最近、総司は懸賞に凝っている。
 それを知ってはいたが、まぁ勝手にすればいいと、土方は思っていた。
 そこまで詮索するのも、口出しするのも、大人げないし、だいたい恋人であっても自由というものは当然あるだろう。
 総司がせっせとハガキを書く姿を見ながら、それでも別にとめはしなかったのだ。
 だが、しかし。
 それは、その夜までの事だった……。








 その夜。
 つまり、冬も真ん中ぐらいになった寒い寒い夜。
 土方は何とか仕事を片付け、日付が変ったちょっと後に帰宅した。
 もともと今日は帰れない可能性が高いと云ってあったので、当然ながら総司は先に休んでいる。
「……ただいま」
 それでも小さく明かりだけは灯されてる部屋に入り、ふうっとため息をついた。
 食事はすませてあったので、さっさとシャワーだけ浴びて眠ろうと思う。あたたかな総司をこの腕に抱きしめ、ぐっすり眠りたかった。
 なので、決意どおりささっとシャワーを浴びた土方は、パジャマに着替えると、寝室へ向かった。
 眠っている総司を起こさないように、そおっと扉を開けて中へ入る。
 だが、ベッドへ歩みよった土方は、思わず眉を顰めてしまった。
「……何だ?」
 妙に、布団が大きく盛り上がっているのだ。華奢な総司一人ではない、どう見ても他に誰かがいるようだった。

 まさか──まさか?

