのだ。それに、ぞくぞくする。
「……ぁ」
 小さな声をあげると、土方が濡れたような黒い瞳で見下ろした。
「気持ちいいか?」
「う……ん」
「まだ、わからねぇかな」
 くすっと笑い、土方は躰を下げた。そのまま襦袢をもっと肌けさせ、胸の尖りを舐めあげてくる。
 とたん、総司はびくんっと躰を震わせてしまった。そんなところで感じるなんておかしいと思うが、どうしようもない。男の舌に舐められるたび、甘い快感がこみあげた。
「ぁ、ぁっ、ぁあ…んっ」
 土方は丹念に胸の尖りを舐めながら、総司の下肢へ手をのばした。さらりと総司のものを撫でてから、そのまま奥へ手をすすめる。固い蕾にふれると、びくりと総司の躰が跳ね上がった。
「な、何……っ?」
「大丈夫だ、俺に全部まかせていろ」
 予想していたとおり、こんな花街にいても総司は初だった。衆道の交わりの方法を知らないらしい。むろん、土方も初めてだが、聞いたことはある。視線をめぐらせると、ふのりが用意されてあってのでそれを取り上げた。
 指にすくいとり、蕾にふれていく。総司がまた躰を固くしたので、優しく囁きかけた。
「ゆっくりと息をしていろ、総司」
「……っ」
「そうだ、そう……いい子だな」
 頬や首筋に口づけてやりながら、蕾に指を入れた。かなりきつく固いが、何度か指を抜き差しするうちに柔らかく綻んできた。
 二本めの指を入れる頃には、総司は両手で顔をおおい、すすり泣いていた。耳朶が真っ赤になり、蕾の奥を指で押しあげてやるたび、甘い声をもらす。
「や、ぁあッ…ぁッ、も、いやぁ」
「しっかりほぐしておかねぇとまずいだろ。おまえを壊したくねぇからな」
「な、んで、こんな……っ」
「今から、おまえは、ここに俺を受け入れるのさ」
 男の言葉に、総司の目が見開かれた。その瞳に、不安と怯えが揺れる。
 だが、そのいとけない表情に、土方は逆にたまらなくなってしまった。かっと腹の底が熱くなる。
「……たまらねぇな」
 唸るように呟くと、指を引き抜いた。そのまま己のものを掴みだし、蕾にあてがう。
 総司が、はっとして逃れようとしたが、素早く両足を抱え込んだ。ぐいっと引き戻してから、のしかかる。
 抗う暇もあたえず、一気に奥まで貫いた。
「ぁあああ――ッ……!」
 声が部屋の外まで響いたかもしれない。
 総司は悲鳴をあげ、仰け反った。細い指が男の腕を痛いほど掴んでくる。いやいやと首をふるのを押さえ込み、土方はぐっぐっと何度も腰を入れた。そのたびに、総司が「ひいっ」と泣き叫ぶ。
「ぃ、痛っ…いたぁ、いッ、ぁあッ」
「総司、いい子だ……力を抜け」
「でき…な…ッ、も、やぁッ嫌ぁ……っ」
 土方は、泣きじゃくる総司の細い躰を抱きすくめた。正直な話、信じられないぐらい気持ちよかった。熱くて柔らかくて、とろけてしまいそうだ。
 だが、愛しい総司を壊したくないし、やはり、一緒に気持ちよくなって欲しい。自分ばかり心地よくても仕方がないのだ。客と花魁という立場にたっているが、本当は恋人同士なのだから。
 土方は総司のものを柔らかく手のひらで包みこみ、愛撫しはじめた。指さきで撫で、もみあげていく。同時に、ゆるやかに腰を動かした。
 それに、少しずつ総司の頬に赤みがさし、甘い喘ぎがもれるようになっていく。
「ぁ、ぁ…ア、ん…ぁ……っ」
「総司……すげぇ可愛い」
 土方は目を細め、その白い首筋や頬に口づけた。可愛くて可愛くてたまらない。
 その言葉に総司が潤んだ瞳で、彼を見上げてきた。それに口づけてから、ゆっくりと律動を始めていく。
「ぁああッ…ぃぁッ、あっ」
 総司の唇から、もう拒絶の言葉は出なかった。男の背にしがみつき、必死に受け入れようとしている。
 甘い疼きもあるのだろう。土方の手のひらの中で、総司のものも熱く息づいていた。熟した果実のように、ふるふると震えている。
 土方はもう遠慮せず、総司の細い躰を味わい始めた。何しろ、長年、恋い焦がれてきた相手なのだ。夢中で欲してしまう。
 激しく腰を打ちつけてくる土方に、総司は泣き叫んだ。
「ひぃ、ぁッ、ぁあーっ」
 蕾の奥に男の太い楔が何度も打ちこまれる。そのたびに突き抜ける快感美に、総司は泣きじゃくり、悶えた。その様は息を呑むほど、色っぽい。