 そんな事あるはずないと思いつつも、土方は布団を少しだけ捲り──唖然となった。
「……」
 むくむくとした毛並み。
 大きな長い長い耳。
 ちょっと鮮やかすぎる程の、ショッキングピンク。
 それは何処からどう見ても。
 ぬいぐるみ、だった。
 それも、めちゃくちゃデカイ、ピンクうさぎのぬいぐるみだ。
 その身長は、総司自身と同じぐらいあり、横幅はどう少なく見積もっても総司より勝っているだろう。
 その巨大ピンクうさぎのぬいぐるみが、ドッカーンとベッドの上にのっかっていた。
「何で……こんなものが」
 思わず呟いた土方は、だが、すぐに合点がいった。
 懸賞だ。
 いつだったか、総司が「うわぁ、可愛い〜♪」とか云いながら、何とかいう菓子のCMに見入っていた。
 そこに出ていたのが、このピンクうさぎだったのだが、後日、そのマスコット人形を抽選でとかいう応募に、総司が大喜びして一生懸命ハガキを書いていたのだ。
 きっと、それが当たったのだろう。
「よりによって、こんなもの当てるなんざ……ったく、くじ運がいいのか悪いのか」
 ぶつぶつ呟いた土方は、だが、このままでは到底寝ることが出来ないとという事に、気がついた。
 いくら広いベッドであっても、やはり、総司と土方、この巨大ピンクうさぎぬいぐるみが一緒では、無理というものだろう。
 土方はとにかく、このぬいぐるみをベッドから追放する事にした。
 だが、しかし!
 事はそう簡単にはいかなかった。
 何しろ、総司は──彼の愛する可愛い恋人である総司は、その巨大ピンクうさぎぬいぐるみを、ぎゅーっと抱きしめ、否、抱きついているのだ。
 両手をぬいぐるみに回し、顔をうずめるようにして、すやすや眠っている。
 もちろん、総司を起こせば済む事なのだが、土方は愛する恋人にそういう事をしたくなかった。
 これでも可愛い恋人のためなら、例え火の中水の中、なーんでもできちゃう優しい男なのだ(注意:優しくする対象は、ほぼ総司限定)。
「仕方ねぇな」
 土方はベッドの上に片膝をつくと、手をのばした。うさぎの耳をひっぱり、そおっと抜きとろうとする。
 だが、総司の手はしっかりとぬいぐるみを抱え込んでいて、これがまたなかなか難しい。
「……」
 土方の眉間に皺がよった。
 くだらないとは思うのだが、こんなぬいぐるみ相手に嫉妬してしまったのだ。
「抱きつくなら、俺だけにしろよ」
 不毛な言葉をぶつぶつ呟きながら、再度攻略にかかった。今度は、総司の手に顔を近づけ、柔らかく口づけ、指さきを舌で舐めたりしてやる。
 とたん、ぴくんっと総司の躯が震えた。
「……ん……っ」
 微かな吐息をもらし、少しだけ右手が緩んだ。
 その隙に、えいっとうさぎを引き出そうとするが、今度は左手がうさぎの手あたりをぎゅーっと握りしめている。
 どうしようかと思っているうちに、総司はいやいやするように首をふると、またぱふっとうさぎに顔をうずめてしまった。
 その仕草が、超可愛い。
 しかも!
 つやつやした髪がくしゃっと乱れ、なめらかな頬がほんのりピンク色で。
 長い睫毛も、ふっくらしたベビーピンクの唇も、みんなみんな、思わず見惚れいけない妄想を色々致してしまうぐらい、可愛さ最高絶好調で。
「……こんなぬいぐるみうさぎなんざより、おまえの方がずーっと可愛いんだぞ。おまえのピンクうさぎ姿、絶品なんだからな」
 誰に聞かせるでもなく独りごちてから、土方はため息をついた。
 すると、総司はうさぎに顔をこすりつけ、小さな声で寝言を云った。
 とっても可愛らしく、ちょっと微笑みながら。
「……土方さん……だい好き……」
「…………」
 それに、思わず頬が緩んでしまう。
 だが、総司が抱きついているものを思い出すと、また眉を顰めた。
「俺に抱きついた状態で、云ってくれよ」
 そうは云ったが、相変わらず総司はまだぬいぐるみを抱っこしたままだ。
 土方はぬいぐるみを追放する事を諦め、ベッドから降りると反対側に回った。
 仕方なく、本当にベッドの端ぎりぎりに躯を横たえると、総司を後ろからそっと両腕で抱きすくめた。
「……総司」
 耳朶に唇を寄せ、甘ったるい声で囁きかけた。
「ただいま。それから……俺はこっちだぞ」
 そのとたん、だった。
 不意に総司が両手をぬいぐるみから離したかと思うと、くるんっと寝返りをうってきたのだ。そのまま、土方の胸もとにもぐりこむと、ぎゅっと両手で抱きついてくる。
 それを、土方は呆気にとられながら眺めたが、はっと気がついた。このままの状態では、総司ごとベッドから落ちてしまう。
 だが、気づいた時にはもう遅かった。
「う…わっ、わぁ!」
 天井が回ったかと思うと、ものの見事にベッドからドーンッ!!と転げ落ちてしまった。
 幸い、ローベッドなのでそれ程ではなかったが、やはりフローリングの上に落ちればそれなりに痛い。
 だが、それでも総司を抱きしめ離さなかったのは、お見事と云えよう。
 そして、総司はと云えば、土方の腕の中、何事もなかったようにすやすやと眠っていた。その様子を見下ろし、思わずはぁっとため息をつく。
 時計を見れば、もう2時。
 仕事で疲労困憊して帰ってきた挙げ句、いったい何をやっているのか。
 そう考えると、あの例の巨大ピンクうさぎぬいぐるみに対する怒りが、めらめらと燃え上がってきた。
 もちろん、それに応募した総司へは何のおとがめもなしだが。
 土方は総司を抱えなおすと、立ち上がった。
 そのままベッド上にドッカーンと鎮座する巨大ピンクうさぎぬいぐるみを眼光鋭く睨みつけ、えいっとばかりに蹴った。
 だが、さすがに巨大なぬいぐるみだ。
 そう簡単には落ちない重量である。
「この野郎……っ!」
 大人げなく土方はベッドの上に乗り上がると、思いっきりその巨大ピンクうさぎぬいるぐみを足蹴にした。柔道の足技で。
 効果はあった。
 ようやく、ドドーンッ!!という音をたてて、うさぎはベッドから落ちたのだ。
 それをやれやれと眺め、土方はそおっと総司の躯をベッドの上に横たえた。それから、さっさと自分もその隣に寝っ転がると、総司を抱きよせ、布団を肩までかぶる。
 総司が安心したように彼の胸もとに抱きついてくる様を、満足そうに見やりながら、土方は呟いた。
「おまえが抱きつくのは、俺だけでいいんだよ……」
 そして。
 目を閉じると、これで一件落着とばかりに、愛しい愛しい恋人を抱きしめ、すやすやと眠りへ落ちていったのだった。





 ──その頃。
 土方の階下の位置する部屋では。
 真夜中、もの凄い音で安眠から叩き起こされた、警視庁捜査一課佐々木唯三郎課長は、怒りにめらめら燃えながら、天井を睨みつけていた。
 どうせ直接云っても無駄であるのだから、明日、土方の上司である近藤にさんざん嫌味を云ってやろう、と固く決意しながら。
 翌日、仇敵同士バトルin the警視庁になる事絶対間違いなし!なのだが。
 結局、マイスイートハニ〜♪とのらぶらぶな日々だけが最優先の男には、まったく無関心の話なのであった……。












[あとがき]
 かなり以前に書いたお話です。ピンクうさぎはノバじゃありません(笑)。ミッフィーちゃんみたいな感じかな。
 ぬいぐるみって可愛いけど、邪魔にもなったりしますよね。