 真っ赤な褥の上、男に組み敷かれて白い裸身をくねらせる花魁姿の総司は、凄いように艶やかだった。ほつれた黒髪が波打ち、緋襦袢からのぞく細い肩が男の欲情をあおる。
「ぁっ、ぁあんッ…ぁっ、土方さ……っ」
「総司……たまらねぇよ」
「ぃッ、あッ…ひぃぁアッ、ぁっ」
 土方は総司の細い両足を抱え込み、激しく突き上げ始めた。頂きは近いのだ。
 男の貪りつくすような責めに、総司は喉を震わせて泣きじゃくった。細い指さきが必死に褥を掴んでいるのが、色っぽい。二人の間でこすれる総司のものも、弾ける寸前だった。
「ああッ、あっ…やぁッ、ぁあッ!」
「……総司……くっ……」
「ぁあああッ! ぁーッ……っ」
 総司が甲高い悲鳴をあげた瞬間、男の熱がその蕾の奥深くに注ぎ込まれた。それに、総司が目を見開き、泣きじゃくる。
「い、やぁっ、あ…ついっ、やぁ…っ」
 反射的に上へ逃れようとするのを引き戻し、何度も腰を打ちつけた。最後の一滴まで男の熱を注ぎ込まれる。総司はそのたびに躰を震わせ、泣いた。
 だが、嫌と泣きながらも、総司のものはその刺激で弾けている。蜜をこぼしながら震えた。
 やがて、土方は総司の細い躰を両腕で包みこむように、抱きすくめた。総司も涙をふくんだ睫毛をまたたかせ、男を見つめる。
 どちらかともなく、二人は唇を重ね、求めあった。再び、甘やかな熱が二人を酔わせていく。
 恋人たちの蜜のような夜は、まだ始まったばかりだった……。













 翌朝のことだった。
「はぁ!? 冗談じゃないわよ」
 思わず菖蒲は叫んでいた。
 夜明け前に雪花の部屋に呼ばれたので行ってみれば、土方と総司が並んで坐っていた。挙句、総司を今すぐ京へ連れ帰ると言われたのだ。
 菖蒲は目をつりあげた。
「いきなり京へ連れていくですって? 総ちゃんは物じゃないのよ」
「菖蒲さん……あの」
「だいたい、可愛い総ちゃんを、どこの馬の骨ともわからない男にやれるはずないでしょ! 冗談ぬかすんじゃないわよ」
 啖呵をきる菖蒲の前で、総司は目をぱちぱちさせた。むろん、もう化粧も落とし、普段の武家姿になっている。それでも、どこぞの小姓か? というぐらい可愛さ可憐さぴかいちだったが。
 菖蒲は、あらためて、目の前にいる男を眺めた。
 黒い着物を纏い、くつろいでいる様は、多くの上客を見てきた菖蒲でも息を呑むほどの華がある。男の色香と言うのだろうか。端正で隙一つない身繕いであるのに、えもいわれぬ艶があるのだ。
 黒曜石のような瞳が、菖蒲を見た。うっとりする程のいい男だ。
「どこの馬の骨ともわからん男、か」
 くっくっと喉を鳴らして笑う土方の傍で、総司が言った。
「あの、土方さんはちゃんと身元がわかっているから。新撰組の副長で、もともと日野の出で……」
「そういう事を言っているんじゃないの。可愛い総ちゃんを何で、ぽっと出の男にとられなきゃいけないのよ」
「と、とられって……」
「もともと俺のものだったものを返してもらうだけだが」
 土方はあっさり言い切り、総司の細い肩を抱いた。なぁ?と言いながら、その耳もとや首筋に口づけている。
 その様からも可愛がっているのがわかるが、なんといっても、総司は彼と同性だ。なのに、この先もずっと可愛がってもらえるとは思い難かった。
 菖蒲が何と言ってやろうかと考えていると、土方が切れの長い目を彼女にむけた。
「だいたい、俺の総司を花魁として出すなど、とんでもねぇ話だ。客の毒牙にかかったら、どうするつもりだったんだ」
「その辺りはしっかり気をつけていましたよ。それに、実際、毒牙にかけたのは、お客様ご自身じゃござんせんか」
「あ、菖蒲さんっ」
 総司は慌てて言い募った。
「昨日のは、私も同意の上だから。勝手に床入りしたのは申し訳ないけど、でも、私、この人のこと子供の頃からずっと好きだったのです。それで」
「はいはい、もうわかったわよ」
 菖蒲は肩をすくめた。
 恋路を邪魔するものは馬に蹴られろ、なのだ。お互い、好き好きでいるのなら、傍があれこれ言うのも野暮だろう。
「雪花花魁と交換させるから、おまえも文句ねぇだろう」
「交換?」
「そろそろ雪花が帰ってくる頃だ。この総司の格好でな。一応、俺の手のものをつけてあるから大丈夫だろう」
 土方は柔らかく苦笑した。
「あの娘もこの総司に似て頑固だからな。だが、件の旗本と話がついて納得出来たらしい。総司が雪花の代わりをつとめた事と引き換えに、雪花のした事は目をつぶってやれ」
「じゃあ、雪花花魁は、身請け先に行っていたんですか」
「という訳だな」
「何で、また」
「色々あるんだよ。とにかく、折檻したりするなよ。戻ってきたら、三日後、気持ちよく送り出してやれ」
 身請けの日は三日後に迫っていたのだ。ぎりぎりで間に合ったというわけだ。
 菖蒲はこくりと頷いた。
「それはもう大丈夫です。うちは、そういう事好きませんし」
「ならいい。話は決まったな」
 土方は頷くと、総司の手をとって立ち上がった。それに総司が慌てて立ち上がりながら、菖蒲にむかって笑いかける。
「菖蒲さん、沢山お世話になりました。ありがとう」
「総ちゃん……」
 名残りおしげに目を潤ませる菖蒲に、総司はぺこりと頭を下げた。
「ごめんね、急で」
「わたしの方こそ、ごめんなさい。総ちゃんに色々無理させて」
「ううん」
 総司は首をふってから、傍らで黙然としている土方をちらりと見上げた。
「雪花さんの身代わりになったおかげで、こうして、土方さんと逢えたし、その……お、想いも通じたし」
 そう言って真っ赤になる総司が、たまらなく可愛らしい。
 無垢で素直で純粋で、総司はその躰も心も愛らしいのだ。そこに、この男が惚れたのなら、これからもずっと大切にしていくに違いないだろう。
 幸せそうな笑顔で部屋を出ていく総司を見送った後、菖蒲は、よし! と自分に気合を入れた。この後、雪花が帰ってくれば、三日後の身請けの日まで大忙しだ。やることが山ほどあった。
「頑張らなきゃね」
 菖蒲は楼の女将らしい顔つきになると、忙しく歩き出していったのだった。













「あ、斎藤さん」
 大門を出たところで、雪花を連れた斎藤と行き会った。
 雪花はやはり髪を結い上げ、侍の格好――つまり、総司の姿をしている。まるで鏡を見ているような姿に、総司はちょっと目を見開いた。
「すごい、本当にそっくりですね」
「申し訳ありません」
 雪花はしとやかに頭を下げた。
「このたびは、総司様に随分とご迷惑をおかけしたみたいで」
「いいえー」
 総司はにこにこと笑った。
「全然迷惑じゃなかったですよ。おかげで、私も土方さんと逢えたし」
「雪」
 土方が静かな声で言った。
「女将には話を通してある。あの女将なら約束を守ってくれるだろう。おまえもこの先大変だろうが、あの旗本の元でしっかり頑張れよ」
「はい。何から何まで、ありがとうございました」
「しかし」
 斎藤が横合いから言った。
「結局のところ、土方さんは総司一筋なんですねー」
 それに、総司が小首をかしげる。
「何がですか」
「吉原に通い詰めだと聞いたから、誰か女に惚れたのかと思えば、やっぱり総司だし。だいたい、総司がいなくなった後、土方さん、荒れたのなんのって……」
「斎藤」
 ぴしりと低い声が飛んだ。それに、斎藤は「はいはい」と口を閉ざしたが、まだ、にやにや笑っている。
 それを不思議そうに見ていると、土方が傍から腕を掴んだ。後はもう振り返りもせず、どんどん歩きだしてゆく。
 慌ててついてゆきながら振り返れば、斎藤が手をふる横で、雪花が静かに頭を下げていた。彼女にも、この先幸せが訪れればいいなと、心から思う。
 総司は、ずんずん歩いてゆく土方を見上げた。
「土方さん、あの」
「答えねぇからな」
「え」
「さっきの話なら、一切話さん」
 余程照れくさいのか、彼の耳が少し赤い。それを可愛いなと思いながら、総司は微笑んだ。
 それから、言った。
「違うのです。違うことが言いたかったのです」
「? 何だ」
 訝しげに、土方が総司を見下ろした。
 それに、つま先だちになった。
 そして。
 総司は彼の耳もとに桜色の唇を寄せると、囁いた。
「……大好き」
 それに、土方は一瞬目を見開いてから、微笑んだ。





 応えは、春の花のような甘い甘い口づけ―――。




















 ラストまでお読み下さり、ありがとうございました!
 12周年記念のお話、感謝をこめてupさせて頂きました。めちゃめちゃ有り得ない弾けまくった設定ですが、読んで下さった皆様が、少しでも楽しんで下されば、とってもとっても嬉しいです♪
 これからも、土沖好き好き~♪ で、やっていきますので、よろしくお願い致しますね♪